リリカを処方しても、視力障害を患者に一度も説明していない医師が整形外科に実在します。
リリカ(一般名:プレガバリン)は、神経細胞における電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットに結合し、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の過剰な遊離を抑制することで鎮痛効果を発揮する薬剤です。日本では2010年に承認され、神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛、糖尿病性末梢神経障害など)および線維筋痛症に伴う疼痛に対して適応を持ちます。
作用機序が従来の鎮痛薬と異なるため、NSAIDsが無効な神経性の痛みにも奏効しやすく、整形外科・ペインクリニック・神経内科・精神科など幅広い診療科で処方される場面が増えています。
しかし、その処方頻度の高さに比例して、副作用に関する十分な情報共有が現場で追いついていないケースも報告されています。
国内で実施された臨床試験(線維筋痛症を対象とした試験)のデータを見ると、プレガバリン投与群の副作用発現率は82.4%(206/250例)に達しています。プラセボ群が51.6%(128/248例)であることを考えると、リリカ固有の副作用リスクは無視できない水準です。つまり8割以上の患者に何らかの副作用が出得るということですね。
主な副作用の発現頻度(同試験データより)は次のとおりです。
- 傾眠:45.2%
- 浮動性めまい:28.8%
- 体重増加:14.4%
- 便秘:12.8%
これらは比較的「よく知られた」副作用です。しかし、臨床現場で見落とされがちな副作用が複数存在することが問題となっています。このあとのセクションで、視力障害・低血糖・心不全・離脱症状・腎機能低下時のリスクを詳しく解説します。
参考:リリカの添付文書・薬理情報(KEGG MEDICUS)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066754
「神経痛の薬で目が悪くなる」——こう聞いて、すぐに患者に説明できる医療従事者は、実はまだ少数派です。
リリカの視覚障害に関する副作用は、添付文書の「重要な基本的注意」欄に明確に記載されています。「弱視、視覚異常、霧視、複視等の眼障害が生じる可能性があるので、診察時に眼障害について問診を行う等注意すること」とされており、定期的な問診が義務付けられている形です。
ところが、全日本民医連の副作用モニター情報(第1608号)が報告した実臨床データによると、承認試験では497例中42例(8.45%)に視覚障害が発現しました。その中でも半数が中等度・重度であり、未回復例が9例存在し、中には失明した例も報告されています。これは深刻ですね。
具体的な症例として次のような報告があります。30代女性の患者がリリカ75mgで服用開始し、300mgまで増量。服用開始19カ月後に両目の視力が0.6から0.1まで低下し、片目は0.05まで下がりました。通常は眼鏡矯正で1.0まで改善するものですが、この患者は0.7以上に回復せず、眼科医からも「薬剤性の可能性がある」と指摘されました。もう1件は70代男性で、服用開始5日後に飛蚊症様の症状が出現。最初は加齢によるものと診断されましたが、増量後に症状が悪化し、自己中止後1週間で症状が改善しています。
視力障害は霧視・飛蚊症などは比較的早期に出現するのに対し、視力低下は1年半以上の長期服用後に初めて気付かれることもあります。視力低下は自覚症状として患者自身が認識しにくいため、医療従事者側から定期的に「見えにくくなっていないか」「かすんでいないか」と積極的に問診することが重大な副作用の早期発見につながります。
リクナビ薬剤師のヒヤリハット事例でも「整形外科医が視力障害の副作用の可能性について基本的知識を把握していなかった可能性がある」と指摘されており、多診療科での処方増加に伴う知識のばらつきが問題として浮かび上がっています。
参考:全日本民医連 副作用モニター情報第1608号(非可逆性の視力障害について)
https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20151117_25329.html
参考:リクナビ薬剤師 ヒヤリハット事例(患者の自己中止と視力障害)
https://rikunabi-yakuzaishi.jp/contents/hiyari/192/
「糖尿病薬を飲んでいない患者に低血糖は起きない」——これが医療現場における一般的な思い込みです。しかし、リリカの低血糖はその常識を覆す副作用として報告されています。
全日本民医連の副作用モニター情報第1607号によると、2012年8月にリリカの使用上の注意に「低血糖」が追記されました。2015年7月時点では国内報告件数は18件に増加しており、そのうち3件が入院を要する重篤な例です。患者の年齢は52〜95歳と幅広く、年齢間に有意差はなかったことも注目すべき点です。
さらに重要なのは、血糖降下薬との併用が「なし」のケースが18件中8件あったという事実です。つまり、糖尿病薬を一切使っていない患者でもリリカ単独で低血糖が生じる可能性があります。投与量との関係では、25mgで2件、50mgで3件、75mgで5件、150mgで6件と、用量が増えるほど発現しやすい傾向があります。
具体的な症例を見てみましょう。50代男性でむずむず足症候群に対してリリカを開始。増量後10日目に低血糖発作が起き、空腹時血糖が54mg/dLまで低下しました。ブドウ糖摂取で回復しましたが、治療開始からわずか10日という早さで発現したことは注意を要します。
80代女性の症例では、グリメピリドを0.5mg服用中に慢性腰痛でリリカが追加されました。服用開始4日目に意識レベルが低下し、空腹時血糖は40mg/dLまで下降。ブドウ糖静注を行っても数時間回復せず、持続注射が必要でした。数値だけで見ると血糖40というのは昏睡リスクのある危険水準です。
低血糖が引き起こされるメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、GABAレセプターを介したインスリン分泌促進が機序の一候補として考えられています。低血糖の症状(脱力感・冷汗・振戦・意識障害)が出た場合は投与中止と適切な処置を行うことが添付文書にも明記されています。リリカを処方するすべての患者に低血糖症状とその対応を事前に説明しておくことが原則です。
参考:全日本民医連 副作用モニター情報第1607号(リリカによる重篤な低血糖)
https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20151103_25214.html
「体重が増えた気がする」と患者が訴えても、リリカとの関連を疑わないまま経過を見てしまうケースがあります。しかし、体重増加はリリカの用量依存的かつ長期的な副作用として、データがはっきりと示しています。
国内長期投与試験では、服用開始1週目の体重平均変化量は+1.21kg、25週目(約半年)で+2.30kg、53週目(約1年)で+3.17kgというデータが報告されています。1年で約3kg増というのは、身長160cmの女性であればBMIが約1.2ポイント上昇することに相当します。
体重増加の発現率は用量と密接に関係しており、300mgでは16.9%と、150mgの1.1%と比べて一気に高まるとのデータもあります。同様に線維筋痛症に対する長期投与試験では体重増加の副作用が18.9%に認められています。体重管理は必須です。
さらに、体重増加と浮腫が組み合わさると、心不全リスクが上昇します。リリカによる浮腫の発生率は約11〜19%と報告されており、これは末梢血管の平滑筋にあるカルシウムチャネルが妨害されて弛緩・拡張することで体液が組織に漏れ出すためと考えられています。リリカ単独でも浮腫は起きますが、チアゾリジン系薬剤(ピオグリタゾンなど)を併用すると末梢性浮腫のリスクがさらに増大し、心不全発症または悪化につながることが添付文書に明記されています。
糖尿病患者でピオグリタゾンを使っている方にリリカを追加する場面は臨床でよくある状況です。そのような患者には浮腫の観察を強化し、体重の急激な変化(たとえば1週間で1kg以上の増加)があれば早期介入を検討することが現場での対応として有用です。
| 服用期間 | 平均体重変化量 |
|---|---|
| 1週目 | +1.21 kg |
| 25週目(約6カ月) | +2.30 kg |
| 53週目(約1年) | +3.17 kg |
参考:日本透析医学会誌(腎機能低下患者とプレガバリンの安全性)
「神経痛が良くなったから自分でやめた」という患者の訴えは、リリカ処方時に医療従事者が最も警戒すべき行動の一つです。
リリカの添付文書(使用上の注意 8.2)には、「急激な投与中止により、不眠、悪心、頭痛、下痢、不安及び多汗症等の離脱症状があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、少なくとも1週間以上かけて徐々に漸減すること」と明記されています。少なくとも1週間以上の漸減が条件です。
日本病院薬剤師会のプレアボイド報告でも「添付文書の記載から類推されるように、中止時には1週間以上かけて徐々に漸減する必要があることから、身体依存=離脱症状発現の可能性が予想される」と指摘されています。
主な離脱症状としては不眠・吐き気・頭痛・下痢・不安・多汗が挙げられます。これらは服薬中止後から短期間で出現することがあり、患者が「また痛みが悪化した」「体調が急に崩れた」と誤認するケースも少なくありません。
臨床上で注意が必要なのは、術後疼痛や入院をきっかけにリリカが「いつの間にか中止」になるパターンです。外科的な急性期ケアや転科・転院時に、継続薬の引き継ぎが抜け落ちることがあります。処方している医療機関側から退院サマリーや申し送りにリリカの継続必要性と漸減手順を明記しておくことが、患者の不利益を防ぐ実践的な対策になります。
また、長期・高用量で服用していた患者ほど離脱症状が強く出る傾向があります。600mgを上限とするリリカの最高用量近くで長期間投与されてきた患者には、漸減スケジュールをより慎重に立てる必要があります。これは実際に患者と一緒に確認しておくと安心です。
参考:日本病院薬剤師会 プレアボイド報告(プレガバリンの離脱症状と身体依存)
https://www.jshp.or.jp/information/preavoid/50-7.pdf
「添付文書通りに減量すれば安全」という認識が、腎機能低下患者に対するリリカ管理の落とし穴になっています。これは意外ですね。
リリカ(プレガバリン)は肝臓でほとんど代謝されず、主に未変化体のまま腎臓から排泄されます。そのため、腎機能が低下している患者ではプレガバリンの体内クリアランス(CL/F)が低下し、血中濃度が過剰に上昇するリスクがあります。添付文書にはクレアチニンクリアランス(CLcr)値を参考にした用法・用量の調節が求められています。
ところが、日経メディカルの報告(2015年)によると、腎機能に応じて添付文書通りに減量しても、腎機能低下患者ではそうでない群と比べて有害事象の発生率が高いことが報告されています。添付文書通りの減量でも十分ではない場合がある、ということです。
透析患者への処方では通常の初期用量(75mg×1日2回)から大きく外れた対応が必要になります。透析患者への推奨用量は25mgまたは50mgの1日1回のみであり、通常成人の用量と比べると用量は1/3以下になる場合があります。この知識が不足していると、透析中の患者に通常用量を投与してしまい、重篤な副作用(傾眠・めまい・浮腫の増悪)につながるリスクがあります。
腎機能低下患者へのリリカ処方時に確認すべき主なポイントは次のとおりです。
- CLcr(クレアチニンクリアランス)の計算・確認を処方前に行う
- 高齢者では血清クレアチニン値が正常範囲でも実際には腎機能が低下していることが多い(筋肉量が少ないとCrが低めに出るため、eGFRでの評価も重要)
- 透析患者では透析後に補充投与を行う(透析によってプレガバリンが除去されるため)
- 腎機能が変動しやすい患者では定期的な用量再評価を行う
高齢者は特に注意が必要です。外見上は元気に見えても腎機能が低下しているケースは多く、CLcrを計算せずに標準用量を投与した結果、傾眠や転倒骨折につながる事例が報告されています。特に高齢者ではめまい・傾眠による転倒・骨折のリスクが添付文書でも強調されており、PMDAが公表している「リリカカプセル適正使用のお願い」でも高齢者の浮動性めまい(17.1%)と傾眠(33件)が主要副作用として挙げられています。腎機能確認が条件です。
参考:PMDA リリカカプセル適正使用のお願い(高齢者のめまい・転倒)
https://www.pmda.go.jp/files/000144302.pdf
参考:厚生労働省 重要な副作用等に関する情報(リリカ・プレガバリン)
https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/293-2.pdf