今川義元の名前が入っているから「武将が由来」と思いがちですが、実は今川焼きの名前は戦国武将とは直接関係ありません。
今川焼きとは、小麦粉・卵・砂糖・水などで作った生地を、円形にくぼんだ金属製の焼き型に流し込み、あんこなどの具材を包んで焼き上げた和菓子です。直径はおよそ7〜8cm(名刺の短辺と同じくらい)、厚さは2〜3cmほどの円盤状が基本の形で、上下2枚の型を合わせて焼くのが特徴です。
生地の原料はシンプルで、薄力粉・ベーキングパウダー・砂糖・卵・牛乳が基本です。型に流した生地の片方にあんこを乗せ、もう片方を合わせて完成します。これが原則です。
中身は伝統的な粒あん・こしあんが定番ですが、現代ではカスタードクリーム・白あん・抹茶クリーム・チョコレートクリーム・ポテマヨなど幅広いバリエーションがあります。2025年の調査では20代の若い世代では「カスタードクリーム」を好む割合が32.3%にのぼり、あんこと並んで人気の中身になっています。
固定店舗だけでなく、縁日や祭りの屋台でも販売されることが多く、街角で湯気を立てながら焼かれる光景は日本人にとってなじみ深いものです。また冷凍食品としても全国で広く流通しており、家庭で手軽に楽しめる和菓子のひとつです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 種類 | 和菓子(焼き菓子) |
| 主な材料 | 薄力粉・砂糖・卵・牛乳・あんこ |
| 形状 | 円形・直径約7〜8cm・厚さ約2〜3cm |
| カロリー(1個90g) | 約195kcal |
| 中身の定番 | 粒あん・こしあん・カスタードクリームなど |
| 発祥 | 江戸時代中期(1777年頃〜) |
今川焼きの名前の由来として現在最も有力とされているのは、江戸時代中期の安永年間(1772〜1780年)に、東京・神田の「今川橋」付近のお店がこの菓子を売り出したことが起源だという説です。今川橋は、現在のJR神田駅の東側あたり、千代田区鍛冶町1丁目付近にかかっていた橋で、当時の地名にちなんで「今川橋」と呼ばれていました。
つまり「今川」は地名が由来です。
文献に初めて登場するのは、安永6年(1777年)に記された『富貴地座位』という書物で、「今川やき 那須屋弥平 本所」という記述があります。ただし当時の今川やきが現在と同じ形の菓子だったかどうかは、詳しくはわかっていません。現代に近い形の今川焼きが確認できるのは幕末の風俗を描いた『街の姿』という書物で、そこには6つのくぼみがある小さな鉄板で焼かれ、2つで4文(当時の子どもの小遣いと同程度)で売られていた記録があります。子ども相手の庶民的なおやつだったということですね。
もうひとつ、よく語られる説が「桶狭間の戦いにちなんだ説」です。今川橋付近の店が、桶狭間の戦いで今川義元が討ち取られたことをもじって「たちまち焼ける今川」とキャッチコピーで宣伝し、評判になったというものです。ただし「今川焼き」の名称の由来に確たる史料はなく、この宣伝説はあくまで後世の伝承のひとつです。
明治時代になると今川焼きは庶民のおやつとして大流行しました。森永製菓の創業者・森永太一郎が「焼芋屋と今川焼がある限り銀座での西洋菓子の進出は困難」と語ったほど、街中で盛んに売られていたと伝えられています。これは使えそうな豆知識です。
参考:今川焼きの名称の由来や歴史について詳しく解説されています(Wikipedia「今川焼き」)
https://ja.wikipedia.org/wiki/今川焼き
同じ食べ物なのに、地域によって呼び方が全然違う。これが今川焼きの面白いところです。
国語学者の岸江信介教授(徳島大学)の調査によると、今川焼きを指す呼び名は少なく見積もっても全国で100種類以上、ニチレイフーズが2025年に47都道府県で行った調査では「今川焼」が最多の19エリアで1位を獲得し、次いで「大判焼き」が15エリア、「回転焼き」が9エリアという結果でした。九州は全県が「回転焼き」で統一されており、地域の偏りが特に目立ちます。
なぜこれほど呼び名が分かれたのでしょうか?大きな理由のひとつは「暖簾(のれん)の文化」です。昭和30年代、愛媛県松山市の製菓機械メーカー「松山丸三」が、当時ベストセラーだった小説『大番』(1956年〜連載)にあやかり、焼き器と「大判焼の素」のセットを「大判焼き」という名前で全国に販売しました。暖簾付きのセット販売だったため、そのまま「大判焼き」という名が四国・中国地方から全国へと広まったのです。
兵庫県姫路市の有名店「御座候」も同じ例です。1950年の開店当初は「回転焼き」として販売していましたが、暖簾やのぼりに社名「御座候」を掲げるようになったことで、製品そのものが「御座候」と呼ばれるようになりました。
以下に主な地域別の呼び名をまとめます。
同じ県内でも、世代によって呼び方が変わることがあります。つまり呼び方で「どこ出身か」「何世代か」がわかるほど、文化的な背景が深く刻み込まれているのです。
参考:47都道府県の呼び方勢力図と最新調査結果について掲載されています(ニチレイフーズ公式)
https://www.nichireifoods.co.jp/brand/imagawayaki/whats.html
「今川焼きとたい焼きって何が違うの?」と思う人は多いはずです。結論は形が違うだけ、ではありません。歴史の深さが異なります。
今川焼きの誕生は先述の通り江戸時代(1777年頃〜)。一方たい焼きは明治時代後期の1909年頃に誕生したとされています。つまり今川焼きのほうが約130年以上歴史が長い「先輩」なのです。
たい焼きの誕生には、今川焼きが大きく関わっています。大阪から東京に来た菓子職人・神戸清次が今川焼きの商売を始めましたが売れず、亀の形にした「亀焼き」も失敗。そこでめでたいとされる「鯛」の形にしたところ、東京・麻布の「浪花家総本店」で大ヒットしたのがたい焼きの始まりとされています。今川焼きが「形のアイデアの元」になったということですね。
製法の根本的な違いを整理するとこのようになります。
| 比較項目 | 今川焼き | たい焼き |
|---|---|---|
| 形状 | 円形(直径7〜8cm) | 鯛の形 |
| 誕生時期 | 江戸時代(1777年頃〜) | 明治時代後期(1909年頃〜) |
| 焼き型 | 円形のくぼみ型 | 鯛の形の型(一丁焼き・連式焼きがある) |
| 生地の特徴 | やや厚め・もちっとした食感 | 薄め・パリッとした食感が多い |
| 関係 | 先輩・元祖 | 今川焼きから派生 |
生地の厚みや食感もお店によって異なりますが、今川焼きは全体的にもっちりとした食感が特徴的で、あんこの量も多めです。食べ応えがある分、カロリーもたい焼き(1個あたり約160〜180kcal)よりやや高めになる傾向があります。
参考:たい焼きの歴史と今川焼きとの関係について詳しく解説されています(同志社女子大学・吉海直人教授コラム)
今川焼きは、実は家庭でも作れます。専用の焼き型がなくても、フライパンやホットサンドメーカーを使って代用できることをご存じでしょうか。知ってると得する情報です。
基本の生地の材料(4個分)は以下の通りです。
フライパンで作る場合は、弱火でじっくり蓋をして10〜15分焼くのがポイントです。強火で焼くと生地の中まで火が通らないまま表面だけ焦げてしまいます。重曹を少量加えると、より香ばしくプロに近い風味が出ます。プロが使うコツが重曹です。
カロリーについても少し触れておきましょう。今川焼き(あずきあん・1個約90g)のカロリーは約195kcalです。糖質は1個あたり約42gで、これはご飯お茶碗1杯(約53g)のおよそ8割に相当します。毎日のおやつとして食べるには、少し多めに感じるかもしれません。
カロリーが気になる場合は、中身をカスタードクリーム(1個65gで約143kcal)や白あん(糖質が粒あんより低め)に替えるだけでも負担を減らせます。また市販の冷凍今川焼きを活用する方法も一つです。ニチレイフーズの冷凍今川焼きは2025年に賞味期限が12カ月から18カ月に延長され、まとめ買いして冷凍庫にストックしておくのが便利になりました。
手作りにチャレンジするなら、コツをまとめたこちらのレシピサイトも参考になります。
参考:フライパンで作れる今川焼きのレシピと手順が動画付きで詳しく解説されています(デリッシュキッチン)
https://delishkitchen.tv/recipes/236053139801769060
今川焼きは江戸時代から250年近く愛され続けてきた和菓子です。呼び名はどの地域でも違っても、丸くてずっしりとした姿と、焼きたての香ばしいにおいは変わりません。由来を知ったうえで食べると、いつもより少し味わい深く感じられるはずです。