豚骨スープ作りに必要な材料は驚くほどシンプルです。豚のゲンコツ900g、豚の背ガラ900g、豚肩ロース500g、そして水だけで本格的な濃厚スープが作れます。ニンニクや生姜、ネギなどの香味野菜は必須ではありません。材料の重量と出来高が1:1になることを目安にすると、約2100ccの豚骨スープが完成します。
道具については、容量6リットル程度の圧力鍋が理想的です。家庭用としては少し大きめですが、材料を一度に加圧できるため効率的です。もし3リットル程度の圧力鍋しかない場合は、材料を半分にして調整しましょう。また、ゲンコツを割るためのハンマーと、スープをかき混ぜるための木ベラやおたまも用意してください。
ゲンコツは通常、ネット通販で購入するのが便利です。楽天市場やAmazonでは、あらかじめ割ってある状態で販売されている商品もあります。自宅にハンマーがない方や手間を省きたい方には、こうした下処理済みの豚骨がおすすめです。精肉店やアジアンスーパーでも取り扱っている場合がありますので、近所のお店に問い合わせてみるのも良いでしょう。
豚骨スープ作りで最も重要な工程の一つが下処理です。まず、ゲンコツをハンマーで割って骨髄を露出させる必要があります。左手に軍手をはめてゲンコツをしっかり押さえ、ハンマーの角を使って何度か叩くと意外と簡単に割れます。骨髄が露出することで、旨味成分がスープに溶け出しやすくなるのです。
下茹では臭みを取り除くための重要な工程です。材料を鍋に入れて水を張り、強火で沸騰させます。沸騰すると黒いアクが大量に出てきますが、これは凝固した血液で臭みの原因となります。このアクをこまめに取り除くことで、クリアな味わいのスープに仕上がります。約20分間、白い泡だけが出るようになるまでアク取りを続けましょう。
実は、プロのラーメン店では必ずしも下処理や灰汁取りを丁寧に行っているわけではありません。豚骨スープの臭みの主な原因は、下処理不足ではなく「温度管理の失敗」にあることが近年明らかになっています。10度から60度の温度帯で雑菌が繁殖し、その死骸や劣化した油が臭みを生み出すのです。そのため、炊き上がったスープは速やかに10度以下まで冷却することが重要です。
豚骨スープの特徴である白濁は「乳化」という現象によって生まれます。乳化とは、本来混ざり合わない水と油が均一に混ざり合った状態のことです。豚骨の場合、骨髄や軟骨のコラーゲンがゼラチン化して乳化剤の役割を果たし、強火でガンガン炊くことで攪拌されて白濁したスープになります。
圧力鍋を使う場合、まず2時間の加圧で骨髄をトロトロに溶かします。圧が完全にかかったら弱火に落として待つだけです。この間はAmazonプライムでも見ながらリラックスしましょう。2時間後に減圧して蓋を開けたら、豚肩ロースを投入し、中火で1時間沸騰させ続けます。この工程で乳化が進み、透明だったスープが白濁から茶濁へと変化していきます。
5分に一回程度、木ベラで鍋底をこそぎながらかき混ぜることが重要です。鍋底には骨から剥がれ落ちた肉が沈殿し、焦げ付きやすくなっています。こまめな攪拌で焦げを防ぎながら、同時に乳化も促進されます。水が蒸発して水位が下がりすぎたら適宜水を足し、材料が常に水に浸かっている状態をキープしましょう。
完成した豚骨スープは、一度冷蔵庫で冷やしてラードを取り除くのがおすすめです。スープを冷やすとコラーゲンの効果でプルプルに固まり、表面のラードが完全に分離して綺麗に取り除けます。このラードは捨てずに別容器で保管し、ラーメンを作る際に使いましょう。油の量を調整することで、こってり系からあっさり系まで好みの仕上がりにできます。
冷凍保存すれば1ヶ月程度保存が可能です。冷凍用保存容器に1食分ずつ小分けにして保存すると便利です。容器は8分目程度まで入れるのがポイントで、スープは冷凍すると膨張するため、入れすぎると容器が変形してしまいます。スクリュータイプでフタをしっかり閉められるタイプの容器がおすすめです。
冷凍用保存袋を使う方法もあります。袋を計量カップや深めの器にかぶせるとスープが入れやすく、空気を抜いて口を閉じたらアルミトレイに置いて冷凍します。この方法なら冷凍庫でかさばりません。解凍時は、袋の口を開けて電子レンジで半解凍してから耐熱皿に移し、再度加熱すると良いでしょう。
臭みを防ぐため、炊き上がったスープは漉した後すぐにシンクに水を張り、撹拌しながら約15分で10度以下まで冷まします。この温度管理の徹底こそが、臭みのない美味しいスープを作る最大のコツなのです。
基本の豚骨スープは様々なラーメンのベースとして活用できます。博多ラーメンのような白いスープに極細麺を合わせた九州風ラーメンはもちろん、札幌の味噌ラーメン、和歌山ラーメン、長崎ちゃんぽん、魚介豚骨つけ麺など、アレンジの幅は無限大です。山岡家のような豚骨主体の家系ラーメンも自宅で再現できます。
博多ラーメンを作る場合は、豚骨スープに醤油ダレを合わせるだけでシンプルに仕上げます。タレは水75cc、濃口醤油50cc、酒10cc、みりん10cc、塩9g、味の素5gを混ぜ合わせて作ります。家系ラーメンなら鶏ガラスープとブレンドし、醤油ダレの配合を変えることで独特の味わいが再現できます。
スープから取り出した豚肩ロースは、焼豚タレに一晩漬け込んでからバーナーで表面を炙ると、美味しいチャーシューになります。昔ながらのしっかりと火が通ったタイプのチャーシューで、意外と柔らかく仕上がります。ラーメンのトッピングとしてはもちろん、そのままおつまみとしても楽しめます。
ラーメン以外にも、鍋料理のスープとして使ったり、チャーハンの隠し味に加えたりと、様々な料理に活用できます。濃厚な旨味が凝縮された豚骨スープは、和洋中問わず料理の味に深みを与えてくれる万能調味料とも言えるでしょう。
豚骨スープ作りには時間がかかることを覚悟しましょう。圧力鍋を使っても4時間、寸胴鍋で作る場合は8時間以上が必要です。丸一日潰れることになるため、時間に余裕のある日を選んで作業することをおすすめします。また、キッチンには豚骨特有の匂いが充満し、数日間匂いが残る可能性があります。換気扇を強めにし、調理後は芳香剤を使うなどの対策をしましょう。
底が深い鍋を使うことも重要です。底が浅い鍋では豚骨が入りきらず、強火で煮込む際にスープが溢れてしまう恐れがあります。15リットル以上の寸胴鍋か、6リットル以上の圧力鍋を用意しましょう。家庭用コンロで扱える限界サイズを考慮して選ぶことが大切です。
鍋底の焦げ付きには特に注意が必要です。終盤になると骨から剥がれ落ちた肉が鍋底にたまり、非常に焦げやすくなります。こまめに鍋底をこすって肉がこびりつかないようにしましょう。また、激アツのスープが入った鍋をひっくり返すと大事故になるため、撹拌時は必ず鍋つかみで鍋をしっかり押さえながら作業してください。
圧力鍋を使う場合、加圧可能な水位を守ることが重要です。鍋の縁まで水があると加圧できないため、適切な水位まで蒸発させてから蓋をします。また、減圧は必ず完全に行ってから蓋を開けましょう。急いで開けようとすると危険です。
参考リンク:豚骨スープの作り方について、より詳しい情報が知りたい方はこちらが参考になります。
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