野菜を先に入れると肉がパサつくと思っていませんか?実はブレゼでは野菜を先に敷くことで肉がしっとり仕上がります。
ブレゼ(braiser)とは、フランス語の「braiser(ブレゼ)」を語源とする調理技法で、日本語では「蒸し煮(むしに)」と訳されることが多いです。少量の液体(水・ブイヨン・ワインなど)を加え、素材を鍋の中で蒸気と液体の両方で同時に加熱する方法です。
シチューや煮込み料理と似ているようで、実は明確に異なります。シチューは素材が液体に完全に浸かった状態で加熱しますが、ブレゼは素材の下半分だけが液体に触れ、上半分は蒸気で加熱されます。つまり「煮る+蒸す」を同時に行う技法ということです。
もともとはフランスの宮廷料理で使われていた技術で、19世紀ごろから料理書に記録が残っています。現代のフランス料理では「ブレゼ」という言葉はミシュラン星付きレストランでも日常的に使われており、素材の持ち味を最大限に引き出す技法として今も重宝されています。これが基本です。
日本でも料理学校のテキストや、NHKの料理番組などでこの用語が取り上げられてきましたが、家庭料理の文脈ではまだあまり知られていません。知っていると得する調理知識の一つです。
ブレゼを作るために、特別な機材は必要ありません。基本の道具は「深めのフライパンまたは厚手の鍋」と「しっかり密閉できる蓋」の2点だけです。できれば蓋の重さがある程度あるもの(ル・クルーゼやストウブのような鋳鉄製)が理想ですが、100円ショップの蓋付き鍋でも代用できます。
基本的なブレゼの手順は次の流れで行います。
液体の量は「素材の1/3まで」が原則です。多くなりすぎるとブレゼではなくただの煮込みになってしまいます。この液体の量が、ブレゼの仕上がりを左右する最大のポイントです。
加熱中は蓋を開けないことも重要です。蓋を開けるたびに蒸気が逃げ、素材が乾燥してパサつく原因になります。蓋は調理終了まで極力開けないようにしましょう。
ブレゼが最も力を発揮するのは、長時間加熱することでやわらかくなる食材です。牛の「すね肉」「肩ロース」「バラ肉」などの硬い部位は、ブレゼにするとコラーゲンがゼラチン化してとろけるような食感になります。
スーパーで安く売られている牛すね肉(100gあたり150〜200円程度)は、ブレゼで調理することで高級レストランのような仕上がりになります。これは使えそうです。逆にサーロインや里脊(ヒレ)などのやわらかい部位はブレゼには不向きで、加熱しすぎてパサパサになってしまいます。
野菜のブレゼも家庭料理として非常におすすめです。代表的な野菜ブレゼの例を以下に挙げます。
魚のブレゼも存在します。白身魚(鯛・スズキなど)を白ワインと野菜とともに短時間ブレゼする調理法は、フランスの家庭料理でも人気があります。ただし魚は火の通りが早いため、加熱時間は肉の1/5程度(8〜12分)に抑えるのがコツです。
ブレゼと混同されやすい調理法が「ポワレ」「エチュベ」「ポシェ」の3つです。それぞれ何が違うのかを整理しておきましょう。
まずポワレ(poêler)は、蓋つき鍋でバターを使って素材を転がしながら加熱する方法です。液体はほとんど使わず、素材から出る水分とバターだけで調理します。ブレゼとの最大の違いは「液体を加えるかどうか」の点です。
エチュベ(étuver)は、素材から出た水分だけで加熱する蒸し煮で、液体を一切加えないのが特徴です。野菜の自然な甘みを最大限に引き出す方法として知られています。ブレゼより素材の水分に依存するため、水分の少ない根菜類には向きません。
ポシェ(pocher)はいわゆる「ポーチング」で、液体の中に素材を完全に沈めて低温で加熱する方法です。ポーチドエッグが代表例です。ブレゼとは液体の量が根本的に異なります。
| 調理法 | 液体の量 | 加熱方法 | 主な素材 |
|---|---|---|---|
| ブレゼ | 素材の1/3〜1/2 | 煮る+蒸す | 肉・根菜 |
| エチュベ | なし(素材の水分のみ) | 蒸す | 葉野菜・水分の多い野菜 |
| ポワレ | ほぼなし(バターのみ) | 転がし焼き | 肉・魚 |
| ポシェ | 全体が浸かる量 | 煮る | 卵・魚・フルーツ |
この4つを区別しておくだけで、レシピを読む力が格段に上がります。いいことですね。特に料理本やフランス料理のレシピを参考にする際に、この違いを知っているとミスなく作れます。
ブレゼは安価で硬い肉をおいしくする技法として、実は家計の節約に直結します。たとえば、牛カレー用の肩肉(100gあたり200円前後)を普通に炒めるだけではパサつきますが、ブレゼで1時間半かけて加熱すると、100gあたり800円以上のサーロインに負けない食感になります。
節約だけではありません。時短の観点からも、ブレゼは優秀な調理法です。
ブレゼは「火にかけたら放置できる」のが最大の利点です。弱火または低温オーブンに入れてしまえば、1〜2時間は基本的に作業不要です。その間に別の料理を作る、洗い物をする、子どもの宿題を見るなど、他の家事と並行できます。
さらに、前日に仕込んで翌日温めるだけにしておくと、味がより深くなるという特徴があります。実際、フランスの家庭料理ではブレゼを翌日に食べる習慣があり、一日置くことで肉のコラーゲンが煮汁に溶け込み、ソース全体がとろりとした濃厚な仕上がりになります。つまり「二日目のブレゼ」のほうがおいしいということです。
また、ブレゼ中の蒸気を逃がさないために、鍋の蓋と鍋のフチのすき間をアルミホイルでふさぐ「パピヨット処理」というテクニックも存在します。本格的なレストランでも使われる手法ですが、アルミホイル一枚で再現できます。これは使えそうです。
以下のリンクでは、フランス料理の基本的な調理技法についてわかりやすく解説されており、ブレゼの位置づけや関連する技法の全体像を把握するのに役立ちます。
また、フランス料理の古典として権威ある料理書「ラルース・ガストロノミック」の日本語版は、ブレゼの定義・歴史を正確に調べる際の一次資料として有用です。料理教室や栄養士養成施設でも参考書として使われています。
ラルース・ガストロノミック 日本語版(Amazon)– ブレゼを含む西洋料理技法の事典
ここからは、料理教室やレシピサイトにはあまり載っていない、ブレゼをさらにおいしくするための応用ポイントを紹介します。
まず、「焼き色の質」がブレゼの味を決めます。一般的なレシピでは「表面を焼く」と書かれていますが、重要なのは「焦がさずに深いキツネ色に仕上げること」です。メイラード反応による焦げ色は、ブレゼのソースの色と風味の土台になります。中途半端な焼き色だと、最終的なソースが薄く水っぽくなります。表面の焼き色には5〜7分かけるのが目安です。
次に、液体の選び方です。水だけで作るのが最もシンプルですが、赤ワイン(牛肉)・白ワイン(鶏・白身魚)・りんごジュース(豚肉)などを使うと、酸味と甘みが加わり深みのある味になります。アルコールが気になる場合は、加熱前に液体だけを先に鍋で5分ほど煮立てれば、アルコール分をほぼ飛ばすことができます。アルコールを飛ばすだけで問題ありません。
さらに「仕上げのソースの煮詰め方」も重要です。ブレゼが完成したら素材を取り出し、残った煮汁を中火で煮詰めます。煮汁が元の量の1/3程度になるまで煮詰めると、素材のゼラチン・野菜の甘み・ワインの酸味が一体化した濃厚なソースになります。バターを少量加えて乳化させる(モンテ・オ・ブール)と、さらにプロの味に近づきます。
冷凍保存の際のコツとして、ソースごとジップロックなどの密閉袋に入れて薄く平らにして冷凍すると、解凍が均一に素早くでき、忙しい平日の夕食に大活躍します。これも覚えておけばOKです。ブレゼを週末に仕込んで冷凍しておく「週末まとめ調理(いわゆるミールプレップ)」との相性は非常に良く、食費の節約と時短を同時に実現できます。