農地を所有しなくても、農業法人は今すぐ始められます。
農業法人について調べ始めると、「農地所有適格法人」という言葉が必ず出てきます。しかし実は、農業法人には大きく分けて2つのタイプが存在し、それぞれで要件がまったく異なります。ここを理解しないまま手続きを進めると、後から「要件を満たせなかった」という事態になりかねません。これが基本です。
農地所有適格法人とは、農地を「所有する」権利を持てる法人のことです。農地法第2条第3項に定められた要件をすべて満たした場合のみ、農地を取得できます。2016年以前は「農業生産法人」と呼ばれていた法人形態がこれにあたります。農家が経営規模を拡大したいときや、田畑をしっかり自社資産として持ちたいときに選ばれる形態です。
一方の一般の農業法人(賃借・リース方式)は、農地を所有するのではなく「借りて」農業を行う法人のことを指します。農地所有適格法人のような厳しい出資者・役員要件がなく、株式会社やNPO法人など、業種を問わずに農業参入できるのが大きな特徴です。2009年(平成21年)の農地法改正以降、この方式で異業種から農業に参入する一般企業が増えています。
| 比較項目 | 農地所有適格法人 | 一般の農業法人(リース方式) |
|---|---|---|
| 農地の取り扱い | 所有・賃借 どちらも可 | 賃借(リース)のみ |
| 設立の難易度 | 高(役員・出資要件が厳しい) | 低(業種問わず参入可) |
| 主な融資優遇 | スーパーL資金など手厚い | 一般融資の範囲内 |
| こんな方に向いている | 農家として本格的に規模拡大したい方 | 異業種から農業参入したい方 |
まず自分がどちらのタイプを目指すかを決めることが、設立への第一歩になります。
農地所有適格法人として認められるには、農地法が定める4つの要件をすべて同時に満たす必要があります。1つでも欠けると農地を所有する権利が得られないため、丁寧に確認することが必要です。
① 法人形態要件:どんな会社の形にするか
設立できる法人の種類は、株式会社(譲渡制限規定のある非公開会社に限る)、合同会社、合名会社、合資会社、農事組合法人(2号法人)のいずれかです。注意点は、一般的な株式会社でも「株式の譲渡制限規定」が定款に記載されていないと認められないことです。上場企業のような公開会社は原則として対象外になります。
② 事業要件:農業が主体の事業であること
法人の売上高の「過半数(50%超)」が農業およびその関連事業(農産物の加工・販売・農家民宿など)でなければなりません。農業以外の事業収益が主になってしまうと、この要件を外れてしまいます。売上の半分以上が農業由来であることが条件です。
③ 構成員(議決権)要件:農業関係者が議決権の過半数を持つ
株主総会などの議決権の「2分の1超」を、農業関係者(農地の権利提供者、法人の農業に年間150日以上常時従事する者、農協・地方公共団体など)が保有していなければなりません。外部企業や投資家が多数の株式を持つような構成では、この要件を満たせなくなります。
なお、農林水産省は2025年4月施行の改正で、「農業経営発展計画」の大臣認定を受けた法人については農業関係者の議決権割合を「1/3超」まで緩和する特例を設けました。食品事業者等との連携を考えているケースでは要チェックです。
④ 役員要件:農業の現場に関わる役員が必要
役員の過半数が、法人の農業に「常時従事(原則年間150日以上)」する者でなければなりません。さらに、役員または農場長などの重要な使用人のうち1名以上が、年間60日以上の農作業に従事する必要があります。「片手間で農業」では要件を満たせません。
参考リンク(農林水産省 農地所有適格法人の要件について)。
農林水産省:農地所有適格法人の要件
農地を所有せずにリースで農業を行う「一般の農業法人」の場合、農地所有適格法人のような厳しい構成員要件はありません。意外ですね。ただし、農地法第3条第3項に基づく要件と、農業委員会の許可は必要です。
① 解除条件付き賃貸借契約であること
農地を借りる契約書には、「農地を適正に利用していない場合には契約を解除する」という条件を必ず盛り込む必要があります。これは農地を守るための規定であり、行政が農業の適切な運営を担保するための仕組みです。この一文がないと許可が下りません。
② 地域との調和(あつれき防止)
周辺農地の農業に支障を及ぼさないことが求められます。たとえば、無農薬エリアで農薬を使用しない、地域の水利組合のルールを守るといった、地域社会との協調が条件になります。法的な書面だけでなく、実態としての地域協調が重要になるわけです。
③ 業務執行役員の農業従事(年60日以上)
法人の役員等のうち1名以上が、その法人が行う農業に常時従事することが求められます。農地所有適格法人のように「役員の過半数」が農業従事者である必要はなく、1名いれば十分です。役員の構成における自由度が高いのが、この方式の大きなメリットといえます。
また、農地の借り方については「農地中間管理機構(農地バンク)」の活用がおすすめです。各都道府県に設置されており、分散した農地をまとめて借りたり、農業委員会への手続きを簡略化したりできるため、参入の手間を大幅に減らせます。
参考リンク(農林水産省 農地中間管理機構について)。
農林水産省:農地中間管理機構(農地バンク)
農業法人を設立するまでには、一般の会社設立と同じ手続きに加えて、農業固有の届出が加わります。全体の流れをしっかり把握しておくことが大切です。
ステップ1:定款の作成と公証役場での認証
最初に法人の基本ルールをまとめた「定款」を作成し、公証役場で認証を受けます。認証手数料は約3〜5万円(資本金額によって変わる)、書面定款には印紙代4万円が別途かかります。電子定款を利用すれば印紙代の4万円は不要になるため、電子申請を選ぶ方が増えています。合計は約5〜9万円程度です。
ステップ2:資本金の払い込みと役員の選任
出資者が実際に資本金を銀行口座に払い込みます。現在は資本金1円以上で設立は可能ですが、対外的な信用を考えれば、最低でも半年分の運転資金をまかなえる額を設定するのが一般的です。同時に代表取締役などの設立時役員も決定します。
ステップ3:法務局への登記申請(登録免許税:最低15万円)
法務局に定款・申請書類一式を提出し、登記申請を行います。この際に発生する登録免許税は「資本金×0.7%」で計算されますが、その額が15万円を下回る場合は最低15万円の納付が必要です。登記が完了して初めて法人として活動を開始できます。
ステップ4:各機関への届出
登記後には税務署・都道府県・市町村への設立届出が必要です。従業員を雇う場合は労働基準監督署・ハローワーク・年金事務所への届出も必要になります。農地所有適格法人として認められるには、市町村の農業委員会への届出も別途行います。
設立費用の目安まとめ
専門家(司法書士・行政書士)に依頼する場合は、さらに10〜20万円前後の報酬が上乗せになります。手続きの煩雑さを考えると、専門家への依頼は費用対効果が高い選択肢です。
参考リンク(農業法人の設立費用に関する詳細)。
イノチオアグリ:農業法人を設立するために必要な要件とは?法人化の方法について解説
農業法人として設立することには、個人農家にはない経営上の大きなメリットがあります。知っておけば得をする内容ばかりです。
節税効果:所得が年400万円を超えたら法人化の検討を
個人事業主(農家)の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が上がり、最大で45%(住民税を含めると最大55%)にもなります。一方、法人税は中小法人の場合、所得800万円以下の部分に約15%の軽減税率が適用されるため、一定の所得を超えたタイミングから節税効果が生まれます。
農林水産省のデータでは、所得400万円以上になると所得税より法人税の実質負担が低くなると示されています。さらに法人にすると、家族を役員にして給与を支払うことができ、所得を分散させる節税策も使えます。
また、赤字が出た年の損失(欠損金)を最長10年間繰り越して将来の利益と相殺できるのも法人ならではの強みです。天候不順や不作のリスクが大きい農業において、これは経営安定化の大きな武器になります。
融資優遇:スーパーL資金で法人は最大10億円まで借入可能
農地所有適格法人として「認定農業者」の認定も受けると、日本政策金融公庫の「スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)」が利用できます。個人の借入限度額が最大3億円であるのに対し、法人では最大10億円(一定の条件で最大30億円)という大きな借入枠が設定されています。返済期間は25年以内(うち据置期間10年以内)で、条件によっては実質無利子化の支援もあります。
事業継承の円滑化:農業を「会社」として次代に渡せる
個人農業の場合、農家が亡くなったり引退したりすると事業の存続が難しくなります。農業法人化することで、農業経営を「会社」という形で次世代に引き継ぐことができ、後継者不在の問題が起きにくくなります。社員として後継者を育成する仕組みも作りやすくなるため、農業の持続可能性が高まります。
参考リンク(農林水産省 農業経営の法人化について)。
農林水産省:農業法人の設立について(農業経営の法人化のすすめ)
農地所有適格法人の設立要件のなかで、最も誤解されやすく、かつ後々の経営に影響が出やすいのが「役員の年間150日以上農業従事」という要件です。厳しいところですね。
この「150日以上」は、役員全員が150日働く必要があるのではありません。役員全体の過半数が年間150日以上農業に従事していれば要件を満たします。たとえば役員が夫婦2名の場合は、少なくとも1名(過半数=1名)が150日以上農業に関われば要件を満たせる、ということになります。
150日というのは、1週間のうち約3日弱農業に関わる計算です。月に換算すると約12〜13日。これは東京ドームのグラウンド面積(約1.3ha)を1人で管理する農家の実態的な稼働日数にも近い数値で、兼業農家には難しくても、専業農家であれば十分に達成できる水準です。
重要なのは、この要件を設立後もずっと維持し続けなければならない点です。法人設立後に「要件を満たせなくなった」という事態が発生した場合、農地所有適格法人としての資格を失いかねません。役員体制を変える際には必ず事前に確認することが必要です。
もし従事日数の管理が不安な場合は、役員の農業従事日数を日誌やシステムで記録しておく習慣をつけることをおすすめします。農業者向けの日報・記録アプリ(例えば農業管理アプリ「アグリノート」など)を活用すれば、従事日数の証跡管理が1つのアプリで完結します。
参考リンク(農地所有適格法人の役員要件について)。
宮城県農業会議:農地所有適格法人とは(役員要件の詳細解説)
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