サプリを毎日飲んでいるなら、腎臓が静かにダメージを受けているかもしれません。
「耐容上限量(たいようじょうげんりょう)」という言葉は、サプリメントのパッケージや健康情報の記事でよく目にします。しかし、その正確な意味を把握している人は多くありません。まずはここから整理しましょう。
耐容上限量とは、厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」の中の指標のひとつです。正式な定義は「健康障害をもたらすリスクがないとみなされる習慣的な摂取量の上限」。つまり、これを超えて摂り続けると、過剰摂取による健康トラブルのリスクが高まると考えられる量のことです。
食事摂取基準には、主に以下の5つの指標が設けられています。
| 指標名 | 意味 |
|---|---|
| 推定平均必要量 | 集団の50%が必要量を満たす摂取量 |
| 推奨量 | ほぼ全員(97〜98%)が充足する目標摂取量 |
| 目安量 | 科学的根拠が不十分な場合の代替指標 |
| 目標量 | 生活習慣病予防のための目標値 |
| 耐容上限量 | 超えると健康障害リスクが生じうる上限値 |
推奨量は「これだけ摂ってほしい量」、耐容上限量は「これ以上は摂りすぎになる量」です。推奨量が目指すべきゴールなら、耐容上限量は越えてはいけないゴールです。つまりまったく別の意味を持っています。
この2つは混同されやすいので注意が必要です。
たとえばカルシウムは、18歳以上の女性の推奨量が1日650mgです。一方、耐容上限量は男女ともに1日2,500mgと設定されています。推奨量の約3.8倍も上限があるように思えますが、食事+カルシウム強化食品+サプリを組み合わせると、意外と近づいてしまうことがあります。これが問題です。
耐容上限量が条件です。この数値を意識しながら栄養を摂ることが、正しいサプリの使い方の第一歩になります。
参考:耐容上限量(UL)の定義と概要について(日本薬学会)
https://www.pharm.or.jp/words/post-165.html
耐容上限量はすべての栄養素に設定されているわけではありません。これは大切なポイントです。
現行の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、以下の栄養素に耐容上限量が定められています。
脂溶性ビタミン(A・D・E・K)は体内の脂肪組織や肝臓に蓄積されやすい性質があります。余分に摂っても尿から排出されにくいため、長期間にわたって過剰摂取を続けると体内に蓄積し、健康被害につながります。
水溶性ビタミン(C・B群など)は一般的に「尿で排泄されるから安全」と言われがちです。しかし葉酸(サプリ由来)やビタミンB6などは過剰摂取で問題が起きることがわかっているため、耐容上限量が設定されています。これは意外ですね。
一方、ビタミンCやビタミンB1などは現時点で耐容上限量が設定されていません。ただしこれは「いくら摂っても安全」という意味ではありません。科学的なデータが不十分なため設定できていないだけ、というのが正しい理解です。
「設定なし=安全」は誤解です。
参考:脂溶性ビタミンの過剰摂取リスクと耐容上限量について(健康長寿ネット)
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/vitamin-d.html
特に主婦に関わりが深いのが、「骨の健康のために摂っている」ビタミンDとカルシウムです。骨粗しょう症予防として積極的に補給している人は多いでしょう。しかし、この2つは過剰摂取した場合の健康被害が最も報告されている栄養素でもあります。
ビタミンDの耐容上限量は、日本人の食事摂取基準(2025年版)によると、18歳以上の男女ともに1日100μg(マイクログラム)です。一方、目安量は9.0μgに設定されています。つまり上限は目安量の約11倍です。
問題は、市販のビタミンDサプリには1粒に25μg(1,000IU)〜50μg(2,000IU)以上含まれるものが多いことです。食事からの摂取分(平均約6.9μg)と合わせると、1日2粒で合計56.9〜106.9μgになり、上限に迫る、あるいは超えることがあります。
ビタミンDを摂りすぎると「高カルシウム血症」という状態になります。血液中のカルシウムが増えすぎて、血管の壁や腎臓・心筋・肺などにカルシウムが沈着します。症状は吐き気、食欲不振、倦怠感、頻尿から始まり、重症になると腎機能障害や腎臓結石、不整脈に発展することもあります。
カルシウムの耐容上限量は1日2,500mgです。カルシウム強化乳を1日コップ2杯(約800mg)、カルシウムサプリ300mg、通常の食事から500mgを摂れば合計1,600mg。さらにカルシウム強化ウエハースや骨汁スープなどを意識して摂ると、あっという間に2,500mgに近づきます。これは問題です。
骨のためにと思って摂っている栄養素が、逆に腎臓を痛める原因になる可能性があるということです。健康のために摂っているものがリスクになるというのは、見逃せない落とし穴です。
心配な方は、食事と合わせたトータルの摂取量を確認することが一番の対策です。国立健康・栄養研究所が公開している「健康食品の安全性・有効性情報」では、各栄養素の過剰摂取リスクを確認できます。
参考:カルシウムの過剰摂取と高カルシウム血症について(健康長寿ネット)
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-ca.html
「マルチビタミンを飲んでいるから栄養は十分」と思っている方は多いはずです。その上で、美肌のためにビタミンC単品サプリ、疲労回復にビタミンB群、骨のためにビタミンDとカルシウム、という組み合わせで飲んでいるケースがよく見られます。
これが「気づかない過剰摂取」の典型です。
たとえば、マルチビタミンのビタミンAが700μgRAE含まれているとします。それに加えて、別のサプリに含まれるβ-カロテンからの転換分も含めると、1日の合計が耐容上限量(2,700μgRAE)に近づきます。ビタミンAの過剰摂取は頭痛、脱毛、皮膚のはがれ、肝臓障害などを引き起こすことが知られています。
また、複数のサプリにカルシウムが重複して含まれていることもあります。日本スポーツ科学センターの情報によれば、「実はすべてのサプリにカルシウムが含まれており、食事とサプリからの摂取量を足すと耐容上限量に達している」ケースも実際に報告されています。
これは使えそうです。サプリを複数飲む際の確認方法は、各製品のラベルに記載された「1日当たりの含有量」をメモし、すべての合計を計算することです。食事からの平均摂取量を足したうえで、耐容上限量と比較するのが正しい確認手順です。
具体的な手順として整理すると次のようになります。
この確認作業を月に1回行うだけで、知らないうちに過剰摂取していたリスクを大きく減らせます。面倒に感じるかもしれませんが、腎臓や肝臓を守るために必要な一手間です。
参考:サプリメントの複数摂取と過剰摂取リスク(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/nutrient_declearation/vitamin_d/assets/food_labeling_cms206_20210825_04.pdf
「栄養素の数字を毎回チェックするなんて大変」と感じる方も多いでしょう。確かに、すべての食品とサプリの数値を毎日計算するのは非現実的です。ここでは、日常生活でぱっと使えるチェック方法を紹介します。
まず覚えておきたいのは「脂溶性ビタミンとミネラルは意識する、水溶性ビタミン単体はそこまで神経質にならなくていい」という大まかなルールです。これだけでも意識が変わります。
次のような場面では耐容上限量を特に意識してください。
また、主婦として家族全員の栄養管理に関わる場合、特に子どものサプリには注意が必要です。子どもの耐容上限量は大人より低く設定されています。たとえばビタミンDは6〜7歳で40μg/日、12〜14歳で80μg/日が上限です。大人用サプリを子どもに分けて与えるのはダメです。
「国立健康・栄養研究所」の公式サイトでは、各栄養素の安全性情報を無料で調べることができます。「○○ 安全性 上限量」で検索すると信頼性の高い情報にアクセスできます。気になる栄養素があれば、購入前にここで確認する習慣をつけましょう。
耐容上限量に注意すれば大丈夫です。サプリを正しく活用することで、家族の健康をより安心して守ることができます。
参考:健康食品の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)
https://hfnet.nibn.go.jp/fundamental-knowledg/detail138/