ポタコールR輸液を投与していても、患者の1日エネルギー必要量の約1割しか補えていない。
ポタコールR輸液の組成を正確に把握することは、臨床現場での適切な輸液管理の第一歩です。500mLの1袋に含まれる熱量は100kcal、250mLの規格では50kcalです。糖源はブドウ糖ではなくマルトース水和物(麦芽糖)であり、500mL中に25g含まれています。
マルトースが選ばれている理由は明確です。血糖値の急激な上昇を抑えられるからです。動物実験においても、ポタコールR投与時の血糖値上昇は「軽微」であり、インスリン分泌の増加もほとんど確認されていません。ブドウ糖輸液と比べてインスリン分泌刺激が少ない点が、臨床的な優位性として評価されています。
電解質組成は以下のとおりです。乳酸リンゲル液をベースとしており、細胞外液の組成に近く設計されています。
| 電解質 | 濃度(mEq/L) |
|---|---|
| Na⁺(ナトリウム) | 130 |
| K⁺(カリウム) | 4 |
| Ca²⁺(カルシウム) | 3 |
| Cl⁻(クロール) | 109 |
| L-Lactate⁻(乳酸) | 28 |
つまり、ポタコールRは「細胞外液補充+代謝性アシドーシス補正+わずかな熱源補給」の3役を担う輸液です。浸透圧比は生理食塩液に対して約2であり、等張より若干高い点も覚えておく必要があります。製剤の性状は無色澄明、pHは3.5〜6.5の範囲です。
参考:ポタコールR輸液の成分・組成・規格に関する公式情報(KEGG MEDICUS)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00055498
ポタコールR輸液を1本(500mL)投与しても得られるカロリーはわずか100kcalです。成人が1日に必要とする基礎エネルギー量はおよそ1,400〜1,800kcalであり、100kcalとはその約6〜7%に相当します。コンビニのおにぎり1個(約170〜200kcal)にも満たない量です。
末梢静脈栄養で1日に補給できるカロリーの上限は、一般的に300〜600kcal程度とされています。水分過剰を避けるために投与量に限界があるためです。日本の医療施設でのNSTニュースレターによれば、ポタコールRを1日に複数本投与しても、同様に末梢静脈栄養の限界量の範囲内に収まるとされています。それが条件です。
| 輸液製品(500mL) | 1本当たりのエネルギー |
|---|---|
| KN3B | 54 kcal |
| ポタコールR | 100 kcal |
| トリフリード | 210 kcal |
上表からわかるように、ポタコールRはKN3Bよりはカロリーが高いものの、PPNとして使用されるトリフリードの半分以下の熱量しかありません。末梢静脈栄養は2週間が限度とされていますが、これは術前から栄養状態が良好な場合を前提としています。術前から低栄養状態にある患者では、さらに早い段階で中心静脈栄養(TPN)への移行が検討されるべきです。
意外ですね。ポタコールRはしばしば「熱源補給」の効能も持つとして投与されますが、その熱量は1日の必要量からすると焼け石に水に近い数字です。純粋な栄養補給目的では単独での使用は難しく、あくまでも細胞外液補充が主目的であることを改めて認識しておく必要があります。
参考:末梢静脈栄養が供給できるカロリー量についての解説(共和会NSTニュース)
https://www.kyowakai.com/kyoritsu_kinen_hp/uploads/2022/08/nstnews_20070928.pdf
ポタコールRを投与中の患者の血糖測定を、GDH(グルコース脱水素酵素)法を使った簡易血糖測定器で行うと、実際の血糖値よりも高い値が表示されることが添付文書に明記されています。これは非常に重要な注意事項です。
なぜこのような現象が起きるのでしょうか? GDH法の試薬は、本来グルコースを検出するものですが、マルトースなどの二糖類にも反応してしまう特性があります。血中にマルトースが存在すると、試薬がグルコースと誤認して反応し、実際の血糖値より高い数値が表示されます。
問題が深刻になるのは、インスリン投与が必要な患者でこの誤差が生じた場合です。実際の血糖値は正常範囲内であるにもかかわらず、測定値が高値を示しているためにインスリンが過量投与されてしまい、重篤な低血糖を引き起こすリスクがあります。PMDAもGDH法血糖測定器の添付文書への警告追記を求めており、マルトース含有輸液投与中の患者には「使用しないこと」と明記するよう指導しています。
この落とし穴に気をつけるためには、ポタコールRを投与中の患者の血糖測定にはGOD(グルコースオキシダーゼ)法またはHK(ヘキソキナーゼ)法の測定器を使用することが原則です。これだけ覚えておけばOKです。電子カルテの注記や申し送りに測定法の指定を明記しておくことが、現場での事故防止につながります。
参考:GDH法血糖測定器に係るPMDAからの安全情報
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/devices/0048.html
ポタコールR輸液の投与速度には明確な制限があります。添付文書によると、通常成人での投与速度はマルトース水和物として1時間当たり0.3g/kg体重以下と規定されています。体重50kgの成人であれば、500mL(マルトース25g含有)を2時間以上かけて投与することが求められます。
この制限が設けられているのは、マルトースの代謝速度に上限があるためです。急速投与によりマルトースが代謝しきれない場合、血中マルトース濃度が上昇し、先述のGDH法血糖測定への干渉がさらに強まることになります。また、急速・大量投与は肺水腫・脳浮腫・末梢浮腫などの重大な副作用につながる可能性もあります。厳しいところですね。
投与速度の計算式をまとめると次のとおりです。
| 体重 | マルトース上限量(/時) | 500mL投与に必要な最低時間 |
|---|---|---|
| 40 kg | 12.0 g/h | 約2.1時間以上 |
| 50 kg | 15.0 g/h | 約2時間以上(目安) |
| 60 kg | 18.0 g/h | 約1.4時間以上(≒1h24min) |
| 70 kg | 21.0 g/h | 約1.2時間以上 |
ただし、高齢者については一般に生理機能が低下しているため、投与速度を緩徐にし、減量するなどの注意が必要です。腎機能障害患者や心不全患者でも同様に、水分・電解質の過剰投与になりやすいことを念頭に置いた速度管理が求められます。結論は患者個別の病態に応じた速度調整です。
なお、体重が異なる患者が混在する病棟では、オーダー票や点滴ラベルに「○時間で投与」と具体的な指示を記載しておくことが、看護師側の確認ミスを防ぐうえで非常に有効です。
ポタコールRはしばしば「ラクテック(乳酸リンゲル液)にマルトースを加えたもの」と説明されます。基本的な電解質組成はラクテックと同様ですが、最も大きな違いはマルトースによる熱源補給の有無です。ラクテックにはカロリーとなる糖質が含まれておらず、純粋に細胞外液の補充を目的とした製剤です。一方、ポタコールRは100kcal/500mLの熱源補給が加わっているため、電解質補充と同時に最小限のエネルギーも供給できる設計になっています。
ソルデム(ソルデム1・ソルデム3Aなど)との違いについても整理しておく必要があります。ソルデム3Aは低張電解質輸液(3号液)に分類され、維持輸液として使用されます。Na濃度が35mEq/L程度と低く、K濃度が高め(20mEq/L)に設定されており、細胞内外の両方に分布する組成です。これは維持輸液の特徴です。
一方、ポタコールRはNa130mEq/Lという細胞外液に近い組成であり、等張性電解質輸液(細胞外液補充液)として分類されます。手術・外傷・出血など細胞外液が急速に失われる状況での投与に適しており、維持輸液的な使い方には向いていません。
以下に主な輸液製剤との比較を示します。
| 製剤名 | 分類 | Na(mEq/L) | K(mEq/L) | カロリー(500mL) | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| ポタコールR | 等張性(細胞外液補充) | 130 | 4 | 100 kcal | 細胞外液補充・アシドーシス補正 |
| ラクテック | 等張性(細胞外液補充) | 130 | 4 | 0 kcal | 細胞外液補充(糖なし) |
| ソルデム3A | 低張(維持) | 35 | 20 | 約85 kcal | 維持輸液・水分補給 |
| トリフリード | 低張(PPN) | 35 | 20 | 210 kcal | 末梢静脈栄養 |
使い分けの基本は「何を補いたいか」です。循環血液量の低下や代謝性アシドーシスの補正が主目的であればポタコールR、長期の絶食患者に経腸栄養移行までのつなぎとして末梢静脈栄養を行うのであればPPN製剤(トリフリードやビーフリードなど)を選択する方向が適切です。これが原則です。
参考:輸液の目的と選び方・使い方(大阪大学医学部 研修医レクチャー)
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/resident/clinicallecture5.html
参考:ポタコールR輸液の薬剤情報・用法用量(HOKUTOアプリ)
https://hokuto.app/medicine/11QLs97pe7o8UdYLfWwc