「鼻づまりに効く薬だから、しばらく続けて使っても問題ない」——その判断が、患者に点鼻薬性鼻炎を起こす引き金になります。
プリビナ液0.05%は、有効成分として日本薬局方ナファゾリン硝酸塩を1mL中0.5mg含有する、点鼻用局所血管収縮剤です。1953年から販売が続く歴史ある薬剤で、製造販売元は日新製薬株式会社です。
ナファゾリンは血管平滑筋のα-アドレナリン受容体に直接作用し、鼻粘膜の血管を収縮させます。これにより鼻粘膜の腫脹・充血が速やかに改善し、鼻の通りが良くなります。注目すべきは、アドレナリンよりも強い末梢血管収縮作用を持ち、かつ作用持続時間も長い点です。
効果発現は素早く、投与直後から15分以内に鼻閉の改善が認められ、その効果は3〜4時間持続します。つまり、即効性が高い薬です。
適応は「上気道の諸疾患の充血・うっ血」と「上気道粘膜の表面麻酔時における局所麻酔剤の効力持続時間の延長」の2つです。後者については後のセクションで詳しく解説します。
製剤はpH 4.5〜4.9の無色澄明な等張緩衝液で、添加剤として塩化ナトリウム・結晶リン酸二水素ナトリウム・ベンザルコニウム塩化物・乾燥炭酸ナトリウムが含まれています。室温保存で有効期間は5年です。
参考情報として、以下の添付文書PDFが役立ちます。
プリビナ液0.05% 添付文書(JAPIC)— 用法・用量・禁忌・副作用の詳細が確認できます。
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00052686.pdf
添付文書に基づく正式な用法・用量は次の通りです。成人の鼻腔内への用量は1回2〜4滴を1日数回点鼻または噴霧します。咽頭・喉頭への使用では1回1〜2mLを1日数回塗布または噴霧します。年齢や症状に応じて適宜増減します。
体位は重要です。点鼻時には、座位または立位で頭を後方に傾けて鼻が上を向くようにするか、仰向けに横になって枕を肩の下に当て、頭を後方に傾ける姿勢をとります。経鼻内視鏡前処置など、耳管への逆流を防ぐ必要がある場面では座位での点鼻が推奨されています。これが基本です。
具体的な投与手順は以下の通りです。
- 点鼻前に静かに鼻をかみ、鼻腔内の分泌物を除いておく
- 手をよく洗う
- 頭を後方に傾け、鼻が上を向く体位をとる
- 容器の先端を鼻腔に触れさせず、薬液を2〜4滴滴下または噴霧する
- 点鼻後は頭を傾けたまま2〜3分静かに鼻呼吸をし、薬液を奥まで行き渡らせる
- 使用後は容器先端をきれいに拭き、キャップをして保管する
一度小分けした薬液は元の容器に戻さないことが適用上の注意に明記されています。また眼科用として使用しないことも必須のルールです。眼科用には別製品のプリビナ点眼液0.5mg/mLがあります。
使い忘れた場合は、気づいた時点で1回分を使用します。次回投与時間が近い場合は1回分をとばし、二重投与は絶対に行いません。
参考:愛知県薬剤師会・薬事情報センターによる点鼻薬の正しい使い方解説
https://www.apha.jp/medicine_room/entry-3496.html
経鼻内視鏡検査において、プリビナは前処置の中核を担う薬剤です。鼻粘膜を収縮させることでスコープの通路を広げ、出血リスクを下げるのが主な目的です。これは現場で非常に使えます。
九州医療センター内視鏡トレーニングセンターのプロトコルでは、両鼻腔へのプリビナ噴霧後、内視鏡挿入まで最低15分は空けると定めています。この15分という待機時間を知らずに短縮すると、鼻粘膜が十分に収縮しないままスコープを挿入することになり、患者の疼痛増大や出血リスクの上昇につながります。
前処置の一般的な流れを整理すると以下のようになります。
- 検査15〜10分前:プリビナ液を両側鼻腔へ噴霧(各2〜3滴または数回噴霧)
- 患者に左右片鼻ずつを塞いで鼻呼吸させ、通りの良い鼻腔を確認する
- 検査10〜5分前:通りの良い鼻腔にキシロカインビスカス2%を2〜4mL注入(局所麻酔)
- 前処置スティック(16Fr)にキシロカインゼリーを塗布し、スプレーを2〜4回噴霧した後、顔面に垂直またはやや上方の角度でゆっくり挿入
- スティック挿入が困難な場合は、反対側鼻腔への切り替えを迷わず判断する
なお、リドカインアレルギーの有無を必ず事前確認することも前処置の重要な要素です。リドカインの極量は200mgです。
スコープ挿入は、まず中鼻甲介下端ルートを狙い、困難であれば下鼻甲介下端ルートへ切り替えます。それでも挿入不可能な場合は、無理をせず反対側鼻腔を麻酔し直すか、経口挿入への変更を検討します。無理は禁物です。
参考:九州医療センター 経鼻内視鏡検査での注意点(2021年ver.3)
https://kyushu-mc.hosp.go.jp/files/000183878.pdf
プリビナを含む血管収縮系点鼻薬の最大の落とし穴が「連用によるリバウンド(反応性充血)」です。急性期には劇的に鼻閉が改善するため、患者が「もっと使えばもっと楽になる」と誤解しやすい薬です。
では、なぜリバウンドが起きるのでしょうか。繰り返しの血管収縮刺激によって鼻粘膜が低反応性を獲得し、薬効が切れた際に逆に二次性の血管拡張・充血が起きる状態になります。これが「点鼻薬性鼻炎」です。一時的な鼻閉改善のために始めた点鼻が、やがて薬なしでは呼吸できないほどの慢性的な鼻閉をつくり出すことになります。
添付文書でも「連用又は頻回使用により反応性の低下や局所粘膜の二次充血を起こすことがあるので、急性充血期に限って使用するか、又は適切な休薬期間をおいて使用すること」と重要な基本的注意として明記されています。急性充血期に限定した使用が原則です。
市販の血管収縮系点鼻薬との関連で言えば、連用は1〜2週間にとどめることが推奨されています。症状が長引く場合は、ステロイド点鼻薬(フルチカゾンフランカルボン酸エステルやモメタゾンフランカルボン酸エステルなど)への切り替えを検討すべきです。
医療従事者として患者にプリビナを処方・指導する際には、以下の3点を必ず説明に含めることが重要です。
| 説明事項 | 内容 |
|---------|------|
| 使用期間の目安 | 急性充血期のみ。2週間を超えた連用は避ける |
| リバウンドのサイン | 薬の効果が切れるたびに鼻閉が以前より悪化する |
| 悪化時の対処 | 自己判断で増量せず、医師・薬剤師に相談する |
内科での漫然処方によるプリビナ連用の事例は、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業でも報告されています。処方する際には使用期間の適切な管理が求められます。
参考:日新製薬株式会社「プリビナ液0.05%の報告副作用に関する資料」
https://www.yg-nissin.co.jp/products/PDF/4608_p1.pdf
プリビナの絶対禁忌は3項目あります。①本剤成分への過敏症の既往歴がある患者、②乳児および2歳未満の幼児、③MAO阻害剤(セレギリン塩酸塩、ラサギリンメシル酸塩、サフィナミドメシル酸塩など)の投与を受けている患者——この3つが条件です。
特に注意が必要なのが2歳未満の絶対禁忌と、2歳以上小児への慎重姿勢の違いです。添付文書は「2歳以上の幼児・小児には使用しないことが望ましい」としつつも、「やむを得ず使用する場合は使用法を正しく指導し、経過の観察を十分に行うこと」と定めています。2歳未満への使用はショックを起こすリスクがあり、絶対に使用してはなりません。過量投与時には発汗・徐脈・昏睡といった重篤な全身症状があらわれやすい点も、小児での使用を避けるべき理由です。
MAO阻害剤との併用禁忌は机上の話ではなく、実際の臨床で遭遇する場面があります。パーキンソン病患者にはセレギリン(エフピー)が処方されているケースがあり、そのような患者への鼻処置でプリビナを使用しようとした場合に禁忌に該当します。併用すると急激な血圧上昇を起こすおそれがあります。厳しいところですね。
慎重投与が必要な患者群は以下の通りです。
| 患者背景 | リスク内容 |
|---------|-----------|
| 高血圧症 | 血圧がさらに上昇するおそれ |
| 冠動脈疾患 | 冠動脈疾患を悪化させるおそれ |
| 甲状腺機能亢進症 | 本剤への感受性が高まるおそれ |
| 糖尿病 | 血糖値が上昇するおそれ |
| 妊婦・授乳婦 | 有益性が危険性を上回る場合のみ使用 |
次に、医療現場であまり知られていない使い方として「局所麻酔剤への添加」があります。添付文書には「局所麻酔剤1mLあたりプリビナ液0.05%を2〜4滴の割合で添加する」と明記されています。これにより局所麻酔の効力持続時間を延長できます。耳鼻科の処置や手術において、キシロカインなどの局所麻酔剤に微量のプリビナを添加することで、麻酔の作用時間を伸ばしつつ局所出血を抑制できるという活用法です。
最後に、過量投与時の処置についても医療従事者として把握しておく必要があります。過量投与時は微温の等張食塩液で鼻腔内をくり返しすすぎ、洗浄液を吐き出させます。患者の意識が障害されている場合や小児では、頭を下げた姿勢で鼻をすすがせ、鼻咽頭腔の吸引を行うとともに対症療法を行います。
プリビナ液0.05%の医薬品情報・くすりのしおり(患者向け添付文書)は以下から確認できます。
https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=44663