小さな実なのに、果肉の厚さは大梅とほぼ変わりません。
甲州最小(こうしゅうさいしょう)という名前を聞いたことがない方も多いかもしれません。別名「甲州小梅」とも呼ばれるこの品種は、山梨県を代表する小梅で、「甲州」は産地の山梨(旧・甲州)を、「最小」は小梅のなかでも特に小粒であることを意味しています。
ところが、「最小」という名前に反して、その果肉の厚さは食べごたえ十分です。1粒あたりの重さは4〜6g程度で、直径にすると約13〜18mm(500円玉の直径が約26mmなので、ちょうど半分くらいのイメージです)。この小粒の実のなかに、種がしっかり小さく収まっているため、果肉率がとても高いのが特徴です。
歴史的には、1917年頃に当時の園芸試験場長・恩田鉄弥氏が奈良市内から導入し、栽培が始まった品種です。奈良での来歴は不明な点が多いものの、古くから甲州・信州に広まっていたため「甲州」の名が冠されました。現在、山梨県は小梅の生産量が日本一で、昼夜の寒暖差が激しい甲府盆地の気候が、甲州最小の品質をとくに高めています。
産地・山梨では、江戸時代後期にはすでに特産品として記録が残っており、その歴史の長さも魅力のひとつです。
農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」でも紹介されているほど、甲州小梅漬けは日本の伝統食として認められています。
農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」甲州小梅の漬物(品種の歴史・製法・食文化を詳しく紹介)
甲州最小の梅は、使い方によって収穫時期が大きく異なります。これが意外と重要なポイントです。
まずカリカリ梅用に使う場合は、5月初旬〜中旬の青い実を収穫します。実がまだかたく、直径13〜18mm程度のときがベストタイミングです。このころの実はペクチンがしっかり残っているため、漬けたあともカリカリとした独特の食感が長続きします。逆に収穫が遅れて黄色くなってしまうと、ペクチンが分解されてしまい、カリカリ感が出にくくなります。収穫タイミングが命です。
梅干しや梅酒に使う場合は、5月下旬〜6月上旬の熟した実を待ちます。梅干し用であれば、実の緑色が薄れてわずかに黄色みを帯びてきたころが収穫サインです。甲州最小は早生品種なので、南高梅(6月下旬〜7月)に比べておよそ1ヶ月ほど早く収穫でき、梅仕事のシーズンを早めに楽しめるメリットがあります。
梅酒用なら完熟直前の青梅が最適です。実が黄色くなりはじめる前に摘み取ることで、フレッシュな酸味とフルーティーな香りが梅酒に移ります。吉岡国光園のデータによれば、やや早めに収穫すれば「核ごと食べられる」ほどやわらかく漬けられるため、まるごと楽しむ漬け梅にも適しています。
| 用途 | 収穫時期 | 実の状態 |
|---|---|---|
| カリカリ梅・漬梅 | 5月初旬〜中旬 | 青い・かたい(直径13〜18mm) |
| 梅酒 | 5月下旬〜6月上旬 | 青い・やや大きくなった実 |
| 梅干し | 5月下旬〜6月上旬 | わずかに黄色みを帯びてきた完熟実 |
カリカリ用は鮮度が命です。収穫したその日のうちに漬け込むと食感が格段に良くなります。時間をおくと実がやわらかくなってしまうため、できるだけ早く作業を始めましょう。
吉岡国光園「甲州最小小梅の苗木紹介ページ」(品種の熟期・収穫の目安・活用法を詳しく解説)
甲州最小の梅がカリカリ梅に最も向いている理由は、果肉がかたく、種が小さいからです。カリカリ食感の決め手になるのは「ペクチン」という成分で、未熟な青梅に豊富に含まれています。このペクチンをいかに分解させないかが、成功のカギになります。
そこで登場するのが「卵の殻」です。これはカリカリ梅の伝統的な秘訣のひとつで、一見すると不思議な組み合わせに思えますよね。卵の殻に含まれるカルシウムが、梅のペクチンと結合することで、実をやわらかくしようとするペクチンの働きを阻害し、カリカリ食感を長持ちさせる効果があります。農林水産省の伝統食図鑑でも、この卵殻を使う手法が正式な製法として記載されています。
基本的な作り方の流れは以下のとおりです。
塩の量が重要です。梅1kgに対して塩150g(15%)が基本の目安です。塩分を減らしすぎるとカビが生えやすくなるため、初めて作る場合は15%を守ることをおすすめします。
カリカリ食感にこだわるなら、漬け込み後も常に冷蔵保存が原則です。常温保存をするとカリカリ感が失われやすくなります。これは覚えておけばOKです。
赤しそを加えると「紫蘇漬けカリカリ梅」になり、色も鮮やかになります。赤しそ漬けにする場合は、白梅酢が上がった後にアク抜きした赤しそと酢を加えてひと混ぜするだけです。
甲州最小は、家庭での栽培のしやすさでも高く評価されている品種です。最大の理由は「1本でも実がなりやすい」点にあります。
梅の多くは自家結実性が低く、異なる品種を近くに植えないと実がつきにくい性質があります。しかし甲州最小は完全花(雌しべと雄しべの両方を持つ花)が多く、花粉も豊富です。そのため1本だけでも安定して実をつけることができます。もちろん、2本以上植えるとさらに収量は増えます。これが大きなメリットです。
加えて、甲州最小は花粉が多量にあるため、南高梅や白加賀など「自家受粉できない品種」の受粉樹としても大活躍します。梅園では必ずといっていいほど甲州最小のような花粉豊富な品種が混植されているほどです。
鉢植えで育てる場合のポイントをまとめます。
摘果(てきか)もポイントのひとつです。葉15枚に対して1果を目安に、4月下旬〜5月上旬の生理落果が終わったタイミングで余分な実を摘み取ると、残った実が充実して大きくなります。実をつけすぎると小粒で品質の低い実が増えてしまいます。葉15枚に1果が基準です。
苗木はホームセンターや通販で1,000〜3,000円程度で購入できます。接木苗であれば品種の特性が安定しており、結実までの年数も短くなります。
甲州最小の梅を加工して日々の食卓に取り入れると、さまざまな健康上のメリットが期待できます。梅の健康効果は科学的な研究でも注目されており、特に注目されているのがクエン酸、ポリフェノール(ウメリグナン)、有機酸の働きです。
梅1粒(約4〜6g)には約0.5〜1gのクエン酸が含まれています。クエン酸は体内のクエン酸回路(エネルギー代謝)を活性化し、疲労物質の乳酸が蓄積しにくくする働きがあります。暑い季節の家事や育児でたまった疲れに、梅を1粒食べるだけでも回復をサポートしてくれます。意外ですね。
さらに、甲州小梅には「ウメリグナン」と呼ばれるポリフェノールが含まれており、日本化学会の発表(2020年)でもその機能性が研究されています。抗酸化作用があり、日常的な健康維持に役立つ成分です。
ただし、塩分には注意が必要です。梅干し1粒(5g前後)に含まれる塩分は、塩分濃度15%で漬けた場合、約0.75g程度になります。厚生労働省の推奨する1日の塩分摂取量(女性は6.5g未満)に照らすと、1〜2粒であれば問題ありません。1日2粒が目安です。
最近では塩分を8〜10%に抑えた「減塩タイプ」の甲州小梅製品も市販されており、健康意識の高まりとともに選択肢が広がっています。手作りの際も、塩を減らす場合は必ず冷蔵保存を徹底しましょう。
一般財団法人梅研究会「梅に含まれる成分とその作用」(クエン酸・有機酸の機能性を詳しく解説)