表皮剥離のドレッシングを毎日交換すると、逆に治りが遅くなります。
表皮剥離(スキンテア)とは、摩擦やずれによって皮膚が裂け、真皮深層に至る部分層損傷のことを指します。褥瘡が「持続的な圧迫やずれ」によって仙骨部・踵部などの骨突出部に生じるのとは異なり、スキンテアは四肢(特に上肢・下肢)に集中して発生し、体位変換・移乗介助・更衣介助・医療用テープ剥離など、ごく日常的なケア行為がきっかけとなります。
本邦での入院患者における有病率は3.9%と報告されていますが、超高齢社会の進展とともにその数は増加傾向にあります(東京大学大学院 リポジトリ資料より)。特に75歳以上では皮膚の表皮・真皮が菲薄化し、表皮突起と真皮乳頭の平坦化によって「剥がれやすい皮膚構造」が形成されるため、軽微な外力でもスキンテアが起きます。高齢患者の約3割が「皮膚粗鬆症」(骨粗鬆症にちなんで命名された皮膚脆弱状態)の状態にあるとも言われています。
発生部位としては左上肢が全体の約33%と最多で、右上肢・右下肢・左下肢と続きます。腕をつかまれた際・ベッド柵への接触・絆創膏を剥がした際など、看護師や介護士が何気なく行った処置の中でも起こり得るのが特徴です。
スキンテアには日本語版STAR分類システム(一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会)があり、皮弁(剥がれた皮膚片)が元の位置に戻せるか・皮弁の色調変化があるかに応じてカテゴリー1a〜カテゴリー3に分類されます。カテゴリー3(皮弁が完全欠損)は全体の50%以上を占めるとされており、現場での遭遇頻度が高いカテゴリーです。
つまり「ちょっとした処置のミスで起こりうる創傷」というのが基本認識として重要です。
参考:スキンテアの定義・STAR分類・予防と管理についての詳細
在宅・施設におけるスキン-テア(名古屋掖済会病院 皮膚・排泄ケア認定看護師)
「傷があれば毎日処置する」という感覚は、医療従事者として非常に自然な発想です。しかし表皮剥離の場合、この「毎日交換」の習慣が逆効果になるケースが多く存在します。
感染がない表皮剥離(スキンテア)に対する創傷被覆材の交換頻度について、専門家の見解は「3〜6日ごとで十分」というものです。毎日交換する必要はありません。理由は大きく3つあります。
まず、頻繁なドレッシング交換は剥離刺激による皮膚の二次損傷を招きます。高齢者の皮膚はティッシュペーパーのように薄く、被覆材を剥がすたびに新たなスキンテアが生じるリスクがあります。交換のたびに小さな皮膚損傷が積み重なると、治癒が進むどころか悪化していく悪循環に陥ります。
次に、湿潤環境の破壊という問題があります。創傷治癒は適切な湿潤環境の下で促進されます。毎日ドレッシングを開放することで創面が乾燥し、治癒に必要な細胞成長因子が失われてしまいます。
3つ目として、皮弁の生着を妨げるという点があります。残存している皮弁は天然のバイオロジカルドレッシング材として機能します。数日間そのままにしておくことで皮弁が下床に生着し、上皮化が進みます。毎日交換すると皮弁が剥がれるリスクが高まり、皮弁の生着を妨げてしまいます。
生着した皮弁なら問題ありません。皮弁が生着し、スキンテアが浅い創傷であることを考えると、2〜3週間ほどで多くのケースで上皮化します。交換を急ぐ必要がないのです。
例外として、①浸出液が被覆材から漏出している、②感染徴候(悪臭のある滲出液・創周囲の発赤・腫脹・疼痛の増強)がある、③免疫力低下や浮腫が顕著で感染リスクが高い、これらの場合は適宜早めの交換と軟膏処置への切り替えを検討します。
厳しいところですね。「変えないほうが良い」という判断は、勤勉な医療者ほど直感に反しがちです。しかし、このエビデンスを理解しておくことが、患者のQOL向上と業務効率化の両立につながります。
参考:ドレッシング材の交換頻度・湿潤環境保持についての解説
ドレッシング材の使い方の基本(褥瘡治療・ケアのカギ|アルメディアWEB)
スキンテアが発生したとき、現場での対応を迷わないために「止血→洗浄→皮弁を戻す→被覆・固定」という4ステップの流れを頭に入れておきましょう。
🩸 STEP1:止血
出血がある場合はまず圧迫止血を行います。ただし、高齢者の皮膚は非常に脆弱なため、強く擦らず清潔なガーゼや不織布で優しく圧迫します。
💧 STEP2:洗浄
洗浄には水道水で問題ありません。生理食塩水があれば疼痛軽減に有効です。温度は38〜40℃程度のぬるめが適切で、少し水しぶきが上がる程度の弱い水圧で洗い流します。このとき、ごしごし擦ることは絶対に避けてください。泡立てた弱酸性洗浄剤を使用する場合も、泡を乗せるだけにとどめましょう。消毒薬(イソジン・アルコールなど)は創傷治癒を担う細胞を傷つけるため使用不要です。
🔄 STEP3:皮弁を元の位置に戻す
皮弁(剥がれた皮膚)が残っている場合は、湿らせた綿棒・手袋をした指・無鉤鑷子(むこうせっし)を使って、解剖学的な正常位置にゆっくりと戻します。乾燥して固まっている場合は、生理食塩水で湿らせたガーゼを5〜10分貼付してから再トライします。元に戻すのが難しい場合は無理に引っ張らず、欠損がある場合と同様の処置に切り替えます。
皮弁が戻せれば創傷治癒は約2週間で進みます。これは使えそうです。
🩹 STEP4:被覆・固定
皮弁が残っている場合は、皮膚接合用テープ(ステリストリップ®など)で皮弁を固定し、シリコーンドレッシング(メピレックスAg®・エスアイエイド®など)で保護します。その後、不織布を1周巻いてテープを皮膚に直接貼らずに固定し、包帯で仕上げます。
被覆材を貼る際は「どちらの方向に剥がすか」を矢印で記載しておくことが重要です。次の交換時に残存皮弁を誤って引き剥がさないための工夫であり、日本創傷・オストミー・失禁管理学会のガイドラインでも推奨されています。また、皮膚の粘着力が強いテープは直接皮膚に貼らないことが原則です。
参考:スキンテア発生後の創傷管理手順(専門家解説)
スキンテア(皮膚裂傷・表皮剥離)を対策しよう!(皮膚科専門医サイト)
表皮剥離の処置方法は大きく「創傷被覆材(ドレッシング材)による処置」と「軟膏(外用剤)による処置」の2つに分かれます。どちらを選ぶかは患者の全身状態・スキンテアの程度・連日処置が可能かどうかで判断します。
🏷️ 創傷被覆材が適しているケース
- 皮膚欠損がほとんどない(または欠損幅が1cm以下)
- 連日の処置が難しい環境にある(週1回程度の処置で管理したい)
- 免疫力の低下や浮腫がなく感染リスクが低い
このケースでは、シリコーンフォームドレッシング(メピレックスAg®)やアクアセルAg®などの銀含有被覆材が有効です。銀イオンの抗菌作用により感染リスクを低減しながら、湿潤環境を維持できます。交換頻度は原則として週1回を目安とし、浸出液が少なければ1〜3週間程度そのままにしておいても問題ありません。
ただしアクアセルAg®はかなりしっかりと創部にくっつくため、剥がす際は十分な水(水道水可)で浸軟させてから数分おいてゆっくり剥がすことが重要です。無理に引き剥がすと出血・二次損傷が生じます。
💊 軟膏処置が適しているケース
- 連日入浴・シャワー浴を希望する(被覆材は濡れると交換が必要なため)
- 免疫力低下・浮腫など感染リスクが高い
- 皮膚欠損が広範囲(1cm幅以上)に及ぶ
- 浸出液が多く、被覆材では管理が難しい
軟膏処置では、白色ワセリンが基本です。ただし2023年の褥瘡学会では「吸水クリーム:マクロゴール軟膏=3:7の混合外用剤」がスキンテアの上皮化においてより優れているという講演が報告されており、対応可能な施設では選択肢として検討に値します。
軟膏処置のポイントは、①軟膏をたっぷり塗る(創部へのくっつきを防ぐ)、②多孔性ポリエステルフィルムガーゼ(メロリンガーゼ®など)を使う、③ガーゼ固定のテープは皮膚に直接貼らず不織布を介して固定する、の3点です。
つまり、ケースに応じた選択が原則です。「一律に軟膏処置」「一律に被覆材」ではなく、患者ごとの状況を毎回アセスメントした上で処置方法を選ぶことが、表皮剥離を最短で治癒させることにつながります。
参考:ドレッシング材の頻回な交換が与えるリスクについて
ドレッシング材関連Q&A(マルホ株式会社・褥瘡辞典for MEDICAL)
毎日交換しないことが推奨される一方で、「感染を見逃したらどうするのか」という不安を感じる方も多いはずです。だからこそ、感染の早期発見につながる観察ポイントを押さえておくことが重要です。
⚠️ 次のサインが見られたら早期対応を検討する
| 観察ポイント | 感染を示唆するサイン |
|---|---|
| 浸出液の性状 | 悪臭・膿性・混濁した液 |
| 創周囲の皮膚 | 発赤・腫脹・熱感の拡大 |
| 疼痛 | 処置後に増強する疼痛 |
| 皮弁の色調 | 蒼白・薄黒い・黒ずんだ変色 |
| 全身状態 | 発熱・倦怠感・CRP上昇 |
STAR分類で「皮弁の色が蒼白・薄黒い・黒ずんでいる(カテゴリー1b・2b)」場合は、初回ドレッシング交換時または24〜48時間以内に皮弁の状態を再評価することがガイドラインで定められています。このタイミングを逃さないことが感染予防の鍵です。
「3〜6日ごとでよい」というのは感染がない場合の原則です。感染徴候が出た段階では毎日の観察と軟膏処置への切り替えが必要になります。観察が条件です。
また、免疫力低下患者(長期ステロイド使用者・抗がん剤投与中・透析患者)や浮腫が顕著な患者については、スキンテア発生初期から創傷被覆材ではなく連日の軟膏処置を選択するほうが安全です。
感染を見逃さないためには、ドレッシング交換のたびに「前回との比較」を行うことが重要です。被覆材を貼る際に日付と貼付方向の矢印を記載しておく習慣があれば、次の担当者も前回の状態と比較しやすくなります。これは医療チーム全体での一貫したケア記録にも直結します。
参考:スキンテアの発生後ケアと創傷被覆材の選択について
スキン-テアのスキンケア|予防と発生後のケア(ナース専科 knowledge)
表皮剥離は「治す」だけでなく「起こさない」ことが最優先です。1件のスキンテアが発生すると、処置にかかる時間・物品コスト・患者の疼痛・QOL低下など、複数のコストが発生します。予防ケアが徹底できれば、これらをまるごと回避できます。いいことですね。
以下に、現場で取り入れやすい予防ケアを5つ紹介します。
① 定期的な保湿ケア
高齢者の皮膚はセラミド・天然保湿因子・皮脂の減少により著しく乾燥しています。保湿剤(ヒルドイドローション®・ヘパリン類似物質外用泡状スプレー等)を1日1〜2回塗布することで、皮膚のバリア機能を補強し、外力への耐性を高めます。塗布のタイミングは入浴直後でなくても問題ありませんが、入浴後30分以内が習慣化しやすいでしょう。
② テープ選びと貼付方法の見直し
医療用テープの貼付・剥離は、スキンテアの代表的なきっかけのひとつです。粘着力の強いテープを直接皮膚に貼ることは避け、シリコーン系・低刺激性のテープに切り替えることを検討してください。剥がす際は「ゆっくり皮膚を押さえながら」が基本で、素早く一気に剥がすのは厳禁です。
③ 外力保護のための環境調整
ベッド柵・車椅子のアームレスト・フットレストなどの接触部位にはカバーやプロテクターを取り付け、皮膚が直接硬い素材に当たらないようにします。チュビファースト®などの筒状包帯をリスク部位(前腕・下腿など)に装着することも有効な保護手段です。
④ 移乗・体位変換時の技術的注意
「引きずらない・引っ張らない・下から支える」の3原則が基本です。可能であれば2人以上で介助し、ポジショニンググローブを活用します。強くつかむ動作は皮膚に直接的なずれを生じさせるため、手のひら全体で包むように支持することが重要です。
⑤ スタッフ教育の継続
調査では、スキンテアについての正答率が2割程度にとどまる施設も報告されています。スキンテアの発生要因・STAR分類・予防ケアについての勉強会を定期的に開催し、チーム全体で共通認識を持つことが再発予防の土台になります。患者・家族への教育(保湿ケアの方法、テープの貼り方など)も再発予防において重要な役割を果たします。
保湿剤の選択で迷う場合は、ヘパリン類似物質含有製剤(ヒルドイド®など)が高齢者の皮膚に対して刺激が少なく、血行促進・皮膚再生促進の作用もあることから、多くの皮膚科専門医から推奨されています。ただし出血性血液疾患の患者には禁忌となるため、患者背景を確認した上で使用してください。
参考:スキンテアの予防ケアと保湿剤の選択・外力保護の詳細
スキン-テアについて知っておこう(アルメディアWEB・褥瘡ケア)