ポビシュガーパスタ軟膏は「新薬」ではなく、薬価収載なしで即日処方できます。
塩野義製薬は2025年12月11日付けで、褥瘡・皮膚潰瘍治療剤「イソジン® シュガーパスタ軟膏」の販売中止を公式に発表しました。告知文には「諸般の事情により在庫消尽をもって販売を中止」とあり、具体的な理由は明示されていません。これは珍しいことではありませんが、長年にわたって広く使われてきた薬剤だけに、医療現場への影響は無視できません。
実は、イソジンシュガーパスタ軟膏は販売中止の前から「限定出荷」の状態が続いていました。需要増加に対して生産能力が追いつかず、入手困難な状況が長期化していたのです。突然の販売中止発表に驚いた方も多いかもしれませんが、その背景には長期化したサプライチェーンの問題があったと見られています。
出荷終了の予定時期は包装形態によって異なります。
| 包装 | 出荷終了予定時期 |
|---|---|
| チューブ 100g | 2026年3月 |
| プラスチックボトル 500g | 2026年5月 |
チューブ100gはすでに出荷終了の時期を迎えており、現時点では在庫を確保しておくことが急務です。ボトル500gについても、2026年5月以降は塩野義製薬からの出荷が完全にストップします。つまり今後を見据えた対応は、もう始めておくべき段階です。
また、薬価基準からの削除プロセスも進行中であることが塩野義製薬の案内文に明記されており、今後は保険請求上でも注意が必要になります。経過措置期間の詳細については別途通知があるとされているため、最新情報を継続的に確認しておくことが重要です。
参考:塩野義製薬公式サイト「イソジンシュガーパスタ軟膏 販売中止のご案内」(医療関係者向け)
塩野義製薬公式サイト|イソジンシュガーパスタ軟膏 販売中止のご案内
改めて確認しておくと、イソジンシュガーパスタ軟膏の有効成分は「精製白糖」と「ポビドンヨード」の2種類です。これがそのままシュガー(白糖)とイソジン(ポビドンヨード)という名前に由来しています。
精製白糖(シュガー)の役割はよく誤解されがちですが、甘味のために入っているわけではありません。白糖には高浸透圧作用があり、褥瘡から滲み出る滲出液を強力に吸収します。床ずれが深くなると滲出液が大量に出てきますが、これを吸収することで局所の浮腫を軽減し、線維芽細胞の活性化をうながします。つまり、肉芽組織の形成を助ける役割を担っています。
一方のポビドンヨードは殺菌・消毒作用を担います。感染した褥瘡には細菌が繁殖しており、その増殖を抑えることが治癒促進につながります。白糖の創傷治癒作用と組み合わせることで、感染制御と組織修復という2つの作用を同時に発揮できる点が、この薬剤の大きな特長です。
ただし、使用上の注意点も押さえておく必要があります。
- 褥瘡の「赤色期」や「白色期」など、肉芽が形成されて感染リスクが低下した後の段階では、ポビドンヨードの細胞毒性が逆に創傷治癒を妨げる可能性がある
- 新生児への使用は甲状腺機能低下症の報告があるため、慎重な判断が必要
- 長期・広範囲の使用は避けることが添付文書に明記されている
創面の状態に合わせた使い分けが原則です。感染・滲出液が多い「黄色期」や「黒色期」に特に力を発揮する薬剤である、という認識を持っておくと処方判断がしやすくなります。
参考:医薬品インタビューフォームの詳細な作用機序記載(QLifePro)
イソジンシュガーパスタ軟膏|医薬品インタビューフォーム(QLifePro)
販売中止の案内と同時に、代替品として紹介されたのが健栄製薬の「ポビシュガーパスタ軟膏」です。2026年2月20日に正式に発売開始となりました。これは使いやすい情報です。
最も重要なポイントは、ポビシュガーパスタ軟膏がイソジンシュガーパスタ軟膏と「同一製剤」であるという点です。有効成分、含量、製剤設計が同じであることから、有効性・安全性・使用感に変わりはないとされています。つまり、患者さんの治療継続において成分面でのギャップは生じません。それは安心できますね。
薬価は1gあたり7.50円(包装薬価:100gで750円、500gで3,750円)で、イソジンシュガーパスタ軟膏と同じです。また、ポビシュガーパスタ軟膏は「統一名収載品目」であるため、通常の後発品のように新たな薬価収載の手続きを経ることなく発売できています。この点は処方への切り替えをスムーズにする大きなメリットです。
ただし、注意すべき点も存在します。発売当初から「限定出荷」の状態が継続しており、供給量の安定化にはまだ時間がかかる可能性があります。健栄製薬の出荷状況一覧によると、需要の急増(他社品の影響)と出荷量の増加対応が同時進行している状況です。入荷状況は定期的に確認が必要です。
代替品として選択できる薬剤はポビシュガーパスタ軟膏だけではなく、同系統の製剤として以下があります。
| 商品名 | 種別 | 薬価(1g) |
|---|---|---|
| ポビシュガーパスタ軟膏(健栄製薬) | 後発品 | 7.50円 |
| ユーパスタコーワ軟膏(テイカ製薬) | 先発品 | — |
| ネグミンシュガー軟膏(ヴィアトリス製薬) | 後発品 | 7.50円 |
| ネオヨジンシュガーパスタ軟膏(岩城製薬) | 後発品 | 7.50円 |
| ポビドリンパスタ軟膏 | 後発品 | 7.50円 |
| スクロードパスタ(日興製薬) | 後発品 | 9.70円 |
| ソアナース軟膏(テイカ製薬) | 先発品 | — |
ただし、同一有効成分でも製剤の基剤や添加物が異なる場合があり、吸水性などの特性が微妙に異なることがあります。患者さんの創面状態に合わせて慎重に選択することが重要です。結論は「ポビシュガーパスタ軟膏が最優先の代替候補」です。
参考:健栄製薬公式サイト「ポビシュガーパスタ軟膏 新製品発売案内」
実際に院内での切り替えを進めていく場合、いくつかの手順を踏む必要があります。スムーズに対応するためには、関係部署と早めに連携しておくことが重要です。
まず病院・施設で必要になるのが、薬事委員会や薬剤部を通じた「採用薬変更の申請と承認」です。イソジンシュガーパスタ軟膏をポビシュガーパスタ軟膏に変更する場合、同一成分・同一製剤であることが確認されているため、審査は比較的短時間で済む見込みです。ただしこの手続きを先延ばしにすると、在庫が底をついた後に処方できない期間が生まれるリスクがあります。急ぎ対応が必要ですね。
次に処方箋の書き換えです。一般名処方がすでに行われている場合は変更不要ですが、商品名で「イソジンシュガーパスタ軟膏」と記載している場合は「ポビシュガーパスタ軟膏」または一般名(精製白糖・ポビドンヨード配合軟膏)への変更が必要になります。処方箋に記載された薬剤名は薬剤師側では医師同意なしに変更できないため、診療科への早期周知がカギになります。
また、外来患者への対応も見落としやすいポイントです。継続して処方されている患者さんには、商品名が変わるだけで成分・効果は同じであることを丁寧に説明する必要があります。特に高齢者は「薬が変わった」と感じると不安になりやすいため、薬剤情報提供の一言コメントとして「旧イソジンシュガーパスタ軟膏と同一成分です」と付記しておくだけで、問い合わせ件数を大幅に減らせます。
在庫管理の観点では、チューブ100gが先に出荷終了(2026年3月)となっているため、残量確認とポビシュガー100gへの切り替えを最初に済ませておくことが優先事項となります。500gボトルは2026年5月まで猶予があるため、順を追って対応することが現実的です。
参考:DSJP(医療用医薬品供給状況データベース)での供給情報確認
DSJP|イソジンシュガーパスタ軟膏 供給情報(医療用医薬品供給状況データベース)
今回の販売中止を「単なる商品の切り替え」で終わらせてしまうのは、少しもったいない視点です。なぜなら、この出来事は日本の褥瘡外用薬市場全体の供給体制の脆弱さを改めて浮き彫りにしたからです。
実際、今回の件はイソジンシュガーパスタだけの問題ではありません。ユーパスタコーワ軟膏も2024年4月に製造販売承認がテイカ製薬へ承継・移管されており、同系統の薬剤全般で供給体制の再編が進んでいます。1品目に依存した採用体制では、次に供給不安が起きたときに即応できない恐れがあります。複数の代替候補を事前に把握しておくことが条件です。
また、医療機関の視点から見ると、イソジンシュガーパスタ軟膏は「院内製剤から商品化された薬剤」という歴史的背景を持っています。もともと病院の薬剤部で白糖とポビドンヨードを混合して作られていた院内製剤が、製薬企業によって製品化されたものです。今回の販売中止により、再び院内製剤への回帰を検討する施設が出てくる可能性もゼロではありません。ただし院内製剤の場合は品質管理・濃度の安定性・製造工数の問題があるため、外用薬として承認された製品を使用することが原則です。
褥瘡ケアにおける外用薬選択の本質は「創面の状態に合わせた適切な薬剤選択」であり、製品名への依存を減らして一般名・成分ベースで理解しておくことが、今後の安定した薬剤管理につながります。ポビシュガーパスタ軟膏はその第一歩として、安心して採用を進められる選択肢です。これは使えそうです。
薬価収載情報や供給状況は随時変化するため、定期的にDSJP(医療用医薬品供給状況データベース)や厚生労働省の告示情報をチェックすることを強くお勧めします。経過措置期間の満了(現時点では令和9年3月末が見込みとして示されているケースがあります)までに、院内の運用を完全に切り替えておくことがベストです。
参考:厚生労働省「薬価基準から削除する品目及び経過措置期間を延長する品目について」
厚生労働省|薬価基準から削除する品目及び経過措置期間を延長する品目について(PDF)