先発品のフオイパンより、後発品の方が薬価が高いケースがあります。
カモスタットメシル酸塩(camostat mesilate)は、日本で開発された経口蛋白分解酵素阻害剤です。先発品の名称はフオイパン錠100mg(小野薬品工業)で、1980年代に日本国内で承認されたロングセラー品になります。
フオイパンの作用機序は、膵液中のトリプシンや糜素(elastase)などのセリンプロテアーゼを阻害することにあります。膵臓から過剰に放出された蛋白分解酵素が自己消化を引き起こすのを抑制し、慢性膵炎の炎症症状・疼痛・アミラーゼ高値を改善します。つまり、酵素の「暴走」を止める薬です。
術後逆流性食道炎への効果もあります。胃切除術後などに食道内へ逆流した消化液中のトリプシンを阻害することで、胸やけ・逆流感・びらんを緩和します。消化管外科術後に使われることも多い薬と理解しておく必要があります。
有効成分のカモスタットメシル酸塩は体内で速やかに代謝され、活性代謝物である4-(4-グアニジノベンゾイルオキシ)フェニル酢酸(GBPA)として作用を発揮します。健康成人に200mg単回投与したとき、GBPAの最高血漿中濃度は投与後約40分で到達し、血漿中半減期は約100分です。これが基本です。
承認されている効能・効果は以下の2つのみです。
- 慢性膵炎における急性症状の緩解:通常1日量カモスタットメシル酸塩として600mg(6錠)を3回に分けて経口投与
- 術後逆流性食道炎:通常1日量カモスタットメシル酸塩として300mg(3錠)を3回に分けて経口投与
適応が「急性膵炎」ではなく「慢性膵炎における急性症状の緩解」である点は、処方時に確認すべき重要事項です。急性膵炎そのものへの保険適用はありません。
参考情報として、フオイパン添付文書および製品情報は小野薬品工業の公式情報をご確認ください。
KEGG Medicus(カモスタットメシル酸塩 製品情報):フオイパンの効能・用法・薬物動態・使用上の注意を網羅的に確認できます。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00051191
2025年4月1日適用の薬価改定以降、カモスタットメシル酸塩錠100mgの薬価は以下の通りです。これは覚えておけばOKです。
| 品名 | 会社 | 薬価(1錠) | 先発・後発区分 |
|------|------|------------|----------------|
| フオイパン錠100mg | 小野薬品工業 | 9.9円 | 先発品(☆) |
| カモスタットメシル酸塩錠100mg「サワイ」 | メディサ沢井製薬 | 10円 | 後発品(★) |
| カモスタットメシル酸塩錠100mg「ツルハラ」 | 鶴原製薬 | 10円 | 後発品(★) |
| カモスタットメシル酸塩錠100mg「JG」 | 日本ジェネリック | 6.6円 | 後発品(加算対象) |
| カモスタットメシル酸塩錠100mg「日医工」 | 日医工 | 6.6円 | 後発品(加算対象) |
| カモスタットメシル酸塩錠100mg「NP」 | ニプロ | 6.6円 | 後発品(加算対象) |
| カモスタットメシル酸塩錠100mg「トーワ」 | 東和薬品 | 6.6円 | 後発品(加算対象) |
(※薬価は2025年4月1日改定値。最新情報は厚生労働省薬価基準で要確認)
注目すべきは、「サワイ」と「ツルハラ」の薬価が先発品フオイパンを上回っている点です。意外ですね。
令和7年度薬価改定において、フオイパン錠100mgは引き下げを受けて9.9円となった一方、カモスタットメシル酸塩錠100mg「サワイ」「ツルハラ」は薬価維持(改定対象外)となり、10円のままに据え置かれました。その結果、診療報酬上の区分が「3(算定上の後発品)」から「★(先発品と同額または高い後発品)」に変更されています。
この薬価逆転の影響は2つあります。まず、後発医薬品調剤体制加算の算定上、「★」の後発品は後発品使用割合の計算から分子・分母ともに除外されます。次に、フオイパン錠100mgが選定療養の対象外(☆)となったため、患者が先発品を希望してもフオイパン100mgについては追加の選定療養費が発生しません。選定療養の仕組みは確認が必要です。
参考:令和7年度薬価改定で算定から除外された後発品一覧(薬剤師向け解説ブログ)
https://yakuzaishi.love/entry/令和7年度薬価改定で算定から除外された後発品一覧
後発品の承認審査において、カモスタットメシル酸塩錠は「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に基づく試験を実施し、フオイパン錠100mgとの生物学的同等性が確認されています。これが原則です。
生物学的同等性試験では、主として以下の3つの薬物動態パラメータが評価されます。
- AUC(血中濃度時間曲線下面積):吸収総量の指標
- Cmax(最高血中濃度):ピーク濃度の指標
- Tmax(最高血中濃度到達時間):吸収速度の指標
日本ジェネリック製の「JG」やニプロ製「NP」などの後発品は、それぞれ独自に実施した生物学的同等性試験でフオイパン100mgと同等と判定されています。有効成分の吸収プロファイルに実質的な差はないということですね。
ただし、先発品と後発品で異なるのは添加物(賦形剤・コーティング剤など)です。例えば、コーティング剤、滑沢剤、崩壊剤の種類・量が各社で異なります。こうした差は原則として有効性・安全性に影響しないとされていますが、過敏症歴のある患者では添加物成分の確認が求められる場合があります。
溶出試験についても各後発品メーカーは先発品との同等性を確認しており、崩壊・溶出挙動はいずれの試験液においても同等と判定されています。つまり吸収の面では大きな差はありません。
参考:カモスタットメシル酸塩錠100mg「NP」生物学的同等性試験資料(ニプロ)
https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=01510000001QK8kAAG
カモスタットメシル酸塩製剤を処方・調剤する際に知っておくべき重要な取り扱い上の注意があります。見落としがちな項目で、特に多剤処方の患者に関わる医療従事者には必須の知識です。
添付文書の「14. 適用上の注意」には明記されています。
> 本剤とオルメサルタン メドキソミル製剤等との一包化は避けること。一包化して高温多湿条件下にて保存した場合、本剤が変色することがある。
変色が起きるのはカモスタットメシル酸塩製剤側です。厳しいところですね。
安定性試験の結果によれば、30℃・75%RH(相対湿度)という高温多湿条件下では約2〜3ヶ月で極淡い紅色に変色することが確認されています。これは「夏場の保管」や「一包化後の長期在庫」を想定すると現実的なリスクです。病棟やグループホームなど、温湿度管理が必ずしも万全ではない環境で一包化調剤を行う場合は特に注意が必要になります。
注意すべき薬剤の組み合わせは「オルメサルタン メドキソミル製剤等」と記載されており、「等」という表現が含まれています。これはオルメサルタンのみならず、同様に変色リスクを持つ他の医薬品との組み合わせにも注意が必要であることを示しています。高血圧と慢性膵炎・術後食道炎を合併した患者では、ARB系降圧薬との同時処方が少なくないため、一包化の可否を確認するプロセスが調剤設計上のポイントになります。
対応策としては、一包化が必要な患者に対しては薬包ごとの分離保管を指導するか、一包化を行わない選択肢を検討することが実務的です。電子薬歴システムや調剤支援ソフトの「禁忌薬品組み合わせチェック」機能に本組み合わせが登録されているか確認しておくと、調剤過誤の防止につながります。確認は一度やっておけば安心です。
また、PTP包装から取り出して服用するよう患者指導することも添付文書で求められています。誤嚥によるPTPシート刺入事故を防ぐための指導です。高齢患者が多い慢性膵炎の患者層では特に注意が必要な点です。
参考:カモスタットメシル酸塩錠100mg「JG」添付文書(一包化禁忌の記載確認に有用)
https://meds.qlifepro.com/detail/3999003F1300/カモスタットメシル酸塩錠100mg「JG」
カモスタットメシル酸塩は、COVID-19パンデミック期に注目を浴びた薬です。2020年、ドイツ・ゲッティンゲン大学のグループがSARS-CoV-2の細胞侵入に必要なセリンプロテアーゼ「TMPRSS2」をカモスタットが阻害することを培養細胞実験で報告しました。TMPRSS2はウイルス表面のスパイクタンパク質を切断し、宿主細胞との膜融合を助ける酵素で、フオイパンがその働きを抑える可能性が示されました。
小野薬品工業は2020年6月にフオイパン錠100mgを用いたCOVID-19対象の臨床試験(承認用量を超えた高用量での第2/3相試験)を開始しましたが、同年7月に有効性の見込みが得られないとして試験を中止しています。臨床試験では有意な有効性を示すには至りませんでした。
医薬品供給の面でも変化がありました。後発品メーカーの供給不安定が問題となった時期があり、実際に「エルデカルシトール、オロパタジン、カモスタットは先発品も納品されない状態」との現場報告が業界内で記録されています。後発品不足問題は業界全体の課題として認識されており、仕入れ先を複数確保するなどの対応が現場では取られてきました。
処方実態としては、慢性膵炎は長期的な治療管理が必要な疾患です。通常1日6錠(600mg)を3回に分服するため、コンプライアンスが課題になりやすい病態でもあります。カモスタットメシル酸塩は食前・食後のどちらでも服用できますが、食前投与の方が膵酵素活性化を早期に抑制できるとの考え方もあり、患者ごとの服薬習慣に合わせた指導が継続的なアドヒアランス維持につながります。
後発医薬品の使用促進政策の中で、カモスタットメシル酸塩錠はジェネリック普及が進んだ成分の一つです。2024年末時点の協会けんぽにおける後発品使用割合は全体で89.3%に達しており、こうした政策環境の中でフオイパン(先発品)の処方シェアは縮小傾向にあります。医療機関での後発品変更可処方が主流となっていますが、一部の患者からは先発品指定の希望もあります。先発品指定の場合の選定療養費の扱いは前述の通り確認が必要です。
今後の展望として、令和8年度(2026年)の薬価改定でも薬価逆転した「★」後発品の取り扱いや、選定療養の価格差算定基準の変更(現行の差額1/4から1/2への引き上げを検討中)など、制度の変化が予想されています。医療従事者として、薬価情報・算定区分の変更には定期的なキャッチアップが不可欠です。
参考:厚生労働省 令和8年度薬価改定について(制度改定の最新情報はこちらで確認できます)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001596964.pdf