毎日スーパーで野菜を選んでいるのに、その野菜の鉄分が70年前の約1/6しかない事実を知っていましたか?
「毎日野菜を食べているから大丈夫」と思っている方に、まず知ってほしいデータがあります。1950年代と現代の野菜の栄養素を比べると、数字の差が驚くほど大きいのです。
たとえば、ほうれん草の鉄分は1950年に100gあたり13mgありましたが、2020年の時点ではわずか2mgにまで落ちています。ビタミンCも150mgから35mgと約1/4以下。ニンジンのビタミンAにいたっては、4,455ngから720ngと約1/6にまで減少しています。同じほうれん草を同じ量食べても、昔ほどの栄養が摂れない、という状況が静かに進んでいるということです。
これは農作物の生産性を上げることを優先した結果、土壌の栄養が失われてきたことが主な原因とされています。同じ畑で同じ作物を繰り返し作り続けると、土の中の栄養素が枯渇していきます。つまり問題です。
リジェネラティブ農業は、まさにこの問題を根本から解決しようとする農法です。土壌を再生することで、野菜そのものの栄養価も回復させることができると考えられています。これが基本です。
こうした背景を知ってから野菜を選ぶのと、知らずに選ぶのとでは、食への向き合い方が少し変わってきます。農業の本は「農家が読むもの」と思われがちですが、消費者として毎日の食材を選んでいる主婦にとっても、非常に関係の深い話なのです。
参考リンク:野菜の栄養価が70年前と比べてどれほど変化しているかをデータと共に解説した美容内科医の記事です。
70年前と今の野菜の栄養価を比較!1/6 に減少しているものも?原因を美容内科医が解説|BIANCA
リジェネラティブ農業の本の中で、日本語で読める入門書として最もよく名前が挙がるのが、ゲイブ・ブラウン著・服部雄一郎訳の『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』(NHK出版)です。アメリカのアマゾンではレビュー1,000件を超えるベストセラーで、日本語版は2022年5月に刊行されました。
著者のゲイブ・ブラウンは、アメリカ・ノースダコタ州で農業を営む実践者です。義父から引き継いだ農場で4年連続の凶作という苦難を経験したのち、土を耕さない「不耕起栽培」へと転換し、化学肥料や農薬を段階的に手放すことで、豊かな土壌を取り戻した人物です。ドラマチックです。
本の内容は、難しい農業用語で埋め尽くされているわけではありません。ゲイブさん自身の農場での体験をもとに書かれたノンフィクションなので、まるで一人の農家の半生を追うように読み進めることができます。農業の知識がゼロの状態でも、自然と引き込まれる構成です。
本書が提唱する「土の健康5原則」は、農業に限らず家庭菜園や日常生活にも応用できる考え方として注目されています。
この5原則は、家庭菜園レベルにも応用可能です。たとえば「土をかき乱さない」は、プランター栽培で毎シーズン土を全入れ替えしないという選択にもつながります。「土を覆う」は、収穫後に枯れた植物を抜かずに土のカバーとして残す工夫に置き換えられます。これは使えそうです。
本書の中には、慣行農業からリジェネラティブ農業に切り替えてわずか4年で、土壌の炭素含有量が2%から5%に回復したという実証例も紹介されています。土が変われば作物が変わり、作物が変われば食卓も変わります。つまり食の質に直結するということですね。
参考リンク:著者ゲイブ・ブラウンのリジェネラティブ農業の実践と6つの原則を詳しく解説したnote記事です。
ゲイブ・ブラウン『土を育てる:自然をよみがえらせる土壌革命』を読んで|note
2024年10月に刊行された『環境再生型〔リジェネラティブ〕農業の未来 食の安全、地域再生、気候変動を同時に解決する』(ウィル・ハリス著、プレシ南日子訳、山と溪谷社)は、リジェネラティブ農業の"食の安全"という側面に踏み込んだ一冊です。定価は2,640円(税込)です。
著者のウィル・ハリスは、「食べれば食べるほど気候危機を解決する牛肉」という言葉で知られるアメリカ・ジョージア州の農場主です。斉藤幸平さん(経済思想家・著書「人新世の資本論」)や料理家の野村友里さんが推薦文を寄せており、社会的な注目度の高さがうかがえます。
この本のユニークな点は、単に「農薬を使わない」という話にとどまらず、食料システム全体の構造問題を鋭く告発している点にあります。今の食品流通が農家にどのような影響を与えているか、そして消費者がその末端にいることを正直に伝えてくれます。厳しいところですね。
「今こそ、自分が食べているものを生産している農家を知ることが重要だ」というメッセージは、毎日の食材を購入している主婦にも響く言葉です。どこで、誰が、どのように育てたものを食べているか。その視点を持つだけで、食の選び方が少し変わってきます。
『土を育てる』が「農場再生のドラマ」として読めるとすれば、『環境再生型農業の未来』は「食のシステムを問い直すメッセージ本」として読むことができます。2冊合わせて読むと、土壌再生の技術的な話と、社会的・経済的な文脈の両方が理解できるため、理解の深さが大きく変わります。これが条件です。
参考リンク:リジェネラティブ農業の概要・世界の企業事例・日本での取り組みまで幅広くまとめたSmartAgri Japanの解説記事です。
「リジェネラティブ農業」(環境再生型農業)とは? 日本と世界の動向|SmartAgri Japan
本を読んだ後に感じる変化として、多くの読者が口をそろえるのは「土への見方が変わった」という点です。これは意外ですね。
スーパーで野菜を手に取るとき、多くの場合は見た目・価格・産地くらいで判断しています。でも、リジェネラティブ農業の本を読むと、「この野菜が育った土壌はどんな状態だろう」という視点が自然と生まれてきます。見え方が変わるということです。
具体的に変わりやすい行動は主に3つあります。
有機栽培で育てた食材は、一般的に栄養価が高い傾向があるとされています。ドイツの研究では、バイオダイナミック農法(リジェネラティブに近い農法)で育てたトマトは、慣行農法のトマトに比べてポリフェノール含有量が最大30%高いというデータもあります。毎日の食卓が、土壌の状態とこれだけ深くつながっているという事実は、なかなか衝撃的です。
まず行動するなら、「有機野菜の宅配サービスを1回試してみる」または「プランターで1種類だけ土を耕さずに育ててみる」あたりが、読後に試しやすいステップとしておすすめです。
「リジェネラティブ農業の本は、環境問題に関心のある人が読むもの」というイメージがあるかもしれません。でも実は、主婦の生活と最も深く結びついている本のジャンルの一つだと言えます。
理由は明確です。食材の選択権を毎日行使しているのは、多くの家庭において主婦だからです。一家の食の入り口を担う立場として、どのような農業で育てられた食材を選ぶかは、家族の健康に直接影響します。結論はここです。
リジェネラティブ農業で育てられた作物は、土壌の微生物が豊かであるため、植物自身の免疫力(病害虫への抵抗力)が高まり、農薬使用量を下げることができます。農薬費や化学肥料費が不要になった農家が収益性を回復したケースも、『土を育てる』の中で実際に紹介されています。農家の経営が安定すれば、安定した供給と価格につながりやすくなるという面もあります。
また、土壌中の炭素量が増えることは、野菜の保水性や肥沃さを高めるだけでなく、大気中の二酸化炭素を地中に固定するカーボンファーミング(炭素農業)としての役割も担います。世界の農地をすべてリジェネラティブ農業に転換すれば、現在排出されている温室効果ガスをすべて吸収できる規模の炭素固定が可能だとする研究もあるほどです。壮大な話ですね。
「野菜を選ぶ」という毎日の小さな行動が、土壌を守り、農家を支え、気候変動の緩和にも間接的につながる。そう考えると、リジェネラティブ農業の本を読むことは、単なる知識習得以上の意味を持ちます。家族の健康・食費・地球環境という3つがつながって見えてくる、主婦にとって非常に価値のある読書体験だと言えるでしょう。
| 本のタイトル | 著者 | 出版社 | こんな人におすすめ |
|---|---|---|---|
| 土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命 | ゲイブ・ブラウン(服部雄一郎 訳) | NHK出版 | 農業のドラマを楽しみながら入門したい人・家庭菜園に応用したい人 |
| 環境再生型〔リジェネラティブ〕農業の未来 | ウィル・ハリス(プレシ南日子 訳) | 山と溪谷社 | 食システム・食の安全に関心がある人・社会的なメッセージを読みたい人 |
どちらの本も農業の専門書ではなく、実体験に基づくノンフィクションとして書かれているので、農業知識ゼロからでも読めます。2冊を並行して読んでみると、技術と思想の両面からリジェネラティブ農業を理解できるため、より深い学びにつながります。
参考リンク:リジェネラティブ農業の全体像と日本の研究・実践事例が丁寧にまとめられたSmartAgri Japanの記事。土壌炭素と気候変動の関係についても説明されています。
「リジェネラティブ農業」(環境再生型農業)とは? 日本と世界の動向|SmartAgri Japan