食料自給率向上の取り組みを企業と消費者がつなぐ方法

食料自給率向上への取り組みを企業と消費者がつなぐ

国産のパンを1か月3個食べるだけで、日本の食料自給率が1%上がります。


🌾 この記事でわかること
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日本の食料自給率の今

カロリーベースで38%が続く現状と、2030年に45%を目指す政府目標のリアルな距離感をわかりやすく解説します。

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企業はここまでやっている

Pasco・セブンイレブン・リンガーハット・クボタなど、身近な企業の国産化・スマート農業の取り組み事例を具体的に紹介します。

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主婦の買い物が自給率を動かす

「国産DAY」や米粉パン選びなど、日常の買い物で食料自給率向上に貢献できる、すぐ実践できる行動を紹介します。


食料自給率向上が急がれる理由——38%が意味するリスク

農林水産省が2025年10月に発表した最新データによると、令和6年度の日本の食料自給率はカロリーベースで38%でした。これは前年度と同じ数字で、この水準が長年続いています。38%という数字は、日本で消費されるカロリーのうち、国内で生産できるのがたった4割にも満たないということです。


残りの6割以上は海外からの輸入に頼っています。これはコンビニのおにぎり3個を買ったとき、2個分は外国の農地に頼って作られているイメージです。


低い自給率が問題になる理由は、家計へのダメージに直結するからです。ウクライナ危機のような地政学リスクが起きると、輸入穀物の価格が急騰します。実際に2022年以降、小麦や大豆の国際価格が大幅に上昇し、食パンやマヨネーズ、豚肉など家庭の食卓に欠かせない食品が軒並み値上がりしました。円安が重なると輸入コストはさらに膨らみます。


国内自給率が高い食品は、こうした輸入リスクの影響を受けにくい傾向があります。食料自給率の問題は、国や農業の話だけでなく、毎日の家計防衛とも深くつながっているということですね。


政府は2030年度までに食料自給率をカロリーベースで45%に引き上げる目標を掲げています。現状38%との差は7ポイント。この目標は過去一度も達成されたことがなく、実現のためには生産者・企業・消費者が一体で動く必要があります。


農林水産省「日本の食料自給率」(令和6年度の最新データを確認できます)


食料自給率向上に取り組む企業の具体的な事例

「食料自給率の向上は農家の仕事」と思われがちですが、食品メーカーや外食チェーン、コンビニなどの企業も積極的に動いています。しかも、その取り組みは家庭の食卓に直接関係するものばかりです。


Pasco(敷島製パン)の国産小麦プロジェクト


毎日のように食べるパンを手がけるPascoは、2030年までに国産小麦の使用比率を20%に引き上げる目標を掲げています。日本の小麦自給率は約16%と非常に低く、パン用小麦はさらに輸入依存度が高い状態です。Pascoは北海道の小麦農家と直接連携し、「Pascoゆめちから農場」として契約農場を設けています。帯広畜産大学との共同研究も行っており、2024年には「超熟 国産小麦」シリーズをリニューアル、「国産小麦 コーンパン4個入」を新発売しました。スーパーで手に取れる商品がすでに変わり始めています。


セブンイレブンの全量国産切り替え


セブンイレブンは2024年4月から、カップうどんや中華麺などチルド麺類弁当の小麦粉を全量国産に切り替えました。さらに2030年までに地産地消の原材料費率30%を目指す方針も公表しています。滋賀県産のパン用小麦粉調達もそのひとつです。コンビニは全国に約5万7,000店舗あるため、調達先を変えると農家への経済的影響も大きくなります。


リンガーハットの野菜・麺100%国産化


ちゃんぽん・皿うどんのリンガーハットは2010年から、麺を全量国産小麦に切り替えました。さらに使用する野菜の国産化プロジェクトも推進し、北海道から九州まで15道県・約40産地と契約。国産化を決めてからわずか1年で40産地との連携を実現させた行動力は注目に値します。外食チェーンが国産にこだわることで、農家の安定した販路確保にもつながっています。


これらの取り組みには共通点があります。企業が率先して国産品を使うことで、農家に安定した収入と生産意欲をもたらす仕組みを作っているという点です。つまり企業の取り組みが基本です。


日本伝統野菜推進協会「食料自給率の向上に寄与 ~コンビニ大手が小麦の国産化進める~」(各社の国産小麦切り替え動向が詳しくまとまっています)


食料自給率向上を支えるスマート農業の企業取り組み

生産現場でも、企業による革新的な取り組みが進んでいます。食料自給率を根本から上げるには、農産物の消費拡大だけでなく、生産効率を高めることも欠かせません。そこで注目されているのが「スマート農業」です。


クボタのICT・ロボット農業


農機メーカーの株式会社クボタは、ICT(情報通信技術)とロボット技術を組み合わせたスマート農業を積極的に推進しています。自動運転トラクターや水田センシングシステムを活用することで、農作業の省力化と作物の高品質化を同時に実現しています。農業従事者の高齢化・減少という課題を機械の力で補い、農地を維持することが自給率向上の土台になります。


井関農機のニッポンフードシフト推進


農機メーカーの井関農機は、農林水産省が推進する「ニッポンフードシフト」の推進パートナーとして参画しています。農業機械を通じた食の大切さの発信とともに、農作業の効率化で農家の負担を軽減することを目指しています。


スマート農業の市場規模は2022年度に約302億円でしたが、2029年度には約708億円に拡大すると予測されています(ヤンマー調査)。政府も2030年度までにスマート農業技術の活用割合を農地面積ベースで50%以上に拡大する目標を掲げており、企業による農業DXへの投資が加速しています。


現在、日本の基幹的農業従事者数は2025年時点で約102万人と、15年前から半減している深刻な状況です。スマート農業はこの人手不足に対応しながら生産性を維持・向上させる、食料自給率向上に欠かせない切り札となっています。


スマート農業の具体的な内容が気になるなら、農林水産省の「スマート農業推進総合パッケージ」のページで最新情報を確認できます。


食料自給率向上への主婦の買い物が持つ意外なパワー

企業や農家だけが頑張っても、消費者が動かなければ自給率は上がりません。ここが特に重要なポイントです。


農林水産省によると、国産の米粉パンを1人が1か月に3個食べるだけで、日本全体の食料自給率が1%上がるという試算があります。食パン1枚分の国産米粉への置き換えが、これほどの数字につながるのは意外に感じるかもしれません。これは、輸入小麦粉を国産米粉に代替した場合のカロリーベースの試算で、消費者の行動が集まれば確実に統計を動かせるということを示しています。


JAグループが提唱する「国産DAY」


JAグループは「日曜日は国産の食材を選ぶ」という新習慣「国産DAY」を提唱しています。毎週日曜日だけ、野菜や肉・魚を国産のものに切り替えるという、無理のない取り組みです。週1回だけ意識するだけなので、家計への負担も最小限で始められます。


実際にスーパーで買い物するとき、商品パッケージの産地表示を確認するだけでも行動は変わります。小麦粉を使ったパンの場合、「小麦粉(小麦(国産))」という表示があれば産地が国産であることを示しています。「国内製造」の表示だけでは小麦の産地は国産とは限らないため注意が必要です。


旬の食材・地産地消の選択


地元で採れた旬の食材を選ぶことも、食料自給率向上に直結します。輸送距離が短い地元の農産物を選ぶと「フードマイレージ」(食料輸送距離×重量で算出)が下がり、CO₂削減と自給率向上が同時に実現します。実は日本の国民1人当たりのフードマイレージは世界第1位と言われており、地産地消の余地はまだまだ大きいと言えます。


農産物直売所やふるさと納税を活用して地元農家を直接応援するのも、効果的な行動です。


JAグループ「国産DAY」公式サイト(具体的な国産食材の選び方や参加方法が確認できます)


食料自給率向上の独自視点——家庭の「食品ロス削減」が自給率を守る理由

食料自給率向上の文脈で語られることが少ないのが、家庭の「食品ロス削減」との関係です。これは意外なつながりです。


食料自給率はカロリーベースで算出されますが、国内で生産した食料を食べずに捨てれば、実質的な供給カロリーは無駄になります。農林水産省の試算では、日本では年間約472万トンの食品ロスが発生しており(2022年度)、そのうち家庭からの排出は約236万トンと半数を占めています。これは国民1人当たりに換算すると、毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てている計算になります。


食べ残しや野菜の皮の大量廃棄、買いすぎによる腐敗は、国内農産物のカロリーを無駄にするだけでなく、農家の生産意欲を削ぐ側面もあります。売れる見込みがなければ農家は国産食材の生産規模を縮小せざるを得ず、結果として自給率の数字にも影響します。


家庭で食品ロスを減らす行動——冷蔵庫の中身を把握する、旬の食材を使い切る、野菜の外葉や根まで活用する——は、節約にもなりながら国産食料の有効活用にも貢献します。国産野菜をきちんと使い切ることは、農家への応援と自給率向上を同時に実現する行動です。


食品ロス削減アプリ「mottECO(もってこ)」(外食時の持ち帰り)や、冷蔵庫管理アプリ「コープデリ」などを活用すると、日常の食品ロス削減が習慣化しやすくなります。確認するだけで家庭の自給率貢献度が変わります。


食品ロス削減と食料自給率向上は、切り離せない課題です。買い物で選ぶこと、そして選んだものをきちんと食べ切ること——この2つが揃って初めて消費者の力が最大化されます。


農林水産省「令和5年度食料自給率・食料自給力指標について」(政府の公式発表資料。自給率の計算方法や目標値を正確に確認できます)