ウィーン風もミラノ風も「豚肉のカツ」だと思っていると、本場シェフに笑われます。
ウィーン風カツレツ(Wiener Schnitzel)は、オーストリアのウィーンを代表する国民食です。その歴史は18世紀にまで遡り、もともとはイタリア・ミラノの料理がオーストリア軍を通じてウィーンへ伝わったという説が長らく信じられてきました。しかし近年の歴史研究では、この「伝播説」を裏付ける一次資料が存在しないとされており、実際にはウィーンで独自に発展した料理である可能性が高いとも言われています。意外ですね。
ミラノ風カツレツ(Cotoletta alla Milanese)は、イタリア・ロンバルディア州ミラノの伝統料理で、記録に残る最古のレシピは12世紀にまで遡ります。聖アンブロージョ修道院の宴会記録に「子牛の骨付きカツレツ」として登場しており、ヨーロッパのカツレツ料理の中でも最も古い部類に入ります。これは使えそうです。
両料理の最大の違いは「起源の地」だけでなく、使われる食材と調理法にあります。ウィーン風は仔牛の薄切り肉をラードまたはバターで揚げ焼きにするのが正統派とされており、オーストリアでは法律によって「Wiener Schnitzel」と名乗るには仔牛肉(Kalbfleisch)を使わなければならないと定められています。一方、ミラノ風は骨付き肉(コストレッタ)を使う点が大きな特徴で、衣にパルミジャーノ・レッジャーノチーズを混ぜ込むのが本場流です。
つまり、同じ「薄く叩いた肉に衣をつけて揚げた料理」でも、発祥・食材・衣・調理油がすべて異なるということです。
本格的なウィーン風カツレツを作るうえで最も重要なのが、肉を「紙のように薄く」叩き伸ばすことです。本場では厚さ約3〜4mm、つまりクレジットカードの厚みの2〜3枚分程度まで薄く広げます。これほど薄くすることで、バターの香りが肉全体に均一にまわり、サクッとした軽い食感が生まれます。
家庭でも仔牛肉に近い食感を得たい場合は、豚ロースの薄切り肉をラップで挟んで麺棒で叩き伸ばす方法が有効です。ただし、豚肉を使った場合はオーストリアの基準では「Schnitzel nach Wiener Art(ウィーン風シュニッツェル)」と呼ぶべきで、厳密には「Wiener Schnitzel」ではありません。これが原則です。
衣の順番は「小麦粉→溶き卵→パン粉」の3段階が基本です。ここで多くの家庭料理で見落とされがちなポイントがあります。パン粉をギュッと押しつけてはいけません。軽くふわっとまとわせることで、揚げたときに衣が肉から少し離れて膨らむ「ソッフリット(膨らみ)」が生まれます。これがウィーン風カツレツ特有のフワサクな食感の正体です。
揚げ油はラードまたは澄ましバター(クラリファイドバター)を使います。油の量は多めにし、フライパンを傾けながら油を衣にかけ続ける「揚げ焼き」スタイルで調理します。温度は約160〜170℃、低めの温度でじっくり揚げることがポイントです。仕上げにレモンをたっぷり絞って食べるのが定番のスタイルです。
| 材料(2人分) | 分量 |
|---|---|
| 仔牛または豚ロース薄切り | 2枚(各100〜120g) |
| 小麦粉 | 大さじ3 |
| 溶き卵 | 1個分 |
| 細かめパン粉(乾燥) | 大さじ5〜6 |
| 澄ましバターまたはラード | フライパンに1cm程度 |
| レモン | 1個(くし切り) |
| 塩・こしょう | 適量 |
ミラノ風カツレツの最大の特徴は、衣にパルミジャーノ・レッジャーノを混ぜ込む点です。パン粉とパルミジャーノを1:1の割合で混ぜたものを衣にすることで、揚げたときにチーズの旨味と香ばしさが加わり、ウィーン風とはまったく異なる風味に仕上がります。これは本場ミラノの家庭でも守り続けられている作り方です。
また、本場のミラノ風カツレツは骨付きの仔牛肉(コストレッタ)を使います。骨の部分を持ちながら食べる姿がレストランでも普通に見られ、見た目もとても豪快です。日本では骨付き肉の入手が難しいため、骨なしの仔牛もも肉や豚ロース厚切りで代用するのが現実的です。厚みは1cm強が目安で、ウィーン風より厚めに仕上げます。
揚げ方の違いも重要なポイントです。ミラノ風は多めのバターでゆっくり揚げますが、ウィーン風ほど大量の油は使いません。弱めの中火でじっくりと両面をこんがり焼くイメージに近く、火加減の目安は「バターがゆっくり泡立っている状態」を保つことです。強火でバターを焦がしてしまうと風味が台無しになるため、注意が必要です。
仕上げにはシンプルなアーグラータ(みじん切りにしたアンチョビと刻みパセリを混ぜたもの)を添えるか、トマトソースとルッコラをのせる「ミラノ風カツレツ・コン・インサラータ」スタイルも人気です。シンプルな料理だけに、付け合わせで大きく印象が変わります。
| 材料(2人分) | 分量 |
|---|---|
| 仔牛もも肉または豚ロース厚切り | 2枚(各120〜150g) |
| 小麦粉 | 大さじ3 |
| 溶き卵 | 1個分 |
| 細かめパン粉(乾燥) | 大さじ3 |
| パルミジャーノ・レッジャーノ(すりおろし) | 大さじ3 |
| バター | 40〜50g |
| 塩・こしょう | 適量 |
| レモン・ルッコラ(お好みで) | 適量 |
最もよくある失敗は「衣が剥がれる」ことです。これは主に2つの原因で起きます。1つ目は肉の表面の水分を十分に拭き取っていないこと、2つ目は小麦粉をつけたあと時間を置きすぎること。小麦粉をまぶしたらすぐに卵液につけ、素早くパン粉をまとわせるのが基本です。
2つ目によくある失敗は「油温が低すぎてべたつく」ことです。油温が低いと衣が油を吸いすぎて重たい仕上がりになります。揚げる前にパン粉のかけらを油に落として、1〜2秒で浮き上がってくる温度(約170℃)を確認してから肉を入れましょう。これだけ覚えておけばOKです。
パルミジャーノの代用品について気になる方も多いと思います。スーパーで手に入る粉チーズ(国産のパルメザンチーズ)でも代用はできますが、風味の深みはかなり落ちます。最近はコストコや輸入食品店でパルミジャーノ・レッジャーノのブロックが手頃な価格で売られているため、こだわりたい場合はそちらを使うと仕上がりが段違いに変わります。
肉を叩き伸ばす際に「外に飛び散る」のも主婦の皆さんからよく聞くお困り点です。ラップを2枚重ねて肉をはさみ、麺棒で叩くだけでなく「外に向かって転がすように」伸ばすのが効果的です。力任せに叩くと肉が割れてしまうので、ゆっくり丁寧に伸ばすのがコツです。厚みが均一になると火の通りも均一になります。
本場の仔牛肉は日本では100gあたり500〜800円前後と高価なため、毎日の食卓には取り入れにくいのが現実です。しかし豚薄切りロースは100gあたり150〜200円程度で入手できるため、コスト面では約1/4以下に抑えられます。節約になりますね。
豚薄切り肉を2〜3枚重ねて叩き伸ばすと、仔牛肉に近い厚さと食感に近づけることができます。重ねた肉同士がくっつくよう、表面に薄く小麦粉をはたいてから重ねるのがポイントです。これにより1枚あたりのコストを抑えながら、ボリュームのある一品に仕上がります。
鶏むね肉を使ったアレンジも人気です。鶏むね肉1枚(約250g)を観音開きにして叩き伸ばすと、2人分のウィーン風カツレツが1枚の肉で作れます。鶏むね肉はパサつきやすいですが、叩くことで筋繊維が壊れ、揚げたあともしっとりした食感になります。胸肉ならミラノ風のチーズ衣との相性も抜群です。
揚げた後のリメイクとして、ウィーン風カツレツを細切りにしてサラダのトッピングにする「シュニッツェル・サラダ」もおすすめです。レモンドレッシングをかけると本場オーストリアのカフェ気分が味わえます。前日の残り物もこうしておしゃれに再活用できます。これが節約と時短の両立です。
ミラノ風カツレツのパルミジャーノ衣は、揚げずにオーブンで焼く「焼きカツレツ」にすることもできます。180℃のオーブンで15〜18分焼くだけで、油を大幅に減らしたヘルシーバージョンが完成します。油の使用量が通常の揚げ物の1/5程度になるため、カロリーが気になる方にとっても嬉しいアレンジです。
| アレンジ方法 | 使用食材 | コストの目安(2人分) |
|---|---|---|
| 基本の豚ロース代用 | 豚ロース薄切り | 約300〜400円 |
| 鶏むね肉代用 | 鶏むね肉1枚 | 約150〜200円 |
| オーブン焼きカツレツ | 豚or鶏むね肉 | 約200〜350円 |
| シュニッツェル・サラダ(リメイク) | 残ったカツレツ | 追加コストほぼゼロ |