市販のラードを「安いから健康に悪い」と避けているなら、実は国産ラードはバターより不飽和脂肪酸が多く、むしろ体に優しい油です。
「豚脂(とんし)」とは、豚の体から取れる脂肪分全体を指す言葉です。背中・腹まわり・内臓まわりなど、体のあらゆる部位に蓄積した脂肪組織をまとめて「豚脂」と呼びます。食品の成分表示や業務用食材の世界では、この言葉が広く使われています。
つまり豚脂は「原料」の総称です。
一方、「ラード(lard)」は豚脂を加熱・精製・ろ過して作られた食用油脂の「製品」を指します。英語のlardはもともと「豚の脂肪を精製したもの」という意味を持ち、日本でも明治時代以降に洋食の普及とともに定着しました。
家庭でよく目にする白くて固形のラードは、主に豚の背脂(せあぶら)を原料にしていることが多いです。背脂は豚の脊骨まわりに厚く蓄積した脂肪で、くせが少なく風味が上品なことが特徴。これを100℃前後の湯で煮出して脂を溶かし出し、不純物を除いて固めたものが市販ラードの正体です。
精製度が高いということですね。
なお、日本農林規格(JAS)では「精製ラード」「純製ラード」「調製ラード」の3種類に分類されており、精製ラードが最も純度が高く、白色で無臭に近い状態のものを指します。スーパーの棚でよく見かけるパッケージのラードは、この精製ラードに当たることがほとんどです。
| 項目 | 豚脂(とんし) | ラード |
|---|---|---|
| 定義 | 豚の脂肪全般の総称 | 豚脂を精製した食用油脂製品 |
| 状態 | 原料・素材 | 加工・精製済み製品 |
| 主な原料部位 | 背脂・腹脂・内臓周辺など | 主に背脂 |
| 臭い | 部位によって強い臭みあり | 精製により臭みが少ない |
| 家庭での入手 | 精肉店での購入が主 | スーパーで市販品を購入可 |
豚脂とラードの成分的な違いを理解すると、なぜ料理への影響が変わるのかが見えてきます。ラードの主要な脂肪酸はオレイン酸(約45%)、パルミチン酸(約26%)、リノール酸(約10%)の3つです。
これが基本です。
オレイン酸はオリーブオイルにも豊富に含まれる一価不飽和脂肪酸で、酸化しにくく加熱に強い性質を持ちます。パルミチン酸は飽和脂肪酸の一種で、ラードが常温で固まる性質を持つ理由はこの成分があるためです。リノール酸は必須脂肪酸の一つで、体内では合成できないため食品から摂取する必要があります。
バターと比較すると、バターの飽和脂肪酸含有量は約70%ですが、ラードは約40〜45%にとどまります。飽和脂肪酸の割合だけ見れば、ラードはバターより低い水準です。これは意外と知られていない事実です。
一方、植物油(サラダ油・大豆油など)と比べると、ラードは飽和脂肪酸の割合が高く、トランス脂肪酸については天然のラードにはほぼ含まれません。20世紀に植物油の水素添加マーガリンが普及した際、むしろマーガリンのほうがトランス脂肪酸を多く含むとして問題になった歴史的経緯があります。
発煙点(油が煙を出し始める温度)という観点では、ラードは約190〜205℃と比較的高めです。これはサラダ油(約230℃)より低いものの、エクストラバージンオリーブオイル(約160〜190℃)とほぼ同等か高い水準であり、揚げ物にも十分対応できる温度域です。
成分を知ると使い方の幅が広がりますね。
ラードが最も力を発揮するのは、中華料理の炒め物です。高温の鍋でラードを使うと、独特のコクと香ばしさが食材に移り、野菜炒めやチャーハンがお店のような仕上がりになります。中国の家庭料理では豚脂(猪油、ジューヨウ)がほぼ万能油として長年使われてきた背景があり、その文化的な蓄積は日本のラード文化とも重なります。
これは使えそうです。
チャーハンでの活用は特に効果的で、鍋全体が200℃近くになった状態でラードを入れると、バチッと高温の油煙が立ち上がり、いわゆる「鍋振り」の世界に近い状態を家庭でも再現できます。植物油と比べて独特のうま味成分が混じるため、シンプルな塩チャーハンでも風味が格段に上がります。
ラーメンのトッピングとしても豚脂(背脂)は有名です。横浜家系ラーメンや二郎系ラーメンで表面に浮かぶ白い脂がそれにあたり、あの濃厚なコクは背脂の豚脂由来です。精製されていない豚脂はラードより豚の風味が強く残るため、こってり系のスープに向いています。
製菓・パン生地でもラードは活躍します。
パイ生地やタルト生地にラードを使うと、バターとは異なるサクサク感が生まれます。これはラードの結晶構造が小麦粉のグルテン形成を物理的に妨げることで、層状のもろい食感が作られるためです。メキシコ料理のトルティーヤ、イギリスの伝統菓子ショートクラスト・ペストリーなど、洋の東西を問わずラードは製菓の世界でも重要な役割を担ってきました。
量の目安としては、チャーハン1人分(ご飯180g程度)に対してラード小さじ1〜2杯(5〜10g)が適量です。使いすぎると脂っこくなりすぎるので、少量から試すのが基本です。
スーパーで市販されているラードには、大きく分けて3つのタイプがあります。それぞれの特徴を把握しておくと、用途に合った選択ができます。
まず「純製ラード」は豚脂だけを原料とした最もシンプルなラードです。豚の風味がしっかりと残っており、炒め物・ラーメンスープ・チャーハンなど「豚の香りを活かしたい料理」に向いています。代表的な商品としては、雪印メグミルクの「純製ラード」(200g入り)などがあり、全国のスーパーで400円前後で購入できます。
次に「調製ラード」は豚脂に植物油脂などを混合した製品で、純製ラードに比べてクセが少なく価格も抑えめです。幅広い料理に使いやすいため、ラードを初めて使う方にはこちらが入門として適しています。
精製ラードは最も臭みが少なく白色で、お菓子作りや洋菓子向きです。
保存方法は、未開封であれば常温保存が可能ですが、開封後は空気に触れると酸化が進むため、密閉して冷蔵庫で保管するのが基本です。目安は開封後1〜2ヵ月以内の使い切りです。使用の際は清潔なスプーンで取り出し、水分が混入しないよう注意してください。水分が入ると腐敗や劣化が加速します。
冷蔵庫から出したばかりのラードは固くなっていますが、室温に少し置くか、スプーンで削り取ってフライパンに入れればすぐに溶けます。扱いやすさという点では、バターよりも使い勝手が良いと感じる方も多いです。
市販のラードをまだ使ったことがない方は、まずチャーハンや野菜炒めで小さじ1杯だけ加えてみてください。それだけで香りの違いを体感できます。
市販のラードではなく、精肉店などで購入した生の豚脂(背脂や板ラード)から自家製ラードを作ることも可能です。手作りラードは精製度こそ市販品に及ばないものの、豚本来の風味が濃く出るため、ラーメンスープや炒め物に使うと市販品とはひと味異なるコクが出ます。
作り方はシンプルです。
まず背脂を1〜2cm角に細かく刻みます。鍋に刻んだ背脂と少量の水(大さじ2〜3杯)を入れ、弱〜中火でじっくり加熱します。水分が蒸発するにつれて脂が溶け出してきます。この工程で出てくる茶色い固形物(揚げカス)は「豚皮の素揚げ」のようなもので、塩を振ってそのまま食べてもおいしいです。
脂が十分に溶け出したら火を止め、ザルや布巾でこして固形物を取り除き、清潔な容器(瓶など)に流し入れます。粗熱が取れたら冷蔵保存してください。白く固まったものが自家製ラードの完成です。
注意点は火加減です。
強火で加熱すると焦げや嫌な臭いの原因になります。必ず弱〜中火で「じっくり時間をかけて」脂を出すことがポイントです。500gの背脂からおよそ300〜350ml程度のラードが取れる計算で、市販品100g換算で約60〜80円程度になるケースが多く、コスト面でも悪くない選択肢です。
自家製は風味が豊かで経済的ですね。
精肉店で背脂を購入する際は、「板ラード(いたらーど)」と呼ばれる脂身の多い部位を指定すると入手しやすいです。100gあたり50〜100円程度で購入できるお店が多く、大量調理やラーメン作りが好きな方には特におすすめの方法です。自分で作ることで原料の透明性も確認できるため、食の安全・安心面でも安心できます。
参考:日本食肉消費者総合センターによる豚の部位と脂肪の解説
公益財団法人日本食肉消費者総合センター公式サイト(豚肉の部位・成分についての情報を確認できます)
参考:農林水産省 食品成分データベース(ラードの脂肪酸組成・栄養成分を確認できます)
食品成分データベース(文部科学省):ラード・豚脂の詳細な成分情報を確認できます

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