「デルモベート」を"先発品だから信頼できる"と思っていると、2026年3月末に処方できなくなります。
GSK(グラクソ・スミスクライン)は2025年7月、デルモベート軟膏0.05%・クリーム0.05%・スカルプローション0.05%の3剤形すべてについて、在庫消尽をもって販売を終了すると発表しました。公式な理由として提示されたのは「諸般の事情」という、具体性を欠く表現のみです。
医療現場では、この言葉の裏に何があるのかを問題視する声が少なくありません。
多くの医療従事者が根拠として指摘するのが、2024年10月に導入された「長期収載品の選定療養制度」です。この制度では、後発品のある先発品(長期収載品)を患者が希望する場合、後発品との薬価差額の4分の1を患者が特別負担として支払う仕組みになっています。たとえばデルモベート軟膏の薬価は14.6円/gで、後発品(クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏「イワキ」など)はおおむね12〜13円/g程度ですから、1本30gあたりの先発品選択コストは数十円単位でかさみます。
結論は「価格差が先発品の需要を直撃した」ということです。
先発品に追加コストがかかる仕組みが広まると、病院・薬局双方が後発品を優先するようになります。先発品の処方量が激減すれば、メーカーは採算性の観点から製造を続けるメリットを失います。全日本民医連の情報によれば、この制度の導入後に「先発医薬品を製造・供給する企業が撤退し、安定供給品目が失われる事態も出ている」と報告されており、デルモベートの販売中止もその流れの一環だと考えられています。
ももスキンケアクリニックの院長も「厚労省の後発品政策の影響を多分に受けていることが廃盤の理由だと推測される」とブログで明言しています。長年の「定番薬」が政策の波に飲み込まれたかたちです。
参考:先発品販売中止の驚きについて皮膚科医が解説したブログ記事
ももスキンケアクリニック院長ブログ「先発品販売中止の驚き」
デルモベートの一般名は「クロベタゾールプロピオン酸エステル」です。ステロイド外用薬はその強さによってI群(Strongest)からV群(Weak)の5段階に分類されますが、デルモベートはその最上位、I群に属します。
同じI群(ストロンゲスト)には「ジフラール軟膏」「ダイアコート軟膏」(いずれも成分はジフロラゾン酢酸エステル)もありますが、剤形の選択肢の豊富さや頭皮専用のスカルプローションの存在から、デルモベートは皮膚科領域で長く処方されてきた定番薬でした。
これは使えそうですね。
主な適応疾患は以下のとおりです。
特にストロンゲストクラスを必要とするのは、他のランクでは効果が得られない難治性・重症例です。処方できる薬剤の選択肢が一つ減ることは、実際の治療の幅を狭めることにつながります。皮膚科医が「大きな武器が一つ失われた」と表現するのはそのためです。
副作用として注意すべき点は、皮膚の萎縮・毛細血管拡張・毛嚢炎・感染症の悪化などが挙げられます。また、まぶたや広範囲への長期使用では緑内障・白内障のリスクもあり、使用期間は通常数日〜2週間以内が原則です。ストロンゲストクラスゆえの副作用プロファイルを熟知した上での処方管理が求められます。
参考:デルモベートの詳細な薬剤情報(添付文書・一般名・薬価等)
KEGG MEDICUS「医療用医薬品:デルモベート」
デルモベートの販売中止に伴い、各医療機関・薬局では「クロベタゾールプロピオン酸エステル」の後発品への切り替えが進んでいます。有効成分・濃度・効能効果はデルモベートと同等です。代替品の主な候補は以下のとおりです。
| 先発品(デルモベート) | 代替後発品の例 |
|---|---|
| デルモベート軟膏0.05% | クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏0.05%「イワキ」「日医工」など |
| デルモベートクリーム0.05% | クロベタゾールプロピオン酸エステルクリーム0.05%「MYK」「ニットー」など |
| デルモベートスカルプローション0.05% | クロベタゾールプロピオン酸エステルローション0.05%「MYK」「ラクール」など |
切り替え時に特に医療従事者が意識すべきポイントがあります。それがスカルプローションの基剤の差異です。
先発品のデルモベートスカルプローションはアルコール(イソプロパノール)基剤であり、ベタつきが少なく頭皮への使用感が良好でした。後発品ローションでも基剤の種類はメーカーにより異なります。アルコールによる刺激が気になる患者には、基剤の確認が必要です。
もう一点、非常に重要な注意点があります。「クロベタゾールプロピオン酸エステル(Strongest:I群)」と、同じく販売中止になった「クロベタゾン酪酸エステル(旧キンダベート:Medium:III群)」は、名称が極めて似ています。ランクが2段階も異なるため、処方・調剤時の取り違えが患者への過剰投与または効果不足につながるリスクがあります。愛媛大学医学部附属病院の薬剤部安全使用ニュースでも、この類似名称の混同を「注意すべきポイント」として明記しています。
名称の類似点を整理しておくと、「クロベタゾール(強い)」と「クロベタゾン(弱い)」の1文字差が大きな効力差を意味します。一読して状況が理解できる形で院内に周知しておくことが、インシデント防止につながります。
参考:デルモベート販売中止に伴う後発品への切り替えについて(愛媛大学医学部附属病院・薬剤部安全使用ニュース)
愛媛大学医学部附属病院「医薬品安全使用ニュース 2025年12月1号」(PDF)
デルモベートの経過措置期限は2026年3月31日です。つまり、この記事を読んでいる時点(2026年3月22日)では、すでに経過措置期限が目前に迫っています。
経過措置が終了すると何が起きるか。薬価基準からデルモベートが削除され、保険請求ができなくなります。在庫があったとしても保険診療では使用できなくなるため、実務上は代替品への完全移行が必須です。経過措置終了=即使用不可という認識が必要です。
院外処方を行っている場合は、処方箋への記載も変わります。多くの医療機関では既に一般名処方(クロベタゾールプロピオン酸エステル)に移行しているはずですが、まだブランド名で処方している施設は速やかな対応が求められます。
後発品の供給面でも注意が必要です。2025年7月にデルモベートの販売中止が発表されて以降、後発品の需要が急増しました。岩城製薬の決算資料には「2025年7月に先発医薬品の販売中止が発表されたことにより『クロベタゾールプロピオン酸エステル』の販売が増加した」との記載があります。一方で、代替後発品の一部(クロベタゾールプロピオン酸エステルクリーム「MYK」5g×10など)では一時的に供給停止が生じた事例も確認されています。代替品なら問題ありません、とは言い切れない状況です。
採用薬品の切り替え対応として、複数のメーカー品を確保しておくことや、品薄の剤形については早期に代替ルートを確認しておくことが現実的な対処です。院内採用を既にクロベタゾールプロピオン酸エステルの後発品に切り替え済みの施設でも、引き続き安定供給の状況を定期的にモニタリングする姿勢が大切です。
参考:GSKによるデルモベートの公式販売中止・経過措置情報
GSKpro「医療関係者向け情報 お知らせ(デルモベート:薬価基準削除に伴う経過措置期間移行のご案内)」
デルモベートの販売中止は、単なる「1品目の入れ替え」では済まない問題を含んでいます。これは見落とされがちな視点です。
先発品が市場から消えると、後発品だけが残る状態になります。後発品は有効成分が同一でも、添加剤・基剤・製造プロセスが異なります。長年の臨床経験に裏打ちされたデルモベートのデータや処方実績は、そのまま後発品に引き継がれるわけではありません。
さらに深刻なのは、後発品メーカー自体の経営安定性の問題です。日本のジェネリック医薬品業界では、2022〜2023年に複数のメーカーで品質不正問題が相次ぎ、製造停止・業務停止命令が続出しました。後発品への一本化が進むことは、特定メーカーへの依存度を高め、不測の供給断絶リスクを増大させます。実際、クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏「NIG」(日医工)は「品質管理体制と製造ラインの適正化の観点から継続製造が困難」として販売中止となった事例もあります。
また、後発品政策が推し進められる中で、先発品を持つ多国籍企業がコスト採算の合わない日本市場から撤退していく構図が続いています。結果として「適切な薬が存在するのに処方できない」という事態が現場の最前線に波及してきているのです。
医療従事者として押さえておきたい視点は、「代替品があるから問題ない」という単純な結論への安易な同意を避け、後発品の品質・供給安定性を定期的に評価し続けることです。日本皮膚科学会などのガイドラインのアップデートや、ストロンゲストクラスに位置するジフラール・ダイアコートの動向も含め、同クラスの薬剤全体の供給状況を視野に入れた処方戦略が求められます。
厚労省の後発品促進政策と医薬品の安定供給は、構造的に矛盾をはらんでいます。2025年5月の厚労省調査では、病院の53.4%が後発品の供給体制が「悪化した」と回答しており、医療現場での実感と政策目標の乖離が数字として表れています。
参考:長期収載品の選定療養制度の詳細と問題点(全日本民医連)
全日本民医連「くすりの話 長期収載品に対する選定療養」
参考:後発医薬品供給悪化に関する厚労省調査の解説
湯山製作所「2025年5月号:後発品供給『悪化した』4割」