レモンオイルを指板に塗るほど、実はギターの寿命が縮まっていきます。
ギターを弾いていると、指板の表面に手の皮脂や汗、ホコリなどの汚れがじわじわと蓄積していきます。とくに弦を張ったまましばらく放置しているギターは、フレットとフレットの間の溝に黒ずみがびっしりついていることも珍しくありません。そんなときに活躍するのが「レモンオイル」です。
レモンオイルはギターやベースの指板専用に調合されたメンテナンスアイテムで、主に「汚れ落とし(クリーニング)」と「保湿」の2つの役割を担います。楽器用レモンオイルの中身は純粋なレモンの精油だけではなく、ミネラルオイル・オレンジオイル・亜麻仁油・椿油などを絶妙な割合でブレンドして作られています。レモン精油に含まれる「リモネン」という植物由来成分が汚れを浮かして落とす働きをしており、抗菌作用も備えています。
つまり、天然素材ベースの「優しい汚れ落とし」というわけですね。
粘度が低く揮発性が高いという特性から、レモンオイルは特に汚れ落としに向いていると言われています。一方で「保湿力が高い」とされるのは、粘度が高く揮発しにくいオレンジオイルのほうです。市販の製品ではこの両方をブレンドしたものが多く、洗浄と保湿を同時に行えるよう工夫されています。これは使えそうです。
保湿の効果は製品によって異なりますが、一般的なレモンオイルで約1か月程度、蜜蝋などを配合した高機能タイプでは約3か月ほど持続するとされています。指板の保湿状態が悪いと木材が乾燥してひび割れが生じる可能性があるため、定期的なケアが大切です。
| 種類 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| レモンオイル | 粘度低め・揮発しやすい | 汚れ落とし向き |
| オレンジオイル | 粘度高め・揮発しにくい | 保湿向き |
| ミネラルオイル系 | 安定性が高い・無臭 | 保湿のみに特化 |
指板の素材によって使えるオイルが変わるため、まずは自分のギターの指板が何の材質かを確認することが最初の一歩です。
レモンオイルを誰のギターにも使っていいかというと、実はそうではありません。これが多くの初心者が見落としやすいポイントです。
レモンオイルが使える指板は「無塗装の木材がむき出しになっているもの」に限られます。具体的には以下の2種類が代表的です。
逆に、レモンオイルを使ってはいけない代表的な素材がメイプル指板です。
メイプル指板の多くはウレタン塗装またはラッカー塗装が施されています。塗装が木材の乾燥を防ぐバリアの役割を果たしているため、レモンオイルで保湿する必要がそもそもありません。それどころか、レモンオイルを使うと塗膜が変色したり、ラッカー塗装の場合は割れや溶けが生じるリスクがあります。
注意が必要なのは「ツヤがない=無塗装」ではないという点です。たとえばサテン仕上げのメイプル指板は、ツヤ消し仕上げのために磨いていないだけで塗装はされています。また、リッケンバッカーなど一部のブランドのローズウッド指板には塗装が施されているケースもあります。
使用前に材質と塗装の有無を確認するのが原則です。
判断が難しい場合は、楽器屋のスタッフかリペアマンに一度相談するのが確実です。メーカーのESPも公式サイトでラッカー塗装ギターへのレモンオイル使用を「絶対に使用しないでください」と明記しています。
ギターのESP公式メンテナンスアドバイスについては以下のページも参考にしてください。
ESP | Customer Service | ビギナー向け講座 | 日常のメンテナンス
正しいステップを踏むかどうかで、ギターへの影響が大きく変わります。難しい作業ではありませんが、細かいポイントを守ることが大切です。
ステップ① 弦を外して指板を露出させる
レモンオイルは弦を張ったまま塗ることもできますが、できれば弦交換のタイミングに合わせて弦を全部外してから行うのがベストです。フレット間の隅々まで塗り広げられるうえ、汚れの確認もしやすくなります。また、弦にオイルが付着すると錆の原因になることがあるため、一緒に取り外しておきましょう。
ステップ② クロスに1〜2滴取る
レモンオイルは指板に直接垂らさず、必ずクロス(布)や綿ネル製の布に1〜2滴取ってから使います。指板にダイレクトに滴下すると量の調整ができず、局所的に大量のオイルが染み込む原因になります。クロスにとった量は「拭いてもすぐ見えなくなる程度」が適量の目安です。少ないと感じるかもしれませんが、これで十分です。
ステップ③ フレット間を丁寧に拭き広げる
クロスをゆっくり動かしながら、フレットとフレットの間を一区画ずつ丁寧に拭いていきます。フレットの際の細かい汚れは、つまようじや使わなくなったプラスチックカード(ポイントカードなど)の角を使って優しくこすると落としやすくなります。強くこすりすぎると指板が傷むため、優しく扱うのが基本です。
拭き広げた後は、10〜30分ほどそのまま放置してオイルを指板に浸透させます。汚れが浮かび上がり、保湿効果も高まります。
ステップ④ 乾いたクロスで余分なオイルを拭き取る
浸透時間が過ぎたら、乾いた別のクロスで指板に残った余分なオイルをしっかり拭き取ります。オイルが残ったまま弦を張ると、弦に油分が移って劣化が早まったり、フレット浮きの遠因になったりします。べたつきが完全になくなったことを確認してから弦を張り直しましょう。
島村楽器が解説する指板保湿の詳しい手順はこちらも参考になります。
「きれいになるから」と毎週のようにレモンオイルを塗っている方は要注意です。塗りすぎには見えないリスクが潜んでいます。
指板はローズウッドもエボニーも天然の木材です。木材は油分を吸収する性質があり、オイルが大量に染み込むと内部で膨張します。これはほんの1mmにも満たない変形ですが、フレットが埋め込まれているスロット(溝)の幅が狭くなることで、フレットが押し出されるように浮き上がってしまうのです。
フレット浮きが起きると、特定のフレットを押さえたときに音がビビる・音程が狂うといった症状が出ます。ひどい場合はフレットが完全に抜け落ち、演奏できなくなることもあります。
修理費用がかさむのも痛いですね。
楽器店やリペアショップのリペア料金を調べると、フレット浮き修正は1か所あたり3,300〜5,500円程度、全体に浮きが広がると全フレット交換が必要となり、5〜7万円以上かかるケースも珍しくありません(島村楽器のリペア料金表では、フレット交換がデタッチャブルタイプで52,800円〜と記載)。わずか数百円のオイルの塗りすぎが、数万円の修理につながりかねないのです。
フレット浮きの修理費を避けるためには、使用頻度と使用量を守ることが条件です。
推奨される使用頻度の目安はこちらです。
手で弾いていれば、指から皮脂が指板に補給されるため、そこまで頻繁に保湿しなくても大丈夫なことが多いです。つまり、演奏しているだけでも自然なメンテナンスになっているということですね。
ここで少し視点を変えて、レモンオイルの「やってはいけない使い方」を整理しておきます。ギターのお手入れに慣れてきた頃ほど、うっかりやりがちなミスが増えてくるからです。
まず覚えておきたいのは「指板以外のパーツには基本的に使わない」という原則です。
家具用のレモンオイルをギターに使うのもNGです。
実は、100均や家具用品コーナーで売られている「レモンオイル」はギター用とは全く別物で、界面活性剤や化学溶剤が多く含まれている製品が少なくありません。成分表示をよく確認せずに使うと、指板の木材を傷める原因になります。必ず「ギター用」「楽器用」と記載された製品を選ぶことが重要です。
また、「鮮度」にも目を向けてみましょう。ギター専門店がメーカーへのインタビューで明らかにしたところによると、レモンオイルはすべて天然由来の油成分で構成されているため、開封後は時間とともに酸化が進んでいきます。封を開けてから数年間使い続けているボトルは、実は酸化したオイルを指板に塗り続けている状態になっている可能性があります。
使い切りを想定した少量ボトルを選び、開封後は早めに使い切るのが理想的です。一般的な市販品は30〜60mlのボトルで販売されており、1回の使用量が1〜2滴であることを踏まえれば、一本を半年〜1年で使い切るペースが目安になります。
意外ですね。
レモンオイルの成分や選び方の詳細については以下の記事も参考になります。
ギター辞典|レモンオイルとは ‐ 使い方や注意点、おすすめ商品など