外痔核の患者にもボラザG坐剤を使っていたら、それは適応外処方です。
ボラザG坐剤は、天藤製薬が製造販売する痔核局所治療剤です。主成分はトリベノシド200mgとリドカイン40mg(1個あたり)の2成分配合製剤であり、この組み合わせが本剤最大の特徴です。
トリベノシドという成分は、耳慣れない方も多いかもしれません。これはGlucofuranose(グルコフラノース)の誘導体で、ステロイドでも非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)でもない、独自のカテゴリに属する成分です。具体的には、抗浮腫作用・創傷治癒促進作用・循環障害改善作用という3つの薬理作用を持ちます。ステロイドを含まないのが原則です。
リドカインは40mgが1個に配合されており、局所麻酔成分として即効的な疼痛緩和に寄与します。数分〜数十分で痛みへの効果を感じられる点が、患者のQOL改善に直結しています。これは使えそうです。
この2成分の組み合わせによって、「まず痛みを取り(リドカイン)→炎症・浮腫を抑えながら血流を改善し(トリベノシド)→傷ついた組織の修復を促進する(トリベノシド)」という理にかなったアプローチが実現されています。また、直腸内投与することで患部局所のトリベノシド濃度が経口投与の約50倍になるというデータ(ラット試験)もあり、坐剤という剤形の合理性を裏付けています。
強力ポステリザンなど他の痔疾治療薬との最大の違いは、ステロイドを含まない点です。長期処方が必要なケースやステロイドの副作用を回避したい患者において、処方を検討する根拠となります。
参考:添付文書・薬効薬理データ(KEGG DRUG)
医療用医薬品 ボラザG坐剤 添付文書情報(KEGG)
用法・用量は「通常1回1個ずつ、1日2回朝夕、肛門内に挿入する。症状に応じて適宜増減する」と規定されています。1回1個が基本です。
挿入タイミングについて、見落としがちな重要ポイントがあります。添付文書・公式FAQでは「排便後のご使用をお願いしております」と明記されています。理由は、坐剤挿入の刺激によって便意を催すことがあり、挿入直後の排便では薬剤が排出されてしまい、十分な効果が期待できないからです。排便前の使用は避けることが原則です。
入浴後や排便後など、患部が清潔な状態での使用が最も効果的とされており、この点を患者指導時に丁寧に伝えることが治療効果に直結します。
挿入の具体的な手順は以下のとおりです。
挿入後20〜30分で坐剤は溶けるとされています。挿入直後に原形のまま排出された場合は再使用が必要ですが、溶融した状態で排出された場合は成分が患部に届いていると考えられるため、再使用は不要です。
室温が27℃以上になると坐剤の硬度が低下することがあります。その場合は冷水等で冷やして固くしてから挿入するよう患者に伝えてください。また保管温度は1〜30℃(室温)が基本で、30℃を超えるとヒビ・割れ・変形が生じる可能性があります。変形した製品は使用しないよう指導することが重要です。
参考:患者向け服薬指導の根拠として活用できる公式情報
ボラザG坐剤 くすりのしおり(くすりの適正使用協議会)
ボラザG坐剤の効能・効果は「内痔核に伴う症状の緩解」のみです。これは非常に重要なポイントで、外痔核・裂肛への使用は適応外となります。軟膏剤のボラザG軟膏は痔核・裂肛ともに適応を持ちますが、坐剤は内痔核に限定されています。適応を混同しないよう注意が必要です。
この点は患者からの「同じボラザGだから坐剤でも同じでは?」という誤解につながりやすく、処方時・指導時の確認が欠かせません。軟膏と坐剤の適応の違いは必須の知識です。
禁忌は以下の2点です。
慎重投与が必要なケースとして見落とされがちなのが、関節リウマチ患者への使用です。ラットの動物実験では、トリベノシドの経口投与がアジュバント関節炎を増強させる傾向が報告されています。重大な情報ですね。坐剤は経口投与とは吸収量が異なりますが、関節リウマチ合併患者に処方する際は注意が必要です。
また、他のトリベノシド製剤やリドカイン製剤が既に処方されている患者では、血中濃度が上昇する可能性があります。例えばボラザG軟膏とボラザG坐剤の重複処方は、単独投与時に比べてトリベノシドの血中濃度が上昇し、副作用発現頻度が高まるリスクがあります。治療上必要な場合を除き、重複投与は避けるよう留意してください。
妊婦への投与については「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用する」こととされており、安全性は確立されていません。授乳婦については明確な禁忌ではありませんが、使用の可否は処方医が個別に判断する必要があります。
参考:禁忌・慎重投与の詳細確認に
ボラザG坐剤 添付文書PDF(JAPIC)
ボラザG坐剤は局所作用の薬剤であるため、全身性副作用は比較的まれです。ただし、重大な副作用としてアナフィラキシーが頻度不明で報告されており、顔面浮腫・蕁麻疹・呼吸困難等が現れた場合は直ちに使用を中止し適切な処置を行う必要があります。
一般的な副作用は以下のとおりです。
| 分類 | 頻度0.1〜1%未満 | 頻度不明 |
|---|---|---|
| 過敏症 | 発疹、そう痒感 | 局所の刺激感、接触性皮膚炎 |
| 消化器 | 下痢 | 嘔気 |
| 循環器 | — | 動悸 |
副作用発現頻度は低めですが、アレルギー疾患(気管支喘息・アレルギー性鼻炎等)の既往がある患者では過敏症状の発現頻度が高い傾向にあります。処方前の問診で確認すべき項目です。
そして、見落とされやすい薬物相互作用として特に重要なのがワルファリンとの併用です。添付文書の相互作用(併用注意)では「クマリン系抗凝固剤(ワルファリンカリウム)の作用を増強することがあるので、併用する場合は抗凝固剤の用量を調節するなど注意する」と明記されています。痔疾患の患者が心房細動等でワルファリンを服用しているケースは珍しくありません。痔出血にワルファリン服用中は出血リスクが二重に高まる状況になりえます。ワルファリン服用患者へのボラザG坐剤処方時はINRのモニタリングを通常より注意深く行うことが望ましいです。
臨床試験では、国内拡大臨床試験(265例)で改善率66.8%(175/262例)、国内初期臨床試験(131例)では74.6%(97/130例)と良好な成績が示されています。副作用発現率は1.5%(4/262例)と低く、安全性プロファイルは良好と言えます。
参考:薬物動態・臨床成績の詳細確認に
ボラザG坐剤 添付文書全文(KEGG DRUG)
ボラザG坐剤は医療用医薬品であり、市販のボラギノール(武田コンシューマーヘルスケア)とは別製品です。患者が「似た名前だから同じもの」と混同するケースが現場では報告されています。この混同は薬局での誤購入や自己中断につながりうるため、指導の冒頭で明確に区別を伝えることが重要です。
また、ジェネリック医薬品(後発品)については、2025年7月現在においてボラザG坐剤の後発品は販売されていません。先発品のみの選択となります。薬価は1個あたり35.6円(2022年改定)であり、3割負担で約11円です。患者が「坐剤は高い」と思い込んで使用を躊躇するケースもありますが、費用的には十分に低負担と言えます。
継続使用に関しては「現時点において長期使用による特別なリスク(蓄積性・中毒性・習慣性・耐性等)は報告されていない」と製造元が明確に回答しており、投薬日数制限医薬品でもありません。つまり長期処方は問題ありません。ただし、「症状が改善したから自己判断でやめる」または「症状がないのに漫然と使い続ける」どちらも患者自身の判断には委ね過ぎず、治療の節目に医師が評価するスタイルが望ましいです。
患者が最も困りやすいのは「坐剤が出てきてしまった」という状況です。
この3パターンを患者が自己判断できるよう、処方時に一枚の文書として渡すか、口頭でしっかり伝えることが服薬アドヒアランスの向上に直結します。患者の疑問を事前につぶすのが重要です。
使い忘れた場合は、気づいた時点で1回分を使用します。ただし次の使用時間が近い場合は1回とばして構いません。絶対に2回分を同時に使わないよう指導することも忘れずに確認しておくことが大切です。
便秘や硬便は内痔核を悪化させる最大の要因の一つです。ボラザG坐剤による局所治療と並行して、食物繊維・水分の十分な摂取、生活習慣の見直しを指導することが、再発予防と治療効果の最大化につながります。薬だけでは再発を繰り返すことがあるという視点を患者と共有することが、長期的な治療成功の鍵です。
参考:医療関係者向け詳細Q&Aとして活用できる公式資料
ボラザG坐剤 よくあるご質問【医療関係者向け】(天藤製薬)