実は「おいでまい」は、うどんで有名な香川県が2002年から10年以上かけて開発した、温暖化対策のために生まれたお米です。
「おいでまい」という名前を聞いて、最初はお米の名前だとわからない人も多いかもしれません。これは讃岐弁で「いらっしゃい」を意味する言葉で、「香川県で生まれたお米を多くの人に食べに来てほしい」という願いが込められています。お米の「まい(米)」とも掛け合わせた、遊び心のあるネーミングです。
誕生の背景には、香川県が抱えていた深刻な農業問題がありました。香川県内の水田は平野部に集中しているため、夏場は気温が上がりやすい環境です。当時、県内の水稲栽培面積の約半分を占めていた「ヒノヒカリ」は食味こそ良いものの、穂が出て熟れる時期に高温にさらされると、白く濁った粒(白未熟粒)が発生しやすいという欠点がありました。温暖化が進むにつれ、この問題はますます深刻になっていったのです。
そこで香川県は2002年から農業試験場で新品種の開発に着手しました。食味・品質ともに優れた「あわみのり」を母、食味の良い「ほほえみ」を父として人工交配し、約10年の歳月をかけて生まれたのが「おいでまい」です。2010年に香川県の奨励品種に採用され、2013年から本格的な栽培がスタートしました。
つまり「おいでまい」は偶然生まれたお米ではなく、気候変動と正面から向き合い、10年以上の研究の末に誕生した"戦略的なブランド米"です。
参考:農林水産省による「おいでまい」の普及・拡大事例(高温登熟性に優れた水稲新品種の紹介)
農林水産省|高温登熟性に優れた水稲新品種「おいでまい」の普及・拡大事例(PDF)
「おいでまい」の味の特徴を一言で表すなら、「あっさりとした喉ごしのなかに、じんわりとした甘みが広がる」お米です。これは重要なポイントです。
炊き上がりの見た目から印象的で、米粒の色が明るく、きれいなツヤが出るのが特徴です。よく比べられるコシヒカリがもっちり系・しっかりした甘みタイプであるのに対して、「おいでまい」はあっさり系の喉ごしで、粘りはコシヒカリに近いものの、食感はよりすっきりとしています。香川県が公表しているリーフレットには「一口目は控えめで、噛んでいるうちに甘みが出るタイプ」と記されており、噛むほどに旨味が広がる食べ方が楽しめます。
粒のサイズには丸みがあり、粒ぞろいが良いことも外観上の大きな特徴です。白飯の「外観・香り・味・粘り・硬さ・総合評価」の6項目を評価する食味ランキングにおいて、基準米(複数産地のコシヒカリをブレンドした基準米)より「特に良好」と判定されたのが「特A」評価であり、「おいでまい」はこの最高ランクを通算6回獲得しています。
これは意外ですね。うどんの印象が強い「うどん県・香川」から、新潟産コシヒカリと同じ土俵で戦えるブランド米が生まれたというのは、多くの人にとって驚きでしょう。
お米マイスターによれば「噛んでいるうちに甘みが出るタイプで、和・洋・中のどの料理にもOK。艶が良質で冷めてもうまい」という評価もあり、毎日の食卓で幅広く使いやすい品種です。
主婦の方が毎日のお弁当やおにぎり作りで気にするのが、「冷めてもおいしいかどうか」という点ではないでしょうか。「おいでまい」はこの点で特に高い評価を受けています。
冷めても美味しい理由は、うま味成分の豊富さと弾力性の維持にあります。お米が冷えると、デンプン(アミロースとアミロペクチン)が老化・硬化して食感が落ちます。しかし「おいでまい」は弾力のある食感が冷めた後も持続しやすく、香川県によれば「食感バランスが良く、冷めても食味値が高い」とされています。これが原則です。
具体的な活用例として、おにぎり・お弁当・酢飯・チャーハンなどが公式に推奨されています。酢飯への適性が高い点は特筆すべきで、これはすし酢をしっかり吸いながらも粒感を保てるためです。通常の白米に比べてすし飯にすると米粒がくっきりと立つことから、家庭でちらし寿司や手巻き寿司を作る際にも重宝します。
また、「おいでまい」は香川県内の多くの学校給食でも採用されているという事実があります。毎日大量に炊かれ、子どもたちが食べる学校給食の場で長年使われ続けているということは、品質の安定性と食べやすさの証明でもあります。学校給食では温かいご飯だけでなく、時間が経ったご飯を食べることも多いため、食感の持続性が評価された結果といえるでしょう。
冷めても美味しいお米を選ぶ基準として「アミロース含有量の低さ」「うま味成分の多さ」が挙げられます。おいでまいはこれらを兼ね備えた品種です。
近年、夏の猛暑が続くなかで「お米の品質が落ちた」「炊いたら白く濁った粒が混じっていた」という声が増えています。これは「高温障害」と呼ばれる問題です。
コシヒカリは高温に弱いとされており、2025年産の食味ランキングでは特A銘柄のコシヒカリが前年より3銘柄減少しました。一方で高温耐性のある銘柄は同年に27銘柄(前年24銘柄)と増加傾向にあり、「おいでまい」のような高温耐性品種への関心が高まっています。
「おいでまい」はヒノヒカリと比較して高温障害による白未熟粒の発生が明らかに少なく、玄米の外観品質が優れています。白未熟粒とは、十分に熟す前に高温で米粒内部の充実が止まってしまい、米粒の中心部が白く濁ってしまった粒のことです。炊飯後も白さが目立ち、食感が悪くなりやすいという問題があります。
「おいでまい」はこの白未熟粒の発生が少ないため、猛暑の年でも品質が安定しやすいのが強みです。
また、農家にとっても栽培しやすい特徴があります。草丈が短く倒伏しにくいこと、籾(もみ)の熟れムラが少ないことから、安定した収量と品質を確保しやすく、香川県内では生産者も年々増えています。主な栽培地域は丸亀市・綾川町・善通寺市・高松市・多度津町などで、令和6年産の栽培面積は約1,180haに達しています。
温暖化が進む現代において、高温に強いブランド米を選ぶことは、安定した食卓を守ることにもつながります。これは使えそうです。
参考:香川県農業試験場によるブランド米の詳細情報
香川県公式|さぬき米おいでまいの概要・特徴・取扱店舗情報
「おいでまい」の魅力はご飯として炊くだけにとどまりません。米粉として加工した「おいでまい米粉」にも、家庭料理に役立つ意外な使い方があります。
小麦粉と米粉の大きな違いの一つが「油の吸収率」です。農林水産省のデータによれば、揚げ物に使う衣を米粉で作った場合、小麦粉に比べて油の吸収率が約2割低くなるとされています。つまり同じ唐揚げでも、米粉衣で揚げるとカロリーを抑えながらカリッとした食感が長持ちします。これは健康面でのメリットが大きいですね。
おいでまい米粉は天ぷら・かき揚げ・お好み焼き・たこ焼き用の製品としても販売されており、ダマになりにくいという特性からも調理に使いやすい粉です。また、米粉パン用の製品もあり、もちっとした食感のパンを焼くことができます。日本経済新聞の報道によれば、「おいでまい」の米粉は従来の米粉に比べてふっくらと仕上がる独自の製法が採用されており、洋菓子やパンなどにも活用の幅が広がっています。
小麦アレルギーを持つご家族がいる場合や、グルテンフリーの食生活を取り入れたい場合にも、米粉は選択肢になります。ただし、パン用米粉は製品によってグルテンの有無が異なるため、アレルギー対応が目的の場合は成分表示を必ず確認することが条件です。
おいでまいをお米として楽しんだ後、米粉製品も取り入れることで、同じブランドを日常のさまざまな場面で活かせます。
参考:農林水産省による米粉の特性と活用方法の紹介
農林水産省|カラダにやさしい「米粉」の魅力(広報誌aff)