女性の平均寿命が伸びているのに、女性の死因1位はがんではなく「老衰」にすり替わっています。
厚生労働省は2025年7月25日、「令和6年(2024年)簡易生命表」を公表しました。この発表によると、2024年の日本人の平均寿命は男性81.09年、女性87.13年となっています。前年(2023年)と比較すると、男性は±0.00年(横ばい)、女性は0.01年の微減となりました。
「平均寿命」という言葉は日常的に使われていますが、正確な定義を押さえておくことが重要です。平均寿命とは「0歳における平均余命」、つまり今生まれた子どもが平均して何年生きるかを表す指標です。現在の死亡率が今後も変わらないという仮定のもとで算出されるため、現時点で50歳の人の「残り寿命の期待値」とは異なります。つまり「平均寿命=今の高齢者が実際に生きる年数」ではない点に注意が必要です。
国際比較の観点では、女性の87.13年は40年連続で世界1位を維持しています。男性の81.09年はスウェーデン(82.29年)、スイス(82.2年)、ノルウェー(81.59年)、イタリア(81.44年)、スペイン(81.11年)に続く世界第6位で、前年の5位から1つ下がっています。G7各国と比較すると、アメリカ男性は75.8歳・女性81.1歳であり、日本との格差は大きく、日本の長寿水準の高さがわかります。
40年前(1984年)と比較した場合、男性の平均寿命は約7.63年、女性は約8.24年延びています。これはおおよそ小学校から中学校の期間(6〜9年)に相当するほどの大きな延伸です。ただし近年の延伸幅は鈍化傾向にあり、2020年以降はコロナ禍の影響や老衰死亡率の上昇などにより、実質的な横ばいが続いています。
参考:令和6年簡易生命表の概況(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/index.html
平均寿命と並んで医療従事者が必ず把握しておくべき指標が「健康寿命」です。厚生労働省が定義する健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を指します。直近の2022年(令和4年)データでは、男性72.57歳、女性75.45歳となっています。
この数字と平均寿命の差を見ると——
この差は、日常生活に何らかの制限が生じている期間を意味します。これは医療費・介護費が集中発生する期間と高い相関を持っており、社会保障財政への直接的なインパクトがあります。端的に言えば、女性は人生の最後の約12年間——ちょうど中学・高校・大学を経て就職するくらいの長さ——を、何らかの制限を抱えながら生きているということです。
ただし、近年この差は縮小傾向にあります。2010年(平成22年)以降、男女ともに徐々に不健康な期間が短くなっており、これは健康日本21などの政策の成果とも見られています。一方で、慶應義塾大学が2025年3月に発表した47都道府県の30年間の健康傾向分析では、1990年の差9.9年から2021年には11.3年に拡大しているとの報告もあり、解釈には注意が必要です。これが条件です——どの指標を用いるか(国全体 vs 都道府県別、どの年次の比較か)によって評価が変わります。
健康寿命の延伸は「健康日本21(第三次)」の最重要目標に位置付けられています。医療従事者としては、患者への生活習慣指導や服薬管理、早期発見・早期治療を通じて、この差の縮小に直接関与していることを意識したいところです。
参考:平均寿命と健康寿命(厚生労働省 e-ヘルスネット)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/hale/h-01-002.html
令和6年(2024年)簡易生命表では、死因構造にも注目すべき変化が生じています。まず押さえておきたいのが、「老衰」による死亡が女性では2年連続で死因第1位になったという事実です。これは多くの医療従事者にとっても「意外」に感じられるかもしれません。
2024年の死亡確率(0歳時)の上位を整理すると、以下のようになります。
【男性の死亡確率上位(0歳時)】
【女性の死亡確率上位(0歳時)】
これは意外ですね。がん・心疾患・脳血管疾患という「3大死因」の死亡率は一貫して低下しており、医療水準の向上と生活習慣改善の成果が数字に表れています。3大死因の合計死亡確率は男性45.68%(前年比1.06pt低下)、女性40.29%(同0.97pt低下)と、いずれも改善傾向にあります。
一方で老衰が増加している背景には、高齢者の絶対数の増加と、疾患が致命的になる前に老衰に至るケースの増加という、複合的な構造変化があります。これは医療従事者にとって、終末期ケアや緩和医療の重要性がいっそう高まることを意味します。
また、もし悪性新生物を完全に克服できた場合、平均寿命は男性で3.11年、女性で2.68年延伸すると推計されています。心疾患の克服では男性1.37年、女性1.12年の延伸が見込まれます。がん・心疾患・脳血管疾患の3つすべてを克服すると、男性で5.12年、女性で4.35年の延伸が理論上可能であり、がん対策が寿命延伸に与える効果は他疾患を大きく凌駕しています。
参考:死因別死亡統計の最新分析(GemMed)
https://gemmed.ghc-j.com/?p=68461
日本人の平均寿命は戦後から劇的な変化を遂げてきました。1947年(昭和22年)時点では男性50.06歳、女性53.96歳でした。戦後の感染症対策や医療の整備により急速に延伸し、1985年頃には女性が80歳台に達し、男性が80歳台を超えたのは2015年前後のことです。
近年の推移を見ると、2020年の男性81.56年・女性87.71年をピークに、コロナ禍の影響で2021年・22年と2年連続で短縮しました。2023年に男性81.09年・女性87.14年と回復しましたが、2024年は男性が横ばい・女性がわずかに低下しており、「伸びの鈍化」という局面に入っています。
将来推計を確認すると——国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、2070年には男性85.89年、女性91.94年に達すると推計されています。また内閣府の令和7年版高齢社会白書でも同様の見通しが示されており、令和52年(2070年)を見据えた超長寿社会の到来は、ほぼ確実視されています。
つまり現在の課題です——2070年には女性の平均寿命が「92年」近くになる社会を想定した医療・介護インフラをいまから構築しなければならないということです。
医療従事者にとって実務上の重要指標となるのが「平均余命」です。65歳時点での平均余命は男性19.47年、女性24.38年(2024年)となっており、65歳で定年退職した後も男性で約20年、女性で約24年の生活を見込む必要があります。75歳時点でも男性12.08年、女性15.75年の余命があり、後期高齢者が主たる患者層となる医療・介護現場では、この数字を基準とした長期的なケアプランの設計が求められます。
さらに、90歳まで生存する割合は男性25.8%、女性50.2%であり、女性の2人に1人が90歳以上まで生きる時代が到来しています。これは東京ドーム5個分の広さを1人で維持し続けるような、長期にわたる継続的なケアの必要性を示しています(比喩的な表現ですが、それほど長い「ケア期間」という意味です)。
医療従事者は患者の寿命と健康を守る立場にありますが、では自分自身の健康はどうでしょうか。これは多くの医療現場でタブー視されがちなテーマです。
「医者の不養生」という言葉があります。実は医療従事者——とりわけ看護師——の労働環境は、平均寿命データとは逆の方向を示すリスクをはらんでいます。日本医労連の調査では、夜勤に従事する看護師の8割以上が慢性疲労を抱えていると報告されており、長時間夜勤による概日リズムの乱れは心疾患・代謝異常・がんリスクの上昇と関連することが複数の研究で示されています。
一方で医師については、近年の欧米の研究から「長寿傾向にある」という知見も出てきています。医学的知識へのアクセスや収入水準の高さ、早期受診のしやすさなど、健康を守りやすい環境条件が揃っていることが背景にあると考えられています。いいことですね——ただしこれは診療科によって大きく異なります。過重労働が常態化している外科・産婦人科・救急科では、ワーク・ライフバランスの崩れが健康リスクを高める可能性が指摘されています。
医療従事者が平均寿命データを読む際に意識すべきなのは、「患者に伝える数字」としてだけでなく、自分自身が置かれた職業的健康リスクとの対比でもあります。夜勤シフトの多い職場では、生活習慣病のスクリーニングや定期的なメンタルヘルスチェックを自分自身にも適用する習慣が重要です。
日本の平均寿命が男性81年・女性87年という高水準にある一方で、医療従事者という職業はその恩恵を十分に享受しにくい労働環境にある場合があります。患者の健康寿命延伸を支援しながら、自分自身の健康も守るという二重の役割を担っていることを改めて認識したいところです。職場の産業医や健康経営の取り組みを積極的に活用することが、長期的なキャリア継続にも直結します。
職場での健康チェックや生活習慣の振り返りに際しては、厚生労働省の「スマート・ライフ・プロジェクト」のリソースが参考になります。
参考:スマート・ライフ・プロジェクト(厚生労働省)
https://www.smartlife.mhlw.go.jp/
平均寿命は全国平均だけを見ていても現場感覚とズレが生じることがあります。都道府県間の健康格差は、医療従事者が日常的に関わる患者層の特性にも影響するため、地域ごとのデータを把握しておく意義は大きいです。
慶應義塾大学が2025年3月に発表した研究によると、47都道府県間の平均寿命の地域差は2021年時点で2.9年(男性3.9年、女性2.0年)にのぼっており、1990年の2.3年から拡大しています。これは関東平野と東北・四国の農山漁村ではほぼ違う「健康世界」に住んでいると言っても過言ではない差です。
都道府県別の傾向を見ると、長野県や滋賀県が男女ともに長寿県の上位に位置しており、男性の場合、最上位の滋賀県(81.78歳)と最下位の青森県(78.67歳)の間には約3.1歳の差があります。青森県は「短命県」として知られ、弘前大学や弘前市が中心となって大規模な健康増進プロジェクト(弘前大学COI研究)を展開してきた歴史があります。
この格差が生まれる主な要因として、以下が挙げられています。
また、慶應大学の研究では、平均寿命の延伸要因として脳卒中による寄与が1.5年、虚血性心疾患が1.0年、がんが1.0年と、循環器疾患対策の成果が大きいことが示されています。これらが延伸要因の7割以上を占めており、現場での生活習慣病対策や一次予防の取り組みが直接、地域の平均寿命に反映されていることがわかります。
地域医療に従事している方は、担当地域の健康課題(高塩食・運動不足・がん検診受診率など)を意識した患者指導が、まさにこのデータを動かす力になっています。つまり一人ひとりの指導の積み重ねが地域格差の縮小に直結するということです。
参考:47都道府県の30年間の健康傾向の包括分析(慶應義塾大学 2025年3月)
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2025/3/21/250321-1.pdf