亀山洋医師が拓く精神科と心臓医学の新境地

東京慈恵会医科大学の亀山洋医師は、気分障害・老年精神医学・臨床精神薬理学に加え、心臓電気生理学まで専門とする異色の精神科医。その研究は向精神薬の安全な使用や認知症BPSDの病態解明に及ぶ。医療従事者が知っておくべき最新の知見とは?

亀山洋医師が示す精神科と心臓医学の融合の最前線

精神科外来で心電図を定期的に取らなくても問題ないと思っているなら、患者が突然死するリスクを見落としているかもしれません。


🔍 この記事の3ポイント
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精神科医が不整脈心電学会に所属する理由

亀山洋医師は精神科医でありながら日本不整脈心電学会にも所属。向精神薬によるQT延長と突然死リスクを心臓電気生理学の視点から研究する、国内でも希少な存在です。

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早期アルツハイマー病の攻撃性と前頭葉の非対称性

亀山医師らの研究で、早期アルツハイマー病における攻撃的BPSDが右前頭葉の相対的萎縮と有意に相関(r=0.235, p=0.009)することが多施設共同データベースから明らかになりました。

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向精神薬の安全な使用に向けた臨床研究

気分障害・老年精神医学・臨床精神薬理学を専門とし、妊娠期や老年期という特定のライフステージにおける最適な薬物療法の確立に取り組んでいます。


亀山洋医師のプロフィールと専門領域の全体像

亀山洋医師(Hiroshi Kameyama)は、東京慈恵会医科大学精神医学講座の講師であり、東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科に在籍しています。2017年に同大学精神医学講座の助教に就任し、2025年4月より講師に昇進しています。医学博士号を取得しており、精神医学の第一線で研究・診療両面から活躍する実力派の医師です。


専門領域は幅広く、気分障害・老年精神医学・臨床精神薬理学・精神科一般という精神医学の核心的な分野を網羅しているだけでなく、心臓電気生理学という異色の専門を持ちます。これは、精神科医としては国内でも非常に珍しい組み合わせです。


所属学会・資格は以下のとおりです。


- 日本精神神経学会(専門医・指導医)
- 日本総合病院精神医学会
- 日本老年精神医学会
- 日本うつ病学会
- 日本神経精神薬理学会
- 日本不整脈心電学会
- 精神保健指定医
- 医学博士


精神科医でありながら日本不整脈心電学会に属しているという点が、亀山医師の診療・研究を特徴づける最大の要素です。つまり、心電図から読み取れるリスクを精神科臨床に橋渡しする、日本でも稀な視点を持つ医師ということですね。


2025年6月に開催された第121回日本精神神経学会学術総会では、「精神科通院日に施行した心電図所見と外来通院中の精神科入院、自殺行動の関係」という演題で発表を行い、優秀発表賞を受賞しています。これは、その研究の独自性と臨床的意義の高さを示す重要な実績です。


東京慈恵会医科大学精神医学講座 亀山洋医師プロフィール(専門領域・所属学会一覧)


亀山洋医師の研究①——心電図が精神科外来での入院・自殺リスクを予測する

亀山医師の研究の中でも、医療従事者にとって最も実践的なインパクトを持つのが、精神科外来と心電図の関係性に関する一連の研究です。


まず基盤となるのが「精神科外来受診患者における心電図上の早期再分極所見と臨床所見との関連」です。早期再分極(Early Repolarization)は、これまで良性所見として扱われることが多かった心電図所見ですが、近年では一部のタイプが突然死リスクと関連することが報告されており、精神科患者への影響は未解明な部分が多い領域でした。


さらに亀山医師らは研究を発展させ、「初診日の早期再分極所見と通院中の精神科入院・自殺行動の関連に対する予備的研究」を実施しました。これは見逃せない成果です。精神科の初診時に取得した心電図の所見が、その後の入院や自殺行動と関連している可能性を示す研究であり、もし臨床的に確立されれば、初診時の心電図検査がリスク層別化ツールとして機能し得ることになります。


加えて、第121回日本精神神経学会学術総会での優秀受賞演題「精神科通院日に施行した心電図所見と外来通院中の精神科入院、自殺行動の関係」では、定期的な外来受診の場で心電図を施行することの臨床意義が示されています。心電図が単なる安全管理ではなく、予後予測の手がかりになり得るという視点は、精神科診療の質を大きく変えうる発見です。


精神科クリニックでは心電計を設置していない施設も多いのが現状です。しかし少なくとも、向精神薬を長期処方している患者においては定期的な心電図検査の実施が推奨されています。亀山医師の研究はそのエビデンス基盤をさらに強化するものといえます。


日本精神神経学会 優秀発表賞受賞者一覧(亀山洋医師の受賞演題が確認できます)


亀山洋医師の研究②——早期アルツハイマー病のBPSDと脳の非対称性

認知症領域においても、亀山医師は重要な研究成果を発表しています。2024年2月にJournal of Alzheimer's Disease誌(オンライン版)に掲載された研究では、早期アルツハイマー病における攻撃的BPSDと脳の構造的非対称性の関係が明らかにされました。


研究の対象は、軽度のアルツハイマー病患者121例です。日本の多施設共同データベースからMRIデータおよび人口統計学的データを収集し、左右の大脳灰白質体積を比較することで脳の非対称性を評価しました。精神神経症状の評価にはNPI(Neuropsychiatric Inventory)を使用しています。


主な結果は以下のとおりです。


- 攻撃的な精神神経症状は、前頭葉の非対称性と有意に相関(r=0.235、p=0.009)
- 特に右側前頭葉の相対的萎縮が攻撃性と関連
- 多重比較の調整後も統計学的有意性は維持(p<0.01)
- 感情症状・無関心など他のBPSDサブタイプには有意な相関なし


これが臨床的に意味するのは、同じ軽度アルツハイマー病患者でも、右前頭葉に相対的な萎縮が見られるケースでは攻撃性リスクが高い可能性があるということです。画像所見とBPSDを結びつけるアプローチとしては非常に重要な方向性ですね。


認知症患者の攻撃的行動は、介護者の心身に多大な負担を与え、患者本人の予後も悪化させる要因となります。原因を「認知症だから」と一括りにせず、脳画像の非対称性という客観的指標と関連づける研究は、個別化ケアや治療介入の精度を高めるための基盤となります。


医療従事者としては、アルツハイマー型認知症患者に攻撃性を認めた際、その背後に前頭葉病変の非対称性があり得るという視点を念頭に置くことが、より精緻なアセスメントへとつながります。


CareNet:早期アルツハイマー病における攻撃的行動と脳の変化(亀山洋氏らの研究紹介)


亀山洋医師の研究③——向精神薬の適正使用と臨床精神薬理学

亀山医師が所属する東京慈恵会医科大学精神医学講座の薬理生化学研究会では、向精神薬の適正使用に関する臨床研究が継続的に進められています。亀山医師はそのコアメンバーとして複数の研究に筆頭著者・責任著者として貢献しています。


研究テーマの一つが、抗精神病薬の世代間併用が行われた精神病性障害における抗コリン薬の処方実態です。抗精神病薬の多剤併用はしばしば行われますが、第一世代と第二世代の抗精神病薬が併用された場合に抗コリン薬がどの程度、どのような形で処方されているのかを実態調査した研究です。薬剤数が増えれば副作用リスクも複雑化します。これは処方の質を問い直す視点です。


向精神薬によるQT延長については、精神科医療における重大な安全問題として認識が広まっています。特にQTc値が500msを超える場合、TdP(トルサード・ド・ポワント)などの致死的不整脈を誘発するリスクが高くなることが知られています。亀山医師が心臓電気生理学を専門とする背景には、この向精神薬と心臓リスクの接点を正面から扱うという問題意識があります。


また研究グループでは、睡眠薬の減薬を目的とした睡眠森田療法プログラム(MT-i)の開発も行っています。これは薬物療法に依存しない非薬物的アプローチとして、過剰な睡眠薬処方という現代的な課題に対応するものです。ベンゾジアゼピン系薬剤の長期処方が依存形成のリスクを持つことは広く知られており、減薬を支援するプログラムの確立は医療の質向上に直結します。


さらに、妊娠や老年期などのライフステージに寄り添った向精神薬の最適な使用法についても研究が進んでいます。精神疾患を抱えながら妊娠・出産を経験する患者に対し、胎児への影響を最小化しながら母体の精神状態を安定させるという難題は、現場の医療従事者が常に直面する課題です。エビデンスに基づいたガイドラインの整備が求められる分野ですね。


亀山洋医師の独自視点——「精神科医が心電図を読む」ことの臨床的意義

亀山医師の存在が際立つのは、精神医学と心臓電気生理学という一見無関係に見える二つの領域を橋渡しする点にあります。この独自の視点は、精神科臨床の現場に具体的な恩恵をもたらすものです。


精神科の外来では、長期にわたる向精神薬の処方が行われます。そのなかには、QTc延長を引き起こすリスクが知られている薬剤が多数含まれています。たとえばハロペリドール、クエチアピン、スルトプリドなどの抗精神病薬、あるいはアミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬は、心電図への影響が報告されている代表的な薬剤です。QTcが440msを超える状態をQT延長症候群と呼び、500msを超えると重篤な不整脈リスクは大幅に高まります。


精神科クリニックの中には心電計を設置していない施設も珍しくありません。しかし亀山医師の研究が示すのは、心電図が「薬剤副作用の確認」に留まらず、「将来の入院・自殺行動リスクの予測」にも関与し得るという可能性です。これは精神科診療における心電図の位置づけを大きく変え得る視点と言えます。


また、精神科の初診患者に心電図を取ることは、後の治療戦略を左右するベースライン情報の取得としても意義があります。初診時に早期再分極や基礎的QTc延長を確認しておけば、投薬選択の際にリスクを事前回避できます。これがどれだけ臨床的価値を持つかは、明らかです。


亀山医師が第71回日本不整脈心電学会総会に招待演者として登壇していることも、精神科領域と循環器領域の両面から高い評価を受けている証左です。一人の医師が精神科専門医・指導医でありながら不整脈の学術総会で招待講演を行うというのは、極めて異例の実績といえます。


精神科に携わる医療従事者が向精神薬の処方に際し、「心電図のQTc値を確認する」という一手間を習慣化するだけで、見えないリスクを回避できる場面は多いはずです。亀山医師の研究は、その習慣化を後押しするエビデンスを積み上げているといえます。


精神神経学雑誌:抗うつ薬による心電図QT延長への対応(精神科での心電図管理の重要性を詳説)


抗精神病薬によるQTc延長症候群の解説(QT延長が突然死リスクと結びつくメカニズム)


亀山洋医師に学ぶ医療従事者向け実践的まとめ

亀山洋医師の研究と臨床哲学から、医療従事者が実務に活かせるポイントを整理します。


向精神薬を処方または管理する立場にある医療従事者にとって、心電図の視点を取り入れることは、患者安全の観点から今後ますます重要になります。以下にその実践ポイントをまとめます。


- 心電図検査の習慣化:向精神薬を開始・変更する際、および長期処方中の定期フォローとして心電図を取得し、QTc値を確認することが基本です
- QTcのリスク閾値を把握する:440ms以上でQT延長を認識し、500ms超は重大リスクとして対応が必要です。これは心臓電話ハガキの横幅(約10cm)より短い数値の話ではありますが、ミリ秒単位の差が生死を分けます
- アルツハイマー型認知症患者の攻撃性評価:BPSDとして攻撃性が出現している場合、前頭葉の画像所見を参照することで個別化ケアに活かせます
- 向精神薬の多剤併用を見直す視点:特に第一・第二世代抗精神病薬の世代間併用に際しては、抗コリン薬の不必要な追加がないか確認することが重要です
- ライフステージに応じた薬剤選択:妊娠中・授乳中・老年期の患者には、リスク・ベネフィットを個別に評価した上での薬剤選択が求められます


これらは全て、亀山医師の研究が明示的または暗示的に指し示している臨床上の重要事項です。


精神科医療において「こころ」を診るのは大前提ですが、「からだ」のリスク管理も同時に行うことが患者の安全を守ります。亀山洋医師が体現する精神医学×心臓電気生理学という複眼的視点は、現代の精神科医療が向かうべき方向性の一つを示しています。


精神科外来での心電図管理について、より詳しいエビデンスを把握したい場合は、日本精神神経学会のガイドラインや亀山医師が発表を行っている学術総会の抄録集なども参照することをお勧めします。