市販のフレンチドレッシングをかけるだけでは、本場の風味が出ません。
サラダニソワーズのドレッシングは、フランス・ニース地方生まれの地中海風サラダに使う、シンプルだけど奥深いビネグレットソースです。日本のスーパーで売られているフレンチドレッシングとは別物と考えたほうがよく、本場では材料の比率にこだわりがあります。
基本の黄金比率は、オリーブオイル:ワインビネガー=3:1です。これはフランス料理の古典的なビネグレットの比率でもあり、この割合を守るだけで味がぐっと引き締まります。たとえばドレッシングを大さじ4杯分作るなら、エクストラバージンオリーブオイルを大さじ3、白ワインビネガー(またはレモン汁)を大さじ1が目安です。
そこにディジョンマスタード小さじ1/2、塩ひとつまみ、こしょう少々を加えると完成します。材料はたったこれだけです。
マスタードは単なる調味料ではなく、油と酢を乳化させる「つなぎ」の役割も果たしています。マスタードなしで作ると、ドレッシングがすぐに分離してしまうので、省略はおすすめしません。使うマスタードはフランス・ブルゴーニュ地方原産の「マイユ社のディジョンマスタード」が本場風の仕上がりに近づきます。日本でも輸入食材店やAmazonで500円前後から入手可能です。
ニンニクを一片すりおろして加えるアレンジも定番で、これだけで香りが段違いに豊かになります。これは使えそうです。
ただし、ニンニクの量は控えめが鉄則で、小さじ1/4程度(ほんのひとかけらのすりおろし)で十分です。入れすぎると翌日まで香りが残るため、家族の予定を考慮して量を調整するのが現実的な判断です。
ドレッシングを作ると油と酢が分離してしまった経験は、多くの方があるはずです。油と水(酢)は本来まったく混ざり合わない性質を持つため、ただ混ぜただけでは数分後に二層に分かれてしまいます。つまり乳化の仕組みを知ることが基本です。
乳化とは、油の中に酢の微粒子が均一に散らばった状態のことです。これを安定させる役割を持つ成分を「乳化剤」と呼び、マスタードや卵黄がその代表格です。サラダニソワーズのドレッシングでは、ディジョンマスタードに含まれる「レシチン」と「ムチン」という成分が乳化を助けます。
乳化を成功させる手順は3ステップです。
最も重要なのは「オイルを少量ずつ加えること」です。一度に全量注いでしまうと乳化できずに分離します。最初の大さじ1を加えるときが特にゆっくりで、残りは少し速めに加えても問題ありません。
ハンドブレンダーを使うと、初心者でも失敗なく乳化できます。深めのカップにすべての材料を入れてスイッチを押すだけで、30秒以内にクリーミーなドレッシングが完成します。ブレンダーがない場合は、蓋つきの瓶に材料を入れて30秒間力強く振る「シェイク法」でも代用できます。ただしこの方法だと乳化は少し不安定で、使う直前に再度振る必要があります。
温度も乳化に影響します。冷蔵庫から出したばかりの冷たいオリーブオイルは乳化しにくいため、常温に戻してから使うのが原則です。
サラダニソワーズの最大の特徴のひとつが、アンチョビとケッパーという個性的な食材です。日本の主婦にはなじみが薄い食材ですが、この2つを使うだけでドレッシングの奥行きが格段に変わります。意外ですね。
アンチョビとは、カタクチイワシを塩漬けにして熟成させた保存食です。塩気と旨味が非常に強く、1枚(約4g)をドレッシングに加えるだけで全体の味が引き締まります。フォークでペースト状につぶしてから混ぜると、食感に違和感が出ません。チューブタイプのアンチョビペーストも市販されており、スーパーの輸入食材コーナーで150円〜250円程度で購入できます。使う量の目安はチューブなら2〜3cmほど(はがきの短辺の端から端まで引いたくらいの長さ)です。
ケッパーは、地中海沿岸に自生するフウチョウボク科の植物のつぼみを酢漬けにしたものです。独特の酸味とハーブのような香りがあり、ドレッシングに加えると爽やかな後味をプラスします。粒が小さいほど風味が強く、料理のプロはなるべく小粒のものを選びます。日本での入手先はカルディコーヒーファームや成城石井で200〜400円程度、コストコでは大容量でお得に手に入ります。
どちらも塩分が強いため、ドレッシングに加えた後は必ず味見をしてから塩の量を調整するのが条件です。アンチョビもケッパーも塩抜きなしで使えますが、気になる場合はケッパーを30秒ほど水にさらすと酸味が和らぎます。
本場のサラダニソワーズには、決まった具材の組み合わせがあります。フランス料理の古典的なレシピでは、生のトマト・ゆで卵・ツナ(またはマグロの油漬け)・グリーンオリーブ・アンチョビ・インゲン豆・ジャガイモが基本です。ただしこの組み合わせには「正解論争」があり、フランス人の間でも「ジャガイモを入れるか入れないか」が長年議論されています。
実は、ニース市の公式レシピは「ジャガイモ入りニソワーズは偽物」と明言しています。2006年にニース市が発表した公式の「サラダニソワーズ憲章」には、ジャガイモと火を通したインゲン豆は使用禁止と記載されています。日本のレシピサイトや料理本でジャガイモ入りの「ニソワーズ」が多数紹介されているのはそのためで、厳密には「ニース風」ではないということです。これは知っておくと得する知識です。
家庭で手軽に作るためのおすすめ具材リストは以下のとおりです。
具材を皿に並べる順番にもコツがあります。大きな葉野菜(あれば)を皿の外側に敷き、中央に向かって具材を並べ、最後にドレッシングを全体にまわしかけます。ドレッシングは食卓に出す直前にかけるのが基本で、早くかけると葉物がしんなりして見栄えが落ちます。
手作りドレッシングを作り置きしておくと、平日の夕食準備が大幅に楽になります。ただし正しい保存方法を守らないと、風味が落ちたり傷んだりする可能性があります。保存方法が条件です。
手作りのサラダニソワーズドレッシングの冷蔵保存期間は、約3〜5日が目安です。アンチョビやニンニクを加えたものは香りが変化しやすいため、できれば3日以内に使い切るのが無難です。市販品のドレッシングと違い、防腐剤や安定剤が入っていないため、この点は注意が必要です。
オリーブオイルは冷蔵庫に入れると固まる性質があります。白く濁ったり固まったりすることがありますが、これは品質劣化ではありません。使う直前に常温に5〜10分置くか、手で瓶を包んで温めると元の状態に戻ります。品質に問題はありません。
ドレッシングの分量を多めに作りたい場合は、アンチョビやニンニクを加える前の「ベース(オリーブオイル+酢+マスタード)」だけを多めに作り置きしておくことをおすすめします。ベースのみなら冷蔵で1週間程度持ちやすく、食べる直前に風味素材を加えるとフレッシュな味を維持できます。
日本のスーパーでは「キューピー イタリアンドレッシング」「Mizkan ノンオイルドレッシング」など手軽な製品も多いですが、市販品には糖分や添加物が含まれている場合が多く、カロリーも手作りより高くなる傾向があります。健康的な食生活を意識している方にとって、手作りドレッシングは材料を選べるという点で大きなメリットがあります。主婦の食卓における「手作り回帰」の文脈でも、ドレッシングの自家製化は費用対効果が高い取り組みのひとつです。
参考:フランス料理の伝統的なビネグレットの配合と歴史的背景について、料理の本場フランスのニース市観光局も情報を公開しています。
Nice Tourisme 公式サイト(ニース市観光局・ニース料理の本場情報)
ビネグレット全般の乳化原理と応用については、NHKや農林水産省の食品科学資料も参考になります。
農林水産省 食育に関する情報(食品の科学的な知識・家庭料理への応用)