腸内細菌叢とビタミンKの産生・健康効果

腸内細菌叢がビタミンKを産生し、血液凝固や骨の健康に重要な役割を果たしていることをご存知ですか?腸内環境を整えることで、体内のビタミンK量を最適化し、健康維持につながる可能性があります。腸内細菌叢とビタミンKの関係について、どのような仕組みがあるのでしょうか?

腸内細菌叢とビタミンKの関係

この記事でわかること
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腸内細菌によるビタミンK産生

バクテロイデスや大腸菌などの腸内細菌がビタミンK2(メナキノン)を産生する仕組みと、その重要性について解説します

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ビタミンKの健康効果

血液凝固や骨代謝における重要な役割、動脈硬化予防などビタミンKがもたらす多様な健康効果を紹介します

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食品からの摂取と腸内環境

納豆や緑黄色野菜などビタミンKを多く含む食品と、腸内細菌叢を整えて体内産生を促進する方法をご案内します

腸内細菌叢によるビタミンK2の産生メカニズム

腸内細菌叢は、人体に必要なビタミンを産生する重要な役割を担っており、その中でもビタミンKは特に注目されています。ビタミンKには主に2つの形態があり、植物由来のビタミンK1(フィロキノン)と、微生物が産生するビタミンK2(メナキノン)に分類されます。
参考)腸内細菌によるビタミン産生(Vitamin producti…

腸内に生息するバクテロイデス(Bacteroides)や大腸菌などの腸内細菌は、ビタミンK2のメナキノン-4を主に産生します。これらの腸内細菌は、人体が自ら合成できないビタミンKを供給する「体内工場」として機能しており、もはや腸内細菌は人体の臓器の一部と見なすこともできるでしょう。成人の場合、バクテロイデスや大腸菌を適切に腸内に保有していれば、食事からビタミンKを摂取できなくても欠乏症には陥りにくいとされています。
参考)【公式】腸内細菌の役割とは?-コッカスAD株

しかし、乳幼児の腸内細菌叢はまだ未熟であり、また抗生物質や抗菌剤を投与された方は、腸内細菌叢が破壊されてビタミンK不足に陥る可能性が高まります。特に新生児は腸内細菌叢が定着していないため、ビタミンK欠乏症を起こしやすい状態にあります。
参考)腸内細菌(Bacteroides、大腸菌)も産生するビタミン…

腸内細菌叢が産生するビタミンKの種類と特徴

腸内細菌が産生するビタミンK2は、メナキノン(MK)と総称され、側鎖の長さによってMK-4からMK-13まで様々な種類が存在します。その中でも、腸内細菌が主に産生するのはメナキノン-4です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8042841/

ビタミンK2は脂溶性ビタミンの一種で、メチル化されたナフトキノンとこれに結合する炭化水素の側鎖から構成されています。腸内細菌による産生は、人体が必要とするビタミンKの約3割を占めるとされており、残りの約7割は食事から摂取する必要があります。
参考)腸内細菌がビタミンを生成する!? - 福岡天神内視鏡クリニッ…

腸内細菌が産生するビタミンK2の量は、腸内細菌叢の構成によって大きく変動します。善玉菌が多く、食物繊維やオリゴ糖を豊富に摂取している人ほど、腸内細菌によるビタミンK産生量が増加する傾向があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7928036/

腸内細菌叢とビタミンK産生における食物繊維の役割

腸内細菌叢の善玉菌は、食物繊維やオリゴ糖をエサにしてビタミンKを産生しています。つまり、食物繊維の摂取は、腸内細菌によるビタミンK産生を促進する重要な要素となります。
参考)https://www.mdpi.com/2072-6643/15/12/2727

食物繊維が豊富な食品には、野菜、果物、全粒穀物、豆類などがあります。これらの食品を積極的に摂取することで、腸内環境が改善され、ビタミンK産生能力の高い腸内細菌叢が形成されます。
参考)腸内環境改善と健康『ビタミンK』

また、発酵食品も腸内細菌叢の健康維持に重要です。特に納豆は、納豆菌の発酵過程でビタミンKが生成されるため、大豆のままよりも多くのビタミンK2(メナキノン-7)を含んでいます。納豆を日常的に食べている人は、食べていない人と比べてビタミンKの摂取量が約2倍であるという調査結果もあります。
参考)ビタミンKの働きと1日の摂取量

腸内細菌叢のビタミンK産生と骨の健康維持

腸内細菌が産生するビタミンK2は、骨代謝のバランス調節に深く関与しています。ビタミンKは、骨の形成に関与するオステオカルシンというタンパク質を活性化させ、カルシウムを骨に沈着させ、流出を防ぐことで骨を強くする働きがあります。
参考)Vol.20 「おなか元気」で「骨まで元気」、腸内細菌が骨を…

最近の研究では、腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸という物質が骨の形成に関わっていることが判明しています。さらに、腸内細菌が作り出すビタミンK2は骨代謝のバランスの調節に関わっており、食生活の乱れや腸内環境の悪化により、ビタミンK欠乏症を引き起こす可能性があることがわかっています。​
日本では、ビタミンKの一種であるメナキノン-4(メナテトレノン)が骨粗鬆症治療薬として使用されており、骨量低下防止効果、骨折予防効果が認められています。血液中のビタミンK濃度が低い高齢女性や、Gla化されていないオステオカルシンの血中濃度が高い高齢女性において、大腿骨頚部骨折や脊椎圧迫骨折の頻度が高いことが示されています。
参考)日本薬学会 環境・衛生部会ホームページ

腸内細菌叢のバランスとビタミンK欠乏症のリスク

腸内細菌叢のバランスが崩れると、ビタミンK産生能力が低下し、欠乏症のリスクが高まります。ビタミンK欠乏症の主な症状は、出血のしやすさに関連したものになります。消化管や皮下、口腔粘膜からの出血頻度が高く、紫斑ができやすい状態および粘膜出血(特に鼻出血、消化管出血、過多月経、血尿)が起こることがあります。
参考)ビタミンK欠乏症 - 09. 栄養障害 - MSDマニュアル…

特に抗生物質の使用は、腸内細菌叢を大きく乱し、ビタミンK産生能力を低下させます。抗生物質とビタミンK拮抗薬(ワルファリン)を併用すると、INR(国際標準比)が増加し、出血リスクが高まることが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9058076/

また、肝臓や胆道系の疾患により胆汁の分泌が低下すると、脂溶性ビタミンであるビタミンKの吸収が阻害され、欠乏症のリスクが高まります。加齢により膵液や胆汁の分泌量が低下すると、腸管からのビタミンKの吸収量が減少するため、高齢者も注意が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9248160/

腸内細菌叢を整えてビタミンK産生を最適化する方法

腸内細菌叢を整え、ビタミンK産生を最適化するためには、まず食生活の改善が重要です。ビタミンK1を多く含む緑黄色野菜(ほうれん草、モロヘイヤ、しそ、パセリなど)や海藻類を積極的に摂取しましょう。
参考)妊活食べ物Q&A ビタミンKと腸内細菌

ビタミンK2を多く含む発酵食品、特に納豆は優れたビタミンK供給源です。納豆に含まれるメナキノン-7は、最も高い栄養価を有しているとされています。脂溶性なので、油と一緒に摂ると吸収率が上がります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/14/12/14_555/_pdf

食物繊維やオリゴ糖を豊富に含む食品を摂取することで、善玉菌の増殖を促し、腸内細菌によるビタミンK産生能力を高めることができます。野菜、果物、全粒穀物、豆類などをバランスよく食べることが推奨されます。​
プロバイオティクスやプレバイオティクスを含むヨーグルトや発酵乳なども、腸内環境を整えるのに有効です。また、抗生物質の不必要な使用を避けることも、腸内細菌叢の健康維持には重要です。
参考)ビタミンK - 渋谷セントラルクリニック アンチエイジング・…

健康長寿ネット - ビタミンKの働きと1日の摂取量
ビタミンKを多く含む食品の詳細なリストと、日本人の平均摂取量に関する有用な情報が掲載されています。

 

ビフィズス菌研究所 - 腸内細菌によるビタミン産生
腸内細菌がどのようにビタミンを産生するか、そのメカニズムについて詳しく解説されています。