国産野菜を選んでも、毎年ひとり頭130kgのCO₂を出し続けています。
「フードマイレージ」という言葉を初めて耳にしたという方も多いかもしれません。これは、食べ物を意味する「Food(フード)」と輸送距離を意味する「Mileage(マイレージ)」を組み合わせた指標で、「食料の輸送量(トン)×輸送距離(キロメートル)」で計算されます。単位は「t・km(トン・キロメートル)」で、この数値が大きいほど輸送時のエネルギー消費が多く、環境への負荷が大きいと判断されます。
たとえばアメリカから5トンのオレンジを約10,000km離れた日本へ輸入した場合、フードマイレージは「5t × 10,000km = 50,000t・km」となります。一方、国内の農家から同じ5トンを100km先の都市へ運ぶ場合は「5t × 100km = 500t・km」。比べると実に100倍もの差があります。
この考え方はもともと1990年代にイギリスで始まった「Food Miles(フードマイルズ)運動」が元になっています。日本では2001年に農林水産政策研究所が「フード・マイレージ」として提唱し、食料自給率の問題と絡めて広く知られるようになりました。つまり、約25年前から日本の課題として認識されてきた問題なのです。
フードマイレージは、産地間での比較がとてもわかりやすい指標です。日本の自給率が低い穀物・油糧種子(大豆・菜種など)・肉類などは、輸入元のアメリカやカナダ・オーストラリアが1万5,000km前後という遠い距離にあるため、どうしても数値が跳ね上がります。これが現在の日本の食卓が「世界でもっともフードマイレージが大きい国の食卓」になっている根本的な理由です。
参考:農林水産省によるフードマイレージの公式試算資料
農林水産省「フード・マイレージについて」(農林水産政策研究所試算)
農林水産省の試算によると、日本の輸入食料に関するフードマイレージは年間約9,000億t・kmにも達しています。この数字はピンとこないかもしれないので、他国と比べてみましょう。
| 国 | フードマイレージ(億t・km) | 日本との比較 |
|---|---|---|
| 🇯🇵 日本 | 約9,002 | ─ |
| 🇰🇷 韓国 | 約3,172 | 日本の約1/3 |
| 🇺🇸 アメリカ | 約2,958 | 日本の約1/3 |
| 🇩🇪 ドイツ | 約1,718 | 日本の約1/5 |
| 🇬🇧 イギリス | 約1,880 | 日本の約1/5 |
| 🇫🇷 フランス | 約1,044 | 日本の約1/9 |
日本はフランスの約9倍という圧倒的な大きさです。しかも日本の人口はフランスの約1.9倍ですが、フードマイレージは9倍差。これは単純な人口比では説明がつかない、構造的な問題があることを示しています。
人口一人あたりのフードマイレージで見ても、日本は2016年のデータで約6,600t・km/人と、韓国と並んで断トツのトップレベルです。アメリカは約1,050t・km/人ですから、日本人ひとりあたりのフードマイレージはアメリカ人の約6倍という計算になります。
さらに衝撃的なのがCO₂換算の数字です。食料輸入だけで日本全体として年間約1,690万トンのCO₂が排出されており、国民ひとりあたりに換算すると年間約130kgに相当します。これは毎日テレビを1時間減らし続けても、11年かかってやっと相殺できる量です。冷房の設定温度を1℃上げても12年分に相当すると農林水産省は試算しています。
重要なのは「フードマイレージは2001年から2016年にかけて緩やかに減少している」という点です。国内農業への意識が高まり、輸入量が少しずつ変化していることは事実ですが、それでも世界トップという位置は変わっていません。
フード・マイレージ資料室(中田哲也氏)による詳細な試算と推移グラフ
なぜ日本だけがこれほどフードマイレージが大きいのでしょうか。主な理由は3つあります。
まず最大の要因が食料自給率の低さです。2023年度の日本の食料自給率はカロリーベースで38%。主要先進国のなかで最も低い水準であり、食料の約6割を海外からの輸入に頼っています。特に深刻なのが穀物類で、小麦・大豆・トウモロコシの合計需要量のうち、国産でまかなえているのはわずか数%という品目もあります。大豆に至っては自給率わずか6%という現実があります。
次に地理的な条件です。日本は四方を海に囲まれた島国のため、輸入食料の平均輸送距離は約1万5,000km。これは東京からアフリカ大陸南端のケープタウンまでの直線距離とほぼ同じです。欧米各国の平均輸送距離が日本の2〜4割水準にとどまっているのとは全く異なります。隣国の韓国も島国に近い半島国家ですが、陸続きの中国からの輸入が多いため輸送距離を抑えられる部分があります。
そして3つ目が食生活の変化です。パン食の普及による小麦輸入の増加、飼料用トウモロコシの大量需要(国産牛肉1kg生産に海外産飼料約10kgが必要)など、食の欧米化がフードマイレージを押し上げています。
フードマイレージが高いということは、食料安全保障の観点からも大きなリスクを抱えます。近年のロシア・ウクライナ戦争によって小麦や食用油の価格が世界的に急騰した際、日本の家計が直撃を受けたことは記憶に新しいですね。輸入への依存度が高い状態は、外国の政情や気候変動・為替変動が直接「スーパーの値段」に反映される構造になっているということです。
農林水産省「日本の食料自給率」(カロリーベース・生産額ベースの推移グラフ)
フードマイレージが高い状態が続くことで、日常の食卓にはどんな影響があるのでしょうか。これは主婦の視点から考えると、3つの観点でデメリットが整理できます。
① 健康面のリスク
輸送距離が長い食材は、輸送中の劣化を防ぐために収穫後の農薬散布(ポストハーベスト)や防カビ剤の使用が必要な場合があります。実際、アメリカからの柑橘類・小麦・大豆などには、日本では収穫後農薬として規制される薬剤が「食品添加物」として分類されることで使用が許可されているケースもあります。これはフードマイレージが高い輸入食材を消費する社会的コストのひとつです。
また、輸送に長い時間がかかることで、栄養価が低下することも指摘されています。ほうれん草のビタミンCは収穫から2日で約50%減少するとも言われており、地元産の新鮮な野菜とは栄養的に大きな差があります。
② コスト面のリスク
燃料費が上がると、フードマイレージの大きい輸入食品は真っ先にコストが反映されて値上がりします。近年の急激な食料品値上がりの背景には、原油価格高騰→輸送コスト増→輸入食材価格上昇という流れがあります。地元産・国産品を選ぶことは、こうした価格変動のリスクを分散させる家計の防衛策にもなるのです。これは使えそうです。
③ 環境面のリスク
輸入食料の輸送に伴うCO₂排出量は、国内の食料輸送によるCO₂排出量(約900万t)の約1.9倍にあたる約1,690万トン。地球温暖化の加速が気候変動を引き起こし、それがまた農業生産量に影響を与えるという悪循環につながります。家庭での選択が巡り巡って食料供給の安定性に影響する、ということです。
全農「なるほど全農」フードマイレージとCO₂排出量の関係を解説
フードマイレージの問題は複雑に見えますが、日常の買い物を少し変えるだけで確実に貢献できます。国が取り組む食料自給率の向上と並行して、家庭でできる3つのアクションをご紹介します。
🛒 アクション①:地産地消を意識した買い物をする
地元産食材は輸送距離が圧倒的に短く、フードマイレージの削減効果がもっとも大きい選択肢です。地元の産直野菜を選んだ場合、CO₂の排出量は輸入品の約400分の1になるという環境省のデータもあります。驚きの数字ですね。
スーパーの産地表示コーナーを確認する、週末に直売所や道の駅に立ち寄る、地域の生協を活用するといった方法が現実的です。地元産食材は輸送コストがかかっていない分、価格も抑えられていることが多く、家計にも優しい場合があります。
🥦 アクション②:旬の食材を優先的に選ぶ
旬の野菜・果物は、その季節に国内でたくさん生産されるため、遠方からわざわざ輸入する必要が減ります。ハウス栽培の加温エネルギーも不要なため、生産段階での環境負荷も低くなります。「旬産旬消(しゅんさんしゅんしょう)」という考え方です。旬の食材は栄養価が高く、価格も手ごろになりやすい点もうれしいですね。
たとえば夏のきゅうり・トマト・なすは国産率が非常に高いですが、冬に同じ野菜を選ぶと産地が遠くなりがちです。季節の変わり目に「今は何が旬か?」を意識するだけでフードマイレージは変わります。
🏷 アクション③:国産品を選ぶ習慣をつける
地元産が見当たらないときでも、国産品を選ぶことで輸入品と比べてフードマイレージを格段に小さくできます。スーパーで食材を手に取ったとき、「産地表示」を確認する習慣をつけるだけで充分です。加工品の場合は原材料の産地もチェックしてみましょう。
なお、食料自給率の高い品目(米97%・野菜79%・鶏卵96%など)は積極的に国産を選びやすい分野です。大豆(6%)・小麦(17%)などは自給率が低いため、国産品を意識して選ぶ価値が特に高いといえます。国産品を買うことは、日本の農業を応援することにも直結します。
参考:フードマイレージと地産地消の環境削減効果についてのデータ
「国産を選んでいるつもりなのに、実はフードマイレージが高い食品を買っていた」という状況が、日常の買い物では意外と起きています。知っておくと得する「産地表示の盲点」について触れておきます。
まず加工食品の落とし穴です。「国産」と大きく書かれていても、原材料のほとんどが輸入品であるケースがあります。製造・加工が日本国内で行われれば「国産」と表示できるため、スープや惣菜・冷凍食品などは特に注意が必要です。大豆(6%)・小麦(17%)など自給率の低い穀物を主原料とする加工品は、「製造:国内」でも原料のフードマイレージが非常に高いことがあります。これが原則です。
次に「旬に見えるが輸入品」の問題です。夏のバナナやアボカドは年中並んでいますが、これらは国内生産がほぼゼロでフィリピンやメキシコから常に輸入されています。「よく見かけるから身近な食材」という感覚と、フードマイレージの実態はかなり異なることがあります。
ただし「輸入=絶対に悪い」というわけでもないことは覚えておいてください。輸送手段が船舶の場合、CO₂排出係数はトラックの約1/8と非常に低いためです。大量の食料を船でまとめて運ぶ場合、実際のCO₂排出量は計算上のフードマイレージほど大きくならないこともあります。フードマイレージはあくまでも「輸送量×距離」だけを示す指標であり、輸送方法・生産方法・廃棄時のCO₂は含まれていないという点を理解した上で活用することが大切です。
より精確に食品の環境負荷を知りたい場合は「カーボンフットプリント(CFP)」という指標も参考にできます。これは原材料調達から廃棄・リサイクルまでの全工程でのCO₂排出量を数値化したもので、一部の商品ではパッケージに表示されています。スーパーでCFPマークを見かけたときは、比較の目安にしてみましょう。
フードマイレージの意味・計算方法と日本現状の詳細解説(エバーグリーンマーケティング)