普段使いの桃太郎トマトでソースを作ると、リコピンがシシリアンルージュの8分の1しか摂れません。
日本のスーパーで見かけるトマトのほとんどは、「桃太郎」に代表されるピンク系の生食用品種です。みずみずしくて甘みがあり、そのままサラダにするには最適ですが、料理に使うとどうしても水っぽい仕上がりになりがちです。
これは品種の構造そのものに理由があります。生食用トマトはゼリー状の部分(種の周囲の果汁)が多く、水分含有量が高い設計になっています。加熱すると、この水分がどんどん出てきてしまい、ソースが薄まってしまうのです。一方、調理用トマトは果肉が緻密で水分が少なく、加熱しても形が崩れにくい性質を持っています。
つまり、品種そのものが違います。
農研機構の研究によると、加工用トマト(クッキングトマト)は生食用トマトに比べて、加熱調理した際の赤色の鮮やかさが明らかに優れており、食味も良好とされています。さらに注目すべきは栄養価の差です。調理用品種はリコピンの含有量が生食用の約2〜3倍にのぼることも報告されています。
リコピンは油と一緒に加熱することで吸収率が高まります。これが「トマトはオリーブオイルで炒めると体に良い」と言われる理由です。調理用品種ならその効果をさらに高められるわけです。
実際、イタリアやスペインなどトマト消費量が多い国では、トマトの多くが加熱調理に使われています。日本人1人が1日に食べるトマト量はミニトマト2〜3個程度とされていますが(農研機構調べ)、地中海地方の家庭では自家製トマトソースを大量にストックしているほど加熱調理が日常的です。品種の知識があると、料理の幅が大きく広がります。
農研機構|そのまま食べてはもったいない!クッキングトマトの世界(クッキングトマト「すずこま」の特徴・栄養価・レシピを公式解説)
調理用トマトの品種といえば、まず名前が挙がるのがイタリア原産の「サンマルツァーノ」です。縦長のスリムな円筒形が特徴で、1個あたり100〜150g程度。長さはだいたいスマートフォンの半分ほど(約8〜10cm)とイメージするとわかりやすいです。
この品種の最大の魅力は、ゼリー状の部分と種が極めて少なく、果肉がぎっしり詰まっている点です。生で食べると粉っぽく味が薄く感じますが、加熱するとガラリと変わります。香りが立ち上がり、濃厚な旨味とコクが引き出されます。これが大きな特徴です。
ナポリピッツァの本場イタリアでは、「真のナポリピッツァ協会(AVPN)」の国際規約において、ピッツァのトマトソースにホールトマトを使用する場合はサンマルツァーノ種を使用できると明記されているほどの権威ある品種です。プロの料理人が選ぶ理由がここにあります。
家庭での使い方としては、湯むきをしてざく切りにし、オリーブオイルとにんにくで煮詰めるだけで本格的なパスタソースが完成します。水分が少ないため短時間で濃縮できるのが嬉しいポイントです。また、冷凍保存も可能で、完熟したものをそのままジッパー袋に入れて冷凍しておくと、使いたいときに凍ったまま鍋に入れて調理できます。
なお、「サンマルツァーノリゼルバ」という改良品種も市場に出ており、こちらは日本人の口に合うよう食味と収量が向上した品種です。グルタミン酸(旨味成分)が大玉ピンク系トマトより多く含まれ、塩とオリーブオイルで炒めるだけでも本格的な味わいになります。
サナテックシード株式会社|サンマルツァーノリゼルバ品種詳細(リコピン・グルタミン酸などの成分特性を公式掲載)
調理用ミニトマトの中で特に注目されているのが「シシリアンルージュ」です。イタリア人ブリーダーが開発したこのトマトは、プラム型の小ぶりな形で、重さは1個20〜30g程度。ちょうどうずらの卵を一回り大きくしたくらいの大きさです。
栄養価が際立っています。シシリアンルージュに含まれるリコピンは、一般的な大玉トマト(桃太郎など)の約8倍、市販の輸入缶詰の約4倍にのぼります(複数の食品分析データより)。旨味成分のグルタミン酸も大玉ピンク系トマトの約3倍含まれています。これは家庭の食卓で得られる栄養量に直接影響する差です。
リコピンが8倍というのは驚きですね。
加熱することで旨味がさらに引き出されるため、生でも食べられますが「加熱してこそ本領発揮」という品種です。パスタソース・アヒージョ・ラタトゥイユ・スープなど幅広い料理に対応します。ミニトマトサイズなので湯むきの必要がほぼなく、半割りにしてオリーブオイルと炒めるだけで調理できる手軽さも人気の理由です。
ソースが水っぽくなって困った経験がある場合、シシリアンルージュへの切り替えが一番シンプルな解決策になります。水分が少なく果肉がしっかりしているので、短時間の加熱でも濃厚な仕上がりになります。プランターでも育てやすく、家庭菜園デビューの品種としてもおすすめです。
ippin|シシリアンルージュの栄養と魅力紹介(リコピン8倍・グルタミン酸3倍の詳細データあり)
「サンマルツァーノやシシリアンルージュは聞いたことがあるけれど、日本産の調理用品種は?」と気になる方も多いはずです。そこで知っておきたいのが、農林水産省傘下の研究機関・農研機構が育成した「すずこま」と「にたきこま」の2品種です。
「すずこま」は農研機構と全国農業協同組合連合会の共同育成品種で、1果重30〜40gの中型調理用トマトです。大きさでいうと、卓球ボールよりひと回り小さいくらいのイメージ。水分含量が少なく、リコピンを桃太郎ヨーク(生食大玉品種)より多く含みます。加熱しても赤色が鮮やかに保たれるため、料理の見た目も美しく仕上がります。
「すずこま」が特に優れているのは「芯止まり性」という性質を持つ点です。主枝がある程度の高さで自然に成長を止めるため、家庭菜園での栽培が楽になります。芽かきや支柱管理の手間が少なく、初心者でも育てやすい点が評価されています。また、温室や室内での周年栽培にも適しているため、季節を問わず自家製の調理用トマトを楽しめます。
一方「にたきこま」は大玉タイプ(1果重200g前後、リンゴ程度の大きさ)で、8月前後に旬を迎える露地栽培向き品種です。日持ちが良いのが特徴で、くりぬいて詰め物料理(トマトファルシなど)にも適しています。
この2品種は「すずこまとにたきこまを組み合わせることで長期出荷が可能」とされており、本格的に調理用トマトを家庭菜園で育てたい場合は両方育てるのも選択肢のひとつです。種はネット通販の種苗店で入手できます。
農研機構|クッキングトマトレシピ集PDF(すずこまの活用レシピと特性を公式まとめ)
品種の種類を一通り知ったところで、「結局どれを選べばいいの?」という疑問に向き合いましょう。目的に合わせて選ぶのが基本です。
パスタソース・ピザソースを作りたいなら、サンマルツァーノまたはサンマルツァーノリゼルバが最適です。水分が非常に少なく煮詰め時間が短く済み、旨味が濃縮された本格的な仕上がりになります。スーパーではなかなか見つからないため、ネット通販(楽天市場やオンライン種苗店)で種や苗を探すのが確実です。
手軽に毎日の料理で使いたいなら、シシリアンルージュが使い勝手に優れています。ミニトマトサイズで湯むき不要、そのまま半割りにして炒めるだけ。パスタ・スープ・炒め物・アヒージョと、どんな料理にも溶け込みます。生でも十分に美味しいため、料理の途中でつまみ食いしても後悔しない品種です。これは使えそうです。
栄養価(リコピン)を重視するなら、シシリアンルージュか農研機構のすずこまがおすすめです。どちらも生食用大玉品種に比べてリコピン含有量が高く、オリーブオイルと組み合わせた加熱調理で吸収率がさらに上がります。
煮込み料理・ラタトゥイユ・カレーなど形を残したいなら、サンマルツァーノ系か「なつのこま」を選ぶと失敗が少ないです。果肉が緻密で煮崩れしにくいため、長時間の加熱にも耐えます。
まとめると以下の表が判断基準になります。
| 料理の目的 | おすすめ品種 | 理由 |
|---|---|---|
| パスタソース・ピザソース | サンマルツァーノ(リゼルバ) | 水分少・旨味濃厚・煮詰め時間短縮 |
| 毎日の炒め物・スープ | シシリアンルージュ | 湯むき不要・使いやすいサイズ・リコピン豊富 |
| トマトジュース・ドリンク | すずこま | 爽やかな酸味・リコピン多め・果肉が詰まっている |
| 煮込み料理・形を残す調理 | サンマルツァーノ・なつのこま | 果肉硬質・煮崩れしにくい |
| 家庭菜園で育てたい(初心者) | シシリアンルージュ・なつのこま | 耐病性あり・栽培管理が比較的楽 |
品種さえ変えれば、料理の仕上がりも栄養価も変わります。スーパーで生食用の桃太郎を使い続けることが「損」になっているかどうか、一度振り返ってみると新しい発見があるかもしれません。調理用トマトの品種は、種苗通販サイトや一部の道の駅・こだわり系八百屋で入手しやすくなっています。まずはシシリアンルージュあたりから試してみるのが、入手しやすく使いやすいファーストステップとしておすすめです。
農研機構|クッキングトマトの世界(品種の違いと調理適性・リコピン含量の比較データ公式ページ)