「湘南小麦」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。神奈川県の湘南エリアで栽培された小麦を、石臼で丁寧に製粉したこだわりの地元産小麦のことです。今や地元のパン好きに広く知られる存在ですが、その誕生には、ひとりのパン職人の情熱と、地域農家を救いたいという切実な思いがありました。
かつて神奈川県は小麦の産地として非常に栄えた土地でした。1990年には県内に250haもの小麦畑が広がっていたのです。ところが、輸入小麦の安価な価格競争に勝てず農家が次々と撤退し、2005年にはなんと30haまで激減してしまいます。面積でいうと、わずか15年で東京ドーム約47個分の畑が消えた計算になります。このままでは地元の小麦文化が消えてしまう。
そんな危機感から立ち上がったのが、伝説的パン屋「ブノワトン」の故・高橋幸夫シェフです。平塚に向かう道すがらで小麦畑を発見した高橋シェフは、農家に直接かけあい、一般的な買い取り価格の5〜10倍の値段で直接契約を結びます。収量を全量買い取るという約束で農家を支え、自ら製粉工場「ミルパワージャパン」を設立。これが2007年に始まった「湘南小麦プロジェクト」の原点です。
これが地産地消の仕組みです。残念ながら高橋シェフは2009年に逝去されましたが、その意志は一番弟子の本杉正和シェフに引き継がれました。本杉シェフは午前中はパン屋「ムール ア・ラ ムール」でパンを焼き、午後は製粉工場で石臼製粉に取り組むという二足のわらじを今も続けています。
湘南小麦プロジェクトの全貌と農家・製粉者・パン屋の声を詳しく読む(和麦の現場から)
湘南小麦のパン屋で売られているパンが特別なのは、その原料の製粉方法にあります。通常の工業的なローラー製粉と、湘南小麦が採用する石臼製粉には、決定的な差があります。それが「熱」です。
工業用のローラー製粉機はフル稼働すると熱を持ちやすく、触ると熱く感じるほど温度が上昇することがあります。小麦粉は熱を加えると香りや風味が飛んでしまうため、大量生産ではどうしても犠牲になる部分です。一方、ミルパワージャパンの石臼は秋田県・男鹿石製の石臼を使用し、1分間に9〜12回転という超スロー回転で挽きます。この速度は、摩擦熱をほぼ発生させないための工夫です。
さらに小麦の玄麦を低温管理された室内で貯蔵し、製粉前に丁寧に精麦して外皮の2〜3層を削る「精麦」の工程も欠かしません。石臼で1時間に挽ける量はわずか2kgほど。この極めてゆっくりとした製粉によって、麦粒本来の甘みと香りが高いレベルで残ります。
つまり、湘南小麦のパン屋のパンには「小麦そのものの味」が凝縮されているということです。噛めば噛むほど甘みが広がるのはそのためで、食パン1枚のトーストでも十分な満足感を得られます。買い物のたびに食パンを1本買うだけで毎日の食卓が豊かになる、これは主婦にとって非常に実用的な選択です。
なお、湘南小麦の特性として「粒が粗い」点があります。水を吸うのに少し時間がかかるため、他の小麦粉とブレンドして使うのが一般的です。「ムール ア・ラ ムール」でも最大50%の配合で使用されており、ベストバランスを職人が計算しています。これで大丈夫です。
石臼で1時間2kgだけ挽く製粉の詳細と「ムール ア・ラ ムール」の紹介記事(家庭画報)
湘南小麦を使ったパン屋は現在、県内外の40店舗以上に広がっています。その中でも特に主婦目線でおすすめしたい3つのお店を紹介します。
🍞 ムール ア・ラ ムール(神奈川県伊勢原市)
「湘南小麦プロジェクト」の中心を担うお店で、自社製粉の湘南小麦を使ったパンを毎日60種ほど焼き上げます。週末には行列ができる人気店です。石臼ショートバゲット(160円)は小麦本来の香ばしさをストレートに感じられる一品で、噛むほどに甘みが出てきます。ブリオッシュあんぱんは地元伊勢原の養鶏場の卵と南箱根産バターを使用しており、素材の贅沢さが別格です。
| 項目 | 詳細 |
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| 住所 | 神奈川県伊勢原市板戸645-5 |
| 営業時間 | 金〜月曜10:00〜17:00、火曜12:00〜15:00 |
| 定休日 | 水・木曜 |
| 駐車場 | あり(3台) |
🍞 ロワール光月堂(神奈川県藤沢市)
創業95年以上の老舗ベーカリー。「湘南藤沢小麦」(自社商標)の全粒粉を20%配合した食パンが人気で、トーストするとふわっと小麦の香りが立ち上ります。看板商品の「湘南あんぱん」は藤沢市の観光名産品にも指定されており、ブリオッシュ生地に生クリームと餡を包んだ洋風あんぱんです。あんは小倉・こし・ずんだ・コーヒー・焼き栗・お茶の6種類。横浜高島屋地下「KANAGAWA BAKER'S DOCK」やイトーヨーカドー藤沢店・大船店でも購入できるので、わざわざ本店まで行かなくても手に入ります。これは使えそうです。
🍞 ポワンタージュ(東京都内他)
中川清明シェフが手がける人気ベーカリーで、湘南小麦をバゲットや食パン、カンパーニュなどに活用しています。「他の粉と混ぜても香ばしい風味がきちんと残る」と中川シェフ自身が語るほど、湘南小麦の個性が際立ちます。都内からでもアクセスしやすく、湘南エリアに出向けない方にとって嬉しい選択肢です。
近くに湘南小麦のパン屋が見つからない場合は、食べログの「湘南小麦」キーワード検索(神奈川エリア)が便利です。現時点で約20件のパン店が掲載されています。
湘南小麦を使ったパン屋を選ぶことには、味だけでなく日常生活に直結するメリットがあります。主婦目線で3点に絞ってお伝えします。
① ポストハーベスト農薬リスクを避けやすい
輸入小麦の多くは、収穫後に「ポストハーベスト処理」と呼ばれる防カビ剤散布を受けています。農林水産省の2017年の調査では、日本に流通するアメリカ産小麦の97%からグリホサート(除草剤成分)が検出されたという報告もあります。湘南小麦は国内で契約栽培・石臼製粉された国産小麦であり、輸入時の農薬処理とは無縁です。毎日パンを食べる家庭にとって、小さな安心感が積み重なります。
② 地元農家への支援が買い物でできる
湘南小麦は生産農家との直接契約による全量買い取り方式を採用しています。一般的な市場価格の5〜10倍で農家から買い取ることで、後継者不足が深刻な神奈川の農業を支えています。「おいしいパンを買う」という日常の行動が、地域の農家の収入を守ることにつながる仕組みです。地産地消が原則です。
③ 咀嚼するほど甘みが出てサンドに向いている
湘南小麦のパンは、粒が粗く挽かれた石臼製粉のため、噛むほどに甘みと旨味が増します。シンプルにトーストするだけでも満足感が高く、バターやオリーブオイルをさっとつけるだけで立派な朝食になります。具材を挟むサンドイッチにすると小麦の味が具と調和して、子どもが喜ぶ一品になります。毎日のお弁当のサンドイッチにも向いていますね。
「近くに湘南小麦のパン屋がない」「わざわざ伊勢原まで行くのは難しい」という方も多いはずです。そんなときに役立つのが通販・お取り寄せです。
rebake(リベイク)を使った方法
パンのロス削減サービス「rebake(リベイク)」では、ムール ア・ラ ムールの「湘南小麦おまかせパンセット」を取り寄せることができます。内容量は10〜12個、総額3,000円相当のパンが届きます。パンはクール便(冷凍)での発送になるため、届いた後は食べる分だけ解凍すれば大丈夫です。残りは冷凍庫(-18度以下)での保管を推奨しています。
注意点として、rebakeは廃棄ロス削減が目的のサービスのため、発送タイミングが30日以上かかることがあります。「急いで食べたい」というより「定期的に湘南の本物のパンを楽しみたい」という方向けのサービスです。送料は住所入力後に表示されます。期待値のコントロールが条件です。
また、「ぱん結び(pan-musubi)」でも同店の「湘南小麦おまかせ食事パンセット」(2,700円・税込)を取り扱っています。レビュー件数492件、評価平均4.8点という高い評価が参考になります。
湘南小麦のパン屋を現地で訪れたいならば、伊勢原は小田急小田原線でアクセス可能です。ムール ア・ラ ムールなら伊勢原駅北口バス「八雲神社前」下車・徒歩3分です。大山ハイキングや比々多神社へのお参りと合わせて訪れると、パン旅として充実した一日になります。
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