酢酸ナトリウム水酸化ナトリウムと中和、性質、用途

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムは、食品から化学実験まで多様な用途を持つナトリウム化合物です。両者の違いや、中和反応、メタン生成反応などの化学的性質を知っていますか?

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの性質

この記事でわかる3つのポイント
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基本的な化学的性質

酢酸ナトリウムは弱アルカリ性、水酸化ナトリウムは強アルカリ性を示し、それぞれ異なる特徴を持ちます

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食品添加物としての用途

酢酸ナトリウムは保存料やpH調整剤として、水酸化ナトリウムは酸度調整剤として食品に利用されます

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化学反応と製造方法

酢酸と水酸化ナトリウムの中和反応で酢酸ナトリウムが生成され、加熱によりメタンも合成できます

酢酸ナトリウムの基本的な性質と特徴

酢酸ナトリウム(CH₃COONa)は、酢酸とナトリウムが結合した塩であり、無水物と三水和物の2種類が存在します。無色の結晶または結晶性粉末で、水によく溶けますが、有機溶媒にはほとんど溶けません。水溶液は弱アルカリ性(pH 8〜9.5)を示すのが特徴です。
参考)酢酸ナトリウム - Wikipedia

酢酸ナトリウムは弱酸と強塩基の塩であるため、水に溶かすと加水分解が起こります。水中では酢酸イオンとナトリウムイオンに完全に解離し、酢酸イオンが水と反応して酢酸と水酸化物イオンを生成します。この反応により、溶液中に水酸化物イオンが増加するため、アルカリ性を示すのです。
参考)【高校化学】「酢酸ナトリウムの加水分解」

製造方法としては、酢酸と水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの中和反応により三水和物が得られ、これを120〜250℃で加熱すると無水物になります。工業的には高純度を要するため、化学的に合成されることが一般的です。
参考)食品添加物とは|食品添加物の役割と利用|ウエノフードテクノ

水酸化ナトリウムの基本的な性質と製法

水酸化ナトリウム(NaOH)は、別名「苛性ソーダ」とも呼ばれる強塩基性の化学物質です。白色の小球状、片状、棒状、または粉末として存在し、水に極めて溶けやすく、エタノールにも溶けやすい性質があります。融点は318℃、沸点は1,390℃、比重は2.13です。
参考)水酸化ナトリウムとは?苛性ソーダの性質と用途|Foodcom…

水酸化ナトリウムの水溶液は強いアルカリ性を示し、皮膚や粘膜に対して腐食性があるため、取り扱いには十分な注意が必要です。この物質は基礎工業薬品の一つとして多様な用途を持ち、2016年度の日本国内生産量は386万トンに達しました。
参考)水酸化ナトリウム - Wikipedia

用途としては、上水道・下水道や工業廃水の中和剤、アルミニウム原料の抽出、化学工業での洗浄剤や石鹸の製造などに利用されます。食品分野では、パンやプレッツェルの生地処理に使用されますが、高温で焼成されると炭酸ナトリウムに変化するため、最終製品には残りません。​

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの中和反応

酢酸と水酸化ナトリウムの中和反応は、化学実験で頻繁に扱われる重要な反応です。この反応は、酢酸(CH₃COOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)が反応して、酢酸ナトリウム(CH₃COONa)と水(H₂O)が生成される反応です。
参考)https://www.nupals.ac.jp/n-navi/wp/wp-content/themes/new-n-navi/img/page/admission/file_form/ad_form014-2022.pdf

中和反応は熱力学的に安定な水が生成するため、ほぼ不可逆で一方的に反応が進行します。0.100 mol/Lの酢酸水溶液10 mLを、0.100 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定した場合、滴定量が10 mL に達する前後でpHが6から12へ急激に変動します。この急激な変動点が中和点に対応します。
参考)http://kinki.chemistry.or.jp/pre/a-372.html

中和点の検出には、フェノールフタレインなどの指示薬が用いられます。この指示薬は酸性溶液では無色透明ですが、pH8以上のアルカリ溶液で赤紫色(濃い桃色)に変色するため、中和反応の終点を正確に見極めることができます。中和反応により生成した酢酸ナトリウムは水中で解離し、わずかに加水分解が起こるため、中和点は弱塩基性を示します。​

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムによるメタン生成反応

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを混合して加熱すると、メタン(CH₄)が生成される興味深い化学反応が起こります。この反応は高等学校の化学実験で、メタンの実験室的製法として紹介されています。youtube​
参考)【高校化学】「アルカンの性質とメタンの製法」(練習編)

反応式は以下のように表されます:CH₃COONa + NaOH → CH₄ + Na₂CO₃。この反応では、酢酸ナトリウムの酢酸イオンから炭素が取り除かれる脱炭酸反応が起こり、最も単純な炭化水素であるメタンが生成されます。同時に副生成物として炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)が生成されます。​
この実験では、反応の前後で全体の原子数は変わらないという化学の基本原則が確認できます。また、酢酸ナトリウム無水塩とソーダ石灰を用いた方法もあり、より穏やかな気体発生を実現して安全性を高める工夫も研究されています。実験時には試験管の破損を防ぎ、副生成物を抑制しながらメタンの発生率を高める技術が教材化されています。
参考)https://www.toray-sf.or.jp/awards/education/pdf/h30_06.pdf

食品添加物としての酢酸ナトリウムの用途

酢酸ナトリウムは食品添加物として非常に幅広い用途を持ち、保存、風味向上、pH調整など多様な目的で使用されています。保存料ではありませんが、幅広い細菌類の生育を抑える効果があり、対象食品の制限もないため、日持向上剤として最もよく使われる食品添加物の一つです。
参考)食品における酢酸ナトリウムの使用 - 知識

具体的な使用例としては、惣菜(ハンバーグ、から揚げ、シュウマイ、餃子など)、パン、おにぎり、かまぼこ、麺類(うどん、そば)、サラダ、麺つゆ、漬物などに添加されます。わずかに塩味と酸味があり、料理全体の風味を向上させることができるため、チップスやポップコーンなどのスナック食品の味を高めるためにも使用されます。
参考)製品情報

食品表示については、使用目的により表示方法が異なります。日持向上目的の場合は「酢酸(Na)」または「酢酸ナトリウム」と物質名のみ表示され、pH調整目的の場合は「pH調整剤」、調味目的の場合は「調味料(有機酸)」、酸味・酸度の調整で使用した場合は「酸味料」と一括名で表示されます。独自技術により酢酸ナトリウムの酸味酸臭を大幅に低減した製品も開発されており、美味しさと日持ちの両立を実現しています。
参考)食品添加物 酢酸ナトリウム製剤『ミカクファインW』 日本新薬…

株式会社ウエノフードテクノ - 食品添加物の役割と利用
酢酸ナトリウムの日持向上剤としての機能や表示方法について詳しく解説されています。

 

食品産業における水酸化ナトリウムの利用

水酸化ナトリウムは食品産業でも重要な役割を果たしており、主に酸度調整剤として利用されます。食品添加物としての水酸化ナトリウムは、食品添加物公定書による規格に適合した高純度の製品が使用されます。
参考)1310-73-2・水酸化ナトリウム・Sodium Hydr…

食品加工における具体的な用途としては、パンやスナック菓子のプレッツェルの生地を水溶液に浸けることで、表面のつや出しと食感改善に利用されています。ただし、高温(170℃前後)で焼かれるため、水酸化ナトリウムは炭酸ナトリウムに変化し、最終製品には残りません。
参考)食べ物に苛性ソーダ?!から学んだこと|のざたん|会いに行ける…

また、酢酸ナトリウムの製造原料としても重要で、酢酸と水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの中和反応により生成されます。食品産業では、pH調整や殺菌効果、高い浄化作用を目的として使用されますが、強いアルカリ性を持つため、取り扱いには十分な注意が必要です。製薬業界でも鎮痛剤、抗凝固剤、コレステロール低下剤などの医薬品製造に使用されており、多様な応用が可能な化合物です。​

酢酸ナトリウムの抗菌作用と保存性向上効果

酢酸ナトリウムは、食品の腐敗原因菌となる様々な微生物の増殖を抑制する優れた抗菌作用を持っています。この効果により、食品の保存性を大幅に向上させることができ、安全で保存可能な食品の製造に不可欠な成分となっています。​
冷蔵保存された食品における研究では、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムを比較した結果、これらの有機塩が微生物の増殖を遅らせる効果があることが確認されています。特に酢酸ナトリウムは、加工肉、チーズ、野菜の缶詰など多くの食品に添加され、腐敗や汚染の原因となる細菌の増殖を抑制します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1805695/

さらに興味深いのは、酢酸ナトリウムがサルモネラ菌やリステリア菌などの重要な食中毒菌に対しても効果を示すことです。近年、亜硝酸塩や亜硫酸塩などの合成保存料に対する健康への懸念から、酢酸ナトリウムのような有機塩が安全で経済的な代替品として注目されています。実際の食品応用では、処理したサンプルが対照品より4〜7日長く保存可能になることが報告されており、冷蔵保存下での魚介類などに安全な有機保存料として利用できることが示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5302421/

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの安全性と取り扱い

酢酸ナトリウムは比較的安全性が高い化学物質で、経口毒性試験(ラット)ではLD50値が3530mg/kgと報告されています。経皮毒性試験(ウサギ)ではLD50値が10g/kg以上であり、吸入毒性試験(ラット)でもLC50値が30000mg/m³/1時間以上という結果が得られています。眼刺激性については区分2Bに分類されており、軽度の刺激性がある可能性があります。
参考)https://www.kishida.co.jp/product/catalog/msds/id/11218/code/000-70876j.pdf

保管方法としては、直射日光と高温を避けることが推奨されており、乾燥した状態で湿気を避けて保存する必要があります。容器は、柔らかいフタのタッパーやチャック付き保存袋など、気体が発生した場合でも破裂の危険性がない容器を使用することが望ましいです。また、金属製の容器は避け、水気は分解・膨張の原因となるため、乾燥した容器に入れることが重要です。
参考)酢酸ナトリウム

一方、水酸化ナトリウムは強アルカリ性であり、皮膚や粘膜に対して腐食性があるため、取り扱いには十分な注意が必要です。保管には耐食性材料であるステンレス(316L)や高密度ポリエチレン(HDPE)などの容器を使用し、良好な密封性を確保して蒸気の漏れや空気中の水分との反応を防ぐ必要があります。保管エリアは換気が良好で、室温以下の温度を維持し、熱源から離すことが推奨されます。
参考)酢酸を安全に保管する方法

酢酸ナトリウムの製造方法と品質管理

酢酸ナトリウムの工業的製造は、主に酢酸と水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの中和反応により行われます。この反応により、まず三水和物(CH₃COONa·3H₂O)が生成され、これを120〜250℃で加熱することで無水物を得ることができます。食品添加物としての酢酸は高純度を要するため、化学的に合成される方法が一般的です。​
製造プロセスの一例として、晶析法があります。この方法では、70℃に加熱した濃度57%の酢酸ナトリウム水溶液を晶析機に仕込み、缶内温度を80℃、缶内圧力を24kPaに調整して濃縮を行います。酢酸ナトリウム濃度が66%付近に到達したところで種晶を添加して結晶を晶析させ、その後スラリー濃度が30%となるように連続で仕込みます。晶析した無水酢酸ナトリウムを含むスラリーを遠心分離機で結晶と母液に分離し、揮発分率1.0〜6.0%、嵩密度0.50〜0.70g/mL、平均粒子径200〜450μmの無水酢酸ナトリウムを得ることができます。
参考)https://patents.google.com/patent/JP6931179B2/ja

品質管理においては、工業用規格として水溶状がほとんど澄明以内、pH(5%溶液)が7.7〜9.2、塩化物(Cl)が0.02%以下、鉄(Fe)が0.003%以下、含量が98.5%以上という基準が設けられています。独自の粒子制御技術により、お客様の使用条件に合った最適な粒度の製品を提供することが可能で、人工透析薬にも使用されるクリーンな製品が製造されています。​

酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの工業的応用

酢酸ナトリウムは食品産業以外にも多様な工業分野で応用されています。試薬、医薬品添加物・製剤、グルコース精製助剤、有機合成触媒、染色助剤、メッキ薬剤、写真用助剤、pH調整剤、凍結防止剤など、その用途は極めて広範囲に及びます。特に緩衝液としての利用も重要で、酢酸水溶液に水酸化ナトリウムを加えることでpH調整が可能な緩衝液を作ることができます。youtube​
参考)酢酸ナトリウム

水酸化ナトリウムは基礎工業薬品の一つとして、さらに多様な方面で用いられています。2016年度の日本国内生産量は386万トン、消費量は93万トンに達し、2001年時点の世界生産量は4218万トンでした。代表的な用途としては、上水道・下水道や工業廃水の中和剤、ボーキサイトからアルミニウムの原料であるアルミナ(酸化アルミニウム)を取り出す工程での使用があります。​
また、化学工業では洗浄剤、石鹸、洗剤の製造、パイプの排水や水処理に使用されます。製紙工程ではリグニン結合を破壊するために重要であり、繊維産業では漂白や染料の定着に利用されます。化粧品の原料としてもpH調整剤、殺菌効果、高い浄化作用を目的として使用され、製薬業界では鎮痛剤、抗凝固剤、コレステロール低下剤などの医薬品製造にも活用されています。​
Foodcom - 水酸化ナトリウムとは?苛性ソーダの性質と用途
水酸化ナトリウムの工業的用途や各産業での応用について詳細に説明されています。

 

ナトリウム化合物の環境への影響と今後の展望

食品産業におけるナトリウム化合物の使用については、健康への配慮から減塩の取り組みが世界的に進められています。世界保健機関(WHO)は成人に対して1日あたり5g以下の塩化ナトリウム摂取(ナトリウムとして2g未満)を推奨しており、加工食品の再配合が戦略的行動の一つとして推奨されています。過剰なナトリウム摂取は高血圧や心血管疾患のリスク増加と強く関連しているため、食品業界では塩化ナトリウムの代替品や減塩技術の開発が重要な課題となっています。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/fsn3.499

一方で、酢酸ナトリウムなどの有機塩は、従来の合成保存料(亜硝酸塩や亜硫酸塩)の代替品として注目されています。これらの合成保存料は人体に健康問題を引き起こす可能性があるため、消費者の間で大きな懸念が高まっています。酢酸ナトリウムは経済的で、重要な食中毒菌に対して効果を示すため、より安全な保存料としての需要が増加しています。
参考)https://www.mdpi.com/2304-8158/5/4/74/pdf

今後の展望としては、クリーンラベル(clean-label)を志向した天然由来の保存料や添加物の開発が進むと予想されます。スパイスや植物代謝物、動物・微生物由来の代謝物など、バイオ保存料としての機能を持つ物質の研究が活発化しています。ただし、これらの天然代替品は合成保存料を一対一で置き換えることが難しい場合が多く、より経済的で効果的な新しい代替品の発見が研究者に求められています。酢酸ナトリウムと水酸化ナトリウムは、それぞれの特性を活かしながら、持続可能で安全な食品生産システムの構築に貢献していくことが期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10610427/