スーパーで買う養殖サーモンに「ASCマーク」がないと、抗生物質管理が無審査のまま食卓に届きます。
スーパーの鮮魚コーナーやお惣菜コーナーで、緑色のロゴマークがついた商品を見かけたことはないでしょうか。あのマークが「ASCマーク」です。ASCとは Aquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会) の略で、養殖水産物の国際認証を管理する非営利団体の名前です。
つまり、ASC認証とは「環境や人に配慮した責任ある養殖で育てられた水産物ですよ」という国際的なお墨付きのこと。まるでお米のJAS認証のような存在が、魚やエビの世界にもあるとイメージすると分かりやすいですね。
ASCは2010年に設立されました。WWF(世界自然保護基金)とIDH(オランダの持続可能な貿易推進団体)が共同で支援して生まれた機関です。設立の背景には、世界的な水産物需要の高まりがあります。人口増加とともに魚介類の消費量は増え、天然の漁獲量が伸び悩む中で養殖業が急速に拡大しました。ただし、養殖業が急成長したことで水質汚染、生態系の破壊、劣悪な労働環境といった問題も浮かび上がってきたのです。
ASC認証はそうした課題を解決するために生まれた仕組みです。これが基本です。
認証を受けた養殖場の商品には「ASCロゴ(緑色のデザイン)」が貼られ、消費者が一目で選べるようになっています。見た目がはっきりしているので、商品パッケージの正面や側面を確認するだけで判別できます。
「ASC認証って、どんな魚が対象なの?」と思った方も多いはず。実はASC認証の対象は12種類の魚介類に限られています。サケ・ブリ・スギ・淡水マス・シーバス・タイ・ティラピア・パンガシウス・二枚貝(カキ・ムール貝・アサリ・ホタテ)・アワビ・エビ・ヒラメ・熱帯魚類・海藻が対象です。これが条件です。
主婦の方にとって身近な商品で言えば、サーモン、エビ、カキが最もよく目にするASC認証商品です。たとえばイオンのプライベートブランド「トップバリュ」では、2014年に日本で初めてASC認証のサーモン3品目を販売しました。それ以降、「骨取り鮭の塩焼き」「えびフライ」「バナメイえび」など品数が増え続けています。
コープ(生協)では、2030年までにASC・MSC認証商品の供給額構成比を50%以上にするという目標を掲げているほど積極的です。いいことですね。
| スーパー・ブランド | 代表的なASC認証商品 | 開始年 |
|---|---|---|
| イオン(トップバリュ) | アトランティックサーモン、えびフライ | 2014年 |
| イトーヨーカドー | 南三陸 戸倉っこかき | 2016年 |
| コープ(生協) | サーモン・エビ各種 | 順次拡大中 |
特に注目したいのが、宮城県南三陸町の「戸倉っこかき」です。2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた地域が、復興を機に養殖方法を見直し、2016年に日本で初めてASC認証を取得したカキです。震災をきっかけに「より良い養殖を」という意志が生まれた、という背景を知ると、この商品を選ぶ意味が一段と大きく感じられます。これは使えそうです。
スーパーでASCマークを探すときは、「鮮魚コーナーのパック表面」「冷凍食品の袋の背面ラベル」「惣菜コーナーの値札近くの小ラベル」の3か所を確認してみてください。緑色の台形型ロゴが目印です。
ASC認証を調べると、必ずセットで出てくるのが「MSC認証」です。どちらも似たロゴに見えるので混乱しやすいのですが、覚え方は非常にシンプルです。
ASC認証 = 養殖の魚、MSC認証 = 天然の魚、これだけ覚えておけばOKです。
もう少し掘り下げると、MSCとは Marine Stewardship Council(海洋管理協議会) の略で、こちらは海や川で「獲った」天然の水産物に対する認証です。「海のエコラベル」とも呼ばれています。一方のASCは「育てた」養殖水産物を対象にしています。
| 項目 | ASC認証 | MSC認証 |
|---|---|---|
| 対象 | 🐠 養殖の水産物 | 🌊 天然の水産物 |
| ロゴの色 | 緑・水色系 | 青(魚のシルエット) |
| 主な商品例 | 養殖サーモン・エビ・カキ | 天然タラ・サバ・ホタテ等 |
| 管理組織 | 水産養殖管理協議会(ASC) | 海洋管理協議会(MSC) |
どちらにも共通しているのが「CoC認証(管理の連鎖認証)」という仕組みです。養殖場や漁師さんの段階でASC・MSC認証を取得しても、その後の加工・流通・小売の各段階でも別途CoCという認証が必要になります。つまり、消費者の手元にASCラベルが届くまでに、生産から販売まで全工程がチェックされているということです。これが原則です。
日本においてASC認証の認知度はまだ23%程度(2022年時点)にとどまっています。意外ですね。欧米諸国では50%を超えているのと比べると、まだまだ普及途上にあります。しかし、2019年調査時点では9%しかなかったことを考えると、この数年で約155%も伸びており、確実に広まっています。
WWFジャパン:養殖水産物の認証制度ASCについて(詳細解説)
「ASCマーク付き商品って、具体的に何が保証されているの?」という疑問は当然です。ASC認証は7つの原則に基づいた厳格な審査をクリアした養殖場にのみ与えられます。その内容は以下のとおりです。
主婦の方にとって特に気になるのが「抗生物質の管理」ではないでしょうか。養殖サーモンや養殖エビには抗生物質が使われているという話を聞いたことがある方も多いと思います。ASC認証では、抗生物質の使用は「獣医師の処方箋があり、倫理的な治療計画の一部として完全に必要と判断される場合のみ」と制限されています。
つまり、病気の治療目的以外では抗生物質を使えないということです。これが条件です。ASC認証のない養殖水産物は、この基準が外部から保証されていないということになります。一方で、ASCマーク付きなら第三者機関が実際に養殖場に入って審査した結果が保証されているので、選ぶ際の安心材料になります。
また、飼料についても2022年9月からは「飼料基準」が新たに追加されました。大豆や小麦など農作物系の飼料についても、森林破壊や土地転換を招かないよう、持続可能なサプライヤーからの調達が義務づけられています。認証の内容は時代に合わせて更新されており、より厳格になっています。
審査を行うのはASC本体ではなく、ASCとも水産業界とも独立した「第三者審査機関」です。透明性と客観性を保つために、ASCはあくまで基準を決める立場で、審査には直接関与しません。これは重要なポイントです。
ASC Japan:責任ある水産物摂取のための仕組みについて
ここからは、他ではあまり語られない視点でお伝えします。ASC認証を「買い物の"ものさし"」として活用する、という考え方です。
日々の買い物では、価格・産地・鮮度が判断軸になりがちです。ただ、養殖水産物の「育て方の安全性」を確認する手段として、ASCマークは非常に実用的です。特にサーモンやエビは国内外を問わず養殖ものが大半を占めるため、ASCマークの有無が「見えない安全の差」になることがあります。
実際の活用として、買い物でこのように使えます。まずスーパーで魚コーナーに立ったとき、同じ価格帯でASCマーク付きがあれば積極的に選ぶ、というルールを決めておくだけでOKです。日常の1つの行動です。
また、冷凍のエビやサーモンを使う機会が多い方は、冷凍食品コーナーでも確認してみてください。「えびフライ」「スモークサーモン」などの加工品にもASC認証マークがついているものがあります。加工品にASCマークがついているということは、養殖場から加工・流通までの全ルートがCoCによってトレースされている、ということです。つまり産地から食卓まで安全が繋がっているということですね。
コストパフォーマンスの面でも誤解しがちなのですが、ASC認証商品だからといって必ずしも高いわけではありません。イオンのトップバリュのASCサーモンは、認証なし商品と近い価格帯で販売されているケースも多いです。選ぶコスト(労力や費用)はほぼゼロです。
さらに一歩進んで考えると、ASC認証商品を選ぶことは「子どもたちが大人になったときも海の恵みを食べられる環境を守ること」に直結します。世界の養殖水産物の生産量はすでに天然漁獲量の約半分近くを占めており(FAOデータ)、今後もその比率は高まります。その生産の「質」を支える仕組みがASC認証です。主婦の買い物が、海の未来に直接つながっています。
| 買い物シーン | ASCマークの探し場所 | 代表的な商品 |
|---|---|---|
| 鮮魚コーナー | パック表面・正面ラベル | サーモン・カキ・エビ |
| 冷凍食品コーナー | 袋の背面・側面ラベル | えびフライ・冷凍サーモン |
| 惣菜コーナー | 値札・商品名カード付近 | 焼き魚・煮魚 |
なお、スーパーのアプリ(イオンネットスーパー等)で「ASC」と検索すると、ASC認証商品だけを絞り込んで表示できる場合があります。まとめ買いや献立計画の際に、アプリで確認してみるのも一つの方法です。