新薬に切り替えれば、てんかんは必ず発作ゼロになると思っていませんか。
2024年8月30日、国内では実に8年ぶりの新たな抗てんかん発作薬として、ブリーバラセタム(商品名:ブリィビアクト錠25mg・50mg)が発売されました。適応は「てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)」で、最新の発作分類では「焦点発作(焦点起始両側強直間代発作を含む)」に対応します。
ブリィビアクトの作用機序は、神経終末にあるシナプス小胞タンパク質2A(SV2A)への結合です。これはレベチラセタム(イーケプラ)と同じ標的ですが、ブリィビアクトのSV2Aに対する親和性はイーケプラの約30倍と極めて高く設定されています。親和性が高い分だけ効果も副作用プロファイルも改善が期待できると考えられています。
つまりブリィビアクトは「イーケプラの後継薬」というイメージが近いです。
ただし、同じSV2A結合薬とはいえ、適応範囲には重要な違いがあります。イーケプラ(レベチラセタム)は強直間代発作に対しても他の抗てんかん薬との併用で適応を持ちますが、ブリィビアクトは現時点で強直間代発作への適応はありません。処方する発作タイプをしっかり確認することが基本です。
| 比較項目 | ブリィビアクト(ブリーバラセタム) | イーケプラ(レベチラセタム) |
|---|---|---|
| SV2A親和性 | イーケプラの約30倍 | 基準 |
| 初期用量からの漸増 | 不要(1日50mgから開始) | 推奨(緩徐に増量) |
| 腎機能による用量調節 | 不要 | 必要 |
| 易刺激性・行動障害 | 比較的少ない | 易刺激性(イライラ)が問題になりやすい |
| 強直間代発作への適応 | なし | あり(併用療法) |
行動障害や易刺激性への懸念がある患者に対しては、イーケプラからブリィビアクトへの切り替えが実臨床でも注目されています。自閉スペクトラム症を背景に持つてんかん患者など、精神行動面の副作用が特に問題となりやすいケースでは、ブリィビアクトの選択価値が高まります。
副作用として頻度が高いのは傾眠(14.9%)と浮動性めまい(10.9%)で、服用後1時間ほどで血中濃度が最大になる吸収の速さを考えると、運転への影響を十分に説明する必要があります。また、カルバマゼピン(テグレトール)と併用する場合は代謝産物(10,11-エポキシド)の血中濃度が上昇する可能性があり、霧視・複視・めまいなどの症状に注意が必要です。この点は見落としがちですね。
参考:ブリィビアクトとイーケプラの詳細な違いについて、薬剤師・医師向けの解説が確認できます。
ブリィビアクト(ブリーバラセタム)の作用機序・イーケプラとの違い比較 | PassMed DI
2025年9月30日、小野薬品工業がセノバメート(ONO-2017)について、焦点(部分)発作を対象とした厚生労働省への製造販売承認申請を行いました。米国では2019年にFDA承認(商品名:Xcopri)、欧州では2021年にEMA承認(商品名:Ontozry)を取得しており、世界25か国以上で販売実績がある薬剤です。
セノバメートの最大の特徴は、二重の作用機序を持つ点です。
- 🔴 電位依存性Naチャネル抑制:高速・低速両方の不活性化を強化し、特に「持続性Na電流」を優先的に抑制します
- 🔵 GABAA受容体機能増強:ベンゾジアゼピン結合部位とは異なる独自の部位に作用し、抑制性神経伝達を増強します
この二重作用により、既存薬では抑制しきれなかった神経興奮をより強力に制御できると考えられています。
臨床試験での有効性は注目に値します。第2/3相試験(Study 017)では、200mg・400mg群ともに発作頻度中央値が50〜55%減少し、プラセボ群の約24%減少を大きく上回りました。さらに発作が完全にゼロになる寛解率が10〜20%に達するという数字は、従来の抗てんかん薬では見られなかった水準です。難治性焦点発作患者に対するネットワークメタ分析(2021年)でも、既存の新規抗てんかん薬との比較でセノバメートは発作抑制の有効性指標(50%以上抑制率)が有意に上回ることが示されています。
これは使えそうです。
ただし、セノバメートには特有のリスクがあります。開発初期の臨床試験(健康成人への急速増量)でDRESS(薬剤性過敏症症候群)が複数例(死亡例を含む)発生し、一時開発が中断した経緯があります。その後、緩徐な漸増法(初期12.5mg/日から開始し、2週間ごとに増量して目標200mg程度に8週間以上かけて到達)を確立し、1,300名超を対象とした大規模安全性試験(Study 021)でDRESS発生ゼロが確認されてFDA承認に至りました。
| 副作用・リスク | 内容・頻度 | 対応のポイント |
|---|---|---|
| DRESS(薬剤性過敏症症候群) | 急速漸増時に発生リスク。緩徐漸増で大規模試験ではゼロ | 発熱・発疹・リンパ節腫脹を初期に注意深くモニタリング |
| QT間隔短縮 | 用量依存性。重篤な不整脈は臨床試験では未報告 | ベースライン心電図の確認。家族性短QT症候群は禁忌 |
| 薬物相互作用 | CYP3A4誘導(経口避妊薬・ペランパネルの血中濃度低下)CYP2C19阻害(フェニトイン・フェノバルビタールの血中濃度上昇) | 併用薬の血中濃度を確認・モニタリング |
| 中枢神経系副作用 | めまい・傾眠が20%以上に発現(用量依存性) | 導入初期・増量時の患者モニタリング |
なお、日本の国際共同第III相試験でも、セノバメート投与群の有害事象として浮動性めまいと傾眠が20%以上に認められています。有効性の高さと引き換えに副作用管理の丁寧さが求められる薬剤といえます。承認後は非常に慎重な漸増が原則です。
参考:セノバメートの作用機序・有効性・安全性の詳細な医師向け解説はこちら。
セノバメート:難治性焦点てんかんにおける新たな切り札 | てんかん診療アップデート
難治性小児てんかんの領域でも2024〜2025年にかけて重要な変化がありました。フェンフルラミン塩酸塩(商品名:フィンテプラ内用液2.2mg/mL)が、2022年9月のドラベ症候群に続き、2024年3月にレノックス・ガストー症候群(LGS)に伴うてんかん発作に対する適応追加を日本で取得しています。
フェンフルラミンはもともと1960〜70年代に食欲抑制薬として使用されていた歴史のある化合物です。心臓弁膜症リスクが問題となり市場から撤退しましたが、抗てんかん作用のメカニズムが再評価され、現在は難治性てんかん専用の医薬品として低用量で再用途転換されました。意外ですね。
LGSは強直発作・非定型欠神発作・脱力発作など多彩な発作タイプが混在し、知的障害を伴いやすい重篤な症候群です。従来の薬剤では十分なコントロールが得られにくく、多剤併用でも発作が頻発するケースが多い現状があります。フィンテプラのセロトニン系を介する独自の作用機序は、他の抗てんかん薬と異なるアプローチとして有用です。
実臨床での使用上の重要な注意点は以下の通りです。
- 🫀 心エコー検査が必須:フェンフルラミンは心臓弁膜症リスクがあるため、投与前・投与中の定期的な心エコーが必要です
- ⚖️ 体重・食欲への影響:セロトニン系への作用から食欲減退・体重減少が生じうるため、特に成長期の小児では栄養管理が重要です
- 💊 MAO阻害薬との併用禁忌:セロトニン症候群発症のリスクがあります
2026年2月には、製造販売をユーシービージャパンから日本新薬へ承継する手続きが完了し、2026年4月1日付で日本新薬が製造販売承認を取得する流れが確定しています。承継後も処方ルールや流通管理体制に変更はないものの、処方箋や問い合わせ先の変更を把握しておく必要があります。
ドラベ症候群・LGSのいずれも、カナビジオール(CBD)製剤(エピディオレックス)の適応と重複する患者層であり、治療選択の幅が広がった一方で、多剤間の相互作用や副作用モニタリングの複雑さが増している点を認識しておきましょう。
新薬が登場するたびに期待が高まるのは理解できます。しかし、結論は変わりません。
てんかん全体の約30%の患者が薬剤抵抗性てんかんに該当し、複数の適切な薬剤治療を受けても発作が十分に抑制されないことが知られています。新薬が次々と登場した現在でも、この「3割の壁」は解消されていないのが実情です。
さらに注目すべき数字があります。2剤以上の抗てんかん薬が無効だった難治例では、3剤目以降で完全に発作が消失する確率は5%未満とも報告されています。つまり、薬を変え続けることで解決に至る可能性は非常に限られています。それが現実です。
この「3剤目の壁」を早期に認識することが、医療従事者として最も重要な視点のひとつです。難治例に対して漫然と薬剤変更を続けるよりも、2剤以上で効果不十分な段階でてんかん専門医に紹介し、外科治療や神経刺激療法の適応を検討することが国内外のガイドラインで推奨されています。
非薬物療法の主な選択肢は以下のとおりです。
- 🔪 てんかん外科手術(切除術):発作焦点が明確な場合、約60%の患者で発作の完全寛解が期待できる。特に側頭葉てんかん(海馬硬化症)では手術の成績が高い
- ⚡ 迷走神経刺激療法(VNS):皮下に装置を埋め込み迷走神経を定期的に刺激。平均約50%の発作頻度減少が報告されている
- 🧲 深部脳刺激療法(DBS):視床前核への慢性的電気刺激。長期追跡で50%以上減少が約60%の患者に達する
- 🥗 ケトン食療法:2025年のメタ分析では、薬剤抵抗性てんかんへの追加でオッズ比3.46で発作50%以上減少の確率が上昇
「新薬を試してから紹介」ではなく、「2剤無効の時点でほぼ確実に難治例」という認識の切り替えが、患者の人生を変えるタイミングを左右します。外科手術は「最終手段」ではなく、適切な段階で「選択肢のひとつ」として提示するものと考え方をアップデートしましょう。
参考:非専門医向けにてんかん診療の最新動向をまとめた医師向け総合解説記事です。
2026年最新・てんかん診療アップデート ~非専門医が知っておくべき新薬・ガイドライン・高齢者てんかん~
2025年前後のてんかん診療において、薬剤の選択肢が増えた背景と並行して注目が集まっているのが、遺伝性てんかんに対する精密治療(Precision Medicine)という視点です。これは検索上位にはあまり見られない、しかし今後の臨床に確実に関わってくる視点です。
CareNetの報告(2025年5月)では、遺伝性てんかんに対する精密治療に関してクラスIエビデンスを持つ治療薬は現時点でエベロリムス(TSC関連てんかん)のみとされていますが、遺伝子診断技術の発展により、特定の遺伝子変異に基づいた治療選択の概念が実臨床に入りつつあります。
代表的な遺伝性てんかんと関連する治療の考え方を整理すると、次の通りです。
- 🧬 SCN1A変異(ドラベ症候群):Naチャネルの機能喪失変異が原因。フェニトインやカルバマゼピン、ラモトリギンなどのNaチャネルブロッカーは発作を悪化させるリスクがあるため禁忌・回避が原則。フェンフルラミンやカナビジオールが適応薬として有用
- 🧬 KCNQ2変異(新生児てんかん性脳症):Kチャネル関連遺伝子変異。Naチャネルブロッカー(カルバマゼピン系)が効果を示すケースがある
- 🧬 TSC1/TSC2変異(結節性硬化症):mTOR経路の過活性化が発作の原因。mTOR阻害薬エベロリムスが発作抑制効果を持つことがRCTで証明されている
この精密治療の考え方が重要な理由は、「同じ難治性てんかんでも、遺伝子変異によって『効く薬』と『悪化させる薬』が全く異なる」という点にあります。
また、2025年2月にはバイオジェンが遺伝性発作障害治療薬「zorevunersen」の開発・販売権を最大5億5,000万ドル(約840億円)で取得したことが報じられました。遺伝性てんかんを対象とした創薬競争は世界規模で加速しています。
現時点で日常診療に直結するアクションとしては、難治性てんかん患者に対して遺伝子パネル検査を検討するタイミングを意識することです。次世代シーケンシング(NGS)を用いた遺伝子検査は国内でも一部保険適用が広がっており、特に小児発症・難治性・複数薬無効のケースでは早期の遺伝子診断が治療方針の転換につながる可能性があります。
参考:遺伝性てんかんに対する精密治療の2025年時点での展望と課題についての解説
遺伝性てんかんに対する精密治療:2025年の展望と課題 | CareNet Academia