実は、ザッハトルテの「本物」を名乗れるお店は世界にたった1軒だけです。
ザッハトルテという名前を初めて聞いたとき、「どこの言葉だろう?」と思った方も多いはずです。これはドイツ語で、「ザッハ(Sacher)」と「トルテ(Torte)」という2つの単語が合わさった言葉です。
「トルテ」はドイツ語でケーキを意味します。そして「ザッハ」は、このケーキを考案した人物の名前、フランツ・ザッハー(Franz Sacher)から取られています。つまりザッハトルテとは、「ザッハさんのケーキ」という、いたってシンプルな意味なのです。
シンプルな名前ですね。
日本語では「ザッハートルテ」と伸ばして表記されることもあり、どちらも同じケーキを指しています。英語表記では「Sachertorte」と一語で書くのが一般的です。コトバンクによると、「Sacher(考案者名)+torte(円盤状のケーキ)」という組み合わせで、ウィーンの名物スイーツとして辞書にも掲載されているほど広く知られた言葉になっています。
ケーキの名前に人名が入るのは珍しいことではありませんが、ザッハトルテの場合はその背景に190年以上の歴史と、ひとりの若者の劇的なエピソードが詰まっています。名前の意味を知るだけで、このケーキへの見方がぐっと変わるはずです。
コトバンク|ザッハートルテの意味・使い方(辞書掲載の正式定義が確認できます)
ザッハトルテが生まれたのは1832年のウィーン。当時のオーストリアは、ヨーロッパの政治の中心地であり、宰相クレメンス・メッテルニヒが権力の頂点に立っていた時代です。
ある日、メッテルニヒは大切な来賓のために「特別なデザートを作れ」と料理長に命じました。ところが、肝心の料理長がよりによってその日に病気で倒れてしまいます。ピンチを救ったのは、まだ16歳だった見習いのフランツ・ザッハーでした。プレッシャーのかかる状況の中で彼が作り上げたのが、チョコレートのバターケーキにアプリコットジャムを塗り、全体をチョコレートフォンダンで覆った一品でした。
これが今日まで愛されるザッハトルテの始まりです。
このケーキはウィーン中の話題になったといわれています。フランツは後にハンガリーの名門貴族の厨房に引き抜かれるほど評価され、帰ウィーン後は自分の店を持つまでに成長しました。16歳の代打から生まれたケーキが、190年以上も世界中で愛され続けているというのは、食の歴史でも稀有な話です。
フランツの次男エドゥアルドは1876年にホテル・ザッハーを開業し、ザッハトルテはそのカフェの看板商品として定着します。初代と変わらないレシピで今も作り続けられているというのは、それだけレシピが完成されていた証拠ともいえます。
株式会社パールエース|ザッハトルテと甘くない歴史(誕生の経緯と裁判の背景がわかりやすくまとめられています)
ザッハトルテがほかのチョコレートケーキと一線を画すのは、見た目だけでなく構造にも明確な特徴があるからです。大きく分けると、次の3つの要素で成り立っています。
つまり「重ねて塗って包む」が基本です。
特にアプリコットジャムは、ザッハトルテの大きなアイデンティティです。一般的なチョコレートケーキではラズベリーが使われることもありますが、ザッハトルテに使われるのはアプリコットのみとされています。このジャムがなければ、どれだけ見た目が似ていてもザッハトルテとは呼べないとされるほど、欠かせない存在です。
本場ウィーンでは、この濃厚さをバランスよく食べるために、無糖の生クリームを添えて提供するのが伝統的なスタイルとなっています。砂糖を一切入れずに泡立てた生クリームとの組み合わせは、チョコレートの甘みを引き立てながら、くどさを和らげてくれます。口直しとしての生クリームというのは、意外な組み合わせに感じるかもしれませんが、これがウィーン流の正しい食べ方です。
明治チョコレートコラム|ザッハトルテの特徴と他チョコケーキとの違い(フォンダンやアプリコットジャムの詳細解説があります)
「ザッハトルテってガトーショコラと何が違うの?」という疑問は、多くの方が一度は持ったことがあるはずです。どちらもチョコレートを使ったケーキですが、実は材料・構造・味わいのすべてにはっきりとした違いがあります。
まず大きな違いはアプリコットジャムの有無です。ガトーショコラはシンプルなチョコレート生地が主役で、ジャムは基本的に使いません。対してザッハトルテはアプリコットジャムが必須で、これが風味の核を担っています。ジャムがあるかどうかで、後口のさわやかさがまったく変わります。
次にチョコレートフォンダンのコーティングです。ガトーショコラは粉砂糖を振るか、そのまま仕上げることがほとんど。一方、ザッハトルテは全体をチョコフォンダンで包んで仕上げます。表面のシャリッとした食感はザッハトルテだけのものです。これは使えそうですね。
3つ目は生地の製法にあります。ガトーショコラはふんわりとした仕上がりが特徴で、よりしっとり・軽い食感を目指します。ザッハトルテはバターケーキの製法で作るため、どっしりとした重厚感があります。
| ケーキ | ジャム | コーティング | 食感 |
|---|---|---|---|
| ザッハトルテ | アプリコットジャム(必須) | チョコフォンダン | どっしり・重厚 |
| ガトーショコラ | なし(基本) | 粉砂糖など | ふんわり・しっとり |
| オペラ | なし | チョコグラサージュ | 層状・濃密 |
| ブラウニー | なし | なし | しっとり・ナッツ入り |
この違いを知っておくと、カフェやケーキショップのメニューを見たときに「あ、これはガトーショコラだな」「これが本物のザッハトルテに近いな」と判断する目が養われます。記念日や贈り物に選ぶときにも迷わず選べるようになるので、ぜひ頭に入れておいてください。
macaroni|ザッハトルテとほかのチョコレートケーキとの違いを表で比較(オペラ・ガトーショコラ・ブラウニーと一覧比較されています)
ザッハトルテの歴史の中で、最もドラマチックなエピソードのひとつが「甘い7年戦争」と呼ばれる裁判騒動です。このケーキに関しては、単においしい・おいしくないという話では済まない、非常に人間くさい争いが背後に存在します。
発端はホテル・ザッハーが財政難に陥ったことです。3代目のエドマンド・ザッハーの時代、ウィーンの王室御用達の名門ケーキ店「デメル」が資金援助を申し出ます。その条件がザッハトルテのレシピと販売権の譲渡でした。こうしてデメルもザッハトルテを販売するようになりましたが、後にホテル・ザッハーは「オリジナル」の名称を独占すべく、デメルを相手取って訴訟を起こします。これが1954年のことです。
厳しいところですね。
裁判の争点になったのは、意外にもアプリコットジャムの塗り方でした。ホテル・ザッハーのザッハトルテはスポンジを2層に切り分け、内部にもジャムを挟む構造になっています。一方、デメルのものはスポンジの表面にのみジャムを塗るスタイルです。「どちらがフランツ・ザッハーの本来のレシピに忠実か」という、実にケーキらしい争点で7年間の法廷闘争が繰り広げられました。
結論は「両方がザッハトルテを販売してよい」というものでした。ただし、「オリジナル・ザッハトルテ(Original Sacher-Torte)」の名称はホテル・ザッハー専用、デメルのものは「デメルのザッハトルテ(Demel's Sachertorte)」として販売するよう定められました。今も両店のケーキには、それぞれ丸形(ホテル・ザッハー)と三角形(デメル)のチョコレートエンブレムが押され、歴史的な経緯を象徴しています。
この裁判がきっかけで、ザッハトルテは世界中でさらに広く知られるようになったともいわれます。「本物」をめぐる争いが、逆に宣伝効果を生んだのは、なんとも皮肉な話です。日本でもホテル・ザッハーのオリジナル・ザッハトルテは直輸入で購入できるため、興味のある方は一度本物を味わってみることをおすすめします。
All About|ザッハトルテを巡る甘い7年戦争 デメルvsホテルザッハ(裁判の詳細な経緯が解説されています)
ザッハトルテは「知っているとちょっと自慢できる」スイーツのひとつです。カフェのメニューやスイーツ特集、バレンタインシーズンなど、案外いろんな場面で名前を耳にすることがあります。そこで、日常生活で役立つ豆知識をまとめておきます。
まず選び方のポイントとして、市販のザッハトルテを購入する際は、アプリコットジャムが使われているかどうかを確認するのが第一歩です。ジャムなしの「ザッハトルテ風」も多く出回っているため、本来の味を楽しみたいときはジャム入りを選ぶのが正解です。
次に、贈り物としてのザッハトルテはバレンタインや父の日、ちょっとした手土産に非常に喜ばれます。チョコレートケーキと伝えるよりも「オーストリアの伝統的なケーキで、ウィーンでは"チョコレートケーキの王様"と呼ばれているんです」と一言添えるだけで、会話が弾みます。意外ですね。
また、おうちで作る場合は、アプリコットジャムを手作りする必要はありません。スーパーで市販されているあんずジャムで十分代用できます。フォンダンコーティングは少し技術が必要ですが、溶かしたチョコレートで代用することもできるため、初心者でも挑戦しやすいです。
一点だけ覚えておけばOKです。ザッハトルテの最大の特徴は「アプリコットジャム×チョコフォンダン」のコンビです。この2つが揃って初めてザッハトルテらしくなるので、手作りするときは特にアプリコットジャムを省かないようにしましょう。
最後に余談ですが、ザッハトルテはイタリアでは「サケル」と呼ばれ親しまれています。イタリア語で「Sachertorte」を読むと「サケル トルテ」となり、ケーキ部分を除いた「サケル」だけで通じるそうです。190年以上経っても国を超えて愛されているこのケーキ、ぜひ今度ケーキショップで見かけたときは手に取ってみてください。
ザッハトルテ紹介サイト(日本語で本場ホテル・ザッハーのザッハトルテについて詳しく紹介されています)
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