子どもがトマトを育てると、嫌いだったトマトを自分から食べるようになります。
「食育」という言葉は聞いたことがある方も多いでしょう。しかし、「食農教育」となると少しなじみが薄いかもしれません。農林水産省の資料では、食育を「食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実現できる人間を育てること」と定義しています。
食農教育はその食育をさらに発展させたものです。つまり「食育+農業(農)の体験・学び」が食農教育です。
JAグループでは、食農教育を「食を支える根本である農業に関する知識や体験も含んだ、より幅広い食の教育」と位置づけています。ただ「食べることを学ぶ」だけでなく、その食べ物がどこでどのように育てられたのかを知り、農業という産業そのものを理解することがゴールです。
主婦の視点で言い換えると、毎日の食卓を準備するうえで「この野菜はどこで・誰が・どうやって育てたのか」を家族で話せるようになることが、食農教育の第一歩といえます。農林水産省が食農教育を推進している背景には、子どもの朝食欠食や偏食、孤食(一人で食べること)といった深刻な食の乱れが社会問題化していることがあります。
食農教育は学校だけの話ではありません。家庭こそが、食農教育の最前線の場所です。
JAグループ|食農教育とは?食や農を学ぶ(食育との違いや実践例を解説)
農林水産省は食育推進基本計画(5年ごとに改訂)に基づき、食農教育を国全体の施策として推進しています。2021年に策定された第4次食育推進基本計画では、「農林漁業体験活動の推進」が重点事項のひとつとして明記されました。
なぜ国がここまで力を入れているのでしょうか?
理由は数字を見ると明確です。農林水産省の食育白書(令和5年度)によると、朝食を欠食する若い世代の割合は28.3%にのぼります。また日本人の野菜摂取量の平均は目標の350gを大きく下回っており、生活習慣病のリスクを高めています。さらに、週の半分以上の食事を一人でとる「孤食」の人が全体の約15%存在することも報告されています。
これらの課題を根っこから解決するには、食べ物や農業への理解・関心を幼少期から育てることが有効とされています。農林水産省はその仕組みとして食農教育を推進し、学校・地域・家庭の三者が連携して取り組むよう呼びかけています。
重要なのが、食農教育の対象は「子ども」だけではないという点です。農林水産省の食育推進施策では、成人・高齢者も含む「生涯を通じた食育」が掲げられています。市民農園での栽培体験は成人・高齢者の心の健康状態を改善するというエビデンス(研究結果)も農林水産省が公表しています。主婦自身にとっても食農教育は身近な実践テーマなのです。
農林水産省|食育の推進に役立つエビデンス(農林漁業体験をするとこんないいこと)
「食農教育なんて、子どもの食の好みには関係ない」と思っていませんか?これが大きな誤解です。農林水産省が公表しているエビデンス集では、農業体験と子どもの食行動・嗜好の変化に関する研究結果が多数紹介されています。
農林水産省の研究ノートによると、トマトを自分で栽培した幼児の多くはトマトが好きになることが報告されています。また、小学生を対象とした農業体験学習に関する研究では、食事の好き嫌いが少ない子どもが多いことも確認されています。
さらに具体的な数字を挙げましょう。JA共済連が2025年に実施した「α世代の農業体験と教育効果に関する調査」では、農業体験をした子どもを持つ親の92.1%が「体験させて良かった」と回答しています。83.5%が「子どもの成長を実感した」、82.2%が「子どもに達成感を経験させられた」と答えています。これは約1万人の親を対象にした大規模な調査です。
主婦の立場からすると、子どもの野菜嫌いへの対処は日々の悩みの種でしょう。「食べなさい」と言っても頑として口を開けない…という経験は多くのご家庭で起きています。そんな時、野菜を自分で育てて収穫・調理する体験が、子どもの「食べたい」という気持ちを自然に引き出してくれるのです。
つまり食農教育は、子どもの偏食解消に効果大です。
野菜嫌いに悩む方には、まずベランダでのプランター栽培からスタートするのがおすすめです。ミニトマトやきゅうりは種まきから収穫まで比較的簡単で、子どもが成長を実感しやすいサイズ感です。
JA共済連|α世代の農業体験と教育効果に関する調査(2025年12月発表)
「農業体験」と聞くと「田んぼや畑に行かないとできない」と感じるかもしれません。それが思い込みです。農林水産省やJAグループが紹介している家庭でできる食農教育のメニューは豊富にあります。
以下に代表的な方法を紹介します。
これは使えそうです。毎日のスーパーでの買い物も、意識を変えれば食農教育の場になります。「この人参はどこの産地?」「旬の野菜はどれ?」と子どもに問いかけるだけで、食に対する関心が育まれていきます。
家庭菜園から始めたい方には、初心者でも使いやすいプランター栽培セットや、JAグループが提供するバケツ稲セット(申し込み受付は毎年春)をチェックしてみてください。
JAグループ|バケツ稲づくり(セット配布・育て方を詳しく解説)
農林水産省の東北農政局が発表したレポートには、「食農教育は究極のSTEAM教育・探究教育」という視点が紹介されています。意外ですね。STEAM教育とは、理科(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・芸術(Art)・数学(Mathematics)を横断した教育のことで、近年の学校教育でも重視されています。
食農教育がSTEAM教育と言える理由はシンプルです。なぜなら、野菜を育てる中に自然科学(なぜ植物は育つ?)・数学(何日で収穫できる?)・技術(どう水やりするか?)・食文化(どう料理するか?)の全てが含まれているからです。
主婦視点で言えば、家庭での食農教育は「子どもの学校の勉強にも直結している」ということです。農作物の成長を観察する習慣は、理科の観察力を鍛えます。収穫した量や重さを記録すれば算数の実践になります。料理の工程を一緒にこなせば、科学的な思考力が育まれます。
農林水産省も、食農教育は地域から地球規模に至るまでのSDGsへの貢献につながると位置づけています。温暖化・食品ロス・生物多様性といった現代的な課題を「自分ごと」として考えるきっかけを、食農教育は家庭の食卓から生み出せます。
子どもが将来、社会の課題に目を向けられる人間に育ってほしいと思う方にとって、食農教育は想像以上に深く・幅広い学びの入り口なのです。
食農教育の観点でSDGsや環境を学ぶ教材を探している方には、農林水産省の「実践食育ナビ」が参考になります。無料で使える教材や事例が多数掲載されています。
農林水産省東北農政局|食農教育は究極のSTEAM教育・探究教育(PDF)