成人の食物アレルギーで対応を誤ると命に関わるため、症状が出現したら5分以内に緊急性を判断する必要があります。特に注意すべき全身症状として、ぐったりしている状態、意識もうろう、尿や便を漏らす、脈が触れにくいまたは不規則、唇や爪が青白いなどの兆候が見られたら直ちにエピペン®を使用し救急車を要請してください。
呼吸器の症状では、のどや胸が締め付けられる感覚、声がかすれる、犬が吠えるような咳、息がしにくい、持続する強い咳き込み、ゼーゼーする呼吸音が現れたら要注意です。消化器の症状では、我慢できないほどの強いお腹の痛みや繰り返し続く嘔吐も、アナフィラキシーに発展する可能性があります。迷ったときはエピペン®を打つというのが重要な判断基準です。
食物アレルギーが確認されている大人は、主治医に相談して複数の医薬品を処方してもらう必要があります。アドレナリン自己注射の「エピペン®」は、アナフィラキシーの全ての症状を素早く和らげ、最優先で用意すべき医薬品です。抗ヒスタミン薬（ザイザル・アレロック・アレグラなど）は皮膚のかゆみや蕁麻疹を30分から1時間で抑えます。
気管支拡張薬のメプチンは咳や喘鳴を速やかに緩和し、ステロイド薬（プレドニン・デカドロンなど）は数時間後に現れる症状を予防する補助的役割を担います。FDEIAなどによるアナフィラキシーの恐れがある場合、エピペン®を常に携帯することが重要です。一般的なアレルギー治療の基本は、原因食物の完全な摂取制限であり、これだけで症状が治まるケースも少なくありません。
エピペン®を使用する際は、まずケースのカバーキャップを開けて取り出し、オレンジ色のニードルカバーを下に向けて利き手で「グー」の形でしっかり握ります。次に青い安全キャップを外し、太ももの外側で付け根と膝の中央よりやや外側に先端を軽くあてて、「カチッ」と音がするまで強く押しあてたまま5つ数えます。
注射した後はすぐに抜かず、押しつけたまま数を数えることが重要です。注射後は打った部位を10秒間マッサージし、オレンジ色のニードルカバーが伸びているか確認します。衣類の上からでも注射できるため、着替えさせる時間がもったいないときはそのまま使用してください。10～15分後に症状の改善が見られない場合は、2本以上ある場合に限り次のエピペン®を使用します。
エピペン®を使用した後は、決して立たせたり歩かせたりしてはいけません。安静を保つ体位が症状によって異なるため、適切な対応が必要です。ぐったりしている、または意識もうろうの場合は、血圧が低下しているため仰向けにして足を15～30cm高くします。吐き気や嘔吐がある場合は、嘔吐物による窒息を防ぐため体と顔を横に向けます。
呼吸が苦しく仰向けになれない場合は、呼吸を楽にするため上半身を起こして後ろに寄りかからせます。その場で救急隊を待つ際、大人本人や付き添い者は5分ごとに症状の変化を注意深く観察し、記録シートに症状を記入しておくことが重要です。救急隊に詳しく説明でき、医療機関での迅速な治療につながります。症状は急激に変化することがあるため、絶対に目を離さないことが肝心です。
大人の食物アレルギーの主な原因食物は、子どもとは異なり「小麦」「甲殻類」「果実類」「魚類」が上位を占めます。子どもの食物アレルギーが「鶏卵」「牛乳」「木の実類」を中心とするのに対し、成人では18歳以降に原因食物がシフトします。発症しやすい年代は20代が多く、30代・40代と年代が上がるに連れて減少する傾向が見られます。
意外な事実として、大人の食物アレルギーは花粉症との関連性が指摘されています。花粉と果物ではアレルゲンの構造が似ており、花粉症の人が果物を食べた際に、花粉のアレルゲンが体内に入ったと免疫システムが誤認識する「交差反応」によってアレルギー反応が生じるのです。花粉症の一部の人は成人食物アレルギーを発症しやすいため、季節による症状の変化に注意が必要です。
衛生環境の整備により感染症が激減した現代では、感染症から身体を守るTh1細胞の出番が減り、アレルゲンに反応して抗体を作るTh2細胞が優位になっています。このバランスの変化により、本来攻撃対象ではなかった食物成分に対して免疫系が過剰に反応するようになり、様々な食べ物にアレルギー反応を示すようになった可能性が高いと考えられています。
症状が現れた際、緊急性が低いと判断した場合でも医療機関受診が必要です。内服薬を飲ませた後、少なくとも1時間は5分ごとに症状の変化を観察し、改善が見られない場合は速やかに医療機関を受診してください。緊急性が中程度の場合は、内服薬を飲ませてエピペン®を準備し、速やかに医療機関を受診することが重要です。医療機関到着までの間も5分ごとに症状を観察し、緊急性が高い症状が一つでも現れたらエピペン®を使用します。
一度食物アレルギーを発症した大人は、寛解することが困難で、原因となる食品を完全に避ける以外の根本的な治療方法はほぼないとされています。そのため、まずは問診やアレルギー検査で特定された食物を、必要に応じて食物経口負荷試験に基づいて必要最小限に制限することが基本になります。外食時には事前にアレルギーがあることを伝え、食品の成分や調理方法を確認することが予防につながります。
以降の症状が出現する可能性を見越して、成人以降にアレルギー症状がたびたび現れるようになった人は、食べた物と体調の関係を記録するセルフチェックが有効です。IgE抗体の有無を調べる血液検査は、自分がどの食物でアレルギーを発症するかを確認するのに役立つため、気になる人は医療機関で検査を受けることをお勧めします。
【環境再生保全機構による食物アレルギー情報】
よくわかる食物アレルギー対応ガイドブック - 環境再生保全機構(エルカ)
【東京都保健医療局の食物アレルギー緊急時対応マニュアル】
食物アレルギー緊急時対応マニュアル - 東京都保健医療局
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