医療用トラベルミン配合錠は、子供に処方できないどころか、適応外でも一定の使用報告がある。
医療用トラベルミン配合錠(製造販売元:アルフレッサファーマ株式会社、販売:エーザイ株式会社)は、1952年から使われてきた歴史ある鎮暈剤です。1錠中に「ジフェンヒドラミンサリチル酸塩40mg」と「ジプロフィリン26mg」を含む配合錠で、動揺病(乗り物酔い)とメニエール症候群に伴う悪心・嘔吐・めまいが適応となっています。
ジフェンヒドラミンサリチル酸塩は第一世代の抗ヒスタミン薬です。内耳(平衡感覚)や嘔吐中枢の興奮を抑えることで、めまい・吐き気を直接抑制します。一方のジプロフィリンはテオフィリン誘導体(キサンチン系)で、揺れによる感覚の混乱を抑えながら、ジフェンヒドラミンによる眠気の副作用をある程度緩和する役割を担っています。
つまり「抗ヒスタミン薬+副作用軽減成分」の組み合わせです。
子供の視点から考えると、ジフェンヒドラミンのような第一世代抗ヒスタミン薬は血液脳関門を通過しやすく、成人に比べて相対的に中枢抑制の影響を受けやすいとされています。眠気、口渇、尿閉などの抗コリン性副作用が小児では強く出る可能性があることは、医療従事者として念頭に置かなければなりません。
また、ジプロフィリンはテオフィリン系薬に属するため、てんかんの患者では中枢刺激作用による発作誘発リスクがあり、この点は小児神経疾患を持つ患者への処方検討時に特に慎重な評価が必要です。
医療用医薬品「トラベルミン配合錠」の添付文書情報(KEGG MEDICUS)
「子供に処方できる医薬品」という前提で処方箋を書いてしまうと、思わぬリスクを招きます。
医療用トラベルミン配合錠の電子添文(2023年4月改訂 第2版)には、小児に対する用法・用量の記載が存在しません。エーザイの公式医療従事者向けFAQでも「電子添文には、規定された用法及び用量はありませんので、お奨めはしておりません」と明記されています。これは「禁忌」とは異なりますが、メーカーとしては推奨しないというスタンスです。
適応外使用の観点では、同FAQ内で文献引用が2件示されています(五島史行:脳と発達 49巻 p237〔2017年〕、坂田英明:MB ENT 120号 p25〔2010年〕)。小児めまいの臨床現場では、医療用トラベルミン配合錠が適応外で処方される事例が存在することを示す研究報告です。これは注目すべき点ですね。
一方、市販薬(OTC)の世界に目を向けると、状況は異なります。OTCの「トラベルミン・ジュニア」(第2類医薬品)は5歳から14歳を対象として適切に設計されており、1錠中にジフェンヒドラミンサリチル酸塩20mg・ジプロフィリン13mgと、医療用の半量で構成されています。5歳〜10歳は1回1錠、11歳〜14歳は1回2錠、5歳未満は服用しないこと、という用法が定められています。
小児への医療用配合錠の適応外使用を検討する場合、院内の適応外使用規定や保護者への十分なインフォームドコンセントが必須になります。あくまで医師の責任下での判断となることを確認しておきましょう。
エーザイ医療従事者向けQ&A「トラベルミン配合錠・小児への投与方法について」(2023年5月)
副作用を把握しておくことは、子供への投与可否を判断する上で欠かせません。
トラベルミン配合錠の主な副作用として添付文書に記載があるのは、眠気・倦怠感・頭重感・めまい・口渇・動悸・発疹・悪心嘔吐・下痢などです。なかでも眠気は最も頻度が高く、投与中は自動車や機械類の操作を禁じるよう明記されています。小児においても学校生活や体育・部活動中の活動に影響する可能性があります。
禁忌については以下の3点が添付文書に示されています。
禁忌ではないが慎重投与を要する疾患として、てんかん・甲状腺機能亢進症・急性腎炎・開放隅角緑内障が挙げられています。特に「てんかん」は要注意です。ジプロフィリン(テオフィリン誘導体)の中枢刺激作用が発作を誘発するおそれがあるため、てんかんを持つ小児には原則として使用を避けるべきです。
これは見落としやすいポイントです。
抗コリン作用については、市販のトラベルミン・ジュニアの添付文書にも「てんかん、甲状腺機能障害の診断を受けた方は服用前に医師に相談」と記載されており、医療用においてはより一層の注意が求められます。また、他の抗ヒスタミン薬含有薬(アレルギー用点鼻薬・花粉症薬など)との重複使用は眠気を増強させるため、小児が複数の薬を服用している場合は相互作用のチェックが必要です。
トラベルミン配合錠の基本情報(禁忌・副作用・添付文書全文)|日経メディカル
医療用と市販薬の違いを正確に把握することは、患者や保護者への説明精度を高めます。
下表に医療用トラベルミン配合錠とOTC製品の主な違いをまとめます。
| 製品名 | 区分 | ジフェンヒドラミン サリチル酸塩 |
ジプロフィリン | 小児用量 | 適応 |
|---|---|---|---|---|---|
| トラベルミン配合錠 | 医療用医薬品 | 40mg/錠 | 26mg/錠 | 規定なし(適応外) | 動揺病・メニエール症候群 |
| トラベルミン・ジュニア | 第2類医薬品(OTC) | 20mg/錠 | 13mg/錠 | 5〜10才:1錠、11〜14才:2錠 | 乗り物酔いのみ |
| トラベルミン(大人用OTC) | 第2類医薬品(OTC) | 40mg/錠 | 26mg/錠 | 15才未満は服用しないこと | 乗り物酔いのみ |
医療用トラベルミン配合錠の1錠あたりの成分量はOTC「ジュニア」の2倍です。例えば体重20kgの子供(小学低学年の平均体重に相当)に医療用1錠を渡すことは、市販子供用の2錠分を飲ませることと同義の成分量になります。これは過量投与につながるリスクが高い行為です。
また、医療用トラベルミン配合錠の適応症は「動揺病」と「メニエール症候群」の2疾患であるのに対し、OTC製品は「乗り物酔い(動揺病)」のみに限定されています。つまり小児のメニエール症候群様症状に対して市販薬で対応することは適応外になります。小児科・耳鼻咽喉科外来でめまいを訴える子供への対応には、この適応の違いも踏まえた処方判断が求められます。
服用タイミングも整理しておくと現場で役立ちます。乗り物酔いの予防目的での服用は「乗車の30分前」が基本です。
トラベルミン・ジュニア製品情報(成分・用法用量)|エーザイ公式
医療用トラベルミン配合錠の小児への使用が難しい場合、代替となる選択肢を知っておく必要があります。
まず確認すべき前提として、小児科クリニックの実務上では「医療用トラベルミン配合錠は15歳以上の患者に処方するもの」というルールが存在します。これは添付文書に小児用量の記載がない事実から来るもので、実際に15歳未満への処方を原則行わない医療機関も多いのが現状です。
代替薬として実務でよく用いられるのは以下のとおりです。
五苓散は即効性が期待できる漢方薬としても知られており、頓服として処方されることもあります。乗り物酔いが強い子供には、旅行の3〜4日前から服用を開始しておくと予防効果が高まるという経験則もあります。
処方選択の実務上の判断軸として、「①年齢と体重」「②症状(乗り物酔いか・めまい症候群か)」「③基礎疾患(てんかんの有無など)」「④服薬困難度(錠剤か液剤かチュアブルか)」の4点を確認するのが有用です。基礎疾患をチェックすることが前提条件です。
小児の乗り物酔いと五苓散の選択についての解説|みしなこどもクリニック(2024年)