片眼だけ白内障手術を受けた患者の「手術していない眼」にも、エイベリスは使えません。
エイベリス点眼液(一般名:オミデネパグ イソプロピル)は、EP2受容体に選択的に作用する新機序の緑内障・高眼圧症治療薬です。2018年11月に参天製薬から発売され、線維柱帯流出路とぶどう膜強膜流出路の両方を介して房水流出を促進し、眼圧を下げます。
電子添文に定められた禁忌は以下の3項目です。
| 禁忌項目 | 具体的な内容 | 懸念される副作用 |
|---|---|---|
| 2.1 過敏症の既往 | 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 | アレルギー反応の再発 |
| 2.2 無水晶体眼・眼内レンズ挿入眼 | 白内障手術を受けた眼を有する患者(片眼のみ含む) | 嚢胞様黄斑浮腫を含む黄斑浮腫、視力低下 |
| 2.3 タフルプロスト投与中 | タプロス点眼液・タプコム配合点眼液を使用中の患者(片眼のみ含む) | 中等度以上の羞明・虹彩炎等の眼炎症 |
重要なのは、禁忌の対象が「眼単位」ではなく「患者単位」であるという点です。つまり、右眼だけに眼内レンズが入っている患者の場合、左眼(健眼)にエイベリスを投与することも禁忌に該当します。これが禁忌の中でも最も見落とされやすいポイントです。
国内臨床試験において、眼内レンズ挿入眼患者52例中14例(26.9%)で黄斑浮腫(副作用)が発現しました。これは有水晶体眼患者での発現率0.0%と比べると、圧倒的な差があります。約4人に1人という高い発現率が禁忌設定の直接的な根拠になっています。
投与前には必ずカルテや問診によって、①白内障手術歴の確認、②タフルプロスト系薬剤の使用歴・現在の使用状況の確認、③成分に対する過敏症歴の確認、という3点を実施することが原則です。
以下のリンクでは、参天製薬の公式ページで禁忌に関する詳細な根拠と臨床試験データが確認できます。
エイベリス / エイベリスミニ よくあるご質問(参天製薬 Medical Channel)
「片眼しか白内障手術を受けていないから、もう片方の眼には大丈夫」と考えてしまう医療者は少なくありません。しかし前述のとおり、禁忌の対象は眼単位ではなく患者単位です。これは盲点になりやすい重要なポイントです。
実際の臨床現場では、次のような状況で誤投与が起きやすいことが報告されています。
これは大きなリスクです。発売から2019年5月26日までの約半年間(市販直後調査期間中)に、推定使用患者数延べ7万人中、禁忌症例(眼内レンズ挿入眼への誤投与)が57例報告されました。7万人に対して57例という数字は一見少なく感じるかもしれませんが、これは明確な禁忌条件が存在する薬剤における半年間の数字です。その半年間に黄斑浮腫が23例報告されており、そのうち10例が眼内レンズ挿入眼の患者でした。
視力に直結する黄斑浮腫は、慢性化すると網膜の神経細胞が徐々にダメージを受け、視力が完全に回復しないケースもあります。早期発見がいかに重要かが分かります。
禁忌の見落とし防止には、処方時のシステム的なチェックが有効です。電子カルテに「白内障手術歴」の確認アラートを設定する、薬局での疑義照会時にも手術歴を確認する、といった多重チェック体制を施設全体で整えることが重要な対策になります。
日本眼科医会によるエイベリス点眼液の適正使用のお願い(PDF)
エイベリス点眼液に設定されている「タフルプロストとの併用禁忌」は、医療者にとって少し理解しにくい禁忌です。理由は「機序不明」と添付文書に記載されているからです。機序が不明なのに禁忌というのは珍しい例でもあります。
それでも禁忌とされている根拠は、海外の臨床試験データにあります。エイベリスより高濃度(0.003%・0.01%・0.03%)のオミデネパグ イソプロピル点眼液と0.0015%タフルプロスト点眼液を併用投与した試験で、投与中止を要するような「中等度以上の羞明および虹彩炎等の眼炎症」が高頻度に認められました。
さらに、サルを用いた非臨床試験でも、前房内フレア値(眼炎症の指標)がエイベリス単独投与と比べて高くなる傾向が確認されています。つまり機序不明とはいえ、「臨床でも非臨床でも危険だったから」という実績に基づく禁忌です。
注意が必要なのは「タプコム配合点眼液」の存在です。タプコム配合点眼液にはタフルプロストが含まれているため、この配合点眼液を使用中の患者にもエイベリスは併用禁忌になります。「タプロス」という名称だけを確認し、「タプコム」を見落とすというミスは実際に起こり得ます。
また、タフルプロストを除くFP受容体作動薬(ラタノプロスト、トラボプロスト、ビマトプロストなど)は「併用禁忌」ではなく「併用注意」ですが、タフルプロストとの類薬であるため、使用経験が十分に集積されるまでは特に慎重な経過観察が必要です。以下のように整理できます。
| 薬剤 | 分類 | 注意レベル |
|---|---|---|
| タフルプロスト(タプロス・タプコム) | FP受容体作動薬 | 🚫 併用禁忌 |
| ラタノプロスト・トラボプロスト・ビマトプロスト | FP受容体作動薬(タフルプロスト以外) | ⚠️ 併用注意(眼炎症リスクあり) |
| チモロールマレイン酸塩含有製剤 | β遮断薬 | ⚠️ 併用注意(結膜充血等の頻度上昇) |
エイベリスとチモロールの併用群では、眼障害系の副作用発現割合が65.0%(26/40例)と、単独使用群の38.8%(33/85例)と比べて大きく上昇しました。これが原則です。
旭川薬剤師会「エイベリス点眼液の投与禁忌患者について」医療安全通信(PDF)
緑内障と白内障を合併している患者は珍しくありません。エイベリスを使用中に白内障手術が決まった場合、または白内障手術後に緑内障治療薬が必要になった場合、どう対応すべきかは特に整理しておきたい知識です。
白内障手術前の対応: エイベリス投与中の患者が白内障手術を受ける場合、手術前に投与を中止する必要があります。手術後は無水晶体眼または眼内レンズ挿入眼となるため、そのまま継続することができなくなるからです。中止のタイミングは眼圧コントロールの状況によって異なります。
エイベリスの眼内組織中の半減期は短く(t₁/₂:3.99〜10.6時間)、眼圧コントロールに余裕がある場合は3日以上の期間を空けることが望ましいとされています。これは具体的には「手術の3日前」を目安にするということです。一方で眼圧コントロールに余裕がない患者では、あらかじめ使用経験が豊富な他の緑内障・高眼圧症治療薬へ切り替えておく対応が推奨されています。
白内障手術後の対応: 手術後の患者は眼内レンズ挿入眼となるため、エイベリスは恒久的に禁忌となります。手術後に緑内障治療薬が引き続き必要な場合は、プロスタグランジン製剤(FP受容体作動薬)や炭酸脱水酵素阻害薬、β遮断薬などの他剤に切り替える必要があります。
以下の手順で院内の情報連携を行うことが、投薬エラー防止のために重要です。
この情報の共有不足が誤投与の大きな原因になっています。「他院で白内障手術を受けてきた患者を引き継いだ」という場面での確認は、特に注意が必要です。
PMDA掲載:エイベリス点眼液 適正使用ガイド(RMP対象資材・PDF)
禁忌に該当する患者への投与が行われた場合、最も懸念される有害事象は「嚢胞様黄斑浮腫を含む黄斑浮腫」です。視力の中心となる黄斑部が腫れ、視力低下を引き起こすこの副作用は、早期に対処しなければ回復が困難になるケースもあります。
臨床試験では黄斑浮腫(副作用)が14例中、軽度が5例・中等度が9例で、ほぼ全例(13例)に視力低下や「見えづらい」という自覚症状が伴っていました。これは重要な情報です。自覚症状が出やすいということは、患者が異変を報告しやすいということであり、早期発見につながります。
患者への指導として、以下の自覚症状が現れた場合は直ちに受診するよう事前に説明しておくことが非常に大切です。
発症時期については「好発時期は認められなかった」というデータがあります。つまり使用開始直後だけでなく、長期使用中にも随時発現する可能性があるということです。これが重要なポイントです。
市販後の特定使用成績調査(発売〜2024年9月20日)では、有水晶体眼患者で黄斑浮腫が発現した8例の発現時期の平均は146.8±118.2日(約5カ月)でした。使い始めて数か月後に症状が出る場合もあるため、長期にわたるフォローアップが必要です。
治療上は本剤の投与中止を行い、必要に応じて非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼やステロイド点眼を用いた治療が行われます。臨床試験での14例は、いずれも適切な処置により全例が回復または軽快しています。早期発見・早期対応が条件です。
定期的なOCT(光干渉断層計)検査および細隙灯顕微鏡検査を実施することが、副作用の早期検出において非常に有効です。特に長期投与中の患者では定期的な眼底検査を欠かさないことが原則です。
日本眼科学会:エイベリス点眼液0.002%の適正使用に関するお知らせ(会員向け)