亀田製菓の「柿の種」を不買運動で避けると、代わりに買える国産米菓が実はほとんどない。
亀田製菓は2022年6月、それまで代表取締役会長CEOを務めていた田中通泰氏と、社長COOの佐藤勇氏がそろって退任し、新たにジュネジャ・レカ・ラジュ氏が会長CEO、髙木政紀氏が社長COOに就任するという、大きな経営体制の刷新を行いました。スーパーのお菓子コーナーで必ずといっていいほど目にする柿の種やハッピーターンのメーカーが、なぜこのタイミングで体制を一変させたのでしょうか。
そもそもの背景には、国内米菓市場が「成熟期」に差しかかっていたという事実があります。亀田製菓は国内米菓市場で約30%のシェアを誇るリーディングカンパニーですが、日本の人口減少が続く中で、国内だけを見ていては長期的な成長に限界が見えてきていました。つまり、現状維持では縮小するということです。
こうした状況を打開するために、亀田製菓が打った手が「グローバル・フード・カンパニー」への転換宣言でした。米菓を軸にしながらも食品全体に事業を広げ、海外市場を本格的に開拓していくという方針のもと、国際ビジネスの経験が豊富なジュネジャ氏を会長CEOとして前面に据えたのです。これが原則です。
一方、日常の国内事業の運営は、1990年に亀田製菓に入社し現場をくまなく歩んできた髙木政紀氏が社長として担う「二頭体制」を選択しました。海外戦略とブランドのグローバル展開はジュネジャ会長、国内事業の安定した運営は髙木社長というすみ分けがなされています。
| 役職 | 人物 | 就任年 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 代表取締役会長CEO | ジュネジャ・レカ・ラジュ | 2022年6月 | グローバル戦略・ブランド |
| 代表取締役社長COO | 髙木政紀 | 2022年6月 | 国内事業・オペレーション |
この体制転換は「外国人を社長にした」という単純な話ではありません。国内担当と海外担当を分担させる、合理的な経営判断だったといえます。
「なぜ外国の方を?」と思う方は多いかもしれませんが、ジュネジャ・レカ・ラジュ氏の経歴を見れば、その選択が非常に理にかなっていることがわかります。意外ですね。
ジュネジャ氏はインド・ハリヤナ州の出身ですが、1984年に大阪大学工学部に研究員として来日して以来、実に40年以上にわたって日本で暮らし続け、日本国籍を取得した帰化日本人です。日本語も堪能で、日常生活はほぼ日本人と変わりません。
その後、名古屋大学大学院で博士課程を修了し、食品原料メーカーの太陽化学では代表取締役副社長を、ロート製薬では取締役副社長兼最高健康責任者(CHO)を歴任するなど、バイオテクノロジーと食品分野の両方に精通した希有な人材です。豊富な実績が条件です。
亀田製菓との縁は、前会長の田中通泰氏が「2050年に向けた経営会議」の場でジュネジャ氏に意見を求めたことから始まりました。そのとき、ジュネジャ氏は「亀田製菓はなくならない会社です。人が生きるためには必ず食がいる。一度食べたらまた食べたくなる美味しさと食感を持っている会社です」と答え、この発言が田中前会長の心をとらえました。直接入社オファーにつながったのです。
さらに、ジュネジャ氏は入社前から「亀田の柿の種」の大ファンで、インドや海外出張の際にはお土産として必ず柿の種を持参していたといいます。訪れる国どこでも喜ばれたという経験が、米菓の海外展開可能性を確信させていました。これは使えそうです。
副社長として2020年に入社してから2年間、全国の工場や拠点を回って社員一人ひとりに挨拶し、「私が全社員の生活を背負う」という覚悟を直接伝えました。外国人経営者に不安を抱く社員への配慮を自ら行動で示したのです。
亀田製菓がどのように社長交代を繰り返してきたかを知ると、2022年の交代がいかに「流れの中の必然」だったかが見えてきます。
創業者の古泉榮治(こいずみえいじ)氏は、1946年に新潟県亀田町で水あめの委託加工からスタートし、その後米菓製造へとシフトして大成功を収めました。「女性や子供にも喜びと潤いを届けたい」という創業の精神は、今の亀田製菓にも脈々と受け継がれています。
| 年 | 社長 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1957〜1983年 | 古泉榮治(創業者) | 創業・米菓シフト |
| 1983〜2000年 | 古泉肇(2代目・創業者の息子) | 東証上場・拡大期 |
| 2000〜2006年 | 金津猛(初の社外系プロ経営者) | 赤字からの構造改革 |
| 2006〜2015年 | 田中通泰 | 海外展開の基盤整備 |
| 2015〜2022年 | 佐藤勇 | グローバル加速の準備 |
| 2022年〜 | 髙木政紀(現社長) | 国内事業・北米構造改革 |
注目すべきは、2000年に初の「世襲ではない社長」として金津猛氏が就任した時点です。このとき亀田製菓は創業以来初めての営業赤字を経験しており、「家族経営から脱して実力主義で会社を立て直す」という大きな転換が起きました。これが原点です。
その後も約6〜9年ごとに社長が交代するサイクルが続き、2022年にはグローバル戦略に特化した人材を会長に招くという「最大の転換」を迎えます。世襲制からプロ経営者への移行という長年の流れが、今の形を生んだということですね。
ちなみに、創業家の血筋は現在も会社に残っており、古泉榮治氏の孫にあたる古泉直子氏が常務取締役として活躍しています。スタンフォード大学で学んだ後、商品開発部門を長年率い、腎臓病患者向けの「低たんぱく質米飯」など亀田製菓らしい革新的な商品の開発にも貢献しています。
2024年12月、スーパーで亀田製菓の商品を手に取りながら「やめておこうかな」と思った方は少なくないかもしれません。きっかけはジュネジャ会長のインタビュー記事でした。AFP通信が「インド出身の亀田製菓会長『日本はさらなる移民受け入れを』」という見出しで配信したところ、SNSで大炎上し、株価も一時下落しました。
しかし、この騒動には重要な背景があります。ジュネジャ氏が実際に発言したのは「外国人材の活用を進めるべき」という内容であり、「日本に移民を受け入れよ」という直接的な発言は、動画を確認すると含まれていませんでした。タイトルと実際の発言内容が乖離していたということです。
さらに炎上に「燃料」を加えたのが、一部商品が「中国産の原料」を使用しているという情報でした。ただし、これも亀田製菓が長年続けている調達戦略であり、2024年に突然始まった話ではありません。
実際の消費行動への影響についても、データが語っています。日経POSデータのせんべいカテゴリーの週次販売金額シェアを見ると、炎上前後で亀田製菓のシェアに実質的な変化はほとんどなかったことが確認されています。つまり、SNS上の大騒ぎとは裏腹に、実際の購買行動を変えた人は極めて少数だったということです。
情報を受け取るときは「誰が」「何のために」発信しているかを意識することが大切です。SNSで拡散する情報がすべて正確とは限りません。これに注意すれば大丈夫です。
「社長交代の話はわかったけど、私たちの日常の買い物にどう関係するの?」と感じる方もいるでしょう。実は、会長交代以降の亀田製菓の動きは、私たちの身近なところにも影響を及ぼしています。
まず商品面での変化として、ジュネジャ会長が就任後に強調してきたのが「柿の種に依存しない」戦略です。柿の種とハッピーターンという国内の定番商品に頼るだけでなく、健康志向の新商品や海外向け商品ラインの拡充に力を入れています。米菓はアレルギーが出にくく、グルテンフリーとしても海外市場で評価が高まっており、この強みを活かした展開が進んでいます。
業績面では、2025年3月期の連結決算で売上高1,032億円(前年比8.1%増)、営業利益55億円(前年比23.1%増)と増収増益を達成し、海外事業は営業黒字に転換しました。炎上騒動があったにもかかわらず、業績は堅調に推移しています。グローバル戦略は着実に実を結んでいるということですね。
また、ジュネジャ会長が就任後に進めてきた「ライスイノベーション(米の革新)」というビジョンのもと、お米を原料にした健康食品やタンパク質ゼロの低糖質スナックなど、ママ層にも注目されやすい商品開発も進んでいます。
日常の買い物で亀田製菓の商品を手にとるとき、背景にはこうした大きな経営戦略があることを知っておくと、商品を選ぶ目線も少し変わるかもしれません。いい視点ですね。
なお、商品の原産国表示が気になる方は、各商品パッケージの裏面に原材料産地の記載がある場合があるほか、亀田製菓の公式サイトでも商品情報を確認できます。購入前に公式ページで確認するのが確実です。
亀田製菓2025年3月期決算の詳細(増収増益・海外事業黒字転換について)