VTE予防のアピキサバンを投与しても、腎不全患者には使えず本レジメン自体を回避しなければなりません。
アミバンタマブ(商品名:ライブリバント®)とラゼルチニブ(商品名:ラズクルーズ®)の併用療法は、2025年3月27日に「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」の適応で厚生労働省より承認を取得し、同年5月21日にラゼルチニブが薬価収載・発売されました。この承認は、第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」の成績を根拠としています。
アミバンタマブはEGFRとMETの双方を標的とする二重特異性モノクローナル抗体であり、EGFR経路だけを阻害する従来のEGFR-TKIとは作用機序が大きく異なります。つまり、MET経路の活性化を介したEGFR-TKI耐性を、根本から断ち切ることが期待できる薬剤です。一方のラゼルチニブは、中枢神経移行性を持つ経口第3世代EGFR-TKIであり、オシメルチニブと同じく変異選択的にEGFRを阻害しながら、血液脳関門を比較的通過しやすいことが特徴です。
この2剤を組み合わせることで、EGFRとMETの両方向を同時に遮断するというアプローチが実現します。従来の単剤TKI療法では対処しきれなかったMET経路からの「抜け道」を塞ぐことができるわけです。肺癌診療ガイドライン2025では、ECOG PS 0-1のEGFR変異陽性NSCLC患者の1次治療において「強く推奨(推奨グレード1B)」とされており、オシメルチニブ単剤(推奨グレード1A)と並ぶ主要な選択肢として位置づけられています。
レジメンの実際の使い方を整理すると、以下の通りです。
なお2025年12月には、アミバンタマブに皮下注製剤「リブロファズ®配合皮下注」(アミバンタマブ+ボルヒアルロニダーゼ アルファ)も承認されています。皮下注製剤への移行によりIRRやVTEのリスク低減、投与時間の短縮が期待されており、今後の実臨床での普及が見込まれます。
ラゼルチニブ240mgの薬価は1錠12,354.70円(240mg)であり、費用面での患者負担も念頭に置いておく必要があります。
【CareNet】EGFR陽性NSCLC、アミバンタマブ+ラゼルチニブが新たな1次治療の選択肢に(2025年5月28日)
MARIPOSA試験は、未治療のEGFR変異(エクソン19欠失またはL858R)陽性の局所進行・転移性NSCLC患者1,074例を対象とした第III相無作為化比較試験です。アミバンタマブ+ラゼルチニブ群、オシメルチニブ単剤群、ラゼルチニブ単剤群の3群に2:2:1の比率で割り付けられました。
2025年10月に『New England Journal of Medicine』で公表されたOS最終解析(追跡期間中央値37.8ヵ月)では、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群がオシメルチニブ単剤群に対してOSを有意に延長することが示されました(HR 0.75、95%CI 0.61–0.92、p=0.005)。これはPFSのベネフィットがそのまま生存期間の延長につながった形です。
有効性の主な数値をまとめると。
この数字は非常に印象的です。ただし、Grade 3以上の有害事象の発生率はアミバンタマブ+ラゼルチニブ群で80%に達しており、オシメルチニブ群の52%を大きく上回っています。有効性の高さは明らかながら、それに見合った有害事象の管理体制が不可欠です。
「OS延長という確かなベネフィットと、管理を要する重篤な有害事象のリスクを天秤にかけ、患者への適応を慎重に判断する必要があります」(亀田総合病院・腫瘍内科)というコメントが現場の実情を端的に表しています。PFSだけでなくOSの延長が示されたことで、このレジメンの1次治療における位置づけはさらに確固たるものになったと言えるでしょう。
【亀田総合病院】EGFR変異進行NSCLCに対するアミバンタマブ+ラゼルチニブの全生存期間(MARIPOSA最終解析解説)
MARIPOSA試験においてVTEはアミバンタマブ+ラゼルチニブ群の37%に発現しており、オシメルチニブ群(9%)と比べて約4倍という非常に高い頻度です。Grade 3以上に限っても11%(オシメルチニブ群4%)、肺塞栓に至っては17%(同5%)という報告があります。これは「肺がんの治療なのに肺塞栓のリスクが高い」という皮肉な状況でもあり、見逃すことのできない懸念点です。
VTE予防を目的として、添付文書には「治療開始後4ヵ月間はアピキサバン1回2.5mgを1日2回経口投与すること」と記載されています。実際に、予防的抗凝固薬を投与された患者のVTE発現率は10%であるのに対し、投与されなかった患者では21%という報告もあり、予防投与の有用性は明確です。
ここで注意が必要なのが腎機能です。2026年3月に厚生労働省が改訂を指示した添付文書では、「腎不全(クレアチニンクリアランス15mL/min未満)の患者ではアピキサバンを投与できないため、アミバンタマブとラゼルチニブとの併用投与以外の治療選択肢を考慮すること」と明記されました。腎障害(CLcr 15〜50mL/min)がある患者でも出血リスクが増大する恐れがあるとされており、慎重な対応が求められます。
つまり、VTEリスクが高いにもかかわらずアピキサバンが使えない患者には、このレジメン自体を回避しなければならないケースがあります。初回の腎機能評価が治療選択肢そのものを左右するわけです。
2025年12月には、日本臨床腫瘍学会・日本腫瘍循環器学会・日本循環器学会・日本肺癌学会ほか6学会が合同ステートメントを発出しています。その骨子は「アピキサバン2.5mg 1日2回・4ヵ月間投与を推奨するが、日本人では血中濃度が高くなることが知られており、出血リスクの評価と腫瘍循環器医との連携が望ましい」というものです。抗凝固療法に精通した循環器医や腫瘍循環器医との連携体制が整っている施設での実施が原則です。
【CareNet】非小細胞肺がん、アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用における予防的抗凝固療法の適正使用合同ステートメント(2025年12月9日)
【GemMed】腎不全患者のアミバンタマブ・ラゼルチニブ、アピキサバン使用不可のため治療選択肢の見直しを要請(2026年3月)
皮膚障害はこのレジメンで最も頻度が高い有害事象のひとつです。MARIPOSA試験では発疹(グレード3以上:18%)、ざ瘡様皮膚炎(9%)、爪囲炎(9%)が主なグレード3以上の皮膚関連有害事象として報告されています。これらはEGFR阻害に伴う典型的な皮膚障害であり、オシメルチニブ単剤でも見られますが、アミバンタマブとの併用ではさらに頻度と重症度が上昇します。
注目すべきは2025年のCOCOON試験(第II相)の知見です。「強化皮膚管理」プログラムを実施した群では、標準的な皮膚管理群と比較して、治療12週間以内の皮膚有害事象が有意に軽減されたことが示されました。強化皮膚管理の内容は次の通りです。
奏効率は強化皮膚管理群82% vs 標準管理群75%と差はなかったものの、皮膚有害事象の減少が治療継続率の改善に貢献している点が重要です。治療を諦める患者を減らすことが、長期的な生存利益につながります。
インフュージョンリアクション(IRR)も見逃せない有害事象です。IRRは主に1サイクル目1日目(初回投与時)に多く発現します。MARIPOSA試験で規定された必須の前投薬には、アセトアミノフェン(650〜1000mg)の30分前投与のほか、抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン)と副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン4mg×2錠 / 1日2回)が含まれます。デキサメタゾンは投与開始2日前から内服を開始し、1サイクル目のみ実施するというプロトコルが基本です。
1サイクル目では体重80kg未満の患者に対して、1日目(1050mgを2日間に分割してDay1とDay2に投与)という特殊なスケジュールが組まれています。これはIRRのリスクを分散させるための設計です。2サイクル目以降は隔週投与(Day1とDay15)へと移行します。管理はシンプルです。初回の分割投与と前投薬が鍵になります。
現場での投与において、経験豊富な医療従事者でも見落としやすいポイントが複数あります。知っておくだけで重大なインシデントを回避できるため、丁寧に確認しておきましょう。
まず調製・投与上の注意から確認が必要です。ライブリバント®(アミバンタマブIV製剤)は、0.2または0.22µmのインラインフィルターを必ず使用して投与します。フィルターの使用を忘れるとリスクが生じます。さらに、調製後は10時間以内に投与を完了しなければなりません。遮光保管が必要であるため、病棟での管理手順の共有も不可欠です。
用量調整に関しては、体重によって投与量が異なる点が特徴的です。体重80kg未満では1050mg、80kg以上では1400mgが標準投与量となります。体重の変動が大きい患者では定期的に確認が必要です。
低マグネシウム血症への対処も重要です。投与前に血清Mg値を測定し、必要に応じて補正を行います。これは適正使用ガイドおよびレジメン設計書にも記載されていますが、多忙な外来では見落とされることがあります。Mg値を「投与日の必須チェック項目」としてルーティン化しておくことが望ましいです。
ラゼルチニブの用量調整についても整理します。ラゼルチニブは240mgが標準投与量ですが、有害事象が出た場合には160mg → 80mgと段階的に減量します。腎障害患者では尿中未変化体排泄率が0.2%未満と低く、腎クリアランスへの影響が小さいため、腎機能による用量調整は基本的に不要とされています。これは対照的に、肝機能障害患者では慎重投与の指示があるため、両者を混同しないことが重要です。
皮下注製剤(リブロファズ®)に切り替えた場合には、投与方法が大きく変わります。21〜23G針または皮下投与セットを使用し、1回量は15mL以内とします。15mLを超える場合は複数シリンジに均等分割し、腹部皮下に約5分かけて投与します。同一部位への連続投与を避けるため、臍周囲5cmを避けながら投与部位をローテーションします。IV製剤から皮下注製剤に移行する際には、スタッフ全員への手技確認が必須です。
なお、肺がんの治療費は高額となることが多いため、高額療養費制度や限度額適用認定証について、薬剤師や医療ソーシャルワーカーが早期に情報提供を行うことも患者の治療継続を支えるうえで大切です。
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