天日塩を選べばカリウムが釜炊きの約3倍も摂れます。
粟国の塩は、沖縄本島から北西に約60kmの東シナ海に浮かぶ小さな離島・粟国島で作られています。面積7.64平方キロメートル、周囲わずか12.8kmの島ですが、その海水の透明度と、山や建物に遮られない強い潮風・豊かな日照条件が、他では代えられない製塩環境を生み出しています。
1994年、創業者の小渡幸信さんが「いのちは海から」という理念のもとで沖縄海塩研究所を設立し、粟国島近海の海水だけを原料に、伝統的かつ独創的な製法で塩を作り始めました。2009年には農林水産省から「世界が認める輸出有望加工食品40選」にも選ばれています。
製造のスタートは、高さ約10mの「採かんタワー」と呼ばれる独自設備です。タワー内に1万5千本の孟宗竹を吊るし、ポンプで汲み上げた海水を1日20回循環させます。竹の表面を滴り落ちる間に、潮風と太陽熱で水分が蒸発し、1週間以上かけて塩分濃度が通常の約6〜7倍(塩分20%前後)にまで濃縮された「かん水」ができあがります。このかん水が、天日と釜炊き、それぞれの製法に分かれて仕上げられます。
粟国の塩がまろやかでほのかな甘みを持つ理由は「にがり」にあります。ここで言うにがりとは、マグネシウムやカリウムをはじめとする60種類以上のミネラル成分のことです。製造責任者の小渡さんが「市販の食塩は塩化ナトリウムが99.9%だが、にがりがバランスよく残されたものこそ理想の塩」と語るように、この点が粟国の塩の最大の特長です。
参考リンク:粟国島での製塩の歴史と工程が詳しく紹介されています(沖縄しまさんぽ・離島博覧会公式)
沖縄海塩研究所潜入レポート|沖縄しまさんぽ
釜炊き製法では、採かんタワーで濃縮されたかん水を平釜に移し、廃材の薪を燃料として30時間前後、絶えず火を止めずに煮詰めます。常にかき混ぜ続けないと焦げてしまうため、スタッフが2交代制でつきっきりで作業にあたります。気温によって20〜40時間かかることもあり、まさに手間と時間のかかる作業です。
炊き上がった塩は脱水槽に移され、そこから6〜18日間の自然乾燥を経て完成します。全工程を合わせると、1袋の塩ができあがるまでに約1ヶ月を要します。スーパーで売られている「食塩」が数時間のイオン交換膜製法で製造されることを考えると、その丁寧さは別次元と言えます。
釜炊き塩の特徴は、粒が細かくサラサラとした質感です。加熱によって水分が素早く飛ぶため、結晶が小さくまとまります。料理に使うとすっと溶けてなじみやすく、炒め物・煮物・下味付けなど、幅広いシーンで使いやすいタイプです。
ミネラル含有量(100gあたり)は以下の通りです。
| 成分 | 釜炊き |
|---|---|
| マグネシウム | 1,660mg |
| カルシウム | 250mg |
| カリウム | 480mg |
| 食塩相当量 | 73.4g |
これは精製塩(塩化ナトリウム99.9%)と比べると、ミネラルのバランスがまるで違います。日常的にミネラルを料理から補いたい場合、釜炊き塩を毎日使いにするだけで、自然な形でのミネラル摂取につながります。これが使えそうです。
天日製法では、採かんタワーで濃縮したかん水を温室内のプールへ移し、加熱を一切使わずに太陽光だけでゆっくりと結晶化させます。夏場は約20日、冬場はなんと60日もかかります。60日というと、2ヶ月間、毎朝天気を確認しながら塩の結晶化を見守り続けるようなイメージです。天候次第でスケジュールが大きく左右され、量産がきかないのはこのためです。
できあがった結晶は大粒でザクザクとした歯ごたえが特徴です。釜炊きが火の力で素早く結晶化するのに対し、天日は低温(最高でも50℃程度)でじっくり時間をかけて固まるため、より複雑な結晶構造を持ちます。舌の上に乗せると、カリッとした食感のあとにミネラル由来のうま味がじんわりと広がります。
ミネラル含有量(100gあたり)を比較すると、釜炊きとの差は一目瞭然です。
| 成分 | 天日 | 釜炊き |
|---|---|---|
| マグネシウム | 1,700mg | 1,660mg |
| カルシウム | 514mg | 250mg |
| カリウム | 1,420mg | 480mg |
特に注目なのがカリウムです。カリウムはナトリウムの排出を助け、むくみや高血圧の予防に関わるミネラルです。天日塩のカリウム量は釜炊きの約3倍。「塩を摂りながらも、できるだけナトリウムの悪影響を抑えたい」と考えているなら、天日塩の選択は理にかなっています。
ただし、天日塩は生産量が少ないため、釜炊きタイプに比べて品薄になりやすい点は覚えておきましょう。公式サイトや通販で定期チェックするのがおすすめです。
参考リンク:天日塩と釜炊き塩の製法の違いと結晶構造について詳しく解説されています
釜焚き塩と天日塩の違い|天日海塩 カンホアの塩
2つの製法の違いは、使う温度と時間の差から来ています。釜炊きは100℃近い高温で短時間に結晶化させるため、一部のミネラル成分が熱によって分離・脱落しやすい面があります。一方の天日は50℃以下の低温でじっくり時間をかけるため、海水に含まれるミネラルの種類と量が、より元の海水に近い形で残りやすいとされています。
とはいえ、釜炊きを劣っていると断言するのは誤解です。マグネシウム量は天日と釜炊きでほぼ同水準(1700mg vs 1660mg)であり、どちらも精製塩とは比べものにならないほど豊富なミネラルを含んでいます。つまり、どちらも「体に良い塩」の条件を十分に満たしているということですね。
違いをシンプルに整理すると次のようになります。
料理での用途を基準に選ぶなら、「毎日の炊事全般には釜炊き、仕上げや特別な一皿には天日」という使い分けが最もスムーズです。それだけ覚えておけばOKです。
精製塩と天然塩の見分け方は、パッケージ裏面の「工程」欄を確認する方法が確実です。「天日」「平釜」と書いてあれば天然塩、「イオン膜・立釜」と書いてあれば精製塩です。スーパーで手に取ったときにぜひチェックしてみてください。
参考リンク:天然塩と精製塩の見分け方・選び方を詳しく解説しています
体にいい塩を摂ろう!塩の種類や選び方などについて解説|SaltPro
どの料理にどちらが向いているか、具体的なシーン別に整理します。
🍙 塩おにぎり・焼きおにぎり
→ 天日がおすすめです。大粒のザクザク食感と豊かなミネラルの旨みが白米に絡み、素材の甘みを最大限に引き出します。塩だけでごはんが美味しく食べられるという体験は、天日ならではのものです。
🥣 味噌・漬物・梅干し
→ 釜炊きが向いています。細粒で溶けやすく材料全体になじみやすいため、発酵食品の仕込みに適しています。梅干しや味噌の風味を邪魔しない、主張しすぎない塩味が特長です。
🐟 刺身・焼き魚・天ぷらの付け塩
→ 天日の独壇場です。テーブルで食材に直接振りかけるシーンでは、粒感と複雑な旨みが素材の味を一段引き立てます。食感の面白さも加わり、食卓が豊かになります。
🥦 炒め物・煮物・パスタの下茹で
→ 釜炊きが便利です。加熱調理の途中で使うときは、溶けやすいサラサラ質感が作業をスムーズにしてくれます。量を使う場面にも釜炊きを使い、風味を整える最後の一振りに天日を足すのも良い方法です。
🥗 サラダ・冷ややっこ・野菜スティック
→ 天日が光ります。食材の水分を引き出しながらミネラルを補うため、シンプルな料理こそ天日の風味の差が際立ちます。ドレッシングなしでも美味しく食べられますよ。
大切な点をひとつ確認しておきましょう。粟国の塩の天日タイプは1種類のみの展開です(釜炊きは4種の内容量展開)。天日を購入する際は、公式オンラインショップや通販サイトでの在庫確認が必要な場合があります。天候次第で生産が左右されるため、見つけたときにまとめ買いしておくのも手です。
粟国の塩はミネラルが豊富で体に良いというイメージが先行しがちですが、「良い塩を使えば、塩分を気にしなくていい」という考え方は誤りです。注意が必要ですね。
カリウムやマグネシウムが豊富な天然塩であっても、ナトリウムは含まれています。厚生労働省が示す1日の食塩摂取目標量は、成人男性で7.5g未満、女性で6.5g未満です(「日本人の食事摂取基準2020年版」)。天然塩を使いながらも量を抑える「適塩」の意識が、健康的な食生活の本質と言えます。
その点で粟国の塩が優れているのは、ミネラルバランスの良さによって「少量でも満足感のある塩味」を出せることです。カリウムがナトリウムの排出を助けるため、同じ量の塩を使うなら精製塩より体への負担が少ない、という考え方は医学的にも注目されています。
また、粟国の塩は副産物として「粟国のにがり」も商品化されています。にがりを豆腐作りに使うだけでなく、野菜の下茹でや炊飯時に数滴加えるだけで旨みと風味がアップするという使い方も人気です。塩と合わせて取り入れることで、日常の料理に沖縄の海のミネラルをより幅広く活かせます。
塩を選ぶ目線でもうひとつ参考になるのが、ラベルの「工程」欄を確認する習慣です。精製塩(工程:イオン膜・立釜)は塩化ナトリウムが99%以上で、ミネラルがほぼ含まれていません。スーパーで手軽に買える「食塩」のほとんどがこれにあたります。一方、粟国の塩は工程が「天日」「平釜」と明記されており、ミネラルを豊富に含む天然塩であることが確認できます。次回スーパーへ行くときに、手に取った塩のラベルをちょっとのぞいてみるだけで、選択肢が広がりますよ。
使う塩ひとつを変えるだけで、毎日の料理の味わいと栄養価が変わります。粟国の塩の天日と釜炊き、それぞれの特性を理解して、家族の食卓に取り入れてみてください。
参考リンク:天然塩・精製塩・再製塩の種類と工程の違い、体への影響について解説されています
体にいい塩を摂ろう!塩の種類や選び方などについて解説|SaltPro