高齢者の肺炎のうち、実に7割以上が誤嚥性肺炎であることが報告されています。誤嚥は加齢による嚥下機能の低下が主な原因ですが、適切なトレーニングと食事時の工夫によって予防することが可能です。毎日の食事作りに気を使う主婦の方々にこそ知っていただきたい、家族みんなで取り組める誤嚥予防の方法をご紹介します。
参考)https://neurotech.jp/rehabilicenter/rehabiliblog/basic-food-free-training-for-dysphagia/
嚥下体操は嚥下に関わる首や肩、口腔器官の筋肉を強化し、飲み込む力を高めるための訓練です。食事の前の準備運動として行うことで、誤嚥性肺炎の予防に効果が期待できます。
参考)https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rehabilitation/enge-kiso.html
基本的な嚥下体操の流れは以下の通りです。
参考)https://www.tmhp.jp/kikou/iryokenkou/minnanoiryokenkou_column_pneumonia.html
この一連の体操を鏡を見て確認しながら行うことで、より効果的に筋肉を動かすことができます。1回5分程度、1日2セット(朝食前・おやつ前など)を目安に継続することが推奨されます。
参考)https://keyakidc.com/tongue-twisters-for-swallowing-rehab/
口腔ケアは誤嚥性肺炎予防において非常に重要な役割を果たします。食べ物のカスが残存していると歯垢や歯石、舌苔となって細菌の増加を招き、これらの細菌が気管に入ることで誤嚥性肺炎を引き起こします。
唾液の処理能力に注目することも重要なポイントです。健康な成人で1日1〜1.5リットル分泌される唾液は、食事以外の時にも絶えず嚥下されています。咽頭期の機能が低下している方は、この唾液の嚥下がスムーズに行えず、のどの奥に多く貯留していたり、結果的に痰となって吸引が必要となることがあります。
参考)https://www.mouthpure.com/columns_c15/
口腔ケアの際には、歯や舌の清掃だけでなく、のどの唾液貯留や痰の増加がないかもチェックすることで、咽頭期の機能低下に早期に気づくことができます。
家庭での口腔ケアのポイント:
参考)https://www.toyonaka-clover-annex.com/faq/2366.html
咽頭期の機能低下の疑いがあれば、医師や歯科医師または言語聴覚士などに相談し、現在の食事内容や食べ方が安全かの評価や嚥下機能の向上に向けたトレーニングなどの提案をお願いしましょう。
頭部挙上訓練(シャキア・エクササイズ)は、喉頭の持ち上げに関わる喉頭挙上筋群を鍛え、嚥下時の喉頭の前上方運動を改善し食道入口部の開大を促進するトレーニングです。
具体的な方法は以下の通りです:
仰向けになり肩をつけたまま頭を少し持ち上げて1分間ほど挙上した状態を保ち、その後1分間休むという動作を3セット繰り返します。頭部を持ち上げてキープすることで嚥下時に重要な筋肉を強化し、誤嚥予防や嚥下機能の改善が期待され、食事を安全にとるためのサポートになります。
ただし、この頭部挙上訓練は首に負担がかかることがあるため、無理のない範囲で行うことが大切です。
代替法として「嚥下おへそ体操」があります:
座位など起きた姿勢で、額に手を当てて徒手抵抗を加えた状態でおへそをのぞき込むように頭部を前に傾けます。この体操には5秒間持続的に行う持続法と、数をかぞえながら何回か首を傾ける反復法があります。対象者の身体機能に合わせて訓練方法や負荷量などを調整して行ってください。
あまり知られていないポイントとして、座位での足の位置が嚥下筋活動に影響することが研究で明らかになっています。足底をしっかり床につけることで、座位姿勢が安定し、嚥下に関わる筋肉の活動が適切に行われます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6820804/
早口言葉は唇から喉までをまとめて鍛えられる万能エクササイズです。1回5分、1日2セットでも誤嚥予防やコミュニケーション改善に大きく貢献します。
音別おすすめ早口トレーニング:
| 行 | 例文 | 主な狙い | 
|---|---|---|
| パ行 | パパパンダ、ママパンダ ジジパンダ、ババパンダ | 唇の弾力強化 | 
| タ行 | 裏の竹垣に誰竹立てかけた | 舌先と頬の連携 | 
| カ行 | 隣の客はよく柿食う客だ | 舌奥と軟口蓋のダイナミック運動 | 
| ラ行 | 裏庭には二羽、庭には二羽鶏がいる | 舌全体のスピードアップ | 
1回5分の安全ルーティン:
目安は1日2セット(例:朝食前・おやつ前)です。食前に行うと飲み込みがスムーズになり、食後の咳込みも減ります。
「パ・タ・カ・ラ」を1音ずつゆっくり5回発声してから、表のフレーズを30秒ずつ発声すると効果的です。速さより「大きな口・はっきり発音」を意識しましょう。
お孫さんがいる方は、一緒に早口言葉を言ってみたり、口を大きく動かしながら『ぱたから・ぱたから・ぱたから』のように音を繰り返したりすることが、噛む時や飲み込みに必要な口の動きや筋肉の動きをスムーズにする練習になります。
参考)https://kaigo.homes.co.jp/manual/healthcare/kaigoyobo/enge/
正しい食事姿勢は飲み込みやすくなり、誤嚥のリスクを低減できます。頭が後ろに倒れていると、あごや舌の動きが制限されてしまうため、食べ物を飲み込みにくくなります。
参考)https://selrea.co.jp/life/life05/
椅子に座っての食事姿勢のポイント:
参考)https://www.shinyuri-hospital.com/column/co-medical/column_riha_no52.html
足底をしっかり床につくようにすることで座っている姿勢が安定し、体に余分な力が入らずリラックスできます。
ベッド上での食事姿勢のポイント:
円背が強く姿勢の修正が難しい方は、背もたれの高い椅子を使用し、少し浅めに座り骨盤をやや後傾し、体を後ろに倒すことで顔が前を向き顎が引けた姿勢となります。椅子と背中の間にできる隙間はバスタオルやクッションなどを挟むことで安定した姿勢が得られます。
誤嚥予防において、家族の適切なサポートと声かけは非常に重要な役割を果たします。介助が必要な方には、優しく声をかけながらケアすることで、精神的な安心感も得られます。
誤嚥発生時の対応:
参考)https://www.ycota.jp/point/39307
誤嚥をしたら、顔を下に向けたまま、ゆっくり呼吸をするように声をかけましょう。激しくむせ込むと、呼吸ができなくなりパニックになってしまいます。背中をさすりながら、ゆっくり呼吸をするように促し、落ち着くまで見守りましょう。
背中をさする速度をスローテンポにすると、高齢者の方のパニックが落ち着き、声掛けも伝わりやすくなります。ご家族の方も、一緒にゆっくり呼吸をして、スローテンポで背中をさすってあげましょう。
食事ペースの調整:
参考)https://www.f-shinmizumaki.jp/storage/uploads/block/202412/20241219_140704.pdf
次々と食べ物を口に入れて一口量が多くなって誤嚥する事や、咽頭残留をクリアにする事ができないまま次の食べ物が入って誤嚥する事は、摂食ペースの調節で減らす事ができます。「一口に一回の嚥下」を心がけましょう。
嚥下の確認は喉仏の動きで確認します。嚥下が起きにくい場合には一口量を調節したり、声かけをして嚥下の意識化を促します。咽頭残留に注意し、残留が疑われる場合には、再度嚥下を促します。
嚥下障害がある方は、高齢であったり、栄養が足りていない場合も多く疲労しやすい状態です。疲労により嚥下機能も悪くなるため、急がせないようにし、疲労状態に注意します。疲れたら休憩をはさみ、時間がかかる場合は食事の回数を増やし、一回の食事量を減らすなどの考慮をします。
継続のための工夫:
参考)https://sunwels.jp/pdh/online/p-1926/
「できる範囲で毎日少しずつ」が長続きの秘訣です。誤嚥予防は毎日の積み重ねが大切であり、家族みんなで協力して予防に取り組めば、より効果的で負担も最小限にできます。小さな変化に気づいたときは、遠慮せずに医療従事者に相談し、専門的なアドバイスを受けましょう。
参考)https://kaigo.alsok.co.jp/care_story/archives/108
誤嚥性肺炎は、日常生活でのちょっとした工夫と継続的なケアによって予防できます。早めの対策と継続的なケアが、健康で安心できる毎日につながります。
健康長寿ネット「嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)」では、具体的な嚥下体操の実践方法が詳しく解説されています
新百合ヶ丘総合病院「食事姿勢を見直そう!」では、誤嚥予防のための具体的な姿勢調整方法が図解付きで説明されています