お湯で戻すと旨味成分が冷水の320分の1になってしまいます。
干し椎茸出汁を美味しく使いこなすには、まず旨味の仕組みを知っておく必要があります。
干し椎茸の旨味成分は「グアニル酸」と呼ばれるもので、グルタミン酸(昆布)・イノシン酸(かつお節)と並ぶ三大うま味成分のひとつです。生の椎茸にはこのグアニル酸はほぼ含まれておらず、乾燥させることで細胞内のリボ核酸が酵素によって分解され、グアニル酸が生成されます。つまり、干すという工程そのものが旨味を生み出している、ということです。
これは意外ですね。
グアニル酸の特徴は、グルタミン酸と組み合わせると「うま味の相乗効果」を発揮し、旨味が単独の場合より7〜8倍にも強くなる点です。これが、干し椎茸出汁と昆布出汁を合わせると料理がぐっと美味しくなる科学的な理由です。日本うま味調味料協会も、アミノ酸系(グルタミン酸)と核酸系(グアニル酸)の組み合わせによる旨味増強効果を認めています。
グアニル酸が条件です。
参考:うま味の成分について(日本うま味調味料協会)
https://www.umamikyo.gr.jp/knowledge/ingredient.html
ただし、このグアニル酸には弱点があります。
50〜60℃前後の温度で分解が進みやすく、また10〜40℃の温度帯ではグアニル酸を壊す酵素が活発に働きます。せっかくの旨味を守るためには、戻し方に細心の注意が必要なのです。
干し椎茸出汁を最大限に引き出すポイントは、戻す温度と時間にあります。
まず、急いでいるからといって熱湯やぬるま湯で戻すのは絶対にNGです。実際に計測されたデータによると、冷水(約5℃)で戻した場合と温水で戻した場合を比べると、グアニル酸の生成量は冷水戻しが温水の約320倍にもなるという報告があります(バイオコスモ社調べ)。これほどの差が出る理由は、低温ゆっくり戻すことでグアニル酸を生成する酵素がしっかり働き、分解する酵素が抑制されるからです。
つまり、冷蔵庫戻しが基本です。
正しい出汁の取り方の手順は以下の通りです。
「10時間以上もかかるの?」と思うかもしれません。でも、準備して冷蔵庫に入れるだけなので手間はほぼゼロです。たとえば朝7時に仕込めば夕方17時には出来上がり、夜17時に仕込めば翌朝の朝食やお弁当に使えます。
どんこ(冬菇)と呼ばれる肉厚の椎茸は半日〜1日、こうしん(香信)と呼ばれる傘が開いたタイプは4〜5時間が目安です。急ぐときはこうしんを選ぶのが賢明です。
参考:干し椎茸の一番美味しい戻し方(杉本商店)
https://sugimoto.co/the-most-delicious-way-to-soak-dried-shiitake-mushrooms/
干し椎茸出汁の使い方として、最も旨味を引き出せるのが昆布との「合わせ出汁」です。
干し椎茸のグアニル酸(核酸系)と昆布のグルタミン酸(アミノ酸系)を組み合わせると、旨味の相乗効果で単独の場合より7〜8倍の強い旨味を感じられます。これが原則です。さらにかつお節のイノシン酸も加えると、三大旨味成分が揃い、旨味は最大30倍になるとも言われています(杉本商店・干し椎茸専門店情報より)。
これは使えそうです。
合わせ出汁の簡単な作り方は、冷水で戻す際に干し椎茸と昆布(比率は干し椎茸:昆布=7:1が目安)を同じ容器に入れ、一晩冷蔵庫で水出しするだけです。翌朝こせば合わせ出汁の完成。昆布の分量はスマートフォンのSuicaカード1枚分くらいの大きさが5g前後の目安で、干し椎茸30gに対して昆布約4gが適量です。
合わせ出汁の主な使い道。
香りが強いため、他の出汁と合わせるときは香りづけ程度(全体の1〜2割)から始めると、椎茸の風味が強すぎず上品な仕上がりになります。
参考:昆布のおいしさの秘密(株式会社くらこん)
https://www.kurakon.jp/ency_kombu/13.html
せっかく取った干し椎茸出汁は、正しく保存して無駄なく使い切ることが大切です。
取り終えた出汁は冷蔵保存で3日程度、冷凍保存なら約2週間もちます。冷蔵は香りや風味が落ちやすいため、使い切れない場合は冷凍一択です。製氷皿に入れてキューブ状に凍らせると、1個分(約大さじ2〜3杯)ずつ取り出せて非常に便利で、炒め物への「ちょっとコク足し」にも重宝します。
冷凍保存が原則です。
戻し汁活用のポイントを整理すると。
また、戻したあとの干し椎茸そのものも決して捨てないでください。出汁を取った後の椎茸は「だしがら」ではなく、噛みしめるたびに口の中に旨味がじゅわっと広がる食材としての主役でもあります。薄切りにして含め煮に、刻んで炊き込みご飯の具に、はたまた春巻きの中身にと、アレンジ次第で一度の仕込みから二度楽しめるのが干し椎茸出汁の大きな魅力です。
参考:干ししいたけの戻し汁活用方法(デリッシュキッチン)
干し椎茸出汁は、美味しいだけでなく体にうれしい成分がたっぷり含まれています。これが条件です。
干し椎茸に含まれる主な健康成分は以下の通りです。
| 成分名 | 期待される効果 | 特徴 |
|---|---|---|
| β-グルカン(レンチナン) | 免疫力アップ・抗酸化 | しいたけ特有の多糖類。抗がん剤にも使用される成分 |
| エリタデニン | コレステロール値の低下・血液サラサラ | 干し椎茸特有の成分 |
| ビタミンD | カルシウム・リンの吸収促進・骨粗しょう症予防 | 干し椎茸は生の約10倍含有。戻し前に日光2時間当てるとさらに増加 |
| 食物繊維 | 腸内環境の改善 | 生椎茸の約2倍含有 |
ビタミンDは生の椎茸と比べると約10倍も含まれており(姫野一郎商店データより)、骨の形成に欠かせないカルシウムやリンの吸収を助けてくれます。特に日照時間が少ない冬や、外出機会が少ない主婦層は不足しがちな栄養素なので、毎日の出汁として取り入れる習慣は理にかなっています。
また、戻し汁にはβ-グルカン・エリタデニン・ビタミンDなどの成分が溶け出しており、そのまま「しいたけ水」として加熱して飲むだけで健康効果が期待できます。血圧を正常に保つ効果や免疫力向上が期待されており、フロリダ大学の研究でも干し椎茸のβ-グルカンが免疫細胞を活性化させる可能性が示されています。
いいことですね。
干し椎茸出汁をストックしておく習慣を身につけると、毎日の味噌汁や煮物の旨味が底上げされながら、家族の健康を守る「見えない貢献」も同時にできます。顆粒だしに頼りがちな方は、一度製氷皿ストックを試してみると、その便利さと味の違いに驚くはずです。
参考:干し椎茸の戻し汁を捨ててはいけない理由(姫野一郎商店)
https://shiitake-himeno.co.jp/knowledge/2437