練馬大根は東京都練馬区を中心に栽培される伝統野菜で、江戸時代からたくあん漬けの最高の食材として知られています。明治7年の「東京府志料」によれば、当時のたくあん産額の80%以上を練馬区が占めていたほど、練馬はたくあんの一大産地でした。現在流通している練馬大根は、大きく分けて「練馬秋づまり大根」と「練馬尻細大根」の2種類があります。
「練馬尻細大根」が本来のたくあん用品種で、尻すぼまりの細長い形状が特徴です。これに対して「練馬秋づまり大根」は煮物向きで、肉厚で太めです。たくあん漬け専用なら、細めで長い「練馬尻細大根」を選ぶことが重要です。水分が少なく乾きやすい肉質で、天日干しの効率が良く、独特の風味が生まれやすいのが理由です。市場では「練馬たくあん」という品種名で販売されることもあり、これは練馬尻細大根の特性を受け継ぎ、たくあん漬けに最適化された品種です。
収穫時期は夏から秋。長さ40cm、太さ7cm程度の大きさが目安です。家庭での購入は、練馬漬物事業組合の公式サイトや農業体験農園での直販、一部の百貨店で可能です。
たくあん作りで最も重要な工程が天日干しです。まず収穫した練馬大根は1本ずつ丁寧に洗い、硬めのブラシで表面をこすります。このとき傷をつけることで、よりムラなく均等に乾くという職人技があります。洗浄後、10本ずつ束ねて編み込み、干し場に移動させます。
天日干しの期間は10日~2週間が目安ですが、気候によって調整が必要です。目安は「根元と先端を曲げてくっつくくらい」、つまり大根が「つ」の字に曲がる状態です。夜間は霜や夜露に濡れないよう、必ずシートをかぶせることが成功の秘訣です。雨の日は屋根の下に取り込むか、ビニールシートで覆い、乾燥を妨げないようにします。
天日干し中の練馬大根からはほのかな甘い香りが立ち上ります。これは大根の糖分が凝縮された証拠で、この甘さがたくあんの美味しさを左右します。十分に乾いた大根は軽く、弾力があり、手で持ってもしなやかに曲がります。この状態になったら、いよいよ漬け込みの準備に進みます。
家庭でたくあんを作る際の基本配合を紹介します。大根5kg分を基準に、米ぬか1kg、塩350g(大根の6~8%)、砂糖適量(大根重量の2~3%)が目安です。昆布50gは風味の決め手となるため、できるだけ質の良いだし昆布を選びましょう。唐辛子は30個程度、焼酎100ml程度を用意します。
味わいに深みを加えるため、事前に準備する隠し味があります。11月頃からみかんやりんご、柿の皮を干して乾燥させておくと、香りがよく独特の風味が生まれます。くちなしの実や粉末ウコンを少量加えると、色合いも美しくなります。塩は精製塩より、天然塩や粗塩を用いると味わいが柔らかくなるため、こだわる場合は試してみる価値があります。
漬け込みに使う容器は、昔ながらの木樽が風味面で優れていますが、衛生管理の観点からはステンレス製やプラスチック製のタル、大型のジッパー付きビニール袋でも大丈夫です。重しは漬物石を使うのが理想的ですが、ステンレス製の重しやダンベル、水を満たした瓶などでも代用できます。
漬け込みは以下の順序で行います。容器の底に米ぬか(多め)と塩を敷き、その上に昆布を置きます。昆布は下の方に多めに配置することが重要です。大根から出る水分は下の方に溜まり、全体に回っていくため、うま味成分が早く全体に行き渡りやすくなるからです。
その上に準備した干し大根を並べ、ぬか、塩、唐辛子、昆布の順にふりかけます。この作業を繰り返し、容器がいっぱいになったら、最後に大根の葉や乾燥させた果物の皮をのせます。板を置き、重しをのせたら、冷暗所で熟成させます。昔は日蔭で熟成させていましたが、現代は衛生面と温度管理の観点から、冷蔵庫での保管が推奨されています。
熟成期間は2~3ヶ月です。3月初めからが食べ頃という目安は、12月頃の漬け込みを想定しています。時間をかけるほど米ぬかの香りが大根に移り、味わいが深まります。定期的に樽を揺すって、調味液が全体に行き渡るようにするのも、昔からの知恵です。
完成したたくあんの食べ方は、そのままご飯のおかずにする以外にも、多くの活用法があります。最も定番は「たくあん茶漬け」で、温かいご飯に刻んだたくあんを乗せ、お茶をかける食べ方です。練馬大根のたくあんは、塩辛さが心地よく、芯までしっかり味が入るため、茶漬けとの相性が抜群です。
簡易的なしょうゆ漬けも作ることができます。天日干しが7~10日程度で弓なりに曲がる状態まで済んだら、良く洗って食べやすい大きさに乱切りし、ジップロックに入れます。調味液は醤油大さじ6、酢大さじ2、塩小さじ1、砂糖小さじ1を目安に、好みで調整します。この方法なら2週間程度で食べられるため、すぐに味わいたい方に向いています。
練馬大根は通常の大根としても利用でき、煮物や炒め物、味噌汁の具としても使えます。ただし一般的な大根よりも淡白な味わいで、水分が少なく加熱すると少し食感が異なるため、味付けを濃いめにすると美味しく仕上がります。また、干す前の新鮮な練馬大根であれば、大根サラダや漬物以外の用途でも、その独特の甘さと香りが際立ちます。
練馬漬物事業組合 公式サイト - 練馬大根と沢庵漬けの製造工程、歴史、レシピが詳しく紹介されています
サカタのタネ 練馬沢庵大根 - 種から育てたい方のための品種情報と栽培ガイドが掲載されています