同じ成分名でも「1%散は非麻薬、10%散は麻薬」と濃度だけで法的扱いが180度変わります。
リン酸コデイン散を扱う医療従事者にとって、まず絶対に押さえておかなければならないのが「濃度による麻薬区分の違い」です。コデインおよびその塩類は、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)において原則として麻薬に指定されています。しかし、耽溺性(依存を生じる性質)が比較的低いという理由から、重量比で1,000分の10以下、すなわち1%以下の濃度で配合されており、かつ他の麻薬成分を含有しない場合に限り、「家庭麻薬」として法律上の麻薬規制の対象から除外されています。
つまり区分は明確です。リン酸コデイン散1%(日本薬局方収載品)は非麻薬、リン酸コデイン散10%は麻薬、そして原末(100%)も当然ながら麻薬となります。錠剤についても同様で、リン酸コデイン錠5mgは非麻薬、20mg錠は麻薬扱いです。
現場でヒヤリハットが多発するのはここです。医師がコデインリン酸塩散1%を処方しようとして、誤ってコデインリン酸塩錠20mgを処方してしまったという事例が実際に報告されています(澤田教授・リクナビ薬剤師報告事例)。この場合、薬局側が処方箋を受け付けた時点で麻薬施用者の免許証番号と患者住所の記載がないことに気づき、疑義照会に至るというプロセスが必要になります。発見できれば問題は防げますが、気づかずにそのまま調剤してしまうと法令違反になりかねません。
結論は「1%か10%かを必ず確認する」が原則です。
以下の表で区分を整理します。
| 製品名 | 濃度 | 麻薬区分 |
|---|---|---|
| リン酸コデイン散1%(各社品) | 1% | 非麻薬(家庭麻薬) |
| リン酸コデイン錠5mg(各社品) | 約1% | 非麻薬(家庭麻薬) |
| リン酸コデイン散10%(各社品) | 10% | 麻薬 |
| リン酸コデイン錠20mg(各社品) | 約13〜33% | 麻薬 |
| コデインリン酸塩水和物原末 | 100% | 麻薬 |
この区分を一度誤認すると、処方箋不備・管理義務の懈怠・帳簿記載漏れなど、複数の法的問題が同時に発生します。注意が必要ですね。
参考:麻薬と非麻薬があるコデインリン酸塩の注意点(リクナビ薬剤師、東京大学澤田教授監修)
https://rikunabi-yakuzaishi.jp/contents/hiyari/074/
リン酸コデイン散10%など麻薬扱いの製剤が処方された場合、薬局・病院薬剤師には通常とは異なる処方箋チェックが求められます。麻薬及び向精神薬取締法第27条第6項の規定により、麻薬を処方できるのは都道府県知事の免許を受けた「麻薬施用者」のみです。
麻薬処方箋には通常の記載事項(患者氏名・年齢・薬名・分量・用法用量・発行日・医師名等)に加えて、以下の2項目が必須です。
- 麻薬施用者の免許証番号(処方医が保有する都道府県発行の免許番号)
- 患者の住所(入院患者の場合は省略可。院内処方箋であれば②④⑦の省略も可)
これらの記載が欠けている処方箋は、法律上の麻薬処方箋として成立しません。薬局薬剤師は受付時点でこの2点を確認し、不備があれば疑義照会を行う義務があります。「面倒だから先に調剤してしまう」という運用は絶対に行ってはならないことです。
さらに麻薬処方箋には有効期間があり、発行日から6日以内(原則)に調剤されなければなりません。この点も一般処方箋(4日以内)と異なる点ですが、麻薬処方箋については日数の取扱いが異なることを念頭に置く必要があります。
調剤後の処方箋についても、麻薬調剤済みの記録として麻薬帳簿への記載が求められます。調剤記録は最終記載日から2年間の保存義務があります。これはコンビニのレシートとは違い、法律で定められた記録義務なので、年次更新の管理体制が必要です。
参考:麻薬取扱いの手引(東京都保健医療局)
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/anzen/iyaku/sonota/toriatsukai/tebiki/phmayaku.files/R0507_mayaku_kourigyou.pdf
麻薬(リン酸コデイン散10%等)を取り扱う医療機関・薬局には、保管と廃棄に関して非常に厳格なルールが設けられています。これを「なんとなく鍵付きの棚に入れておけばいい」と曖昧に認識している現場は少なくありませんが、法令の要件は明確です。
保管は「麻薬専用の固定した金庫、または容易に移動できない重量金庫で、施錠設備のあるもの」に限られます。手提げ金庫、スチール製ロッカー、事務机の引き出しは法令上の「堅固な設備」には該当しません。これは重要な点ですね。また麻薬保管庫内には、覚せい剤との同庫保管は認められているものの、一般医薬品・現金・書類との混在は禁止されています(施設内で頻回に出し入れする棚表など一部除外規定あり)。
二人以上の麻薬施用者が在籍する診療施設では、都道府県知事免許を取得した「麻薬管理者」1名を必置しなければなりません。一人の診療所の場合は麻薬施用者が管理者を兼任できますが、この場合でも管理義務はあります。
廃棄については、麻薬取締員等の立会いが原則です。廃棄前に都道府県知事へ届け出を行い、品名・数量・廃棄方法を事前に報告します。在宅患者が不要になった麻薬を医療機関に返却してきた場合も、受け取り後30日以内に「調剤済麻薬廃棄届」を提出しなければなりません。廃棄方法は酸・アルカリによる分解、希釈、他薬との混合、焼却など「麻薬の回収が困難な方法」でなければなりません。廃棄後も帳簿には廃棄した品名・数量・日付・立会者の署名を記録します。
これらの規定に違反した場合、麻薬及び向精神薬取締法に基づき、施設責任者が行政処分(免許取消し・業務停止等)や刑事罰の対象となり得ます。麻薬管理が原則です。
参考:病院・診療所における麻薬管理マニュアル(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/mayaku_kanri_01.pdf
リン酸コデイン散に関する規制で、見落としがちでありながら非常に重要なのが「12歳未満の小児への投与禁忌」です。これは麻薬扱いの10%散だけに限った話ではなく、非麻薬の1%散を含む全コデイン類含有製剤が対象となっています。
発端は2017年4月20日の米国FDA(食品医薬品局)の勧告です。FDAはコデイン類含有製剤について、12歳未満の小児への鎮咳・鎮痛目的での使用を禁忌とするよう勧告しました。その理由は、コデインが体内でモルヒネに代謝される際、遺伝的なCYP2D6酵素の代謝能力が高い「超高速代謝者」の小児において、過剰なモルヒネが急速に生成され、呼吸抑制・死亡事例が報告されたためです。
これを受けて日本でも厚生労働省が2017年6月に対応方針を決定し、2018年度末までを経過措置期間として、2019年度(2019年4月以降)から全コデイン含有製剤での12歳未満への投与を全面禁忌としました。
「小児に処方しなければ関係ない」と思っている医師・薬剤師もいるかもしれませんが、OTC(市販薬)として販売されているコデイン含有かぜ薬・咳止め薬についても同様の改訂が行われています。つまり、保護者が市販薬を子どもに飲ませた場合も含め、薬剤師による服薬指導・相談対応の際にしっかりと確認・説明する必要があります。
また18歳未満であっても、扁桃摘除術後またはアデノイド切除術後の鎮痛目的でのコデイン投与は使用禁止とされています。年齢が18歳未満であっても手術の種類で禁忌が変わるということですね。この点は見落とされやすいため、術後の鎮痛薬選択の際に特に注意が必要です。
参考:コデイン類等が12歳未満の小児に禁忌となります!(岐阜県立総合医療センター薬剤部)
https://www.gifu-upharm.jp/di/dinews/dinews2017_21.pdf
参考:コデインリン酸塩等の12歳未満の小児等への使用制限について(厚生労働省PMDA)
https://www.pmda.go.jp/files/000230395.pdf
コデインの依存リスクは、医療従事者が患者に説明する際にも、また自施設の処方管理においても重要な視点です。コデインは体内でモルヒネに約10%が変換されるオピオイド系成分であり、モルヒネと比較した場合、鎮痛効果は約1/6、眠気は約1/4程度とされますが、高用量での使用によって多幸感が得られ、依存・乱用に発展するリスクを持っています。
現在、市販薬オーバードーズ(OD)の問題として、コデイン含有製剤の乱用が深刻化しています。市販薬ODの原因薬剤としてはコデイン・ジヒドロコデイン含有製剤が全体の約7割を占めるとのデータもあります。若年層を中心に「コデイン系OTC」が繰り返し乱用されるケースが増加しており、これは依存性疾患として医療介入を必要とする状態です。
医療用のリン酸コデイン散10%(麻薬)については、麻薬の処方枚数・調剤記録が管理されているため乱用発見は比較的容易ですが、問題は非麻薬のリン酸コデイン散1%や市販薬です。これらは法的管理が緩いため、複数の薬局・ドラッグストアを巡って購入する「はしご買い」が行われやすい環境にあります。
🔔 医療従事者としての対応ポイントを以下に整理します。
- 処方時の確認:コデイン含有薬の長期・反復処方の場合、依存形成のリスクがないか患者の状態を評価する
- 服薬指導での説明:「咳止めだから安全」という患者の誤認識を解消し、用法用量を厳守するよう説明する
- OTC購入歴の確認:市販薬もコデインを含む場合があるため、来局時に購入状況を聞き取ることが重要
- 依存が疑われる場合:精神科・依存症外来への連携・紹介を検討する
厚生労働省は、コデインをエフェドリンなどと並んで「濫用等のおそれのある医薬品」に指定しています。薬局での販売時には、購入者の年齢確認や1包装を超える販売制限の管理が義務づけられています。これは使えそうな対応フローです。
また、乱用防止の観点から2023年4月以降はOTC規制がさらに強化され、コデイン含有製剤の複数個購入制限や年齢確認が法令上求められるようになっています。薬局に勤務する薬剤師はこの点を改めて確認しておく価値があります。
参考:濫用等のおそれのある市販薬の適正使用について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000542417.pdf
参考:市販薬乱用・依存の現在(内閣府規制改革推進会議 参考資料)
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2409_04medical/241125/medical_ref0103.pdf