遺伝子組み換え作物メリットデメリットと環境影響や食料問題への可能性

遺伝子組み換え作物には農薬削減や収穫量増加などのメリットがある一方で、生態系への影響や健康リスクといったデメリットも指摘されています。世界的な食料問題解決への可能性は本当にあるのでしょうか?

遺伝子組み換え作物のメリット デメリット

この記事で分かること
🌱
遺伝子組み換え技術の基本

特定の遺伝子を導入して作物に新たな特性を持たせる技術で、従来の品種改良とは異なる効率的な改良方法です

メリットと経済効果

農薬使用量の削減、収穫量の増加、農作業の省力化により、環境負荷を低減しながら農業の生産性を向上させます

⚠️
デメリットと懸念事項

生態系への影響、除草剤耐性雑草の発生、健康への長期的影響など、慎重な評価が必要な課題も存在します

遺伝子組み換え作物の農業面でのメリット

遺伝子組み換え作物の最大のメリットは、農作業の省力化と低コスト化の実現です。除草剤耐性遺伝子を組み込んだ作物では、除草剤を使用しても作物が枯れないため、雑草除去の手間が大幅に軽減されます。害虫抵抗性や病気に強い遺伝子を導入することで、農薬の使用量を減らすことも可能になります。
参考)「遺伝子組換え技術」は誰がため?食品表示の裏側とメリット・デ…

実際のデータでは、1995年から2014年までの研究を分析したメタアナリシスにより、GM作物の利用は農薬使用量を37%、農薬コストを39%減少させ、同時に収量を21%上昇させる効果があることが明らかになっています。1996年以降、GM作物の導入により農薬の有効成分使用量が約6億1870万kg(8.1%)減少したという報告もあります。
参考)遺伝子組み換え作物の環境への影響と安全性|バイテク情報普及会

  • 除草剤耐性により雑草管理が効率化し、栄養が作物に集中します
  • 害虫抵抗性作物の開発で殺虫剤の使用回数が削減されます
  • 病気に強い作物により、単位面積当たりの収穫量が増加します
  • 環境影響指数(EIQ)が18.6%低下し、環境負荷が軽減されます

遺伝子組み換え作物の食品・健康面でのメリット

遺伝子組み換え技術により、作物の栄養価を高めたり、低アレルゲン性などの付加価値を生み出したりすることが可能です。高栄養価の作物開発により、栄養不足の改善や病気予防にも役立てられます。農薬使用量の削減は、食品の安全性向上にも貢献します。​
世界保健機関(WHO)は「GM食品が承認された国々で、多くの人々がそれらの食品を消費してきた結果は、GM食品が人の健康に影響が無いことを示している」と結論付けています。米国科学・技術・医学アカデミーも「GM食品の消費と、がん、肥満、糖尿病、自閉症、食品アレルギーなど特定の健康問題の発生率との因果関係は認められない」と報告しています。
参考)遺伝子組み換え作物の健康への影響と安全性|バイテク情報普及会

遺伝子組み換え作物の生態系へのデメリット

生態系に対する最大の懸念は、除草剤耐性雑草の発生です。遺伝子組み換え作物と周辺の雑草が交配することで、除草剤に強い雑草が生まれた事例がアメリカで報告されています。この結果、除草剤の使用量が以前より増加したり、複数の除草剤に耐性のある作物を開発せざるを得なくなったりする問題が生じました。
参考)遺伝子組み換え作物の安全性はどうなの?環境と健康への影響につ…

害虫抵抗性作物に関しても、病害虫の中に遺伝子組み換え作物に耐性を持つものが出現しています。ブラジルでは遺伝子組み換え作物に抵抗性を持った病害虫が現れ、政府が承認していない殺虫剤を散布した事例もあります。花粉飛散による野生植物との交雑や、昆虫相への影響、微生物間の遺伝子伝達なども懸念されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e9c819238be79ea5aa924dc0f84d51e70b4f973c

遺伝子組み換え作物の流通における独自の課題

日本では遺伝子組み換え作物の栽培はほとんど行われていませんが、年間数千万トンを輸入しています。この背景には、とうもろこし(穀物)、なたね、わたがほぼ0%、大豆が7%(食用は25%)という低い食料自給率があります。
参考)遺伝子組み換え作物とその表示義務について

表示制度においても課題があります。表示義務の対象は、加工食品において主な原材料(全原材料の重量に占める割合が上位3位までで、かつ5%以上のもの)に限られます。醤油、醸造酢、食用油、水飴、みりん風調味料など、組み込まれた遺伝子やタンパク質が技術的に検出できない場合は表示義務がありません。このため、消費者が遺伝子組み換え食品を完全に避けることは実質的に困難な状況です。
参考)どう変わる? 「遺伝子組換え表示制度」改正で変わる食品選びの…

遺伝子組み換え作物による食料問題解決の可能性

世界では2019年時点で約6億9000万人が飢餓に苦しんでおり、2018年から1000万人増加しています。2050年には現在より60%多くの食品が必要になるとも言われています。遺伝子組み換え作物の栽培により、作物の生産量を上げたり、耐病性作物や害虫抵抗性作物を開発したり、乾燥などの様々な環境に適した作物を開発することが可能です。
参考)飢餓問題や気候変動の解決に役立つ? リスクゼロではない? ゲ…

遺伝子組み換え作物の世界全体の栽培面積は、1996年の170万ヘクタールから2017年には1億8980万ヘクタールとなり、112倍に増加しました。24カ国で栽培されており、そのうち発展途上国19カ国で、先進国は5カ国です。発展途上国が世界の遺伝子組み換え作物栽培面積の53%を占めています。
参考)https://www.isaaa.org/resources/publications/briefs/53/executivesummary/pdf/B53-ExecSum-Japanese.pdf

遺伝子組み換え作物だけで食料危機や飢餓を完全に解決できるわけではありませんが、気候変動や人口急増といった問題に対処する重要な手段の一つとなっています。暑さ耐性、塩害や冷害に強い品種の開発が進めば、安定的に作物を供給できるようになります。
参考)https://www.jba.or.jp/top/bioschool/seminar/q-and-a/motto_30.html

厚生労働省による遺伝子組換え食品の安全性審査の詳細情報
遺伝子組み換え作物の健康への影響と科学的評価に関する詳細
遺伝子組み換え作物の環境への影響と農薬削減効果のデータ