冷蔵庫で保管した調製液をそのまま投与すると、患者の血管内で結晶が析出するリスクがあります。
アシクロビルの注射製剤は「凍結乾燥製剤(粉末バイアル)」と「液剤アンプル」の2タイプがあります。粉末バイアルタイプの場合、まず1バイアル(アシクロビル250mg含有)を日局注射用水または日局生理食塩液10mLに完全に溶解させることが第一ステップです。溶解後、投与量に相当する量を1バイアルあたり100mL以上の補液で希釈して点滴液を調製します。これが添付文書に明記された「用時調製」の原則です。
補液の選択には注意が必要です。生理食塩液や5%ブドウ糖注射液が使用可能な補液として知られていますが、「補液によっては白濁あるいは結晶が析出する場合がある」と各製品の添付文書に明確に記載されています。希釈後に白濁または結晶の析出が確認された場合は、その溶液を絶対に使用してはいけません。使用中止が唯一の正解です。
また、アシクロビルはアルカリ性(pH約10〜11)を示すため、pH変化の影響を大きく受けます。他剤との混注は可能な限り避けることが原則です。例えば、アスコルビン酸(ビタミンC注射液)と配合すると1時間以内に結晶が析出するとの報告もあります。ルート内での混合も含め、他薬剤との接触を防ぐよう意識しましょう。これは原則です。
| 手順 | 操作内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①一次溶解 | 注射用水または生理食塩液10mLで溶解 | 完全に溶けるまで穏やかに振盪 |
| ②希釈 | 補液100mL以上(1バイアル当たり)で希釈 | 白濁・結晶が見られたら使用禁止 |
| ③投与 | 1時間以上かけて点滴静注 | 急速投与は腎障害・血管痛を招く |
| ④残液処理 | 使用残りは廃棄 | 再利用・保存は不可 |
点滴速度については「1時間以上かけて投与」が必須です。急速静注をすると腎尿細管での薬剤結晶が形成されやすくなり、急性腎障害を引き起こすリスクが著しく上昇します。確実に守りましょう。
参考資料:アシクロビル点滴静注液250mg「日医工」添付文書(適用上の注意)
アシクロビル点滴静注液250mg「日医工」添付文書 – JAPIC
現場でもっとも見落とされやすいポイントの一つが「調製後の冷却厳禁」です。多くの注射製剤は調製後の安定性を保つために冷蔵保管が推奨されますが、アシクロビルは逆です。
添付文書には「調製溶液の冷却は結晶の析出をまねきやすいので冷却しないこと」と明記されています。これはアシクロビルが水に溶けにくい性質(難溶性)を持つためです。溶解状態にある薬剤は温度が下がると再び析出しやすくなります。4〜8℃の冷蔵庫に入れるだけで、患者に投与する前に点滴バッグの中で結晶が生じてしまう可能性があります。これは危険です。
実際、アシクロビルの溶解後安定性試験では25℃・室内散乱光の条件で6時間後も外観(無色澄明)・pH・浸透圧比に問題がなかったことが確認されています(日医工インタビューフォームより)。つまり、冷やさない条件では6時間程度は安定を保てることが示されています。ただし添付文書では「溶液の調製後は速やかに使用し、使用残りの溶液は廃棄すること」としており、長時間保存する運用は認められていません。
調製したら速やかに使用する、それが基本です。
「ルーティンで冷蔵庫に入れている」という習慣がある現場では、今すぐ見直しが必要です。業務効率化のために事前調製をしたい気持ちはわかりますが、この薬剤については安全性を優先した用時調製が唯一の正解です。結晶が析出した溶液を血管内に投与した場合、重篤な腎障害や血管傷害を招く危険があることを常に念頭に置いてください。
アシクロビル点滴で特に注意すべき特性として、pH約10〜11という強アルカリ性が挙げられます。このアルカリ性がpHの変化に対して非常に敏感で、他剤と混合した際に配合変化が起こりやすい原因となります。配合変化が条件です。
実際に配合変化が報告されている、あるいは懸念される組み合わせには以下のようなものがあります。
「ルートを共有しているだけで混注はしていない」という状況でも、投与時間帯によっては前後の薬剤と血管内やルート内で接触することがあります。厳密に管理するためには、アシクロビルの前後にフラッシュ(生理食塩液等による洗浄)を行うことも有効な対策の一つです。これは使えそうです。
なお、「混注禁止」の原則を現場で徹底するために、調製担当の薬剤師と投与担当の看護師・医師が事前に情報共有する体制が不可欠です。複数科にまたがる入院患者では、特に投与オーダーの確認を怠らないようにしましょう。
配合変化に関する詳細なデータは、各製品の配合変化表(インタビューフォーム記載分)で確認できます。
参考資料:アシクロビル点滴静注用250mg「NIG」インタビューフォーム(配合変化に関する項目)
アシクロビル点滴静注用250mg「NIG」インタビューフォーム – 日医工
アシクロビルは投与量の70〜76%が未変化体として尿中に排泄される、典型的な腎排泄型薬剤です。そのため腎機能が低下していると血中濃度が上昇し、精神神経系副作用(アシクロビル脳症)が発症しやすくなります。
クレアチニンクリアランス(CCr)に応じた投与間隔・減量の目安は下表の通りです(添付文書より)。
| CCr(mL/min/1.73m²) | 標準1回量に対する割合 | 投与間隔 |
|---|---|---|
| >50 | 100% | 8時間ごと |
| 25〜50 | 100% | 12時間ごと |
| 10〜25 | 100% | 24時間ごと |
| 0〜10(透析含む) | 50% | 24時間ごと |
ここで特に注意したいのが、「添付文書通りに腎機能に基づいて投与量を調節しても脳症が起こる」という事実です。驚きですね。熊本大学の研究報告(平田純生氏ら)では、アシクロビルの代謝物「CMMG(9-カルボキシメトキシメチルグアニン)」が蓄積し、脳脊髄液中に移行することで精神神経症状が発現すると指摘されています。つまり添付文書の用量設定だけでは不十分な場合があるということです。
高齢者では血清クレアチニン値が正常範囲内であっても、筋肉量の低下(サルコペニア)によりCCrが実際には低下していることが珍しくありません。CLをeGFRや実測から算出して確認することが、この薬では特に重要になります。これは必須です。
アシクロビル脳症の症状には、呂律困難・振戦・幻視・幻聴・昏迷・昏睡などがあり、一見すると他の疾患(脳卒中や認知症の悪化)と区別がつきにくい場合があります。帯状疱疹や脳炎の加療中に突然の意識障害・精神症状が出現した場合には、アシクロビルの血中濃度上昇を疑うことが診断の糸口となります。血液透析によりアシクロビルを除去できること(6時間の透析で血漿中濃度が約60%減少)も、緊急時の対処として知っておくべき情報です。
参考資料:腎機能に基づく投与量設定の解説と脳症リスクについて
添付文書通り腎機能に基づいた投与量にしても起こるアシクロビル中毒の原因は? – 腎薬ニュース(熊本大学薬学部)
アシクロビル点滴の投与量は「体重1kgあたり5mg(1回)、1日3回、8時間ごと」が基本用法です。しかし、この「体重」の取り扱いが患者によっては非常に重要な問題となります。
肥満患者への投与は要注意です。添付文書の「臨床使用に基づく情報」には、標準体重の約203%(標準体重の2倍超)の高度肥満女性7例に5mg/kgを投与したところ、標準体重の女性と比べてアシクロビルの血中濃度(CmaxおよびAUC)が約2倍に上昇したとのデータが記載されています。体重換算のつもりが過量投与になってしまいます。
そのため高度肥満患者には「実体重ではなく標準体重に基づいた用量で投与すべき」とされています。標準体重(身長m²×22)を必ず確認し、現場でオーダーを入れる際は患者の実体重を安易に使用しないことが肝心です。
新生児単純ヘルペスウイルス感染症への投与では、成人や小児と異なり「1回体重1kgあたり10mg、1日3回、10日間」と投与量が異なります。しかも上限は20mg/kgまで可能です。新生児は薬物の血漿中半減期が成人の約1.5倍であることも示されており、腎機能の未成熟さと合わせて特に慎重なモニタリングが求められます。
また、アシクロビル点滴は副作用として「血清トリグリセライド値上昇・血清コレステロール値上昇」も報告されています(添付文書11.2、頻度は0.1%未満)。脂質異常症を有する患者や、長期投与が想定されるケースでは、これらの検査値も定期的にフォローアップする体制を整えておくことが求められます。
つまり、患者の背景情報なしに「いつもの5mg/kg」を機械的に適用することが、この薬のリスク管理上最も危険なパターンです。投与前に体重・腎機能・年齢・肥満度を必ずチェックしてから投与量を決定することが原則です。
参考資料:アシクロビル点滴静注用250mg「NIG」添付文書全文(PMDA掲載)
医療用医薬品アシクロビル 点滴静注用250mg「NIG」添付文書 – KEGG MEDICUS