「30分貼れば効果は変わらない」は間違いで、60分貼付のほうがVASスコアが有意に改善します。
ペンレステープ(一般名:リドカイン貼付剤)は、有効成分リドカイン18mgを1枚に含有する貼付用局所麻酔剤です。日東電工株式会社が開発し、マルホ株式会社が販売しており、1994年から国内で使用されています。
貼付後の効果発現までの時間は、添付文書上「約30分」が基準とされています。これは皮膚の角質層を通じてリドカインが浸透し、末梢神経のナトリウムチャネルを遮断することで痛みの伝達を抑制するメカニズムによるものです。経皮吸収型の薬剤であるため、注射薬と違ってゆっくりと浸透します。
効果の持続時間については、貼付後約30分で十分な麻酔効果が得られ、2時間程度持続するとされています。これはリドカインの皮下組織への蓄積と緩やかな代謝に起因します。
ただし、この「30分・2時間」はあくまで平均的な数値です。重要な点は個人差が大きいということ。
日本透析医学会雑誌に掲載された臨床研究(2010年)では、内シャント穿刺時疼痛に対してペンレステープを30分・60分・90分それぞれ貼付した場合の疼痛スコア(VAS)を比較しています。結果は以下のとおりでした。
| 貼付条件 | 平均VASスコア |
|---|---|
| 未使用 | 9.82±1.24 |
| 30分貼付 | 4.57±0.72 |
| 60分貼付 | 3.00±0.51 |
| 90分貼付 | 2.69±0.48 |
30分と60分の間には統計学的有意差はないものの、疼痛スコアの低下傾向(p=0.051)が認められており、研究者らは「平均的には貼付時間は60分以上とするのが妥当」と結論づけています。また、「疼痛緩和効果は個人差が大きく、症例ごとに至適貼付時間を決定すべき」とも述べています。
つまり「30分でOK」という理解は最低限の目安です。
医療現場では患者ごとに効果が十分かを確認しながら、貼付時間を調整していく姿勢が求められます。
参考リンク(J-STAGE:内シャント穿刺痛に対するリドカインテープの有用性・貼付時間比較研究)。
ペンレステープには現在3つの効能・効果が承認されており、それぞれで用法・用量が異なります。ここを混同すると適切な疼痛緩和が得られない可能性があります。
| 適応 | 対象 | 貼付時間 | 最大枚数 |
|---|---|---|---|
| 静脈留置針穿刺時の疼痛緩和 | 成人・小児 | 約30分 | 1枚 |
| 伝染性軟属腫摘除時の疼痛緩和 | 小児 | 約1時間 | 2枚 |
| 皮膚レーザー照射療法時の疼痛緩和 | 成人・小児 | 約1時間 | 成人6枚/小児は年齢別 |
静脈留置針穿刺(点滴確保など)では約30分の貼付が規定されています。処置の種類によって必要な麻酔の深さが異なるため、水いぼ摘除やレーザー治療では約1時間が必要です。これは臨床試験での疼痛緩和効果のデータに基づいて設定されています。
小児のレーザー照射療法時の枚数上限は年齢によって異なります。3歳以下は2枚、4〜5歳は3枚、6〜7歳は4枚、8〜9歳は5枚、10歳以上は6枚(成人と同じ)です。体重・患部サイズを考慮して必要最小限にとどめることが原則です。
添付文書には「本剤除去後直ちに処置等を行うこと」という重要な注意事項があります。これが原則です。
剥がしてから時間を置くと、皮膚表面の麻酔効果が薄れ始めます。準備が整い次第、速やかに処置を行うよう業務の段取りを組むことが現場では求められます。
参考リンク(マルホ株式会社 医療関係者向けサイト:ペンレステープの特徴)。
「30分貼ったのに痛みが取れない」という経験は、透析施設の看護師なら一度はあるかもしれません。これは必ずしもテープが「効かない」のではなく、患者ごとの皮膚の厚さや血流、角質の状態、貼付部位の問題である場合があります。
皮膚の厚さは個人差があります。たとえば角化した皮膚や浮腫のある皮膚では、リドカインの経皮吸収速度が通常とは異なります。透析患者の場合、シャント周囲の皮膚が繰り返し穿刺によってやや硬化していることもあり、これが効果の個人差につながる一因と考えられています。
対処として考えられる方法は主に2つです。まず、貼付時間を60〜90分程度に延長することです。前述の臨床データからも、60分貼付のほうが30分よりも疼痛緩和効果が高い傾向は認められています。ただし、添付文書の規定時間を大幅に超えることは推奨されません。次に、エムラクリーム(リドカイン25mg+プロピトカイン25mg配合)への変更を検討することです。
広島ベイクリニックによる研究では、ペンレステープで穿刺痛の緩和が得られなかった患者7名(平均年齢74.7歳)をエムラクリームへ変更したところ、穿刺時の痛みが有意に軽減(p<0.05)しました。さらにペンレステープでは「透析開始から数分で効果が切れる」と感じていた患者全員が、エムラクリームでは透析終了まで効果が持続したと回答したとのことです。
意外ですね。
エムラクリームは2成分配合で皮膚のより深い層まで浸透できる可能性があるため、皮膚が厚い患者や高齢患者に特に有効な場合があります。ただし、塗布手順がやや煩雑で、専用固定テープによる密封が必要という点も考慮が必要です。
どちらが適切かは患者の状態・施設の体制・医師の判断によって変わります。「ペンレステープで効果不十分」と感じたら、主治医へ相談した上で代替薬を検討するのが基本です。
「長く貼れば貼るほど効果が上がる」という考えで、処置の数時間前から貼付したままにしているケースが臨床現場ではまれにあります。しかしこれは誤りです。
まず効果の観点からは、60分と90分の間には有意差がなく、長時間貼付しても効果の大幅な上乗せは期待できません。それどころか、長時間貼付では皮膚症状リスクが高まります。
添付文書には明確に「貼付が長時間にわたると皮膚症状が強くあらわれるおそれがあるので注意すること」と記載されています。報告されている皮膚症状には次のものがあります。
また稀ではありますが、重大な副作用としてショック・アナフィラキシーが報告されています。初期症状として不快感・口内異常感・喘鳴・眩暈・耳鳴・発汗・呼吸困難などがあります。これらは「本剤除去後にも起こることがある」点に注意が必要です。
透析施設の看護研究(複数)では、平均115分貼付していたケースや、90分以上の貼付が慣習化していた事例が報告されており、長時間貼付による乾燥・掻痒のため貼付時間の延長が勧められなかったという記録もあります。
過量投与の観点からも注意が必要です。
リドカイン中毒の血中濃度は、安全域が3μg/mL以下とされており、5μg/mL以上で中枢神経症状(不安・興奮・耳鳴・ふらつきなど)が出現します。ペンレステープ1枚の通常使用では血中濃度は定量限界付近にとどまり、全身毒性のリスクは極めて低いとされています。ただし、規定を大幅に超えた枚数の同時使用は別です。特に小児や体重の軽い患者では、年齢別の最大枚数を厳守することが必須です。
参考リンク(日経メディカル処方薬事典:ペンレステープ18mg基本情報・添付文書全文)。
ペンレステープ18mgの基本情報(副作用・添付文書全文)|日経メディカル処方薬事典
添付文書や教科書には記載されていながら、現場の実務の中でつい見落とされやすいポイントがいくつかあります。これを知っているかどうかで、患者トラブルの件数に差が出ます。
貼付部位の皮膚状態の確認が必須です。 添付文書では「湿疹または発疹の部位に使用しないこと」「損傷皮膚および粘膜に使用しないこと」が明確に定められています。炎症・破損のある皮膚では吸収が異常に亢進し、リドカインの血中濃度が上昇する可能性があるためです。透析患者の場合、穿刺を繰り返す部位に皮膚炎が起きていることもあります。貼付前の視診・問診はルーティンとして徹底すべきです。
アミド型局所麻酔薬への過敏歴がある患者には使用禁忌です。 リドカインはアミド型局所麻酔薬の一種で、同系統には歯科で使用されるリドカイン注射、手術で使用されるメピバカイン・レボブピバカインなどが含まれます。過去に歯科麻酔や手術麻酔で過敏反応を起こした既往がある患者には禁忌です。入院時や初回使用前の問診で確認が必要です。これが条件です。
アミオダロン・ニフェカラントとの相互作用に注意します。 クラス3抗不整脈薬との併用では、心機能抑制作用が増強するおそれがあります。心疾患合併例では心電図モニタリングが必要になります。透析患者は心疾患合併が多いため、内服薬の確認は特に重要です。
「切って使う」場合の残薬は廃棄が原則です。 水いぼ摘除などで患部サイズに合わせてカットして使用した場合、残った部分は廃棄しなければなりません。これは薬物の持続的な揮散や成分の変質を防ぐためで、次回使用に転用することは禁止されています。
開封後は速やかに使用が必要です。 未使用期限内であっても、開封後はなるべく速やかに使用することと添付文書には記載されています。外袋から取り出したまま長時間放置すると、薬物が揮散して効果が落ちる可能性があります。在庫管理・払い出し方法を施設内で統一しておくのが望ましいです。
妊婦への使用は有益性が危険性を上回る場合のみです。 妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用します。外来での点滴確保などで無意識に使用しないよう、問診での妊娠確認が必要です。
これらのポイントを知っておくだけで、インシデントを未然に防ぐことができます。
参考リンク(PMDA 医薬品インタビューフォーム(IF):ペンレステープ18mg 2023年4月改訂版)。
劇薬 ペンレス®テープ18mg 医薬品インタビューフォーム(JAPIC)
日常業務の中で、気づかないうちに慣習化した使い方が広がっていることがあります。ペンレステープでも同様です。この視点が、施設全体の薬剤の適正使用につながります。
「透析患者の多くは30分前に自宅で貼ってから来院する」という慣習の落とし穴。 施設によっては、透析来院前に患者自身が自宅でペンレステープを貼り付けてから来院するスタイルを採用しています。来院から穿刺まで時間がかかる場合、すでに貼付から1時間以上経過していることもあります。一方、来院が早すぎると「2〜3時間前に貼っても効果が減るだけ」という現象も起こります。自宅貼付を指導する際は、来院予定時刻から逆算して「透析開始30分〜1時間前を目安」に具体的な時刻を伝えることが重要です。
同じ部位への繰り返し貼付による皮膚炎の蓄積リスク。 透析患者は毎回ほぼ同じシャント部位に穿刺します。テープの粘着剤成分(アクリル酸系共重合体)が長期的に繰り返し接触することで、接触皮膚炎が生じやすくなります。穿刺部位をローテーションするのと同様に、テープ貼付位置も毎回同一にしないよう指導することが皮膚保護につながります。
「ペンレスとリドカインテープは同じ」という思い込み。 ペンレステープとリドカインテープ(後発品)は、どちらもリドカイン18mgを含みますが、製剤設計が異なります。ペンレステープは「結晶レジボアシステム」という薬物放出性の高いバーストタイプを採用しており、貼付直後から速やかに薬物が放出されます。一方、後発品では放出プロファイルが若干異なる製品もあります。後発品への変更後に「効きが悪くなった」という声が患者から出た場合は、製剤特性の違いを念頭に置いた確認が必要です。
現場の「当たり前」を定期的に見直すことが大切です。
薬剤の添付文書改訂や施設内の手順書の更新タイミングで、ペンレステープに関する知識のアップデートを職場内で共有することをお勧めします。PMDAの医薬品情報検索(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/)では最新の添付文書を無料で確認できます。