自宅キッチンで作ったスパイスをそのまま売ると、200万円以下の罰金刑になることがあります。
スパイスブレンドを手作りして販売したい、と考える主婦の方は年々増えています。ただ、「食品として売る」以上、食品衛生法の規制を避けることはできません。まずここをしっかり理解しておくことが大切です。
食品衛生法では、加工食品を製造・販売する場合に「営業許可」を取得する義務があります。自家製スパイスのブレンド商品は、複数のスパイスを混ぜて袋詰めした「加工食品」に該当します。つまり、販売するには必ず許可が必要です。
対象となる営業許可の種類は、主に次の2つです。
- 調味料等製造業:スパイスブレンドやシーズニングなど、調味料類の製造・販売に対応
- 粉末食品製造業:粉末状のスパイスをブレンドして製品化する場合に該当
許可の申請先は、製造場所の所在地を管轄する保健所です。自治体によって手数料が異なりますが、東京都では菓子製造業で16,800円ほどが目安となっており、調味料等製造業も同水準と考えておくとよいでしょう。これが原則です。
無許可で販売した場合、食品衛生法違反として2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されます。さらに、購入者が食中毒になった場合には損害賠償請求にも発展しうるリスクがあります。「少量だから大丈夫」という考えは通用しないことを覚えておきましょう。痛いですね。
手作り食品を売るのに必要な手続きは?無許可販売のペナルティも解説(行政書士監修)
営業許可を申請するには、施設の設備要件とあわせて「食品衛生責任者」を1名置くことが人的要件として定められています。資格取得のハードルは思ったより高くありません。
食品衛生責任者になるには、各都道府県の食品衛生協会が実施する養成講習会を1日(約6時間)受講するだけです。受講費用は概ね1万円前後で、試験もあるものの合格率はほぼ100%とされています。一度取得すれば生涯有効で、更新不要です。
東京都であれば東京都食品衛生協会が窓口となっており、会場集合型のほかe-ラーニング型でも受講が可能です。1日で取れます。育児中の主婦の方でも、日程を選びやすいのはうれしいポイントです。
調理師・栄養士などの資格を既にお持ちの方は、この講習会が免除されます。自分に当てはまるかどうか、事前に確認しておくと時間の節約になります。
食品衛生責任者養成講習会のご案内(一般社団法人 東京都食品衛生協会)
「自宅のキッチンで作って売ればいい」と思っている方は要注意です。一般家庭のキッチンは、食品衛生法が定める施設基準を満たしていないことがほとんどです。
営業許可を受けるためには、施設として次のような基準を満たす必要があります。耐水性のある床材・壁材、専用の手洗い設備、適切な換気システム、食品を取り扱うスペースと居住スペースの明確な区画分け、などが代表的な要件です。普通の家のキッチンでは、ほぼ改修が必要です。
自前で施設を用意しようとすると、飲食店の開業費用は平均で約989万円とも言われており、設備だけでも数百万円かかるケースがあります。主婦の副業・小規模スタートには非現実的です。
そこで有効な選択肢がコワーキングキッチン(レンタルキッチン)の活用です。すでに営業許可を持つ認定キッチンを時間単位・月単位で借りる仕組みで、使った分のコストしかかかりません。製品ラベルの「製造所」欄にはキッチンの運営会社名と住所を記載できます。
コワーキングキッチンは全国の主要都市に広がっており、月数千円〜数万円の利用料で始められるケースもあります。在庫リスクも低く抑えられるため、小ロットからスタートしたい方に向いています。これは使えそうです。
許可を取って販売にこぎつけても、ラベル表示のルールを守らないと食品表示法違反になります。食品を売る以上、パッケージへの正しい表示は絶対に避けられない作業です。
スパイスブレンド商品のラベルに記載が必要な主な項目は次のとおりです。
- 名称:商品の内容を端的に示す名称(例:ガラムマサラ、カレースパイスミックス)
- 原材料名:使用した原材料を配合量の多い順に記載
- 内容量:グラム数など
- 賞味期限:粉末スパイスは一般的に開封前1〜2年が目安だが、自社試験または標準的な根拠に基づく設定が必要
- 保存方法:直射日光・高温多湿を避けるなど
- 製造者(または加工者):氏名・住所
- アレルゲン表示:えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生の8品目は表示義務あり
特にアレルゲン表示は重要です。スパイスブレンドに含まれる原材料にアレルギー物質が入っていても気づかないケースがあります。表示漏れは販売停止命令や罰則につながります。アレルゲン確認が条件です。
なお、スパイスの香辛料表示には特別なルールがあります。使用した香辛料の合算重量が全原材料の2%以下であれば「香辛料」とまとめて表示できますが、2%を超える場合は個別の香辛料名をすべて表示しなければなりません。
飲食業がオリジナルスパイスを商品化するための食品衛生法と表示管理
許可と表示の準備ができたら、実際にどこで売るかを決めましょう。代表的な販売チャネルとそれぞれの特徴を整理します。
minne(ミンネ)はハンドメイドマーケットの大手で、食品を販売するには事前に「食品販売申請」が必要です。身分証明書のアップロードや特定商取引法に基づく表記の登録が求められます。保健所の許可証コピーなども確認されます。申請が条件です。
BASE(ベイス)は個人のネットショップ開設に広く使われるプラットフォームです。食品を販売する場合、BASEへの事前申請と許可証の提出が求められます。開設は無料で、月額固定費もかかりません。初期費用を抑えたい方に適しています。
メルカリは2025年10月の規約改定により、継続的な商品販売(事業者行為)は通常のメルカリアプリではなく「メルカリShops」での販売が推奨されるようになりました。食品販売には許可証の提出が必要です。つまり、無許可での販売はプラットフォームの規約上も禁止されているということです。
どのプラットフォームを選ぶにしても、「保健所の営業許可証」の提出が求められる流れになっています。先に許可取得を済ませておくのが最優先です。販売前の確認が大前提です。
SNSと組み合わせる方法も効果的です。InstagramやX(旧Twitter)でスパイスレシピや使い方を発信し、自分のネットショップへ誘導する流れは、固定ファンを作りやすい戦略として実績があります。
許可を取って販売を始めたあとも、衛生管理と品質管理を継続的に行うことが重要です。これを怠ると食中毒や品質トラブルが発生し、せっかくのビジネスが信頼を失う原因になります。
スパイスは乾燥していて安全に見えますが、粉末スパイスは湿気を吸収しやすく、保存環境が悪いとカビが繁殖しカビ毒(アフラトキシンやオクラトキシンA)が生成されることがあります。国際規格(Codex)やEU規制でもカビ毒は厳格に規制されており、スパイスが意外と繊細な食品であることがわかります。意外ですね。
製造時の衛生管理として、最低限徹底すべき点は次のとおりです。
- 製造前の手洗い・使用器具の洗浄・消毒の徹底
- 体調不良時(発熱・下痢など)には製造しない
- 密閉容器と遮光包装による品質保持
- 高温多湿を避けた原料・完成品の保管(直射日光・コンロ周辺・シンク下はNG)
- 製造ロットごとの記録管理(いつ、どこで、何を使って作ったかのメモ)
粉末スパイスの賞味期限は開封前であれば約1〜2年が一般的な目安ですが、ブレンド品の場合は最も劣化の早い原材料に合わせて設定します。販売前に自社での保存試験を行い、科学的な根拠を持って期限を設定するのが理想的です。
製造ロットの記録は、万が一クレームや食中毒が発生したときのトレーサビリティに直結します。「どのロットでどの原材料を使ったか」が追跡できる記録を残しておくことが、消費者への誠実な対応にもなります。これが原則です。
衛生管理の仕組みを整えた上で、HACCPの考え方(危害分析・重要管理点)を意識すると、さらに安全なものづくりにつながります。HACCPの基礎知識は厚生労働省のWebサイトから無料で学ぶことができます。確認する価値があります。
消費者庁「食品表示ガイド」(PDF):食品表示の基礎知識を確認できる公式資料