ボツリヌス菌症状から予防治療法まで

ボツリヌス菌が引き起こす食中毒の症状、潜伏期間、原因食品から効果的な予防対策や治療法まで詳しく解説します。真空パック食品や乳児の注意点も網羅。あなたの家族を守る知識はありますか?

ボツリヌス菌症状と感染経路

この記事で分かること
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ボツリヌス菌の症状

神経麻痺による複視、嚥下困難、呼吸困難などの危険な症状とその進行過程

潜伏期間と発症

喫食後8~36時間で発症する初期症状と重症化リスク

🛡️
予防と治療

効果的な加熱方法、保存法、乳児への注意点と抗毒素療法

ボツリヌス菌食中毒の初期症状と進行

ボツリヌス菌による食中毒は、神経毒素によって引き起こされる重篤な疾患です。初期症状として、著しい疲労感、衰弱、めまいが現れ、その後視力調節の低下、口の渇き、複視などの特徴的な症状が発生します。病状が進行すると、嚥下困難や会話の障害が生じ、嘔吐、下痢、便秘、腹部膨満などの消化器症状を伴うこともあります。
参考)FORTH|最新ニュース|2018年|ボツリヌス中毒症 (フ…

最も危険な点は、筋力低下が顔面や頭部から始まり、腕、脚へと下行性に広がり、最終的に呼吸筋の麻痺を引き起こすことです。重症例では人工呼吸管理が必要となり、適切な治療が行われない場合、致死率は5%から10%に達します。特徴的なのは、発熱がなく意識も清明に保たれる点で、これが診断の重要な手がかりとなります。
参考)ボツリヌス症 - 16. 感染症 - MSDマニュアル家庭版

ボツリヌス菌感染の潜伏期間と発症タイミング

ボツリヌス菌による食中毒の潜伏期間は、通常喫食後12時間から36時間です。最短では4時間、最長では8日後に症状が現れることもあり、個人差が大きいのが特徴です。多くの症例では18時間から48時間の間に発症することが報告されており、この時間帯が最も注意が必要な期間となります。
参考)【食中毒】ボツリヌス菌とは?|症状や対策を解説!

潜伏期間の長さは、摂取した毒素の量や個人の体調によって変動します。少量の毒素でも重篤な症状を引き起こす可能性があるため、怪しい食品を食べた場合は、症状の有無にかかわらず医療機関への相談が推奨されます。早期発見と早期治療が予後を大きく左右するため、潜伏期間中の観察が極めて重要です。
参考)301 Moved Permanently

ボツリヌス菌が原因となる食品と感染経路

ボツリヌス菌の主な感染源は、保存食品や発酵食品です。具体的には、いずし、魚のくん製、缶詰、びん詰、真空パック食品などが原因食品として挙げられます。特に自家製の海産物や保存状態の悪いびん詰、真空包装された調理済食品は高リスクとなります。
参考)食中毒の原因(ボツリヌス菌)/前橋市

真空パック食品が危険な理由は、ボツリヌス菌が偏性嫌気性菌であり、酸素のない環境を好むためです。容器が異常に膨張していたり、異臭がある場合は絶対に食べてはいけません。また、pH4.6以下の酸性環境では菌が増殖できないため、低酸性食品では特に注意が必要です。土壌や海、川の泥砂中に広く生息する菌であるため、あらゆる食材に汚染リスクが伴います。
参考)https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/03-4.html

乳児ボツリヌス症の特殊な症状と危険性

乳児ボツリヌス症は1歳未満の乳児に特有の疾患で、成人の食中毒とは異なるメカニズムで発症します。乳児の腸内環境が未熟なため、摂取したボツリヌス菌の芽胞が腸管内で発芽・増殖し、毒素を産生することで発症します。潜伏期間は3日から30日間と長く、最初の症状は数日続く便秘です。
参考)乳児ボツリヌス症に注意~原因食品ははちみつだけではありません…

その後、哺乳力の低下、全身の筋力低下、泣き声が小さくなる、顔面が無表情になるなどの特徴的な症状が現れます。瞳孔が開く症状も認められ、脱力状態に陥ります。はちみつが最も有名な原因食品ですが、未精製の黒糖やコーンシロップ、自家製野菜スープ、井戸水も原因となる可能性があります。ほとんどの場合、適切な治療により治癒しますが、過去には死亡例も報告されています。
参考)1歳未満の乳児に、はちみつを与えてはいけないのはなぜですか?…

厚生労働省の乳児ボツリヌス症予防ガイド - 1歳未満の乳児へのはちみつの危険性と予防対策

ボツリヌス菌の毒素メカニズムと身体への影響

ボツリヌス毒素は自然界最強の毒素とされ、神経伝達を阻害することで筋肉の麻痺を引き起こします。この毒素は亜鉛メタロプロテアーゼとして機能し、神経筋接合部でSNAREタンパク質を特異的に切断します。その結果、神経終末からアセチルコリンの放出が阻害され、筋肉の弛緩性麻痺が生じます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10171130/

興味深いことに、ボツリヌス菌はA型からG型まで7つの型に分類され、人間に影響を与えるのは主にA型、B型、E型です。毒素は筋力に影響を及ぼしますが、感覚には影響せず、精神状態も通常は明晰に保たれるという特徴があります。この選択的な神経毒性が、ボツリヌス症の独特な臨床像を生み出す要因となっています。毒素による神経損傷は可逆的ですが、回復には数週間から数ヶ月を要することがあります。
参考)ボツリヌス症 - Wikipedia

WHOのボツリヌス症ファクトシート - 毒素のメカニズムと世界的な発生状況

ボツリヌス菌予防のための加熱処理と保存方法

ボツリヌス菌の芽胞は極めて熱に強く、通常の加熱調理では死滅しません。芽胞を完全に殺菌するには、120℃で4分以上の加圧加熱、または121℃で15~20分の高温高圧釜処理が必要です。100℃での加熱では長時間煮沸しても芽胞は生き残りますが、毒素自体は80℃で30分間、または100℃で数分の加熱で失活します。
参考)https://ryumasblog.com/bt01/

効果的な予防対策として、以下の方法が推奨されています。​

  • 喫食前に80℃以上で5分間以上の再加熱を行う
  • 圧力鍋を使用して120℃以上で加熱処理する
  • 調理後は速やかに10℃以下(理想は4℃以下)の冷蔵保存を行う
  • 真空パック食品や缶詰で容器の膨張や異臭がある場合は廃棄する
  • 自家製の保存食を作る際は適切な加圧滅菌を実施する

ボツリヌス菌は3℃未満では増殖できないため、低温管理が予防の鍵となります。常温保存する食品は酸性化(pH4.6以下)するか、適切な加圧加熱処理を行うことで安全性が高まります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11616598/

厚生労働省の真空パック食品のボツリヌス対策 - 容器包装詰低酸性食品の安全管理基準

ボツリヌス菌感染時の治療法と抗毒素療法

ボツリヌス症の治療で最も重要なのは、早期の診断と速やかな抗毒素剤の投与です。抗毒素は血中を循環している毒素を中和しますが、すでに神経終末に結合した毒素には効果がないため、発症後できるだけ早い段階での投与が予後を左右します。日本では国立感染症研究所を通じて抗毒素血清が供給されており、医療機関との連携が不可欠です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-32.html

呼吸筋の麻痺が進行した場合は、人工呼吸管理が必要となります。適切な呼吸管理と栄養管理を継続することで、神経機能の自然回復を待つことができます。乳児ボツリヌス症に対しては、ボツリヌス免疫グロブリン(BIG-IV)という特殊な治療薬が使用されることがあり、入院期間の短縮と合併症の減少に効果を示しています。
参考)ボツリヌス症 - 13. 感染性疾患 - MSDマニュアル …

治療中は誤嚥性肺炎などの合併症予防にも注意を払う必要があります。嚥下困難により食べものや唾液が肺に吸い込まれるリスクが高まるため、経管栄養や経静脈栄養による栄養管理が実施されます。回復には数週間から数ヶ月を要することがあり、リハビリテーションを含めた長期的な医療サポートが求められます。
参考)https://www.med.or.jp/kansen/guide/botulism.pdf

家庭で実践できるボツリヌス菌対策の具体例

家庭でのボツリヌス菌対策は、日々の食品管理から始まります。まず、真空パック製品や缶詰を購入する際は、容器の外観を必ずチェックしましょう。膨張、へこみ、サビ、異臭のある製品は絶対に購入・使用しないことが鉄則です。
参考)大阪市:ボツリヌス食中毒対策について (…href="https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000179882.html" target="_blank">https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000179882.htmlgt;食品・衛生href="https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000179882.html" target="_blank">https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000179882.htmlgt;食の…

自家製の保存食を作る場合は、特に注意が必要です。​

  • 野菜のピクルスや瓶詰を作る際は酢を加えて酸性化する(pH4.6以下を目指す)
  • 圧力鍋で120℃以上、4分以上の加圧処理を行う
  • 保存容器は事前に煮沸消毒し、清潔な状態で使用する
  • 調理後は速やかに冷蔵庫(4℃以下)で保存する
  • 長期保存する食品は小分けにして冷凍保存を検討する

レトルト食品が常温保存できるのは、121℃で15~20分の加圧加熱により芽胞まで完全に殺菌されているためです。家庭では同レベルの処理は困難なため、自家製保存食の常温保存は避けるべきです。また、1歳未満の乳児にははちみつ、黒糖、はちみつ入りの菓子や飲料を絶対に与えないことが重要です。
参考)ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。

食品環境検査協会のボツリヌス菌解説 - 症状から具体的な対策方法まで