藻塩を魚の下味に使うと、うまみが飛んで損をします。
「藻塩」は「もしお」と読みます。その名前の通り、「藻(海藻)」から作られた塩です。
一般的なスーパーで売られている食塩は、海水を精製してミネラルを取り除いたもの。塩化ナトリウムの純度が99%以上と非常に高く、あの白くてさらさらとした姿が特徴です。それに対して藻塩は、海水と海藻をともに原料とし、手間をかけて作られる天然塩の一種です。
藻塩の製法の特徴は、海藻のエキスを塩に取り込む点にあります。主に使われる海藻は「ホンダワラ」(玉藻とも呼ばれる)で、海中では赤茶色や褐色をした海藻です。このホンダワラを海水に何度も浸しては乾燥させることで、ミネラルと旨み成分が豊富に溶け込んだ濃厚な塩水(かん水)を作り、それを釜で煮詰めて塩の結晶にします。つまり、藻塩は「海のミネラルと海藻の旨みが結晶化したもの」と言えます。
色は食塩のような真っ白ではなく、淡いベージュや薄茶色をしていることが多いです。これは海藻由来の成分が色素として残るためで、自然の恵みの証でもあります。商品によってはピンクがかったものや黒みがかったものもあり、使われる海藻の種類によって色も風味も変わります。
藻塩はミネラル豊富という点が基本です。
日本塩工業会(塩の基礎知識が詳しく解説されています)
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/
「塩は塩でしょ?」と思っていた方は、この数字を見ると考えが変わるかもしれません。
一般的な食塩(精製塩)の塩化ナトリウム含有量は99%以上です。製造工程でミネラルなどの不純物を徹底的に除去し、塩辛さだけを純化したものです。一方、藻塩の塩化ナトリウム含有量は94%前後。およそ5〜6%の部分に、体にとって必要なさまざまなミネラルが含まれています。
数字だけだとわかりにくいので、具体的に説明します。食塩と藻塩を同量(小さじ1杯ほど)使ったとき、藻塩の方がナトリウム量が少なく、カルシウム・カリウム・マグネシウム・ヨウ素などのミネラルが食塩の数倍含まれています。たとえるなら、食塩は「ナトリウム100%のストレート果汁」、藻塩は「ナトリウムを主役にしながらも、様々な栄養素が入った野菜ジュース」のようなイメージです。
各ミネラルのはたらきは以下のとおりです。
| ミネラル | 主なはたらき |
|---|---|
| カルシウム | 骨・歯の健康維持に不可欠 |
| マグネシウム | 筋肉の収縮・神経機能のサポート |
| カリウム | 体内の水分バランス調整・むくみ対策 |
| ヨウ素 | 新陳代謝に関わる甲状腺ホルモンの材料 |
これらのミネラルは現代の食生活で不足しやすいものです。普段の料理に使う塩を藻塩に変えるだけで、自然にミネラルを補える点は「知っていると得する」情報ですね。
また、藻塩は塩化ナトリウム量が少ない分、同じ量を使っても塩分(ナトリウム)の摂取量を5〜10%ほど抑えられる可能性があります。成人病リスクが気になる家族の食事を作る方にとって、これは小さくない差です。塩分を意識した食生活のスタートとして、藻塩への切り替えは取り組みやすい一歩になります。
ミネラルが条件です。塩を選ぶときに成分表示を確認する習慣をつけるだけで、毎日の食事の質がじわじわと変わってきます。
塩百科(公益財団法人塩事業センターによる塩の成分・種類の詳細な解説)
https://www.shiojigyo.com/siohyakka/
食塩と藻塩を並べて舐め比べると、その違いに驚く方が多いです。食塩はキリッとした塩辛さがダイレクトに来るのに対し、藻塩はまず旨みと甘みがふわっと広がり、後からやさしい塩味がついてくる感覚があります。
この「まろやかさ」の正体は、ミネラルと海藻エキスです。マグネシウムやカリウムには塩辛さをやわらげる作用があり、海藻由来のグルタミン酸などの旨み成分が「塩だけではない奥深さ」を生み出しています。昆布出汁でご飯が美味しくなる感覚と近いものがあります。これはいいことですね。
また、藻塩の旨みがあることで「少量でも味が決まりやすい」というメリットもあります。「うまみが補ってくれるので、塩を足しすぎなくなった」という声も実際に聞かれます。旨みのない精製塩は塩辛さだけで味を補うため、気づかないうちに使いすぎてしまうことがあるのです。
使う海藻によって風味が異なるのも、藻塩の面白いところです。ホンダワラで作ると柔らかく苦みのない海藻の旨みが楽しめ、コンブで作ると出汁のような濃厚な甘みが出ます。カジメで作った藻塩は色が黒っぽく、味はあっさりしていてアルギン酸が豊富。クロメ由来の藻塩には特有の磯の香りがあり、魚介料理に特に合います。同じ「藻塩」でも、どの海藻を使うかで料理との相性がガラッと変わります。
海藻の種類が味を決める、というのが基本です。
ソルトプロ(藻塩の種類・原材料別の特徴について詳しく紹介)
https://saltpro.jp/apps/note/88/
藻塩は日本で生まれた、日本にしかない塩です。世界中で塩作りは行われてきましたが、海藻を塩の製造に用いる「藻塩」の製法は日本独自のものとされています。
その歴史は古く、古墳時代(約1600年前)にさかのぼります。1982年、広島県安芸郡蒲刈町(現・呉市蒲刈町)の県民の浜造成工事の際、偶然に古代の製塩遺跡が発見されました。大量の製塩土器が発掘され、古墳時代から鎌倉時代にかけて、この地で製塩が行われていたことが判明したのです。この遺跡の発見が現代の藻塩復元の原点となり、古代の製法を忠実に再現した「海人の藻塩」が生まれました。
藻塩は文学にも登場します。日本最古の歌集『万葉集』には「朝凪に 玉藻刈りつつ 藻塩焼きつつ」という歌があり、海人(あま)たちが海藻を刈り取り、塩を焼いて作る生活の様子が詠まれています。「藻塩焼く」という言葉は万葉集の枕詞にもなるほど、当時の人々の日常に根ざした営みでした。
意外ですね。「藻塩」という言葉が1300年以上前から日本人の生活の中に存在していたとは、現代のスーパーに並ぶ商品からは想像しにくいことです。
近代に入り、日本では専売公社が塩とたばこ事業を一括管理していましたが、1997年の塩の専売制廃止によって民間企業が自由に塩を製造できるようになります。それを機に藻塩をはじめとするさまざまな天然塩が市場に登場し、現在に至ります。歴史ある製法が現代の食卓に届けられているのです。
藻塩の会(古代遺跡から復元された藻塩の歴史と現代の製法が詳しく紹介されています)
https://www.moshionokai.jp/moshio/
藻塩を手に入れたけれど、どう使えばいいかわからないという方へ。一番重要な使い方のコツがあります。
藻塩は「仕上げに使う」のが基本です。食塩と同じ感覚で魚の下味として振って焼いてしまうと、海藻由来の旨み成分が加熱で変質・焦げてしまい、せっかくの風味が消えてしまいます。表面に黒い小さな点々がついてしまうのはそのためです。藻塩のミネラルと旨みを最大限に活かすには、加熱後に添えて食べるスタイルが最もおすすめです。
藻塩が最もその実力を発揮するのは、シンプルな料理です。おにぎり・刺身の付け塩・天ぷらにつける塩・浅漬けなど、塩が主役になる場面でこそ、旨みの違いを実感できます。
以下のように使い分けると、日常料理のレベルがグッと上がります。
| 料理・場面 | おすすめの塩 | 理由 |
|---|---|---|
| おにぎり・塩にぎり | 藻塩 ✅ | 米の甘みに旨みが加わり風味豊かに |
| 刺身の付け塩 | 藻塩 ✅ | 醤油なしでも素材の味が引き立つ |
| 天ぷら・揚げ物の付け塩 | 藻塩 ✅ | 粒子が細かく溶けやすく、素材に絡みやすい |
| 浅漬け・即席漬け | 藻塩 ✅ | 旨みがしみこみ、いつもより深い味に |
| 煮物・炒め物の味付け | 食塩 ✅ | 加熱調理では精製塩の方がコントロールしやすい |
| パン・お菓子作り | 食塩 ✅ | 藻塩の風味がデリケートな甘みを邪魔する場合がある |
初めて藻塩を試すなら、まず「塩むすび」がおすすめです。具なしで握るだけのシンプルな食べ方だからこそ、食塩との差がはっきりとわかります。「藻塩のおにぎりは、海苔を巻かなくても美味しい」という声が多いのも、旨みがしっかり感じられるからです。
減塩を意識している方は特に藻塩を試す価値があります。旨みがある分、少量でも満足感が得られるため、塩の使用量を自然と抑えやすくなります。家族の健康を考える立場から、まずは1本だけ試してみることから始めてみましょう。
藻塩は「仕上げ専用」と覚えておけばOKです。
海人の藻塩 公式サイト(藻塩に合う食材・料理のおすすめ一覧が参照できます)
https://www.moshio.co.jp/first/recipe/index.html