フォゼベル薬価の算定根拠と費用対効果による改定の全貌

フォゼベル(テナパノル塩酸塩)の薬価はどのように算定され、費用対効果評価でどう変わったのか?医療従事者が知っておくべき価格の変遷と処方への影響を徹底解説します。

フォゼベル薬価の算定・改定と透析現場への影響

フォゼベルの薬価は「下がるはずがない」と思っていたら、2025年11月に約11〜13%もカットされて在庫ロスを出した施設があります。


📌 この記事の3ポイント
💊
算定の仕組み

フォゼベルはピートル(スクロオキシ水酸化鉄)を比較薬に、類似薬効比較方式(Ⅰ)+有用性加算40%で収載。1日薬価は最大1,283.60円(改定前)と高めに設定された。

📉
費用対効果による引き下げ

2025年5月の中医協で費用対効果評価が確定。患者の72.8%は費用増加と判定され、2025年11月1日より全規格で約11〜13%の薬価引き下げが適用された。

⚠️
処方・在庫管理への影響

適用日前後の在庫量と発注サイクルを見直さないと、旧薬価在庫の損失につながる。費用対効果評価は今後もフォゼベル以外に拡大予定で、同様のリスクは繰り返される。


フォゼベル薬価収載の算定根拠:なぜ有用性加算40%が付いたのか

フォゼベル(一般名:テナパノル塩酸塩)は、2023年11月22日に薬価基準へ収載されました。算定方式は類似薬効比較方式(Ⅰ)で、比較薬はキッセイ薬品の「ピートルチュアブル錠250mg」(スクロオキシ水酸化鉄)です。


なぜピートルが比較薬になったかというと、フォゼベルと同じ「透析中の慢性腎臓病患者における高リン血症の改善」を適応症に持つリン吸着薬の中で、1日薬価がより安価であるとして選定されたためです。1日薬価の基準を「ピートルチュアブル錠250mg」の916.80円に合わせ、そこへ有用性加算が乗る形となりました。


有用性加算(Ⅰ)A=40%が認められた理由は、主に2点です。第一に、フォゼベルはNHE3(Na⁺/H⁺交換輸送体3)を阻害するという、既存のリン吸着薬とは根本的に異なる新規薬理作用を持つこと。リン吸着薬が消化管内でリンと物理的に結合するのに対し、フォゼベルはリンとは結合せず、腸管上皮細胞間隙のリン透過性そのものを下げるという間接的なアプローチです。第二に、既存のリン吸着薬で効果不十分な血液透析患者を対象とした国内第Ⅲ相試験において、プラセボ群に対する優越性が統計的に検証されています(投与8週時点の血清リン濃度変化量:プラセボ +0.05 mg/dL、フォゼベル単剤 −1.89 mg/dL)。これらを踏まえ、新規作用機序かつ臨床的有用性が確認されたとして、40%という高水準の加算が適用されました。


収載時に決定した薬価は以下のとおりです。


販売名 収載時薬価 1日薬価(30mg×2の場合)
フォゼベル錠5mg 234.10円/錠 最大1,283.60円(30mg1日2回)
フォゼベル錠10mg 345.80円/錠
フォゼベル錠20mg 510.90円/錠
フォゼベル錠30mg 641.80円/錠


また収載と同時に、費用対効果評価の対象品目(H1:市場規模100億円以上)に指定されました。ピーク時の予測販売金額は193億円とされており、収載当初から評価対象になることは既定路線だったといえます。つまり、収載時薬価が「暫定」であるという前提で処方・在庫計画を立てる必要があったわけです。


参考リンク:薬事日報「フォゼベルに有用性加算40%—22日付で35品目薬価収載」(算定根拠・加算理由の詳細)
https://www.yakuji.co.jp/entry106617.html


フォゼベル薬価の費用対効果評価:72.8%の患者が「費用増加」と判定された背景

費用対効果評価の仕組みから整理します。日本では2019年度から費用対効果評価制度が本格導入されており、一定規模以上の新薬は薬価収載後に評価を受け、その結果により薬価が再調整される仕組みです。フォゼベルもこの対象となり、2025年5月14日の中医協総会で評価結果が確定しました。


評価では、患者集団を2つに分けて分析が行われました。


まず対象集団(a)は「未治療または治療されており既存治療でコントロール可能な透析中の高リン血症患者」で、全患者の72.8%を占めます。この集団では、フォゼベルの比較対照技術として既存の鉄含有リン吸着薬(クエン酸第二鉄、スクロオキシ水酸化鉄)のうち安価な方が設定されました。この比較において、ICER(増分費用対効果比)は「費用増加」と判断されており、加算を認める根拠が薄いと評価されました。価格調整係数(β)は0.1と低く設定されます。


次に対象集団(b)は「治療されており既存治療でコントロール不能な透析中の高リン血症患者」で、全体の27.2%です。この集団ではICERが200〜500万円/QALYの範囲に収まり、中程度の費用対効果が認められたとして、価格調整係数(β)は1.0(すなわち有用性加算部分をそのまま維持)となりました。


価格調整の計算式は以下の通りです。


価格調整後の薬価 = 価格調整前の薬価 − 有用性加算部分 × (1 − β)


両集団の患者割合で加重平均した結果、最終的な改定後薬価は次のように決定しました。


販売名 改定前薬価 改定後薬価(2025年11月1日〜) 引き下げ幅
フォゼベル錠5mg 234.10円 208.30円 約11.0%↓
フォゼベル錠10mg 345.80円 307.80円 約11.0%↓
フォゼベル錠20mg 510.90円 454.70円 約11.0%↓
フォゼベル錠30mg 641.80円 571.20円 約11.0%↓


これが原則です。収載時に有用性加算40%が付いていたにもかかわらず、患者全体でみると「費用対効果が良好」とは言えなかったという評価結果が、価格引き下げの直接の根拠です。


重要なのは「費用対効果が悪い=薬が効かない」ではないという点です。フォゼベルは既存治療が不十分な患者(27.2%)には明確な有用性が認められています。しかし経済評価の観点では、全患者集団を通じた追加費用に見合うQALYの獲得が証明されなかったため、収載時加算の一部が剥奪されるかたちになったわけです。これは薬剤師・医師が処方する際に患者状態に基づいたポジショニングを意識することの重要性を示しています。


参考リンク:厚生労働省「フォゼベルの費用対効果評価結果に基づく価格調整について」(中医協資料:価格調整係数・算式の詳細)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001533238.pdf


フォゼベル薬価と他のリン吸着薬との比較:処方選択への実務的視点

薬価の高低は、処方選択において1つの判断材料になります。フォゼベルの改定後薬価(1日最大:571.20円×2=1,142.40円)を、他のリン吸着薬の標準的な1日薬価と並べてみると、その位置づけが見えてきます。


薬剤名(代表的商品名) 分類 標準的な1日投与回数 薬価の目安(1日換算)
フォゼベル錠(テナパノル) NHE3阻害薬 1日2回(食直前) 約615〜1,142円
ピートル(スクロオキシ水酸化鉄) 鉄系リン吸着薬 1日3回(食直前) 約459〜917円
ホスレノール(炭酸ランタン) ランタン系 1日3回(食直後) 約500〜700円(用量依存)
レナジェル・フォスブロック(セベラマー) ポリマー系 1日3回(食直前) 比較的安価


フォゼベルの1日薬価は、改定後においても他の主要リン吸着薬より総じて高めです。ただし重要なのは、単純な薬価比較だけで処方を判断するのは早計だという点です。


フォゼベルの最大の特徴は、1日2回型という投薬回数の少なさにあります。既存のリン吸着薬は全て1日3回(食直前または食後)であるのに対し、フォゼベルは朝・夕食直前の2回に集約できます。透析患者はもともと多剤服用になりやすく、昼食時の飲み忘れが服薬アドヒアランス低下の一因として挙げられています。服薬回数の削減は、見た目以上に大きな意義があります。


また、4種類の規格(5mg・10mg・20mg・30mg)が揃っているため、用量調整時でも錠数を1錠に抑えられるという利点も見逃せません。リン吸着薬の多くは増量時に服薬錠数が増えてしまい、患者の負担が大きくなるケースがあります。フォゼベルはその問題を構造的に解消している薬剤です。


これは使えそうです。費用対効果だけを見て処方を敬遠するのではなく、患者の服薬状況と照らし合わせた「薬剤選択の根拠」を明確にしておくことが、処方医・薬剤師双方に求められます。


参考リンク:くすりプロ「フォゼベル錠の特徴【リン吸着薬との比較しながら解説】」(用法・薬価・位置づけの比較表あり)
https://kusuripro.com/phozevel-tenapanor/


フォゼベル薬価改定が在庫・発注管理に与える影響:医療機関が取るべき対策

2025年11月1日の薬価改定適用は、実務上の重要なリスクポイントでした。通常の毎年4月の改定と異なり、費用対効果評価に基づく価格調整は不定期に発令されます。適用日直前に大量の在庫を抱えていた場合、旧薬価(高い方)で仕入れた薬を改定後の薬価(低い方)で保険請求するかたちになるため、その差額は直接的な損失になります。


フォゼベル錠30mgを例にとると、1錠あたりの引き下げ幅は70.60円です。仮に30mg錠を月200錠使用している透析施設が、改定前に1ヶ月分を先行発注していた場合、200錠×70.60円=14,120円の損失が生じます。1施設では少額に見えても、複数規格・複数患者を抱えるクリニックではより大きな影響になり得ます。これは痛いですね。


こうしたリスクを避けるための対策として、以下の点が有効です。


  • 💡 費用対効果評価対象品目リストを定期的に確認する:中医協の資料には費用対効果評価中の品目一覧が掲載されています。対象品目については、評価終了・適用日の情報を事前に追っておくことが在庫管理の第一歩です。
  • 💡 適用日の前後2週間は発注量を絞る:厚生労働省は医療機関の在庫影響を考慮して一定の猶予期間を設けていますが、猶予期間後の適用日に向けて在庫調整を行うことで損失を最小化できます。
  • 💡 費用対効果評価は結果次第で「価格維持」もある:評価結果がICER良好と判断されれば加算分は維持される場合もあります。一律に「価格が下がる」と思い込まず、評価結果を正確に把握することが重要です。


費用対効果評価の対象となる品目は今後も増加が見込まれています。フォゼベルと同時期に評価対象となったウゴービ(セマグルチド)やレクビオ(インクリシラン)も同様の価格調整が実施されており、高額新薬への評価強化は厚生労働省の一貫した方針です。フォゼベルを事例として「費用対効果評価=薬価が変わる可能性がある」という意識を、施設全体で共有しておくことが求められます。


参考リンク:日刊薬業「費用対効果で3製品薬価引き下げへ ウゴービ、レクビオ、フォゼベル」(同時評価された品目の全体像)


医療従事者が見落としがちなフォゼベル薬価の「落とし穴」:用法誤りとコスト管理の盲点

フォゼベルをめぐっては、薬価以外にもコストに直結するリスクが実務上で報告されています。それが「用法の誤り」です。


公益財団法人日本医療機能評価機構(JCQHC)が2025年に発表したヒヤリハット事例集では、フォゼベル錠に関する用法誤りが複数取り上げられています。代表的な事例として、「1日3回朝昼夕食直前」という処方が記載されたケースがあります。フォゼベルの正しい用法は1日2回(朝食及び夕食直前)であり、昼食直前は投与回数に含まれません。


なぜこのような誤りが起きるかというと、既存のリン吸着薬がほぼ全て「1日3回食直前」であるためです。処方医が無意識のうちに既存薬の用法をフォゼベルに適用してしまうという背景があります。この誤りによる影響は単なる「過剰投与リスク」にとどまりません。1日3回処方が続いた場合、薬の消費量が1日2回正規処方の1.5倍になるため、患者の自己負担額の増加(月額で数百円〜数千円規模)、保険請求上の適切性の問題、在庫計算の乱れといった副次的な実務問題にも波及します。


開始用量にも注意が必要です。添付文書上の開始用量は1回5mgですが、リン吸着薬からの切り替えや追加時に10mgで開始するケースが報告されています。開始用量の誤りは有効性評価の正確さにも影響するため、処方オーダー時のダブルチェック体制を整えることが推奨されます。


フォゼベルはリン吸着薬とは全く異なるカテゴリの薬剤です。同じ「高リン血症治療薬」として一括りにせず、用法・用量のプロトコルを施設内で明示しておくことが、コスト管理と医療安全の両面から有効です。


参考リンク:医療機能評価機構「新規収載医薬品に関する事例−フォゼベル錠」(用法誤りのヒヤリハット事例と疑義照会の詳細)
https://www.yakkyoku-hiyari.jcqhc.or.jp/pdf/learning_case_2025_1_01.pdf