嚥下障害の症状や原因から誤嚥性肺炎の予防と対策まで解説

嚥下障害は食べ物や飲み物を飲み込みにくくなる症状で、むせや誤嚥性肺炎のリスクを高めます。初期症状や原因、高齢者の食事対策やリハビリ方法まで詳しく解説。あなたやご家族は大丈夫ですか?

嚥下障害の症状と原因

嚥下障害で現れる主な症状
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むせや咳

水分でむせやすくなり、食事中や食後に咳が出る症状が現れます

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飲み込みにくさ

食べ物がのどにつかえる感覚や、食事に時間がかかるようになります

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声の変化

食後に痰が絡んだようなガラガラ声になることがあります

嚥下障害の初期症状をチェック

嚥下障害の典型的な症状は、飲み込みにくい、むせるといったものですが、明らかな自覚症状がない場合も非常に多く見落とされやすいのが特徴です。食事中に感じる症状ではなく、夜間に咳こむようになった、発熱を繰り返す、体重が1か月で5%以上減少しているなどの症状で受診し、嚥下障害が原因だったというケースも少なくありません。
参考)摂食・嚥下障害の症状

水や汁物でむせやすくなるのは、水分が喉に流れ込むスピードが速く嚥下動作が追いつかないためです。食事が喉につかえる感覚は、嚥下に必要な筋収縮が弱まることで起こります。食後に喉が「ゼロゼロ」する湿った感じの声がれは、正常に嚥下すれば食べ物が入り込むことのない声帯に、食べかすや液体が乗った状態を示しており、誤嚥の一歩手前とされ注意が必要です。
参考)嚥下障害-意外と知らない|耳鼻咽喉科・頭頸部外科

症状の種類 具体的な内容 危険度
食事中の症状 よくむせる、咳が出る、食事を始めると痰が多く出る、飲み込みづらい ⚠️ 中
食後の症状 食後によく咳が出る、痰の中に食べ物が混じっている、がらがら声になる ⚠️⚠️ 高
全身症状 体重減少、発熱を繰り返す、脱水症状の出現 ⚠️⚠️⚠️ 最高

嚥下障害の原因と発症メカニズム

嚥下障害の多くは、飲食物を口腔から咽頭、食道を経て胃へ運ぶ過程のどこかに問題が起こることで生じます。原因は代表的なものである脳卒中のほか、口腔内の腫瘍、食道炎、神経疾患、認知症などさまざまで、嚥下に関係する組織や器官の構造に問題がある「器質的原因」、動きに問題のある「機能的原因」、精神的な要因で生じる「心理的原因」に大別されます。
参考)摂食嚥下障害の原因や症状、分類は?|お役立ち栄養コラム|森永…

特に脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、神経や筋疾患などで高い率で嚥下障害が起こります。また高齢者の肺炎のかなりの部分は、加齢による嚥下機能の低下による誤嚥によって引き起こされるともいわれ、高齢社会を迎えてその対応が重要な課題となっています。
参考)嚥下障害

摂食嚥下は食べ物を認知してから口から胃へ送り込む一連の動作で、先行期(食べ物を認知する)、準備期(咀嚼して飲み込みやすくする)、口腔期(舌で食べ物をまとめて咽頭に送る)、咽頭期(食べ物を咽頭から食道へ送る)、食道期(食べ物を食道から胃へ送る)の5段階に分けられ、各期ごとに嚥下障害が起きる原因が変わってきます。
参考)嚥下障害とはどんな病気?症状や原因・予防・治療方法を解説

嚥下障害で特に注意すべきむせこみの症状

むせこみは摂食嚥下障害を判断する貴重なポイントになります。気道に食物や水分が入りそうになると、健康な人は防御反応としてむせこみが起こり、水分や食物を気道の外へ追い出そうとします。したがって、日常的に食事でむせこみが起こる場合、あるいは自身の唾液でのむせこみが多いということは、飲み込む過程での問題が生じているということになり、嚥下障害を見極める重要なポイントとなります。​
固いもの、ぱさついたもの、まとまりのないもの、固形物と水物の混合したものは飲み込みにくい食べ物であり、食事に時間がかかるようになります。誤嚥の有無はのみ込んだあとの咳や、食後によく痰が出るなどからも判断できます。​
気道反射の低下している場合には、むせは認められず、さらに肺炎を起こしやすい状況になるので注意が必要です。高齢になると「むせこむ」という反射が弱くなり、気づかないうちに誤嚥していることがあり、特に臥床している時間が長い、脳梗塞などの既往により麻痺があるような場合は注意が必要です。​

嚥下障害と誤嚥性肺炎のリスク

嚥下障害が起こると、食物摂取障害による栄養低下と、食べ物の気道への流入である誤嚥による肺炎(嚥下性肺炎、誤嚥性肺炎)が問題になります。誤嚥は、食後に口腔内に溜まっていた食物が、臥床中などに気道に流れこむことで起きるケースが多いようです。​
誤嚥は、むせない場合も多いため、発熱などの症状によって、初めて誤嚥をしていたと気づく場合があります。誤嚥により発熱するのは、水や食物が気道から肺に入り込み、肺炎を起こすためです。なお、高齢者の嚥下性肺炎は、発熱などの症状が軽度のこともあります。​
経口での飲食が出来ない状態でも、細菌などを含んだ自分の唾液が気道を通じて肺に流れ込み、誤嚥性肺炎を起こすこともあります。肺炎すなわち誤嚥を防止するために、気管切開を行ったうえでカフ付きの気管カニューレという器具を装着することが必要な場合もあります。​

嚥下障害の診断とセルフチェック方法

摂食嚥下障害のセルフチェックとして、厚生労働省が公表している「口腔機能自己チェックシート」を用いることがあります。10項目のうち1つでも当てはまる場合は、摂食嚥下障害を起こしている可能性があるため、医療機関で相談することが推奨されます。​
健康長寿ネット「摂食・嚥下障害の症状」では、口腔機能自己チェックシートの詳細が確認できます
診断では、精神・身体機能も含めた全身状態をチェックし、次に口腔・咽喉頭の所見から、おおよその嚥下機能を判断します。舌の運動性は口腔期の食べ物の移動に、咽頭の知覚は咽頭期を引き起こすのに重要です。実際に食物などを嚥下させて誤嚥などを検出する検査には嚥下内視鏡検査があり、造影剤を用いて嚥下状態をX線透視下に観察する嚥下造影検査は、現在では最も信頼性の高い方法と考えられます。​
患者さん本人に自覚症状がないケースがある点に注意が必要で、肺炎を繰り返し、検査によって誤嚥を認めて摂食嚥下障害と気づくこともあります。また、口腔内に舌苔が付着していることを主訴として歯科を受診し、摂食嚥下障害と分かるケースもあります。​

高齢者の嚥下障害における食事の工夫と対策

高齢者は噛む力や飲み込む力が弱くなり、食べ物をうまく飲み込むことがしづらい嚥下障害になる人が増えます。スムーズに食べるには、食材選びや調理方法を工夫することが大切です。
参考)高齢者が食べやすい調理の工夫|介護用品レンタル ダスキンヘル…

高齢者が食べにくいものには、粘り気のあるもの(もち、団子など)、パサパサとして水分のないもの(パン、クッキー、ゆでたまごなど)、噛みきりにくいもの(タコ、イカ、厚切りの肉、こんにゃくなど)があります。一方、嚥下機能が低下した人が食べやすいものは、のどごしがよいもの(ゼリー、プリン、シチューなど)、とろみのあるもの(おかゆ、カレー、シチューなど)、口の中でバラバラになりにくいもの(うどん、にゅうめんなど)、適度な水分や油分が含まれているものです。​
飲み込みやすくする調理の工夫として、片栗粉を活用して煮汁にとろみをつけあんかけにしたり、汁物にとろみをつける方法があります。また、山芋やれんこんをすりおろしたり、オクラや納豆を包丁でたたいてとろみ付けの材料に使う方法も効果的です。油、生クリーム、練りごま、マヨネーズ等を使って食材をまとめ、のどの滑りをよくすることも重要です。
参考)嚥下訓練食について - 診療科・部門

ダスキンヘルスレント「高齢者が食べやすい調理の工夫」では、具体的な食材選びと調理方法が紹介されています
嚥下障害が軽度な場合には、誤嚥が起こりにくい様に、食べ物の形態を工夫します。水のようなものは誤嚥しやすいためトロミを付けることが代表的な対策です。トロミ剤とは飲み物や汁物に混ぜて、とろみをつけることができる粉末状の食品で、トロミをつけることで食べたものが口の中でまとまりやすく、誤嚥を防ぐことができるため、嚥下機能の低下した方が安全に食事をするために使用します。​

嚥下障害のリハビリと訓練方法の実践

嚥下障害のリハビリには、食べ物を使わない「間接訓練」と食べ物を使う「直接訓練」があります。間接訓練は、嚥下に必要な器官の機能を高めるための準備的な訓練で、食事前に行うことで誤嚥のリスクを軽減できます。
参考)嚥下障害のリハビリテーション(基礎訓練)

間接訓練の代表的な方法として、ガムやするめなどを使用して噛むために必要な筋肉を鍛える咀嚼訓練があります。頭部挙上訓練では、嚥下に必要な喉頭挙上を促すために、舌骨上筋群、喉頭挙上筋群の筋力強化を図ります。仰臥位で足の先を見るように頭を上げる方法で、一人で行うのが困難な方は介助者が頭を持ち上げて自動介助で行います。​
嚥下反射を促すために唾液を飲み込む練習(空嚥下)を行います。飲み込みが弱い方には、舌を前に突き出したまま空嚥下をする方法もあります。凍らせたスポンジで喉を刺激したり、氷を口に含んだりなどの冷却刺激や、チューブを鼻や口から通す刺激を与えて嚥下反射を誘発することもあります。​
食事前に行う簡単嚥下体操として、あごと首の境目の柔らかい部分を指で押してマッサージする顎下腺マッサージがあります。5か所ほど行うことで、顎下腺を刺激して、唾液の分泌量をアップさせます。口を閉じた状態で3回咳をする、口を開けた状態で3回咳をするという方法は、喉に残った食べ物を外に出して、食道をクリアにする練習です。大きな口を開けて、「わははは」と大きな声で3回笑う方法では、口を動かすだけでなく、笑うことで腹筋が鍛えられ誤嚥を防ぎます。
参考)【はじめての方へ】誤嚥(ごえん)を予防|自宅でできる嚥下リハ…

健康長寿ネット「嚥下障害のリハビリテーション」では、基礎訓練の詳しい方法が解説されています
直接訓練は安全に食べ物を口から食べられると判断された患者さんに行います。長期間食事を行っていなかった方の場合は、窒息や誤嚥を防ぐために、医師の指示のもとでおこなうようにしてください。具体的なトレーニングには、嚥下の意識化、交互嚥下、一口量の調整、体幹角度調整、複数回嚥下などがあります。
参考)【保存版】摂食嚥下障害の訓練・リハビリ方法を自宅でできるよう…

食事に集中できていない方、特に液体でむせる方には、普段無意識で行われる飲み込む動作を「意識する」ことで誤嚥を予防します。食事に集中できるよう環境を整え(テレビを消すなど)、飲み込むときに「はい、飲み込みましょう」など声かけをする方法が効果的です。​

嚥下障害における誤嚥予防の日常的な対策

誤嚥性肺炎に発展させないためには、誤嚥そのものを減らす工夫が必要です。ご家庭でも実践できる3つの方法として、食べる時の姿勢や角度に気をつける、食形態を工夫する、交互嚥下を取り入れるといった対策があります。
参考)嚥下障害と誤嚥性肺炎[学ぶ&ケア]

食べる時の姿勢や角度については、体や顔が傾かないようにクッションやタオルなどを使って支え、アゴを引いて頸部前屈の姿勢をとりましょう。この姿勢は誤嚥のリスクを軽減し、安全に食事をするために重要です。​
摂食ペースの調節も重要で、次々と食べ物を口にいれて一口量が多くなって誤嚥する事や、咽頭残留をクリアにする事ができないまま次の食べ物が入って誤嚥する事は、摂食ペースの調節で減らす事ができます。「一口に一回の嚥下」を心がけることが大切です。
参考)https://www.f-shinmizumaki.jp/storage/uploads/block/202412/20241219_140704.pdf

嚥下が起きにくい場合には一口量を調節したり、声かけをして嚥下の意識化を促します。咽頭残留に注意し、残留が疑われる場合には、再度嚥下を促すことが重要です。声掛けをすることで誤嚥のリスクが軽減します。​
嚥下障害がある方は、高齢であったり、栄養が足りていない場合も多く疲労しやすい状態にあります。疲労により嚥下機能も悪くなるため、急がせないようにし、疲労状態に注意して疲れたら休憩をはさむことが必要です。時間がかかる場合は食事の回数を増やし、一回の食事量を減らすなどの考慮をすることで、安全に食事を進めることができます。​
実際の食事では、ものを噛みながら(咀嚼)飲み込んでおり、単純な嚥下動作とは異なっており、よりむせやすくなります。咀嚼は嚥下にとっても非常に重要な動作であり、このことからも歯の大切さが理解できます。また、口腔内をきれいに保つ事は、嚥下性肺炎の軽減につながるとも言われ、常日頃心がけるべき事です。​